Ⅳ 神経の病気

1.熱性けいれん



Ⅳ.神経の病気      2023.8.20更新

1.熱性けいれん                 

熱性けいれんとは

日本小児神経学会の熱性けいれん診療ガイドライン(2015)では、熱性けいれんとは、「主に生後6~60カ月までの乳幼児期に起こる、通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患で、髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因がみられないもので、てんかんの既往のあるものは除外される」と定義されています。

すなわち、6ヶ月から5歳ぐらいまでの子どもにみられる、熱によるひきつけ(けいれん)をいいます。日本人の7~11%位が経験すると言われており、大人の 10人から15人に1人は、子どものころ1回は熱性けいれんを起こしているほど、よくみられる病気です。

しかも熱性けいれんは数分で止まり後遺症も残さないといわれており、診断さえ正しければ、あまり心配されなくても良い病気です。


熱性けいれんの症状

熱性けいれんは、熱の出始め、または熱の下がりかけに多く起こります。

その症状は、手足をピクピクとふるわせる間代(かんたい)性けいれん(けいれん性発作といいます)と、身体がガチガチにこわばらせてしまう強直(きょうちょく)性けいれん(非けいれん性発作といいます、ボーとして動かなくなるタイプも非けいれん性発作となります)の2つのタイプがあります。

けいれん時には、眼を上転させたり(黒眼がスーと上に上がって、白眼になってしまう)、1点をじっと見つめたり(一点凝視といいます)、泡を吹いたりします。そして意識がなくなります。呼んでも応答はありません。まれに、呼吸が止まり、口の周りが紫色(チアノーゼ)になることがありますが、呼吸はすぐに戻り、チアノーゼも消えるので心配はいりません。

熱性けいれんは通常2~3分、5分以内で止まります。けいれんを起した赤ちゃんは、けいれんが収まった後、寝てしまうことが多いようです。

熱性けいれんのとき、注意すること


熱性けいれんは、熱の上がりぎわに多く起こります。逆にひきつけを起こして、体温を計って初めて高熱に気付かれることもあります。

お子さまがひきつけを起こしていることに気付いたら、あせらず、まずお子さまの状態をよく観察しましょう。 ひきつけはほとんどの例で5分以内に止まります。ひきつけの持続時間と、ひきつけの時の手足の動き方(左右対称かどうか)は後で大切な情報になるので、注意して観察しましょう。

熱性けいれんのとき、してはいけないこと

お子さまのけいれんに気付くとお母さまはパニックに陥ってしまいますね。でも、はしやスプーンなどを絶対口のなかに押し込んではいけません。口の中を傷つける可能性があり、きわめて危険です。

けいれんに気づいたら、まず周囲の人に知らせ、応援を頼みましょう。

広い場所に寝かせ、衣服は緩め、吐物を飲み込まないように、顔を横に向けておきましょう。また、お子さまを強くゆさぶるのもよくありません。吐きそうなら顔をそっと横に向けてあげてください。


なぜ、熱性けいれんは起こるのか  

人が生まれたとき、脳の中の神経(細胞)同士を結ぶアンテナは裸線に近い状態です。それが大体3ぐらいまでの間に、ミエリンシース(鞘) という絶縁体でカバーされ、神経を結ぶネットワークは保護されながら発達していきます。

熱性けいれんは、この脳のネットワークが絶縁体で保護される前に、発熱などの異常な刺激でショートしまったもの、と考えればよいでしょう。 そのため、熱性けいれんは脳が成熟する5歳を過ぎると起こらなくなるのです。

熱性けいれんにははっきりした原因がありません。ただし、「発熱でけいれんを起しやすい体質、家系」はあるようで、家族に熱性けいれんを頻回に起した人がいると、熱性けいれんを起しやすいようです。


自宅でけいれんを起した時に、病院へ行く目安

初めてけいれんを起こした、けいれんが5分以上止まらない、または一旦止まってもけいれんを繰り返す場合は、救急車を呼んで救急病院を受診しましょう。

また、6カ月未満の赤ちゃんがけいれんを起した場合、熱性けいれんでなく、髄膜炎、脳炎などの重病の可能性も否定できないため、至急救急病院を受診したほうが良いでしょう。

けいれんが手足の一方だけだったり、けいれんがおさまった後も麻痺が残るようなら、熱性けいれんの症状ではないため、病院への受診が必要です。けいれんは治まったが、意識がもどらない、ぼーっとした状態が続く時も受診した方が良いでしょう。(声かけをしたり、足の裏をたたいて反応をみます。)

これらのケースでは入院して経過をみなければならない可能性も強いので、受診する病院は入院設備を持った昭和大学病院、都立広尾病院、荏原病院、日赤医療センターなどがよいと思います。救急車を呼んで、病院をさがしてもらってもよいと思います。

熱性けいれんの治療

当クリニックで診察時、熱性けいれんがまだ続いているお子さまには、必要があればミダゾラム(ドルミカム)を口腔内に注入する治療を行います。

ミダゾラムはダイアップ(ジアゼパム)と同じ、ベンゾジアゼピンという薬剤の一つですが、即効性があり、5分以内(平均3.5分)にけいれんが止まると報告されています。

最近では、ブコラムという口腔内製剤も登場して、学校等でも使用されるようになりました。

ダイアップ坐薬の使い方

熱性けいれんを予防する方法として、ジアゼパム坐薬(ダイアップ坐剤)を使用する方法があります。

使用方法は、37.5℃以上の発熱に気付いたらただちに1回目を挿入します。そして、38℃以上の発熱が続いていれば、8時間後にもう1度坐薬を挿入します。

ダイアップ坐剤を直腸内に挿入することにより、15分後には有効血中濃度に到達し、2回投与で36~48時間は効果が続くことが明らかにされています。

このダイアップ坐剤剤の使用は、熱性けいれんの予防法として広く行われてきた方法でした。

しかし、最近では熱性けいれんの70%は再発しないこと、ダイアップ使用ですぐけいれんを止める即効性は無いこと、ダイアップ坐剤を使用しても、使用しなくても予後は変わらないという報告があること、ダイアップ(ジアゼパム)にはふらふらするなどの副作用があること、などから使用基準を求める声があり、2015年小児神経学会は「熱性けいれんの診療ガイドライン2015」を公表し、ダイアップ坐剤の使用基準(適応基準)を公表しました。

このガイドラインによれば、ダイアップ坐剤使用の基準は、
まず「けいれんが15分以上続いたこと」、
さらに次の6項目のうち、2項目以上を2回以上反復した場合、
①焦点性発作、または24時間以内に反復
②熱性けいれん出現前から存在する神経異常、発達遅滞
③熱性けいれん、またはてんかんの家族歴
④12ヶ月未満のけいれん
⑤発熱1時間以内に起こしたけいれん
⑥38.0℃未満でのけいれん出現
とされています。

当クリニックでは、基本的には1回の熱性けいれんではダイアップ坐剤は処方しません。2回以上熱性けいれんを繰り返したお子さまについては、上記のガイドラインのダイアップ坐剤の使用基準をお母さまに説明し、使用については相談して決定する。という方針で対処しています。

注意が必要な、熱性けいれんについて

熱性けいれんは予後の良い病気であり、ほとんどのお子さまは何ら後遺症を残すことなく、治ってしまいます。熱性けいれんを起した子どもの7割は、その後けいれんをおこしません。また、熱性けいれんを起しても9割以上の子どもはてんかんに移行しません。

しかし、少数ですが、要注意の人もいます。


①1歳前に熱性けいれんを起こした。
②親がやはり熱性けいれんをよく起こした。というお子さまは熱性けいれんを繰り返す可能性があります。
上記の基準通り、ダイアップ坐剤で予防したほうが良いでしょう。


また、
①けいれんを起こす前から発達に問題があるといわれていた。
②けいれんが手足の部分的なものだった。(焦点性発作)
③けいれんが15~20分以上続いて、止まらなかった。
④24時間以内にけいれんを繰り返した。
⑤両親や兄弟にてんかんの人がいる。
などはてんかんに移行する(脳波に異常が出てくる)注意因子といわれるものです。

このような因子を持つお子さまがけいれんを起こした場合は、最低脳波検査を行ったほうが良いと考えられるので、ご相談下さい。



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