自殺ハイリスクの子どもに対する地域医療機関での対応の状況 

荏原医師会  鈴の木こどもクリニック  鈴木博

1.当クリニックの姿勢

 一般診療の中で、自殺および自殺に繋がりそうな子供を識別する(スクリーニング)。地域の小児科医は、 ゲートキーパーになることができる。

 一般診療のなかで、特に注意している
危険因子は、精神疾患、家庭環境、独特の性格傾向、喪失体験、健康不安、周りからの孤立などである。

 当クリニックは地域医療機関であり、家族ぐるみの受診が多い。そのため、家庭内暴力や離婚、親の難病など、家庭の問題を知る機会も多い。それらを踏まえた対応が可能。

 生まれてからずっとかかりつけの子供も多く、子供にとって親の次に長い付き合いの身近な大人の場合もある。

 また、親や子供にとって、学校と違い、成績評価など直接的な利害関係がないため、信頼関係がある場合はいろいろな悩みを相談しやすい。(特に子供より親から相談を受けることが多い。逆に、子供だけで受診する不登校の子などもいる。)

2.最近経験した事例(前回の発表以降)

 昨年の報告以来、この1年間に経験した事例。

①小学生の事故のヒアリハットの例
②小学生のいじめに、学校側が十分に対応できなかった例

3.当クリニックの自殺予防の対応

 とにかく、話をよく聞く。

 当クリニックに幼少のころから通っている子供は、親の次に付き合いが長い場合もあり、心を開いてくれる可能性がある。

(反抗期で口数が少なくなる子もいるが、こちらが幼少時と同じ態度をとると素直な態度になる子もいる。)

 学校の事、友人の事、子供の問題行動などの話を親が始めた場合は、親子に共感的態度で拝聴するようにする。

 また、明らかに心の問題で身体不調の訴える例でも、医学的アドバイスと治療のみが要求されている場合は、希望されている医学的ケアのみを行う。こちらから、あえて深入りしないよう気を付ける。(こちらからアクションを起こすことは、親子の逃げ場を塞ぐことになる。)

 不登校の例でも、身体的不調のみを訴える場合は内科的治療のみを行う。

 心を開いてそれ以上の対応を相談される例では、全力で受け止める。希望があれば、当クリニックの心身症外来を紹介し、カウンセリングとともにコンサータ、ストラテラなどの薬物治療も行っている。

 また、一般外来でもこころのトラブルには、漢方製剤の抑刊散などは積極的に処方している。

 友人とのトラブルを繰り返す、不登校、以前と雰囲気のと激変した子供については、精神疾患の存在も念頭に置き、必要あれば、関係機関に繋ぐ(しかし、これがなかなか難しい→後述)。

 親子から学校に秘密にしてほしいという訴えは多い。家族の同意が得られれば、教育総合支援センターやマイスクール五反田へ紹介することもある。

4.地域医療機関(小児科)の視点からの提言

 品川学校支援チームに繋ごうとすると、学校現場からお勧めしない、学校は係わらないので、行きたいのなら勝手に行ってほしいと、担任からいわれたという事例が数件あった。学校現場と学校支援チームの円滑な連携に努めてほしい。

 また、学校(教育)と保健所(保健)の連携を密にしてほしい。自殺は多種多様な原因で発生するものであり、教育だけで防げるものではない。精神疾患の関与も考えて、また、医療との連携は必須と考える。

 また、社会的背景も考えなければならないため、自殺対策基本法にもあった、「保健、医療、福祉、教育、労働」の有機的な連携をお題目だけでなく、各部署が責任を持って、総合的な対策の策定に努力してほしい。

 学校で積極的な自殺予防教育を行ってほしい。ゲートキーパー研修も、きわめて大切な対策だと考える。

 しかし、大人には悩みをみせないが、仲の良い友達には本音を明かすこともある。小学校、中学校、義務教育学校での自殺予防教育をぜひ充実させてほしい。 今なお、10万人当たりの自殺率が30近い中高年男性も、子供の時に自殺予防教育を受けていれば、自殺についての正しい知識と危機に遭遇した時の対処スキル、他者に援助を求める援助希求的態度によって、自殺の危機を乗り越えられた可能性もあるのではないか。子供に対する自殺予防教育は、生涯にわたるメンタルヘルスの基礎作りにもなる。

 自殺に向かう意識の視野狭窄に対し、中延に移転した、子ども若者応援フリースペースは追い詰められた子供に逃げ場を提供するという意味で自殺予防としても有効だと期待できる。マイスクールと並んで、積極的な運用を期待したい。

 最後に、小児科医を積極的に活用してほしい。

 小児科医は第3の親として、危機に立つ親子にとって最も身近な相談役、最良の理解者、最適なゲートキーパーになりうる。

 保健所、学校は積極的に小児科医を自殺予防対策に巻き込んで、その経験とスキルを活用してほしい。逆に、一般の小児科医にとっては、自殺のリスクのある親子を相談、紹介できる窓口がない。地域包括ケアで行われているような多職種の顔の見える関係作りを、自殺予防のネットワークでも行政がおぜん立てして作ってほしい。

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