2018年度(平成30年度)品川区議会文教委員会行政視察報告

 
2018年9月5日(水)から9月6日(木)の2日間、品川区議会文教委員会は兵庫県神戸市、大阪府大阪市、鳥取県鳥取市を訪れ、人権教育、食育教育、インクルーシブ教育、自然保育事業について現地調査を行いました。

 実は、行政視察は9月4日(火)から開始される予定でしたが、台風21号が関西、四国を直撃したため、兵庫教育大学の心の教育調査が中止となり、1日遅れの出発となりました。
 以下、順を追って、行政視察の報告をいたします。


1.兵庫県神戸市行政視察

 台風21号の直撃のため、1日遅れの出発となった今年の行政視察は、ます9月5日(水)朝5時23分の都営浅草線に乗車し、品川駅の集合場所に向かうところから始まりました。午前6時、品川駅新幹線ホームに各文教委員が集合し、一路新幹線のぞみ99号で神戸に向かいました。新神戸駅についた後、神戸市営地下鉄を乗り継ぎ、県庁前駅で下車し、まず兵庫県庁を訪問しました。
 
 兵庫県庁では、兵庫県教育委員会の人権教育課、義務教育課、体育保健課の担当の方から、今回の視察の調査項目である人権教育、食育教育について、お話を伺いました。

 まず、人権教育課の駒田副課長、阿部主任指導主事から兵庫県の人権教育について、ご説明をいただきました。兵庫県の人権教育は、①学校教育における人権教育の充実、②子ども多文化共生教育の充実、③社会教育における人権教育の充実、の3つの柱で、「学び、育て、支えるひょうごの教育」を行っているということでした。

 そして、人権教育の課題は、「自分の大切さとともに他の人の大切さも認めること」を、態度や行動で示すことができるようにすること、だと話されました。

 具体的な施策としては、
 ①学校教育における人権教育の充実については、教育委員会指導主事等が各学校を回って、教職員に人権教育の指導を行う。9校の研究推進校を指定し、子ども、インターネット被害、外国人、性的マイノリティなどの課題解決に向けた研究を行う。
 生徒の発達段階に応じた、さまざまな人権教育資料「ほほえみ」「きらめき」「HUMAN RIGHTS」を作成して幼稚園、各校種別学校で活用させる。具体的は事例を織り込む。(小中高で活用状況は80~90%ぐらい)
 学校管理職、各種担当教員の研修を積極的に実施。
 ということでした。

 ②の子ども多文化共生教育の充実については、日本語指導が必要な外国人に子ども多文化共生サポーターを派遣すること。サポーターを非常勤職員として採用、活用する。日本語教育に力を入れている。
 芦屋市に子ども多文化共生センターを設置し、教育相談や多言語の学習教材等の作成、多文化共生にかかわる期間、団体の研修会や交流会を行っている。
 ということでした。

 ③社会教育における人権教育の充実については、人権教育推進団体への支援を行っているのだそうです。
  次に、義務教育課の担当者から、兵庫県におけるいじめの取り組みについて、お話を伺いました。

 兵庫県では、「いじめ防止基本方針」の改訂(平成29年)や相談体制の強化、いじめ対応マニュアルの改訂(平成29年)などの組織的な対応の体制強化を図るとともに、SNS等潜在化するいじめへの対応に力を入れている。
 というお話でした。

 この施策は、「ひょうごっ子SNS悩み相談」と称して、平成30年8月1日から9月30日まで、SNS(LINE)を用いた、子どもからの相談に応じる事業なのだそうです。ふだんなかなか相談に踏み切れない子にも、身近なLINEを使うことによって容易に相談できる環境を作ろうという取り組みなのだそうです。
 いろいろ苦労されているのだなと感じました。

 最後に、体育保健課から、食育の推進事業について説明を受けました。

 「学校における食育推進プログラム(改訂版)」に基づき、学校における食育を、組織的、計画的、継続的に行う。「ちょこっと食育」といって、各教科の中で食育にも触れるようにする。栄養教諭を中核とした食育推進を行うために、栄養教諭に対する研修会なども精力的に行っている。地産地消を考えた、地域の特色を生かした食育を学校給食センターなどと共催しながら、推進する。
 というお話でした。

 人権教育は「自分の大切さとともに他の人の大切さも認めること」が核心だと考えます。これまで各自治体がさまざまな取り組みを行っていることを視察で見てきましたが、これはという正解はなく、いろいろなアプローチがあってもよいと思っています。

 また、多文化共生は、多文化の共生であって、多言語の共生ではない、と考えます。日本で生活していくうえで、ぜひ日本の文化を理解し、リスペクトしてもらう。日本人も外国人それぞれの文化を理解し、お互いリスペクトする。

 観光でなく、生活する外国人は、お客様ではなく、仲間として、どちらかが一方的に与えるのではなく、また不満ばかり言わず、お互い理解し、共生できれば良い関係が築けるのではないかと思いました。

 私自身も今後も試行錯誤していきながら、みんなの幸せとは、という問いかけを常に発していきたいと思いました。


 兵庫県庁の視察は終わり、次の視察地大阪に向かいました。兵庫県議会正面玄関は、さすが神戸という感じの格調高い建物で、つい写真を撮ってしまいました。(右上)


2.大阪市行政視察

 兵庫県庁を出てから、兵庫県庁前駅から神戸市営地下鉄、阪急神戸本線、OsakaMetroを乗り継いで、淀屋橋駅で下車しました。

 昼食をとった後、インクルーシブ教育調査に大阪市役所を訪問しました。大阪のインクルーシブ教育といえば、「みんなの学校」という映画の舞台となった大空小学校が有名ですが、今回は台風21号通過直後ということもあり、市の職員の方たちも忙しそうでした。
 大阪市教育委員会のインクルーシブ教育推進担当の山咲課長、石井次席主事にお話を伺いました。
 大阪市では、「大阪市教育振興基本計画」を定めて、インクルーシブ教育システムの充実と推進を行っており、教育委員会は以下の取り組みを行っているそうです。
 
 まず、特別支援教育の充実の向けて、特別支援学級に在籍の有無にかかわらず、支援が必要な小中学生にさまざまな援助を行う、「特別支援教育サポーター」を小中学校に577名配置。

 さらに、教職員や特別支援教育サポーターへの助言や研修を行い、全ての人にわかりやすい環境であるユニバーサルデザインを教育に取り入れる助言をし、関係機関との調整や保護者との関係構築などにも当たる、教員経験のある中心的なスタッフである「インクルーシブ教育推進スタッフ」を拠点校19校に配置。周辺校の指導を行う。

 医療的ケアの必要な児童生徒のために、看護師を配置し、安心安全な学習環境の整備を行う。

 ご説明を聞いていて、かなり強烈な既視感に襲われたのですが、思い返してみると、ちょうど昨年の文教委員会の行政視察2日目が、伊丹市でのインクルーシブ教育システムの構築についての調査で、伊丹市からも同じような施策と取り組みを伺ったことを思い出しました。

 台風直下のお忙しい中、視察に応じていただいたことに深く感謝し、調査は終了しました。その後、淀屋橋駅からOsakaMetro御堂筋線で梅田駅に移動し、大阪駅からスーパーはくと11号で鳥取の向かい、鳥取市で宿泊しました。


3.鳥取市視察

 9月6日(木)はまず鳥取県庁を訪問し、鳥取県の子育て支援施策について、稲村子育て応援課課長、吉野子育て応援課課長補佐、岸子育て応援課担当主事からお話を伺いました。鳥取県の子育て支援を担当する子育て応援課は、子育て王国推進担当、母子保健担当、保育・幼児教育担当に分かれて、活動しているのだそうです。

 鳥取県が子育て支援施策に熱心に取り組むようになったのは、将来人口推計で鳥取県が極端な過疎、人口減少、多くの消滅可能都市を抱えるという最悪の予想が出たためでした。

 そのため、平成19年に平井現鳥取県知事が知事に当選すると、さまざまな地域振興施策が積極的に展開されるようになりました。

 平成22年に「子育て王国とっとり」の建国宣言があり、第3子以降の保育料の無料化、第2子の保育料一部無料化、中山間部の保育料軽減、在宅育児世帯への現金給付、医療費高校まで無料化などが矢継ぎ早に実施され、低下し続けていた合計特殊出生率が、平成20年以降、上昇に転じたそうです。

 その子育て支援施策の一つとして、豊かな自然を生かした、「森のようちえん」の展開があるそうです。「森のようちえん」(WaldKindergarten)とは、1950年代にデンマークで始まった、森林の中で子どもを自由に活動させるという野外保育で、ドイツなどでは盛んに行われているようです。日本でも、2005年に「森のようちえん全国フォーラム」が開催され、2008年に「森のようちえん全国ネットワーク」という組織が設立されています。

 鳥取県は、子育て家庭支援と県への移住定住促進Iターン、Uターンの推進のため、「とっとり森・里山等自然保育認証制度」を制定し、森のようちえんを認証し、援助を始めました。現在7園が認証され、活動中だそうです。
 さらに、既存の保育所でも、鳥取県の豊かな自然を活用し、積極的に自然体験活動を行う園に対し、自然保育認証園制度を作り、支援を行っています。こちらは現在18園が認証されているそうです。

 一通り、質疑応答が終わったところで、市内浜坂の柳茶屋キャンプ場で自然保育を行っている、NPO鳥取・森のようちえん 「風りんりん」の実際の保育現場を視察に行きました。
 
 柳茶屋キャンプ場に行くと、20人ぐらいの園児が4~5人の大人の方と食事を作っているところでした。まず、風りんりんの徳本敦子代表から、風りんりんの活動について、お話を伺いました。

 風りんりんは園舎はなく、毎日野外に出て、遊んだり、食事を作ったりしているそうです。

 子どもに好きな行動をさせて、大人は見守るだけ。危ない、汚い、だめ、早く、はいわない。子どもに教えない。子どもの気持ちは受けとめるが、行動は受けとめない。これが、風りんりんの保育方針なのだそうです。

 ちょうど食事の準備中でしたが、子どもたちが自分自身でナイフを使ったり、マッチを使って火を起こして、おコメを炊いたりしていました。また、スタッフは子どもの行動にはいっさい口を挟まず、見守りに徹していました。

 一から十まで大人(園職員、援助者)がお世話をする、現在の保育スタイルに対する、強烈なアンチテーゼと思われました。とても今の品川では導入できない保育方針だとも感じました。しかし、この鳥取県の森のようちえんには、県外からの入園希望者も多いということでした。

 多様な保育スタイルがあってもよく、このようなポリシーの保育園が品川でも登場し、保護者の選択の場が広がることは良いことかもしれない、と思いました。


 これで、今季の行政視察は終了しました。キャンプ場で、文教委員会視察団は解散式を行いました。私はそのまま、鳥取駅からスーパーはくと8号に乗車し、姫路駅でのぞみ136号に乗り継ぎ、東京へ戻りました。


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