ワクチン忌避 Vaccine Hesitancy とは何か

20191月、WHO(世界保健機関)は、「2019年の世界の健康に関する10の脅威」を発表しました。その第8番に挙げられたのが、Vaccine Hesitancyです。

WHOVaccine Hesitancyを、「ワクチン接種の機会が提供されているにもかかわらず、接種を先延ばしにしたり、拒否したりすること」と定義しました。

WHOVaccine Hesitancy Working Groupは、Vaccine Hesitancyは時期や地域、ワクチンの種類によって異なり、その主な理由として、Confidence(予防接種に対する信頼)、ComplacencyVPDワクチンで防げる病気のリスクに対する、独りよがりな安心感)、Convenience(ワクチン接種に対する障壁)を挙げています。

Confidenceは、予防接種に対する信頼のことで、ワクチンの有効性と安全性、ワクチンメーカーや国のシステムに対する信頼についてです。これが揺らぐとVaccine Hesitancyが発生します。

その例として、MMRワクチン(麻疹風疹おたふく混合ワクチン)の事例があります。MMRワクチンについては、1998Wakefieldという医師がMMRワクチンは自閉症を引き起こすという論文を発表し、欧米でMMRの接種率が低下しました。

この顛末については、訴訟を準備していた数人から約1,150万円を受け取ってこと、患者のデータを改ざんしていたこと、研究の舞台となった病院に対して許可も得ていなかったこと、などが次々と明らかにされ、掲載学術誌はこの論文掲載を取り消し、この人物はイギリスの医師免許を剥奪されました。

MMRワクチンと自閉症の関連については、現在、医学的には完璧に否定されているにもかかわらず、MMRワクチンは一部の根強い反ワクチン運動の標的にされ、今回のアメリカの麻疹の大流行にまで、尾を引いています。

Complacencyは「VPDにはかからないから、ワクチンは不要」などというVPDに対する独りよがりの安心感や自己満足を指しています。

VPDの病気としての恐ろしさ、感染リスクを、知らないがゆえに過小評価し、ワクチン接種による予防の必要性を理解できない例です。

Convenienceはワクチン接種の受けやすさ、ワクチン接種に対する障壁です。

我が国でいえば、任意接種の費用がかかること、予防接種のスケジュールが複雑なこと、平日仕事をしている人は子どものワクチン接種になかなか時間が取れないこと、日本全国どこでも予防接種を自由に受けられない、地域的な制限も、接種を妨げる障壁になっています。

ConfidenceComplacencyに関しては、われわれ小児科医も、患者さんに医学的なファクトに基づいた十分な説明を心がけたいと考えています。

2017年のアメリカ疾患予防管理センターCDCの調査でも、ワクチン接種を迷ったアメリカの保護者が最終的にワクチン接種を選択した理由で最も多かったのは、医療者の説明だったそうです。考えます

医療者と行政がワクチン接種率向上のために、さらに密な連携を行うことを希望します。

Convenienceについては、ワクチンを受けやすい環境を作ることを、区も最大限努力することを要望します。

たとえば医学的に全く意味のない、事細かな規則の機械的な適用やワクチン接種希望者が接種を受けやすい環境作り、たとえば以前の生ポリオの集団接種のような会場方式の集団接種なども、特に成人のMR5期では検討してもよいと考えますが、いかがでしょうか。

ワクチン接種の最大の受益者はワクチンによって個人防衛の免疫が獲得できる子どもたちです。

そして現在では、ワクチンを幼少期にうけることができず、免疫を持たず、今や感染の温床となってしまった、3050歳の成人達です。

さらにワクチン接種率の向上における最大の受益者は、ワクチンを受けることができないため、VPDの流行でつねに死の危険にさらされる難病の子どもたち

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