2013年の風疹流行について


①2012-2013年の風疹流行の経過

 風疹の大流行がとまりません。2013年6月の時点で、すでに累積患者数は10、000人の大台に乗りました。
 
 もともと風疹は、5年おきに全国的な流行を繰り返していましたが、1995年に赤ちゃん全員に風疹ワクチンの接種が行われるようになると、全国的な流行はみられなくなりました。しかし、小流行はその後も続き、2003年から2004年に日本の中国地方で風疹が小流行した時も、先天性風疹症候群(CRSと略します)の赤ちゃんが10名も生まれました。

 この時公表された、「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」 の「はじめに」でも、「現在の風疹及びCRSの発生状況は、このまま放置すれば、ほどなくわが国全体においてCRS発生に関して危機的状況に至ると考えられ、もはや一刻の猶予もない。……本提案が実効性を上げるよう、関係機関等における積極的な取組を強く求めるものである。」と述べられていました。

 ところが、2011年から風疹の患者が少しづつ増え始め、2012年の6月からは目に見えて増加していきました。この事態を受けて、2012年秋には国立感染研究所などは風疹の流行について警報を発し、「①産じょく期を含む妊娠を希望する女性、②その家族、③風疹にかかったことや予防接種を受けたことのない、 または風疹にかかったか不明な人は、積極的に風疹ワクチンを受けること」を呼び掛けました。

 また、日本産婦人科医会も声明を出し、妊婦本人は風疹ワクチンを受けることはできないが、妊婦の家族はすぐにでもワクチン接種を受けること、さらに197942日から1987101日に生まれた女性や、2040代の男性、妊娠希望女性もすぐにワクチン接種をうけることを勧めました。

 しかし、いろいろな対策がそれなりに行われたにもかからわず、風疹の流行は一向におさまる気配はなく、増加の一途をたどりました。すでに先天性風疹症候群の赤ちゃんが2013年6月時点で11名生まれています。そして、まちがいなく先天性風疹症候群の赤ちゃんは今後増えていくでしょう(詳しくは③参照)。

 風疹感染を防ぐには、ワクチン接種しかありません。そのために、これ以上の風疹の大流行を防ぐために、2013年3~4月ごろから、 風疹ワクチン接種に補助金を出す自治体が増えました。品川区でも、2013年3月より、妊娠を希望する女性、妊婦の配偶者に風疹ワクチン (MRワクチン)の接種費用の全額補助を行っています(くわしくはこちら)。


②まず風疹という病気について

 まず、風疹という病気について、おさらいしましょう。風疹(三日ばしか)は、風疹ウイルスによる感染症で、咳やくしゃみから飛沫感染でうつります。潜伏期は2週間から3週間ぐらいで、症状は、38℃ぐらいの軽い発熱が2~3
日みられます。ただ、約半数の人は熱がでないか、出ても気づかない程度で済んでしまいます。 咳鼻は軽度です。

 風疹の特徴的な発疹は、細かい小さな赤い点で、癒合せず、皮膚面よりやや盛り上がります。顔、くびから全身に広がり、35日で消えていきます。麻疹で見られるような、色素沈着は残しません。また、耳の後ろと頭の後ろのリンパ節が腫れ、圧すと痛がります。麻疹に比べると軽症ですが、症状が似ているため、「三日ばしか」とも呼ばれます(→風疹)。

 風疹は乳幼児が感染した場合は、さほど重い経過はとらず、数日の発熱と全身に広がる細かい発疹と頸のリンパ節の腫れが目立つ程度で回復します。 

 ところが、大人が風疹にかかると、高熱が1週間ぐらい続いたり、発疹や関節痛がひどかったり、出血斑の出る血小板減少性紫斑病や脳炎などを合併することがあります。子どもより、重い経過を取ることが少なくありません。

 しかし、風疹感染が最も恐ろしいのは、妊娠初期の女性が感染すると、母体に侵入した風疹ウイルスが胎児を攻撃し、難聴、先天性心臓病、白内障、精神や身体の発達の遅れなどを合わせ持った、「先天性風疹症候群」(CRS)の赤ちゃんが生まれることです。特に、妊娠20週ぐらいまでは発病する可能性が高いといわれています。

 
この先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれてくることを防ぐことが、風疹対策の最大の目標です。


③先天性風疹症候群について


 
風疹流行と先天性風疹症候群の発生について、もう少し詳しくみてみましょう。

 2003年から2004年に中国地方で風疹が小流行した時、先天性風疹症候群の赤ちゃんが10名も生まれ、厚労省が「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」 を公表したことは①で述べました。
 
 今回の大流行でも、残念ながらすでに11名の先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれています。 そして、現在妊娠中のお母さま達から、今後さらに
多くの先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれてくることが危惧されているのです。

 しかし、風疹流行が怖いのはそれだけではありません。先天性風疹症候群は難聴、先天性心疾患、白内障の三大症状を持つ赤ちゃんを指しますが、実は難聴は単独で起こることも多いといわれています。すなわち、先天性風疹症候群の周辺には、先天性風疹症候群と診断されなかった難聴のみの症状の赤ちゃんとか先天性心疾患のみの赤ちゃんなど、風疹感染によってさまざまな障害を持った赤ちゃんが、さらに多く存在していると考えられているのです。

 また、妊婦に対する風疹感染のリスクはそれだけではありません。風疹感染では、自然流産は22倍も増えると報告されており、また風疹流行の年は人工中絶も増加するといわれています。風疹は、今見てきたように、母と子にとって、最も恐ろしい感染症の一つなのです。


④再び繰り返すワクチン騒動

 このおそろしい風疹の流行を防ぐには、ワクチン接種が有効であり、また唯一の選択肢です。

 ところが、現在風疹のワクチン(風疹単抗原ワクチンとMRワクチン)はすでにありません。厚労省は6月に突然、今年8月には風疹ワクチンがなくなるかもしれないと、マスコミ向けに発表しました。

 しかし、これは医療現場の現状を追認したに過ぎず、実際はもうすでに風疹単抗原ワクチンは市場から姿を消し、MRワクチンも医療現場では供給制限が始まっています。風疹ワクチンは足りなくなる恐れがあるのではなく、現にもう足りなくなっているのです。(厚労省の計算はこちら。)

 それどころか、風疹対策用でなく、定期接種としての1期、2期のMRワクチンまで不足すると、せっかく制圧した麻疹の復活の恐れすら出てくるのです(「麻疹根絶」を世界に宣言したはずの韓国は、その後も何回も麻疹流行を繰り返しています)。

 現在風疹は患者発生が減少し出しており、ヤマは越したと楽観視する考えもあります。しかし昨年も31週をピークに患者は減少しており、今年の4~5週ごろから再び急激に患者が増えだしています(風疹はもともと春から初夏に流行る病気)。また、現在風疹が流行しているのは、東京、神奈川、大阪、兵庫などの大都市圏のみであり、今後夏休みになって人が移動し、地方に拡大していくおそれも十分にあります。
 風疹はピークが過ぎた、などとワクチン接種の取り組みを弱めるわけにはいかないのです。

 実は、現在我が国を襲っている風疹大流行という事態は、過去にアメリカや南米諸国でも同じような経験をしています。そして、これらの国々では危機を乗り切り、見事に風疹を根絶したのです。

 たとえば、南米のコスタリカでは、1999年風疹にかかったことのない、ワクチン未接種の15~45歳の成人の間で風疹が大流行し、30人もの先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれました。
 この事態を受け、コスタリカの保健省は、2001年5月の1ヶ月間で、全国民の42%を占める15~39歳の男女180万人を対象に、MR混合ワクチン(麻疹の排除も考えMRを選択しています)の大規模な接種を行ないました。この取り組みで、コスタリカ全土で80%以上、半数以上の地域では、95%以上の接種率を達成できました。そして、2002年以降、コスタリカでは麻疹、風疹の国内報告がゼロとなったのです。

 このコスタリカの取り組みには、保健省だけでなく、社会保障、教育、労働関係の政府の省庁や地方自治体も参加・協力し、コスタリカのマスコミも、大規模接種の2週間前からはテレビやラジオなどでさかんに国民へ接種を呼びかける放送を流したそうです(ワクチンの真の利益を正当に評価することもできず、副作用、副作用とそればかりを大騒ぎし、ワクチン接種の足を引っ張ることしかできない、わが日本の低能マスコミも、少しはコスタリカのマスコミ関係者の爪の垢でも飲んでほしいものです。こどもの健康を考え、社会に貢献する活動を行ったコスタリカのマスコミ関係者は、どこかの狂騒捏造マスコミ連中とは違って、歴史に残る働きが高く評価されると思います)。

 また、実際のワクチン接種は、医療機関、ショッピングモール、大学、会社の職場などで行われたほか、人口の少ない地域では医療チームが直接、住宅を回って接種したということです。

 風疹の流行を一時も早く抑え込むには、風疹に感受性をもつ(免疫がなく、かかる可能性のある)すべての男女に短期間でいっせいに免疫を付けなければなりません。

 理化学研究所の加藤茂孝研究員は、MRワクチンは不足している現状を踏まえて、
   ①国内のMRワクチンは、乳幼児の定期接種の1期、2期に回す、
   ②風疹抗体価の低い、10~40代の成人男女にいっせいにワクチン接種を行う、
   ③接種に使用するワクチンは、外国で一般に用いられているMMRワクチン(麻疹風疹おたふく混合)を緊急輸入して使用する、という緊急対策を提言しています。

 また小児科学会、小児科医会、小児保健協会、外来小児科学会の小児科四団体も、2013年5月23日に厚生労働大臣あてに、臨時予防接種として風疹抗体価の低い10~40代の成人男女全てにワクチン接種を行うよう、要望書を提出しました。この政策が実施されれば、日本から麻疹、風疹、先天性風疹症候群が完全に根絶されるでしょう。コスタリカにできることが、何故日本ではできないのでしょうか。


⑤結語

 現在の風疹流行の渦中で、ワクチンがない、検査キットがない、打つ手がない、ひたすら首をすくめて、流行がおさまるのを待つ、という2007年の屈辱の麻疹騒動の悪夢が繰り返されようとしています。

 2013年7月に入ると、厚労省結核感染症課のペーパー医者役人は愚かにも「風疹ワクチンが足りないから、風疹の抗体検査で陰性の人のみワクチン接種を」と、風疹感受性者に対する積極的なワクチン接種をむしろ抑制するような通知を出しました。(厚労省の地方自治体への協力依頼。報道はこちら)。

 風疹が大流行している時、弾がなくなってきたから、確実に敵と確認できたものだけに弾を打て、といっているのです。たしかに弾の節約にはなりますが、このような馬鹿げた命令でいったい何人の味方が
犠牲になるのでしょうか。

 まるで「永遠のゼロ」に登場する、日本軍の高級将校の「命令」を彷彿とさせる、現場を知らず、現場の優秀な兵隊に無理難題を押し付けて、最後は見殺しにする、自己保身以外の何物でもない、このような馬鹿げた「命令」ならぬ「協力依頼」は厳しく指弾されなければなりません。

 弾がなくなってきたら、打つのを控えるのではなく、補給をすればよいのです。
さらにこのような馬鹿げた「命令」によって、今度は早晩風疹の検査キットが無くなってしまうでしょう。

 厚労省のペーパー医者役人は、ワクチン製造会社に圧力をかけ、水痘、おたふくの生産ラインを止め、MRワクチンをしゃにむに作らせているようです。この結果は来年度の水痘、おたふくワクチンの製品不足による定期接種化の延期という、何とも信じがたい結末がすでに一部でささやかれているのです

 コスタリカをはじめとする南米諸国は、風疹大流行を逆手に取り、官民マスコミ挙げての総力戦で、1年で麻疹、風疹を根絶しました。

 なぜ、MMRワクチンを100万本単位で大規模に輸入して、一斉接種で風疹を根絶することができないのか。リーダーシップをとるべき偉大な政治家がいないのか、「水ぼうそうより患者が少ない」などと呆言をはく担当大臣の理解が浅いのか、ワクチンの足を引っ張ろうと虎視眈々と狙っているワクチン反対派とその下僕=マスコミ左翼がまたぞろ妨害工作にいそしんでいるのか。

 大流行を制圧する気概も闘志もなく、子どもと母を守る大切な仕事への誇りも使命感もなく、中途半端なワクチン接種をだらだら続け、いつか来る風疹流行の自然な収束をただひたすら待つ「施策」によって、我が国のCRS児は誕生し続け、風疹流行も残念ながらまだまだ終わりそうにありません。

謝辞:国立感染症研究所 感染症疫学センターHP IDWRより図3点を引用させていただきました。また、この稿作成にあたり、第93回東京小児科医会学術講演会の砂川富正先生の「風疹流行の現況と考察」、日本小児科医会総会フォーラム 藤岡雅司先生の「子どもを大切にしない国への警鐘」、「メディカルトリビューン・あなたの健康百科」風疹関連記事記事を参考にさせていただきました。あつく御礼申し上げます。

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