Ⅲ.その他の感染症

        蟯虫症

        アタマジラミ

        トキソプラズマ感染症



蟯虫(ぎょうちゅう)症

 蟯虫(ぎょうちゅう)は、オスが体長2~5mm、メスが8~12mm位の、小さい白い糸くずのような寄生虫です。ふだんは大腸の中で生活していますが、夜間肛門から這い出してきて、おしりに卵を産み付けます。保育園、幼稚園で感染し、家族全員に広がることもあります。

 ●蟯虫症の症状

 蟯虫の成虫(メス)は、夜間寄生しているヒトの肛門から這い出して、肛門周囲に卵を産み付けます。そのため、卵を付着させる物質の刺激や蟯虫が肛門周囲を這いまわることにより、お尻がかゆくなります。かゆくてお尻を掻いて、夜間の睡眠不足になったり、お尻に傷がついたりすることもあるようです。しかし、概して症状は軽いです。

 感染経路としては、産み落とされた卵は4時間で感染力を持ち、2週間生存するため、衣服や寝具を介して、経口感染(卵→手→口)がおこります。

 保育園や幼稚園で集団生活している子どもが多くかかります。しかし、同じ部屋で生活している大人にも感染します。

 ●蟯虫症の治療

 治療は駆虫剤(ピランテルパモ酸塩。品名はコンバントリン)をまず1回服用します。これで、90%は駆虫できますが、蟯虫卵は殺すことはできません。これが、孵化し再感染する可能性を考えて、2週間後にもう一度コンバントリンを飲むのが一般的な治療です。

 また、同じ部屋で生活している家族全員が、同時にコンバントリンを服用することが必要です(全員の駆虫しないと、再感染が起こる)。

 ●登校・登園基準

 特に登園基準はありませんが、トイレ(おむつ替え)の後、食事や調理の前にはよく手を洗いましょう。また、蟯虫卵は日光に弱いので、ふとんや下着を天日干しにすると、感染予防効果が期待できます。

   2014年4月、文部科学省の学校保健安全法施行規則が改正され、学校での健康診断の項目から「蟯虫検査」(寄生虫卵検査)が、2016年度から廃止されました。それに伴い、虫卵検査セロファンテープも製造中止になりました。

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アタマジラミ

 アタマジラミは毛ジラミ(陰毛に寄生し、性交で感染する)と異なり、頭髪の寄生するシラミ(虱)です。頭皮から血を吸い、かゆみや皮膚炎の原因になります。

 ●アタマジラミの症状

 アタマジラミは家族内や保育園で、タオルの共用やくしやブラシを介して、感染します。感染すると頭髪に寄生し、血を吸い、お子さまは頭のかゆみを訴えます。皮膚から離れても、2~3日は生きているため、布団やまくらからうつることもあります。通常の洗髪ではシラミを殺すことはできないため、清潔にしていても感染します。

 感染すると、髪の毛にふけのような虫卵が付着します。光沢があるので、ふけとは区別できます。よく観察すると、毛髪の根元をかなり素早く移動する、アタマシラミの成虫を見つけることができます。成虫の大きさは約1~3mmです。(写真)

 年齢は、保育園や幼稚園の子どもが多く感染します。

   
アタマジラミの卵 アタマジラミの卵(拡大)  アタマシラミ(大きさ) アタマシラミ成虫(拡大) 

アタマジラミの治療

 治療は、スミスリン(ピレスロイド系フェノトリン)のパウダーやシャンプーで、頭髪をよく洗います。

 スミスリンシャンプーを、あらかじめ湿らせた頭髪にふりかけ5分間シャンプーし、洗い流します。これを1日1回、2日おきに4回続けます。
計4回シャンプーを行うのは、約8日間の卵の孵化期間中に、卵からかえった幼虫を完全に駆除するためです。
 ただし、スミスリンシャンプーは医療機関で処方できないため(殺虫剤のため)、薬局で購入します。

 また、アタマシラミの卵を除去する、専用の櫛もあります。シャンプーと併用してもよいし、櫛で丁寧にすいても効果があります。専用の櫛も薬局やインターネットで購入できます。

登校・登園基準

 特に登園基準はありません。発見したら、いっせいに駆除することが大切です。

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トキソプラズマ感染症

 トキソプラズマは独立して生活することができず、他の生物の細胞のなかに寄生して生活する、三日月型の寄生性原生動物(原虫)です。世界の人口の約1/3(数十億人)がこの原虫に感染しているといわれ、日本人では約10%(10人に1人)は感染者と考えられています。

 トキソプラズマは感染しても、健康成人の場合は免疫の働きで侵入した原虫を封じ込め、無害にすることができます。したがって、感染しても治療の必要はありません。

 しかし、妊娠しているお母さま、HIV感染症のような免疫の低下している人は、トキソプラズマの感染には注意しなければなりません。妊娠女性が初感染した場合、おなかの胎児が攻撃され、先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんが生まれてくる可能性があるからです。

 ●トキソプラズマとは

 トキソプラズマは原虫という原始的な動物のグループに属します。(ちなみに細菌は原始的な植物です。)

 トキソプラズマはネコの寄生虫です。ネコに感染すると、ネコの小腸の上皮細胞の中でオスとメスに分かれて有性生殖を行い、オーシスト(卵のようなもの)を作ります。オーシストは便と一緒に、ネコの体外に排出されます。このオーシストは成熟し、1~5日で感染力を持つようになります。

 ネコは始めてトキソプラズマに感染したあと、1~2週間、このオーシストを大量に便とともに排泄を続けます。その後は排泄しません。オーシストは、-20℃で1ヵ月、生存できる能力があります。

 トキソプラズマはネコ以外のほとんどの哺乳類、鳥類にも感染します。しかしこれらの動物は一時的な宿主のため、原虫は成熟することはできません。ネコ以外の哺乳類、鳥類に侵入したトキソプラズマは急増虫体(タキゾイト)となり、分裂(無性生殖)で急激に増えていきます。しかし、やがてそれぞれの宿主の免疫系に目を付けられ攻撃されて、筋肉や脳内に逃げ込み、厚い殻をもった繭のような組織シストという構造の中で生き延びます。この繭の中で、トキソプラズマは緩増虫体(ブラディゾイト)
という状態になり、ゆっくりと増えていきます。(図は国立感染症研究所のHPより転載)

 ●トキソプラズマの感染ルート

 トキソプラズマが人間に感染するルートは2つあります。

①感染後2週間ぐらいネコの糞便から出る、オーシストを口から飲み込む。

  
 →ネコの糞便で汚染された土壌に触ったり、井戸水や湧水を飲んで感染します。また、感染間もないネコのうんちのお世話でうつる危険もあります。

②豚肉、羊肉、鹿肉など動物の筋肉中の組織シスト
を口から飲み込む。

   →加熱が不十分な肉(馬刺、牛刺、鳥刺、鹿刺、レアステーキなど)を食べて感染します。また、肉汁がついたまな板などから感染する危険もあります。

 ●先天性トキソプラズマ症の症状

 先天性トキソプラズマ症は、妊娠の数ヵ月前、または妊娠中に始めてトキソプラズマに感染した結果、起こります。ヒトの体に侵入したトキソプラズマは急増虫体(タキゾイト)になり、血液から胎盤に移行し、胎児に侵入していくのです。

 妊娠の6ヵ月以上前の感染では、胎児に影響はないといわれています(母体の免疫がブロックしてくれる)。母体の感染から、胎児への感染が成立するまで、数ヵ月かかります。妊娠中の初感染の約30%が胎児に感染し、数%から20%が典型的な先天性トキソプラズマ症を発症するといわれています。

 典型的な先天性トキソプラズマ症の症状とは、最も重い場合は胎内死亡、流産となり、また水頭症、網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神運動機能障害がトキソプラズマ症の4大徴候として知られています。その他肝機能障害、黄疸、血小板減少、貧血などが見られます。

 さらに何も症状がないようでも、成長とともに、眼の病気、精神発達の遅れなどがはっきりして来ることもあります。

 ●先天性トキソプラズマ症の頻度

 妊娠中の初感染の約30%が胎児に感染し、数%から20%が典型的な先天性トキソプラズマ症を発病すると報告されています。

 妊娠時期でみると、妊娠初期では胎児の感染は数%から25%くらいですが、重症児の割合はは60~70%に及びます。逆に妊娠末期では、胎児への感染は60~70%と頻度は高くなりますが、重症は約10%ぐらいにとどまるようです。

 宮崎県で大規模な妊婦の調査が行われましたが、年間の抗体陽性率(トキソプラズマに感染した人の割合)は0.3~0.8%、胎児感染は0.125~0.4%、症状を持つ胎児感染は0.0125~0.03%と推定されました。これを年間出生数を100万人として計算してみると、妊婦の初感染者は2000人~6000人、胎児感染は1250~3000人、先天性トキソプラズマ症の出生は125人~300人という結果になります。先天性サイトメガロウイルス感染症もそうでしたが、先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんも決してきわめてまれというわけではありません。

 ●トキソプラズマ症の治療

 治療は、アセチルスピラマイシンの服用によって、胎内感染率を約60%低下させたという報告があります。ピリメタミン、スルファジアジンも治療薬ですが。国内未承認薬です。

 先天性トキソプラズマ症予防のための対策

 妊娠している人、妊娠をお考えの方は、トキソプラズマの血液検査(抗体検査、IgM抗体検査、IgGアビディティ検査)を受けましょう。すでに陽性なら、先天性トキソプラズマ症は起こる可能性はほとんどないため、心配いりません。
 検査が陰性で、トキソプラズマ未感染だとわかったら、以下の妊娠中の生活上の注意を守らなければなりません。

 
 1 生肉は、妊婦でない人に取り扱ってもらいましょう。それができない時は、ゴム製の清潔な手袋をつけましょう。肉はよく火を通しましょう。中心部まで十分加熱することが必要です。調理に使用したまな板、包丁などはよく洗い流しましょう。その後、水とせっけんでよく手を洗いましょう。
  2 果物や野菜は食べる前によく洗いましょう。
  3 ガーデニングや畑仕事など、土、砂に触る時には、手袋を着けなしょう。土の中に、ネコの糞のトキソプラズマのオーシストが混じっている可能性があります。また、土、砂に触った後は、必ず、水とせっけんでよく手を洗いましょう。
  4 自分の飼い猫がトキソプラズマに感染することを防ぎましょう。屋内から出さないようにして、エサはドライフードか、缶詰をあげましょう。また、猫のトイレの掃除は妊婦でない人にしてもらいましょう。それができない時は、ゴム製の清潔な手袋をつけて、毎日掃除をしましょう。便に出るオーシストは1~5日で感染力を持つので、毎日掃除をすることで感染の危険を減らせます。掃除の後は、水とせっけんでよく手を洗いましょう。


参考トキソプラズマ症とは - 国立感染症研究所
    横浜市衛生研究所:トキソプラズマ症について
    トキソプラズマ - トーチの会
    トキソプラズマ症 - 千葉県獣医師会

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