1.新型コロナウイルス感染症流行は終息するのか?



 A 新型コロナウイルスは消滅するか

 
 結論から先に述べれば、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は消滅しません。「ゼロコロナ」などと言うスローガンは、小池都知事の「花粉症ゼロ」と同類の、眉唾物の政治的プロパガンダ以上でも以下でもない戯言です。

 そもそもウイルスとは、人の身体の中に寄生し増殖していく、「生きている遺伝子」です。人が死んでしまえば、ウイルスも生きていられません。したがって、人が死なないようにおとなしく寄生して、人と共棲していくことがウイルスにとっても理想な環境なのです。過去、このようなウイルスは変異し、生活圏を広げ、繁栄してきました。

 一方、強毒性で寄生主のヒトを殺してしまうようなウイルスは、宿主を失い、ウイルス自身も消えていくことになります。また、このような強毒ウイルスは、寄生した個体もすぐ死んでしまうためパンデミックな流行になることはありません(たとえば、エボラ出血熱)。

 「無症状で感染が広げる、大変だあ!」と騒いでいる人達がいますが、「無症状」とは本人は元気で健康だということです。症状が軽いから、感染が広がるのであって、症状が重ければ、ヒトは死ぬか、入院加療となって隔離されてしまいます。したがって、感染の機会は大幅に減り、感染は広がりません。

 今、新型コロナウイルス感染症の検査陽性者が増えたと言って、マスコミと一部のいつもの面々が騒いでいますが、「健康保菌者(保ウイルス者)」が増えることは、人類にとって全く脅威になりません。現にかぜが流行っても、誰も大騒ぎしないでしょ。あくまで多くの人が入院し、重症化し、大量の死者が出る、深刻な後遺症が続出するような感染症こそが、人類の脅威となるのです。



 
B 1889年の新型コロナウイルス感染症(ロシアかぜについて)

 それでは、現在流行している「新型コロナウイルス感染症」は、今後どうなっていくのでしょうか。21世紀の新型コロナウイルス感染症、COVID-19は、2021年4月20日現在、世界で1億4300万人が感染し、300万人が死亡するパンデミックとなっています*。
    *
worldometers coronavirus update

 人類は今までに、パンデミックと称される世界的な感染症の大流行を、たびたび経験してきました。
 そしてつい最近まで、世界的なパンデミックはインフルエンザウイルスの流行によるもの、と考えられてきました。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症の経験から、実はインフルエンザウイルス以外にも、今回と同じように他のウイルスによるパンデミックもあったのではないかと研究されるようになりました。

 「スペインかぜ」が世界的に猛威を振るう少し前、1889年から1894年に「ロシアかぜ」と名付けられたパンデミックが世界中を席捲しました。この「ロシアかぜ」では、世界中で100万人もの人々が亡くなっています。(当時の世界人口は16億人ですから、現在の世界人口77億に換算すると、約450万の人々が死亡したのと同じ比率になります。)

 この「ロシアかぜ」は、1889年5月に突然ロシア帝国ブハラ(現在のウズベキスタン共和国ブハラ市)で発生し、わずか4ヶ月半で北半球に広がりました。1889年12月にはロシア帝国首都サンクトペテルブルク市で死亡者数はピークに達し、翌1890年1月にはアメリカにも流行が拡大しました。我が国にも、1890年に侵入し、「お染かぜ」と呼ばれ、怖れられました。

 飛行機のない、交通手段が貧弱な当時としては、驚異的なスピードで広がっていったのです。地中海のマルタ島から当時報告された致死率は、1889年の第1波が4%、1892年からの広がった第2波が3.3%だったそうです。さらに、この感染症の致死率は、子供では低く、70歳以上の高齢者が異常に高かったそうです。どこかの感染症とよく似ていますね。
     *ロシアかぜ(Wikipedia)    
     *新型コロナウイルスは繰り返す(塩筑医師会。荒井克幸)


 長い間、ロシアかぜはH3N8インフルエンザウイルスによるものではないかと考えられてきました。しかし、流行当時から重い神経症状(例えば顔面神経痛、多様な痛み、末梢神経や脊髄の障害などが報告されています)が高齢者で多数報告されています。
 子どもは軽症で済み、高齢者が重症となることなど、通常のインフルエンザ感染症とは症状が異なることが、当時から指摘されていたのです。

 さらに、近年のウイルス学的研究により、ウイルスの変異する速度から逆算すると、1890年前後に当時のコロナウイルスがヒトコロナウイルスOC43とウシコロナウイルスに分岐したと推定され、この時期にウシコロナウイルスによると思われるウシ呼吸器病もまた、世界的に大流行し、大規模な牛の殺処分も行われていた記録も残っています。

 この「ロシアかぜ」こそ、
19世紀の新型コロナウイルス感染症だったとする見解が、現在強くなっているのです。そして、その病原コロナウイルスは、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)(右写真)と考えられています。
    *ヒトコロナウイルスOC43(Wikipedia)


 1889年から数年にわたり世界中で流行を繰り返し、100万人の人々を死亡させた、ヒトコロナウイルスOC43はその後どのような運命をたどったのでしょうか。

 実は現在、ヒトコロナウイルスOC43は、ヒトコロナウイルス229E、HKU1、NL63と共に、4種類のヒトコロナウイルスの一つとして、冬場にふつうに、おとなしく流行しています。

 ヒトコロナウイルスOC43を含む、4種類のヒトコロナウイルス感染症(HCoV)は、かぜ全体の10〜15%を占め、すでに70億の人が感染し、今なお感染が続いています。

 成人の90%はヒトコロナウイルスOC43に対する抗体を持っており、抗体陽性率は0歳児で25%、1-3歳児で63%、4-6歳児で87%、7-14歳児で89%と、多くは幼児期に感染し、免疫を持つようになります

 このヒトコロナウイルスOC43の運命から推定すると、現在流行しているSARS-CoV-2も、特にワクチン等の干渉がなければ、数年間流行を繰り返し、最終的には冬場にふつうに流行する、5番目のヒトコロナウイルスHCoVとなっていくものと思われます。

   *参考文献は一般向けのものだけを例示しました。より詳しい学術的文献は、それぞれの資料の参考文献をご確認ください。


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2.新型コロナウイルス感染症を押さえ込むカギは何か