2017年度(平成29年度)品川区議会文教委員会行政視察報告

 
2017年10月23日(月)から10月25日(水)の3日間、品川区議会文教委員会は京都市、伊丹市、神戸市を訪れ、引きこもり支援、インクルーシブ教育、共生保育、大学の子育て支援事業について行政視察を行いました。視察の報告をいたします。


1.京都市行政視察

 10月23日(月)、品川区議会文教委員は品川駅新幹線ホームに集合し、のぞみ219号で一路京都に向かいました。まず、京都駅についた後、烏丸線で四条駅まで行き、昼食を取った後、第一の訪問地である、中京区の京都市中京青少年活動センターを訪れました。
 この建物には、京都市ユースサービス協会の事務局が置かれており、センター中会議室で、薗田博司ユースサービス協会支援事業統括と富田裕子チーフユースワーカーから、ひきこもり支援についての取り組みのお話を伺いました。

 当日同席する予定だった、京都市の担当の方は、10月22日(日)に行われた衆議院総選挙後の業務が多忙のため、欠席されたのは残念でした。
 京都市では、ニートやひきこもり、不登校など、社会生活を円滑に営む上で困難を有する、子ども・若者を支援するため、専門の部局=「子ども若者はぐくみ局」を平成29年度に立ち上げたそうです。


 私たちがお話を伺った公益財団法人京都市ユースサービス協会は、京都市から京都市青少年活動センターの運営を委託されているほか、子ども・若者総合支援事業として、子ども・若者総合相談窓口、ひきこもり地域支援センター、地域若者サポートステーションなどの事業も行っているということでした。

 このうち、子ども・若者総合相談窓口における電話相談件数は、平成28年度は518件で、大体毎年400~500件で一定しているそうです。
 そして、相談者内訳は、本人が31%、父または母が45%、その他が24%。相談内容は、10代では不登校、引きこもり、家庭の問題が多く、20代では引きこもりと就労問題、30歳以降はひきこもりと就労問題が多くなる、ということでした
 相談は助言や情報提供で終わる場合もありますが、来所相談が適当と考えられる場合は相談者に来所していただいて、さらに助言や必要な場合は支援機関に繋きます。

 特に、引きこもり本人が相談の場合、自宅を出て青少年活動センターまで訪れることができないケースもあり、近くの喫茶店などで話したりすることもあるそうでした。

 相談の結果は支援コーディネーターに引き継がれ、支援コーディネーターは支援の方針を検討し、来所面談や自宅訪問支援などを行います。
 また、支援機関による支援が必要と判断された時は、関係支援機関(子ども・若者支援地域協議会)へ紹介することもある、とのことでした。

 子ども・若者総合相談窓口で来所相談の結果、支援コーディネーターに引き継ぎがされた場合、支援コーディネーターは引きこもり状態にある本人、家族に支援を行う一つの方法として、ピアサポーターを活用しているそうです。

 ピアサポーターとは、引きこもり経験者、または引きこもり支援に関心のある同世代の若者のことで、彼らが引きこもりの若者にかかわることにより、引きこもり本人の心情を把握したり、支援機関への誘導などを親身に行えるなど、より実効性のある支援が行えるということでした。

 このピアサポーター派遣事業は、支援コーディネーターが適切であると考えるの対象者に対して、引きこもり本人、ピアサポーター双方の同意が得られた場合に、派遣するとのことでした。現在、ピアサポーターには13人登録されており、平成28年度はのべ56回、引きこもりの自宅や家族会に派遣されたそうです。

 京都市は、ピアサポーターを積極的に養成しており、市内のNPOや支援室からの推薦のあった、20~39歳の青年男女を対象に、ピアサポーター養成講座を年4回行っています。

 また、ピアサポーター同士のミーティングや実践的なワークの講習を行ったり、引きこもりについての講演会の案内なども行っているということでした。
 平成26、27、28年度のピアサポーター登録者は大体15人前後で推移していますが、派遣回数は平成26、27、28年度は10回→30回→56回と着実に増加、活動が広がっているようです。

 引きこもりだった人をピアサポーターとして養成し、引きこもりの支援に派遣することにより、引きこもり状態に戻ることを回避し、ピアサポーター自身も交流会、ミーティングなどを通じて、社会の貢献する存在に育て上げる取り組みは、なかなか実効性があがらない引きこもり支援策の一つとして、良いアイディアだと思いました。

 しかし、ピアサポーター自身も仲間内で対立したり、ピアサポーターのなかでもよく声がかかる人とそうでもない人の人気に差が出たり、途中で脱落する人もいて、支援コーディネーターの方もピアサポーターをまとめることは大変なご苦労のようでした。

 引きこもり対策については、今までもいくつかの自治体の取り組みを視察してきましたが、なかなか成果が上がらず、どこも苦労しています。この京都市のピアサポーター養成・派遣事業は、品川区でも参考になるのではないかと思いました。

 視察の後、この日は京都市に宿泊しました。


2.伊丹市行政視察

 視察第2日目は京都市から烏丸線、JR京都線、JR宝塚線を乗り継いで、伊丹市に移動しました。伊丹市役所で「伊丹市インクルーシブ教育システムの構築について」、伊丹市教育委員会学校教育部学校指導課の廣重久美子課長と島本浩士指導主事からお話を伺いました
 伊丹市はかねてからインクルーシブ教育に熱心で、平成16年、伊丹市立特別養護学校内にセンター部門を設置し、巡回相談、研究講座を実施。平成17年、伊丹市立総合教育センターに「特別支援教育推進チーム」を設置。そして、平成19年から特別支援教育を本格的に実施し始めたのだそうです。

 平成21年には、サポートファイル「ステップ★ぐんぐん」を作成し、発達・成長の記録と幼稚園、こども園、学校での記録を、このファイルによって関連機関が共有することにより、乳幼児期から学校卒業後までを一貫して的確な支援を行うようになったそうです。
 
 そして、平成25年7月に、文部科学省事業「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」を受託し、インクルーシブ教育をさらに推し進めています。

 伊丹市のインクルーシブ教育は、①地域の教育資源を活用したシステムの構築、②教職員のスキルアップ、③保護者等への理解、から成り立っているそうです。

 ①とは、伊丹市特別支援学校がコーディネータの役割を担い、、「ステップ★ぐんぐん」を幼稚園、こども園、小中学校、高校、児童福祉施設、通級指導教室、総合教育センター、警察など(これらの機関を一塊りに捉え、スクールクラスターと呼ぶのだそうです)で活用することにより、一貫した支援体制を作っています。


 「ステップ★ぐんぐん」とは、サポートファイルの小冊子で、ここに母子手帳のような発達・成長の記録を書きこむページと、またサポート(相談・支援)の内容を各関係機関が記録するページがあり、母子手帳と療育支援手帳が一体になった構成になっています。

 この小冊子を各関係機関が活用することにより、乳幼児期からの記録を見て、一人ひとりのニーズに合わせた支援計画が立てられるということでした。 

②教職員のスキルアップに関しては、障害者差別解消法第7条の「行政機関等は障害者の権利利益を侵害してはならず、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮をしなければならない」を踏まえ、学校も行政機関として、障害を理由とする差別は禁止、合理的配慮は義務、という強い姿勢で臨んでいるそうです。

 そのために全学校園内における特別支援教育に関する研修や、指導主事、合理的配慮協力員による校園での出前講座などを積極的に実施しているとのことでした。

 また、今回の指導課の説明ではあまり触れられませんでしたが、伊丹市では教育のユニバーサルデザイン化を推進しているようです。

 この教育のユニバーサルデザイン化とは、「できるだけ多くの人が、利用可能であるデザイン」を教育にも応用し、障害のある、または学びにくさのある子ども達にもわかりやすい工夫、参加しやすい配慮などを行うと、クラスの多くの子ども達にもわかりやすく効果的な授業になるということだそうです。

 伊丹市では「みんなの教室 みんなの授業」という具体的詳細な教職員用指導教本が配られ、授業において、このような工夫を行っているということでした。

③さらに保護者にも啓発用資料を発行、配布されています。

 伊丹市のインクルーシブ教育システムは、「すべての子どもが、その子の持てる力を、最大限に生かした自立の実現を目指して」構築することを目標にしているようでした。



 伊丹市のインクルーシブ教育システムの事業説明の後、市役所の隣接した伊丹市立総合教育センターの施設見学を行いました。(下の写真は、同センターのリーフレットより転載)
 伊丹市立総合教育センターは、平成6年に竣工された5階建ての学校教育部の管理する建物です。

 1階のエンテランスホールには園児、生徒の作品が展示してあり、2階はパソコン、DVDを使用して研修する、教職員の研修フロア、3階は理科実験の準備、教材研修などもできる、サイエンスルーム、ケミカルラボのある理科系のフロア、4階はカウンセリング相談室や箱庭療法室、遊戯療法室、心理検査室などの部屋がある心理系のフロア、5階は授業力向上支援センターとなっていて、コンサルタントが授業に関する相談に乗ったり、図書室、ビデオライブラリー、各種研究報告書などが完備され、市内各学校園に安全安心な情報ネットワークを提供しているのだそうです。

 非常に充実した教職員向けの施設で、伊丹市の教育に対する力の入れ方がよく実感できました。こおれできょうの日程は終了しました。

伊丹市立総合教育センター  1階エンテランスホールでの説明 サイエンスルームケミカルラボでの説明



3.神戸市視察1

 10月24日(火)は伊丹市からさらにJR宝塚線、JR神戸線、神戸市営地下鉄を乗り継いで、途中昼食を摂って、神戸市学園都市に移動しました。そして、神戸市の医療的ケア児と健常児の共生保育の現場を視察するため、NPO法人こどもコミュニティケアが運営する「ちっちゃなこども園ふたば・よつば」を訪問しました。

 この「ちっちゃなこども園ふたば・よつば」は、神戸市垂水区の旧ゴルフ場周辺の新興住宅地の中で、「ちっちゃなこども園ふたば」と「ちっちゃなこども園よつば」の2か所に分かれて保育を行っていました。
 特に、「ちっちゃなこども園よつば」は認可外保育施設「ちっちゃなこども園にじいろ」障害児通所支援施設「て・あーて」を施設内に併設しており、同時進行で保育を行っていました。

 まずNPO法人こどもコミュニティケア代表理事の末永美紀子さんからお話を伺いました。
 末永さんは看護師で兵庫県立こども病院を退職した後、この地で医療的ケア児と健常児を共に預かる(共生保育)、認可外の保育施設を始めたのだそうです。

 共生保育を始めた理由は、「子どもが子ども社会に参加すること」は子どもの基本的権利だと考えていたので、障害を持っていてもいなくても、当たり前に一緒に過ごせる保育園を作りたかった、と話されました。病児保育、在宅小児訪問診療に取り組んでいる私にとって、非常に共感できるお話でした。

 その後、行政との係わりなかで、補助金の話も出ました。末永さんからは医療的ケアについての加算がないというお話でしたが、私が取り組んでいる在宅医療でも高齢者と小児ではシステムが全く異なるため(小児は公的支援がほとんどない)、小児在宅医療が広がらない原因もそこにあるのです。医療的ケア児を保育看護するときの公的支援のあり方は、さらに検討しなければならない課題だと思いました。

 病気の子どもを預かる。障害を持つ子どもを預かる。これは働く親の負担軽減のためだけでなく、子どもがより適切な環境で過ごせるために必要な保育です。(いまだに病児保育はいらないなどと高言する、女性無所属議員も品川区にはいますが…。)

 末永さんのお話の後、文教委員はよつば・にじいろ・てあーて組とふたば組の2グループに分かれて、実際の保育現場を見学しました。

 私はよつば・にじいろ・てあーて組でしたが、障害がある子とない子が同じ部屋で保育されている光景は感動的でした。元気な子どもの横で、障害のある子が痰の吸引をされていました。近い将来、品川区でもこのような保育風景がありふれた光景になるよう、さらに私も力を尽くさなければならないと、見学しながら思いました。

 視察終了後は神戸市に戻って、この日は神戸市に宿泊しました。


4.神戸市視察2

 10月25日(水)は宿泊した神戸市三宮からJR神戸線で甲南山手駅に向かい、甲南女子大学を訪問しました。甲南山手駅から近くの山腹に広がる、瀟洒な白亜の建造物群が、甲南女子大学のキャンパスでした。
 甲南女子大学は神戸市が行っている、「大学と連携した子育て支援事業」の実施大学の一つで、今回は同大学が行っている「甲南子育てひろば」を視察しました。

 まず、大学会議室で大森敏江副学長、稲垣由子学長補佐・人間科学部総合子ども学科教授、上田淑子子ども室長・人間科学部総合子ども学科教授、神戸市子ども家庭局こども青少年課北川哲也係長からお話を伺いました。(下写真左)

 はじめに、稲垣教授から子育てひろば開設の経過をお話しいただきました。甲南子育てひろばは、2004年10月に開設されました。

 稲垣教授は小児科医で、もともと東大小児科小林登教授の門下で、小林教授が甲南女子大の教授を退職した後を引き継いで、教授に就任されたのだそうです。ここに赴任して驚いたことは、女子大なのに託児施設がなかったことだったそうです。(東京の前の職場では、託児所が当然のことのように設置されていたから。)

 女子大学である大学が、地域の子育て家庭に貢献できると共に、子どもと係わる仕事を目指す学生はもとより、将来母親として子育てを行う可能性のある学生にとっても学びの場となり、親子関係はもとより、親同士子ども同士が自由に係わりながら、その関係を深めるために、大学内に子育てひろばを作ることを提唱し、その実現を働きかけ、2004年ついに国の「少子化社会対策要綱」に基づき、設置にこぎつけたということでした。

 2007年には、神戸市から「ひろば型」地域子育て支援事業として、地域に子育ての場を提供しているのだそうです。


 次に上田教授から、甲南子育てひろばの事業内容の説明がありました。

 子育て親子交流の場として行っている、甲南子育てひろばの開室時間は、午前組は9:30~12:00 (月曜~金曜)、午後組は13:00~15:30 (月曜、火曜、木曜、金曜)。
 実施場所は甲南女子大学2号館1階子ども室。スタッフは保育士3名で、参加者は0歳~今年度3歳になる子とその保護者で、各時間帯に親子最高10組と制限しているのだそうです。

 利用者はこの5年間、年間親子3500名ほどで、地域別では利用者の86%が大学のある東灘区の方ということでした。

 主に交流事業のあいだに行われる子育て等に関する相談は、2011~2014年で404件、0歳では食事と成長、1歳は食事、2歳は乱暴、幼稚園等の内容が多かったそうです。

 また、甲南女子大の教員が子育てについて話し合う、「わいわいトーク」を月1回行っているということでした。

 女子大のため、学生のボランティアも受け入れており、年間200人ぐらいの参加者があること、また看護学部の保健師活動の実習授業も行われているのだそうです。
 さらに、子育てひろばの活動をもとに、子育て支援の研究も行われているというお話でした。

甲南大教授の方々 甲南子育てひろば ひろば入り口 視察メンバー


 次に神戸市の子育て支援施策について、こども青少年課の北川係長から事業説明がありました。

 神戸市は子育て支援事業を12か所の地域支援センターで行っている(一般型)ほかに、保育士養成校の指定校を始め、市内の大学に乳幼児が自由に遊べるスペースを設け、担当教授とともに大学の学生が係わる子育て支援の場(ひろば型)を整備してきたそうです。

 現在市内9か所でひろば型支援事業が行われているのだそうです。(2か所は空き商店街店舗活用。)

 灘区民ホールで行われている神戸大学のびやかスペースあーちなどは、年間3万人の利用者があるそうです。ほかにも神戸親和女子大学、神戸松蔭女子学院大学、神戸常盤大学、神戸市看護大学、神戸学院大学、夙川学院短期大学がそれぞれ特色を生かして子育て支援事業を行っているということでした。

 
 その後、質疑応答になりました。各委員からいろいろな質問がありましたが、私も①子育て支援事業を大学で行う意義について、②卒業生の保育士のネットワーク構築は行われているのか、③ほとんど甲南女子大の卒業生の親子の利用が多いようだが、地域の他の親子にも積極的にひろばを開放する考えはないのか、などをお尋ねしました。

 ①については、学生実習や子育ての研究に役立てている、②については保育士の卒業のネットワークつくりなどは今は行っていない、③は2018年に10号館(今、建築中)5階に今の3倍のスペースの子育てひろばを新設するので、事業の大幅な拡大を検討している、というお答えでした。

 新しい子育てひろばができたら、ぜひまた視察に来てくださいというお話でした。私もぜひ、新しい子育てひろばを見学したいと思いました。

 最後に甲南女子大学が誇る芦原講堂を見学させていただきました。講堂中央に巨大なパイプオルガンが屹立し、カーブを描いた淡い褐色の壁面が包み、宗教的な荘厳とした雰囲気を醸し出していて、その圧倒的な迫力に感動しました。




 これで、今季の行政視察は終了しました。甲南山手駅で、視察団は解散式を行いました。私はそのまま、新幹線で東京へ帰路につきました。


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