フルミスト(4価経鼻インフルエンザ生ワクチン)について

フルミストとは  

 毎年秋になると年中行事のように接種する、インフルエンザワクチン。ところが、インフルエンザワクチンの中には、鼻から点鼻する(全く痛くない)、そして、ふつうのインフルエンザワクチンと同じように効果が証明されている、別のインフルエンザワクチンが存在し、世界中で広く使用されていることはご存知ですか。
 
 このワクチンは、鼻から投与される液状ワクチンです。このワクチン液に含まれるインフルエンザウィルスは、25℃の低温でよく増殖するウィルス(低温馴化cold-adaptedといいます)で、培養を重ね、病原性をほとんどなくした(弱毒化
attenuatedといいます)ウィルスです。
 
 ヒトの鼻に噴霧すると、36~37℃ぐらいのヒトの体内はこのウィルスにとっては高温すぎるため、ほんのゆっくりしかペースでしか増殖できません(温度感受性化temperature-sensitiveといいます)。

 また、ほとんど病原性を失っているため、有害な症状を起こすことなく、きわめて軽い「局所感染」で人は免疫を獲得することができます。生ワクチンのため、インフルエンザの感染防止に高い効果が期待できます。

 2003年、アメリカの食品医薬品局(FDA)は、この点鼻型のインフルエンザ生ワクチン、フルミストを認可しました。当初はAソ連型、A香港型、B型の3種のインフルエンザウィルスを含んだ3価のワクチンでしたが、2013年にB型をさらに山形系統、ビクトリア系統と2つのサブグループに分けた、4価のフルミスト (FluMist Quadrivalent)になりました。

 また、接種対象者は2003年には5~49歳でしたが、2007年に2~49歳に対象が広げられました。

 アメリカでは、10年以上の使用実績があり、2011年以降欧州でも使用されています。(ただし、2016年アメリカCDCはこのワクチンを推奨しないと発表しました)

 当クリニックも、2014年のシーズンよりフルミストを個人輸入し、接種希望のかかりつけの患者さんに接種を行っています。フルミスト接種ご希望の患者さんは、 クリニック長鈴木医師に一度ご相談ください。


予防接種の内容

 通常の季節型インフルエンザワクチンは、三種類の(季節型)インフルエンザウイルス (A新型=H1N1pdm、A香港型=H3N2、B型インフルエンザ)のとげ(H鎖)の部分をこなごなにして、精製した不活化ワクチン (HAワクチンと呼ばれます)です。

 これに対し、フルミスト(FluMist Quadrivalent)は四種類の(季節型)インフルエンザウイルス(A新型=H1N1pdm、A香港型=H3N2、B型インフルエンザは山形系統、ビクトリア系統の2つのグループ)を弱毒化し、生きたウイルスを鼻に吹き付ける、経鼻弱毒生ワクチン(live attenuated influenza vaccine)です。

  
2015年-16年のシーズンから、季節型インフルエンザワクチンもフルミストと同様に、A2種、B2種の4価のワクチンになりました。


予防する病気

 通常のインフルエンザの感染を防ぎます。通常のA型インフルエンザ(新型、香港型)、B型インフルエンザに効果があります。


接種の方法

 2~49歳が対象です。1回接種が原則です。ただし、2~8歳でインフルエンザワクチンを1回も受けたことがない人は、免疫を確実にするために、1ヵ月間隔で2回接種が勧められています。

 接種方法は専用の器具を用いて、左右の鼻の中に0.1mlずつ、総計0.2ml噴霧します。

右写真はお母さまに掲載のご許可をいただいています

不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)と、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)の作用の違い

  従来の不活化インフルエンザワクチンとフルミストの違いを対比させながら、ご説明いたします。

 ①不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)

 不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)
は、インフルエンザウイルスのとげ(H鎖)を含む不活化ワクチンです。接種することにより、体内の血液中にインフルエンザウイルスへの迎撃用ミサイル(=血液中IgG抗体)が作られます。増殖したインフルエンザウイルスが全身に広がる時に、 血液中でこのミサイル=IgG抗体がウイルスを破壊=不活化することで発病を抑えたり、症状を軽くしたりします(重症化阻止)。

 
しかし、空気とともに体の中に進入してくる、インフルエンザウイルスは、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖するため (インフルエンザの増殖参照)、不活化ワクチンはインフルエンザウイルスの感染そのものを抑えこむことはできません。 それは、不活化ワクチンで作りだされるミサイル=IgG抗体は血液中に留まり、 鼻、気道の粘膜面には存在しないためです。

 また、A型インフルエンザウイルスはとげ(H鎖)の組成を細かく変えて(ドリフト=連続変異)、ヒトの防御システムから逃れようとします。H3N2(香港型)でも、シドニー型とパナマ型では微妙に形が異なり、不活化ワクチンの効果に大きな違いが出てきます。この細かい変異に対応できたかどうかで、その年の不活化ワクチンの効果が決まってくるのです。

 さらに現在の不活化ワクチンは、B型インフルエンザに対する抗体の産生はあまり良くないといわれています。

 ②経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)

 これに対し、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)は、実際鼻粘膜で弱毒化ワクチンウイルスが繁殖するため、鼻、気道でもIgG抗体とは別の迎撃用ミサイル=分泌型IgA抗体を作りだすことができます。そして、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖しようとするインフルエンザウィルスに対して、この分泌型IgA抗体は直接攻撃を加えます。 したがって、インフルエンザウィルスの侵入を撃退し、発病を押さえこむことができるのです(感染阻止)。

 また、ワクチンウィルスが増殖することにより、細胞性免疫を担当する細胞(CD8
+T細胞)も活性化するため、不活化ワクチンと異なり、インフルエンザウィルスが微妙に型を変えても、ワクチンの効果が期待できるのです。

 ③フルミストと不活化インフルエンザワクチンの効果のちがい  (アメリカ合衆国における、インフルエンザの不活化ワクチンと生ワクチンとの主要な相違点)

種類 不活化ワクチン 生ワクチン
投与方法 筋肉内注射(アメリカ)
皮下注射(日本) 
鼻の中に噴霧
ワクチンのウィルスの状態 死んだウィルス 病原性の弱い、生きたウィルス
接種対象年齢 生後6ヵ月以上 2~49歳
インフルエンザ関連の合併症を起こす可能性 
の高い人への接種ができるか
できる できない
喘息のこどもや、過去12カ月間に喘鳴が見
られた2~4歳のこどもへの接種ができるか
できる できない
妊婦への接種ができるか できる できない
強度の免疫不全状態の人の家族・濃厚接触
者への接種ができるか
できる できない
接種後の鼻咽頭部からのインフルエンザ
ウィルスの検出
検出されない 接種後7日ぐらいまで、検出される

                                      横浜市感染症情報センター「インフルエンザ生ワクチンについて」を一部改変 

フルミストの効果(従来の説明)

 ①A型インフルエンザに対する、5歳未満児の発病予防効果はワクチン株一致で89.2%、株不一致でも79.2%と驚異的です。また、6ヵ月~7歳では、 発病予防効果は83%と非常に良好な結果が報告されています。

 ②5~17歳の小児1万人での別の検討では、約87%でインフルエンザ予防効果が見られ、18~49歳の健康成人では、発熱、上部呼吸器症状などの重いインフルエンザ症状を軽減させる効果が認められたと報告されました。
 

 ③年齢別不活化ワクチンとフルミストの効果を比較してみます

  1)2~7歳
         フルミストは80~90%の発病予防効果があり、不活化ワクチンは20~30%(発熱を指標にした有効率。小児科学会見解)のため、効果からいえば、圧倒的にフルミストが優れています。

  2)8~13歳
         この年齢は、不活化ワクチンの型が一致した場合はフルミストと不活化ワクチンはほぼ同等の効果といわれています。ただし、型が合わなければ、フルミストの方が効果があるようです。

  3)13歳~(49歳)
         この年齢は、型が合えば不活化ワクチンの方が効果が高い
と評価されています。ただし、型が合わなければ、フルミストの方が効果があるようです。

  4)総括的にみると、不活化ワクチンは型が合うかどうかが、かなり問題になりますが、フルミストはあまり影響されません。また、特に子どもは不活化ワクチンはB型インフルエンザに対する抗体の上りが良くないのですが、フルミストはB型に対しても充分な効果が期待できるようです。


フルミストの副反応

①鼻水、鼻つまりなど鼻炎の症状が約半数(40~50%)にみられるようです。発熱と咽頭痛が10%ぐらいに見られるようですが、数日で改善するようです。

 また、2歳未満への投与では入院と喘鳴の増加が認められたため、2歳児未満の子どもへの投与は認められておりません。

 理論的には、フルミストの副反応でインフルエンザ症状が発症したり、他の人に感染するリスクはあるように思われますが、接種した人が実際にインフルエンザを発病した、 または周囲の人が二次感染で発病したという報告はありません。

②他の副反応の報告リストです。重い副反応は見られません。

     成人でよくみられる副反応     鼻水、鼻閉、頭痛、咽頭痛、咳

     子どもでよくみられる副反応    鼻水、鼻閉、頭痛、筋肉痛、喘鳴、腹痛、嘔吐、発熱



フルミストが接種できない人

 以下の方はフルミストの接種ができません。不活化ワクチンとは大幅に異なりますので、ご注意ください。
  
   2歳未満と50歳以上の方(当クリニックはフルミストが無認可ワクチンであることも踏まえ、5歳以上を接種の対象とさせていただきます)

   5歳未満で以前ゼイゼイしたお子さま、過去1年以内に喘息発作を起こした人


   
妊娠している女性 (授乳中は問題ないとされています)

   心臓病、呼吸器病・ぜん息、肝臓病、糖尿病、貧血、神経の病気などの慢性の病気がある方

   免疫不全の患者さん、重い免疫不全の患者さんの家族や看病する人

   アスピリンを長期内服中のお子さま、重い卵アレルギー、ゼラチンアレルギー、ゲンタマイシンやアルギニンにアレルギーのある方

   過去、ギランバレー症候群(足に力が入らなくなり、立てなくなる病気)になった人

   接種当日、鼻汁、鼻閉など鼻炎症状のひどい人 (ワクチン液が流れ出てしまうから)


2016年6月の新事態

 ①2016年フルミストに関して、大きな衝撃的な出来事がありました。

 
それは、アメリカCDCが、2016-2017年のインフルエンザワクチン接種に関して、フルミストを推奨しないと発表したのです(原文はこちら)。

CDC’s Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) today voted that live attenuated influenza vaccine (LAIV), also known as the “nasal spray” flu vaccine, should not be used during the 2016-2017 flu season. ACIP continues to recommend annual flu vaccination, with either the inactivated influenza vaccine (IIV) or recombinant influenza vaccine (RIV), for everyone 6 months and older. 

 2013年以降、CDCの調査によれば、フルミストの不活化ワクチンに対する優位性はだんだんと失われ、2015-2016年の予防効果の成績(2歳~17歳対象)では、

  経鼻生ワクチンの有効性         3% (95%CI  -49% to 37%)
  不活化ワクチン(注射)の有効性    63% (95%CI  52% to 72%)

 という結果だったため、CDCはこの成績をもとに、2016-2017年については、フルミストの接種を推奨しないと発表したのです。

 
②このCDCの声明に対し、英イングランド公衆衛生サービス(Public Health England, PHE)は、2015-2016年も経鼻生ワクチンは十分なインフルエンザ予防効果があったと認め、2016-2017年はさらに接種の小学生の対象を拡大すると声明しました(原文はこちら)。

Public Health England (PHE), the Department of Health and NHS England remain confident that the children’s nasal spray flu vaccine plays an important role in protecting children, their families and others in the community from flu during the winter.

Provisional figures released by PHE show that the childhood nasal spray flu vaccine has been effective in the UK, both in protecting the children themselves and their communities from flu. Reports from the US have suggested a possible lower vaccine effectiveness, unlike the findings in the UK.

 ③同じ論文でフィンランドも、2016-2017年のシーズンに、経鼻生ワクチンを使用すると確認したと言及されています。

The National Institute for Health and Welfare in Finland has confirmed that they saw similar effectiveness levels to the UK in 2015 to 2016 (46% against laboratory confirmed disease), and have confirmed the nasal spray flu vaccine will continue to be used in Finland for the forthcoming winter.

 ④2015-2016年のインフルエンザに対する予防効果の検討により、2016-2017年のシーズンは、アメリカは経鼻生ワクチンを使用せず、欧州では引き続き経鼻生ワクチンの接種を続ける、という状況になりました。


当クリニックの2016-2017年のフルミスト接種に対する対応


 今シーズンの接種に先立ち、当クリニックでは昨年フルミストの接種を行った方々にアンケート調査を行いました。回収率は53.3%でしたが、結果を示します。

質問事項 回答 比率 回答 比率 回答 比率
フルミスト接種後、インフルエンザに罹患しましたか。 かかった 25% かからなかった 75% . .
(かかった方に対して)通常のインフルエンザに比べて、症状の程度はどうでしたか。 軽かった 50% 重かった 25% 変わらなかった 25%
フルミスト接種後、副反応と思われる症状はありましたか。 なかった 81.2% あった 18.8% . .
来季、フルミストの接種を希望しますか。 希望する 87.5% 希望しない 6% わからない 6%


 集計の結果は、アンケート回答者の75%の方がインフルエンザに罹患せずにすみ、81%で副反応を認めず、87.5%の方が今季もフルミスト接種を希望するという回答でした。
 アンケートの結果を見る限り、当クリニックにおけるフルミストの評価は、CDCよりPublic Health England (PHE)に近く、有効性が強く示唆される結果となりました。

 以上、
①アメリカでは今季フルミストの接種が推奨されていないこと、②イギリスなど欧州では、依然経鼻生ワクチン接種が評価されていること、③当クリニックの行った、昨シーズンのフルミストの接種結果では、有効性を示唆する結果が得られたこと、④フルミスト接種を希望される患者さんはいらっしゃること、
などのさまざまな要件を検討した結果、
当クリニックは、今シーズンもフルミストの接種を継続することにいたしました。

 当クリニックは患者さんに事前に何ら説明することなく、急きょ接種を取りやめてしまうというような対応は取ることはいたしません。接種を希望されるかかりつけの患者さんがいる限り、ご要望にお応えいたします。

 当クリニックは2016-2017年シーズン、下記の方はフルミストの接種をご検討されてもよいと考えます。

 受験生 (フルミストを接種すれば、インフルエンザ発病をかなりの確率で予防できる可能性があります。)

 5~13歳の健康なお子さま(当クリニックのフルミストの接種対象は、5歳以上とさせていただきます) (注射をしているのに毎年かかってしまう人、また注射に病的な恐怖感を持っているお子さまには良いと思います。)


フルミスト接種までの流れ

 ①フルミストは無認可ワクチンであり、万が一健康被害が発生しても補償はありません。(輸入会社の保険は、ほとんど利用できません。) 自己責任で接種を受けるということになります。まず、その点をよくご検討ください。

 ②予約希望者は当クリニック医師の説明を受けてから、接種
予約をしていただきます。

 無認可ワクチンは、十分説明を受けて、接種する医師との間に信頼関係を構築してから行われるべきものと考えます。説明に納得できない、または、無認可ワクチン接種に迷いがある、あるいは接種する医師との間に信頼関係を築くつもりのない接種希望者には、当クリニックはフルミスト接種をお勧めいたしません。

 
③接種費用は院内掲示をご覧になるか、フルミスト相談時に医師にご確認ください。

 
④予約がお済みになった接種希望者には、10月~11月ごろ、フルミストが輸入され納品された後、当クリニックよりご連絡いたします。この時、最終的に接種日時を確定いたします。
当クリニックより連絡しても、全く患者さんから応答がなく、2週間全く確認が取れない場合は、予約はキャンセルとさせていただきますので、ご了解ください。必ず連絡の取れる連絡先の登録をお願い致します。

 
⑤通常の受付応対業務に支障をきたすため、無認可ワクチンに対する電話でのお問い合わせには一切対応しておりません。
フルミスト接種ご希望の患者さんは一度お子さまをお連れになって来院し、当クリニック長とご相談ください(必ず、母子手帳はご持参ください)。

 2016-2017年のフルミスト予約を、2016年6月20日(月)から始めました。現在、予約は終了いたしました。

  通常のインフルエンザワクチンも例年通り、10月3日(月)から接種を行います。9月12日(月) から、予約も始めました。当クリニックは、インフルエンザ不活化ワクチンの接種を、お勧めいたします。(→インフルエンザワクチン詳細


謝辞: 執筆にあたり、
フルミスト-Wikipedia     
医薬品卸業連合会:卸DI実例集.卸薬業38:55-59,2014
横浜市衛生研究所ホームページ 横浜市感染症情報センター インフルエンザ生ワクチンについて l
和歌山市小児科 生駒(いこま)医院ホームページ フルミスト-インフルエンザワクチンページ 
Flumist Product Information -Medimmune
ACIP votes down use of LAIV for 2016-2017 flu season
Provisional figures show that the nasal spray flu vaccine has been effective in the UK.


から転用、参考にさせていただきました。厚く御礼申し上げます。