品川区議会会派行政視察報告

 品川区議会会派自民党・子ども未来は、8月1日から8月3日の3日間、鹿児島・屋久島で行政視察を行いました。私もクリニックの方は代診の先生にお願いして、この視察団に参加しました。

 以下、日を追ってご報告いたします。


1.霧島市視察

 8月1日(火)早朝6時15分に会派議員は羽田空港に集合し、全日空機で鹿児島空港に向かいました。

 鹿児島空港に到着後はまず霧島市役所を訪問し、霧島市が全市を挙げて取り組んでいる「チャレンジデー」について、霧島市スポーツ・文化振興課の赤塚課長、宅間主幹などからお話をお聞きしました。

 まず、今回訪問した霧島市は、2005年に国分市、溝辺町、横川町、霧島町、隼人町、福山町が合併してできた、錦江湾(鹿児島湾)を臨む若い市です。霧島山、霧島神社を擁し、茶、黒酢づくり、霧島牛、林業なども盛んということでした。

 「チャレンジデー」とは、毎年5月の最終水曜日に人口規模がほぼ同じ自治体間で、午前0時から午後9時までの間に15分以上継続して運動やスポーツなどの身体活動を行った住民の参加率(%)を競うイベントです。

 この「チャレンジデー」の意義はいつでも、どこでも、だれでも参加できることにあり、住民が一つの目標に向かって一致団結することで、仲間意識や連帯感が生まれ、地域の活性化が期待できるのだそうです。
 またいろいろな自治体と競い合うことで、自治体間の交流も生まれるということでした。

市議会議場 チャレンジデーの調査 霧島市役所

 霧島市の「チャレンジデー」の戦績は、2014年初参加の時は岩手県奥州市に敗れましたが、その後は東京都小金井市、秋田県横手市、秋田県大仙市、山梨県甲斐市に連戦連勝で、チャレンジデー実行委員長を務める市長の鼻息も荒いというお話でした。

 「チャレンジデー」はもともと1983年にカナダの50市町村で始まり、日本では1992年から笹川スポーツ財団が音頭をとって、開催されています。
 東京都23区では江戸川区だけが参加しています。品川区が区を上げて、「チャレンジデー」の取り組みを行うのは、実際はかなり難しいだろうと思いました。

 霧島市では、チャレンジデー実行委員会にさまざまな団体が参加していました。品川区でも、さまざまな団体が実行委員会を立ち上げ、「チャレンジデー」の取り組みを始めたら、地域ごとに連帯感が生まれ、人々の交流も深まり、スポーツの取り組みも進むので検討してもよいのでは、とも思いました。

 市役所を出てから霧島神社に参拝し、再び鹿児島空港の戻り、日本エアコミューター機に搭乗し、午後の視察先の屋久島に向かいました。


2.屋久島町視察

 8月1日(火)午後3時過ぎに屋久島空港に到着し、レンタカーで屋久島町役場宮之浦支所に向かいました。宮之浦についた後、同支所会議室で屋久島町商工観光課の方から、屋久島町の概況、世界自然遺産登録の経緯、観光への活用、保護・保全策について、お話を伺いました。

屋久島商工会議所の担当者からの説明 町役場宮之浦支所 屋久島全島図

 まず、屋久島町の現況について、説明がありました。屋久島は鹿児島県大隅半島の佐多岬から南南西60kmにある、面積504.8km2、周囲130kmのほぼ円形の島です。中央部に九州最高峰の宮之浦岳を主峰とする標高1800mを超える峰々がそびえ、島の面積の9割は森林に覆われ、樹齢千年を超えるスギ原始林が生育しています。

 屋久島には平成22年国勢調査によると、13589人の人々が暮らしています。平成5年の世界自然遺産登録を契機に、減少傾向だったものが13000人台後半の横ばいで推移するようになったそうです。
 主な産業である観光は、高速船就航や世界自然遺産登録などによって、入込客数は平成19年までは増加していましたが、その後は景気悪化や東日本大震災などの影響でゆるやかに減少しているのだそうです。

 そこで屋久島町は、平成28年3月、エコツーリズムによる世界自然遺産「屋久島」の価値創造と観光立町をめざし、「屋久島町観光基本計画」を作成したというお話でした。

 屋久島は、昭和29年文化財保護法により、特別天然記念物屋久島スギ原生林に指定され、昭和50年には自然環境保全法により、屋久島原生自然環境保全地域にも指定されました。
 さらに平成に入って、平成4年に国有林野管理経営規程により森林生態系保護地域に設定され、平成24年に島の40%が屋久島国立公園に自然保護法により指定されました。

 そして、平成12年12月には、島の21%が世界自然遺産に登録されたのです。
 屋久島の持つ、①島嶼ながら標高2000mlに迫る山岳地帯から海岸線に至る、際立った標高差、②樹齢3000年におよぶスギを含む原生的な自然林の存在、③絶滅危惧種172種、固有種94種を含む1900種以上の多彩な植物群、が高く評価されたということでした。

 特に植生の垂直分布では、海岸線では鹿児島と同じ植物系ですが、標高1500m以上では、北海道に生息する寒冷地の植物がみられるのだそうです。

 屋久島町はこれらの様々な法律による保護・保全策を援用し、観光振興と環境保全のバランスを取りながら、さらに持続可能な観光地作りを目指しているということでした。
 また、平成28年5月に爆発的噴火のため、全島避難となった、口永良部島の復興も図っていきたいというお話でした。

 実際の屋久島における山岳観光の具体的な事業展開は明日視察することになり、本日の視察は終了しました。この日は宮之浦地区のホテルに泊まりました。宿舎は、むかし修学旅行で泊まった旅館を思い起こさせるようなホテルでした。



 8月2日(水)は小型バスでホテルを出発し、まず「紀元杉」を見学しました。「紀元杉」は安房林道沿いにあり、バスから降りてみることができる巨大屋久杉です。
 「紀元杉」はその名の通り樹齢3000年以上の古木ですが、驚いたことに幹の周囲(胸高)は8mもありますが、高さ(樹高)が20mぐらいしかなかったことです。

 同行された屋久島公認ガイドの方のお話では、屋久島では台風を始め、強風が吹くために、杉の巨木はある高さになると幹が折れて、高く幹を伸ばすことはできないのだそうです。
 また一面苔むしていてこの苔を土壌代わりに、ヒノキ、ヤマグルマ、ヤマシャクナゲなどが幹から生えていて(着生)、土の上の木と同じように枝を伸ばしていました。

 今回同行された屋久島公認ガイドは、屋久島町が平成18年から運用を開始した、観光振興および環境保全のために認定した、有料で観光客に案内したり、解説したりする人の事です。
 現在約80名が活動しており、私たちに付いていただいた公認ガイドの方も、もともとは横浜市から移ってこられたということでした。

 一般に「屋久杉」と言われる杉は標高500m以上の山地に生えている、樹齢1000年以上の天然杉を指し、それより若い天然杉は「小杉」、海岸近くの植林された杉は「地杉(じすぎ)」と地元では呼び分けているのだそうです。

 「紀元杉」を見学した後、「ヤクスギランド」に行きました。「ヤクスギランド」は遊園地ではなく、安房川の支流荒川の上流地帯にある自然休養林です。世界自然遺産エリアには入っていないそうです。
ヤクスギランド入り口 ヤクスギランド園内 紀元杉  ランド内渓谷 

 入口を入ると、名前からイメージできない清浄で静逸な、苔むした木々がうっそうと続く、神話の世界のような森林でした。アニメ映画「もののけ姫」は、この「ヤクスギランド」周辺がモデルとなったということでした。

 「屋久島は月のうち、35日は雨というぐらいでございますから」と浮雲で林芙美子が書いた通り、屋久島は高温多湿のため、多種多様なコケ類やシダ類が生育し、一面大地や樹木を覆い、森林は蘚苔林とも呼ばれています。

 屋久杉の巨木が台風で倒れたり、江戸時代に伐採された杉の切り株や土埋木から杉の若木が生えたり(切り株更新)、2本の杉が途中から1本に合体したり、杉の大木の幹を覆うコケ類にナナカマド、ヒノキ、ヤマグルマ、サクラツツジなどの他の植物が着生し、「親木」に何本もまきつくなど、本州の「おとなしい」森林では見られない、さまざまな多様な生態に圧倒されました。

 特にヤマグルマは「締め殺し」とも呼ばれ、屋久杉に巻き付いて幹を伸ばしますが、絡んでいる杉を締め上げて水分を断ち、枯らしてしまうこともあるそうです。

 「ヤクスギランド」でも、ヤマグルマに幹を締めあげられた屋久杉が、締めあげられている幹の上部から新たに根を伸ばし、水分を取ろうとしている姿を目にしました。深閑とした森の中で、静かな、しかし激烈な生存競争が繰り広げられている姿に感動を覚えました。

 また、「ヤクスギランド」は静寂に包まれており、この季節ならうるさい蝉の声、野鳥の声などはいっさい聞こえませんでした。また、渓谷にトンボや魚も見られませんでした。

 屋久島にはヤクシマミドリシジミ、ヤクシマトゲオトンボなど、日本中に名が轟いている有名な昆虫が生息していますが、この周辺ではあまり昆虫をみかけず残念でした。(アオスジアゲハを目撃したくらいでした。)

 「ヤクスギランド」を散策して、屋久島の自然のすばらしさは十分認識できました。その上で、屋久島観光の最大のネックは、携帯トイレの使用だと思いました。

 水洗トイレに慣れた都会からの観光客に、いかに携帯トイレの必要性を理解させ、その使用に抵抗感を無くしてもらえるかが、公認ガイドをはじめ、観光に関係する方々の課題ではないかと思いました。

 「ヤクスギランド」を出た後は、安房地区で昼食をとり、午後は地場産業である本坊酒造の「屋久島伝承蔵」を見学しました。
 
屋久島伝承蔵の酒甕 屋久島世界遺産センター

 伝統的な手作り甕仕込みにこだわり、明治20年から受け継がれてきた56個の甕には、良質な酵母が住みついていること、土中に埋まっていることにより、保温に優れているため、希少価値の高い本格焼酎が生まれるのだそうです。

 芋の仕込みの時期ではないため、実際の造りは見学できませんでしたが、焼酎蔵を見て回りました。室内も室外に負けず、猛烈な暑さで汗だくになりました。

 屋久島伝承蔵を出た後は、「屋久島世界遺産センター」を訪問しました。隣接する屋久島環境文化研修センターに宿泊している中学生が多数見学に訪れており、一緒に展示を見て回りました。

 その後、小型バスで空港に向かい、屋久島空港から日本エアコミューター機で鹿児島空港に戻り、同日は鹿児島市内に宿泊しました。


3.鹿児島市視察

最終日の8月3日は、まず鹿児島市役所を訪問しました。鹿児島市議会事務局の方から、新議事堂の整備とタブレット端末を使用した電子表決システムについての説明をお聞きしました。

 鹿児島市役所は、本館、別館、東別館、みなと大通り別館の4庁舎で構成されていましたが、平成20年度に実施した耐震診断の結果、別館が耐震性能を満たしていないことが判明し、新たに西別館を新築し、議会機能がこの庁舎に移転することに決まりました。

 議事堂を整備するために、平成22年から本庁舎整備基本構想が策定され、平成25年度から新築工事が始まり、平成27年に工事は竣工しました。

 新しい議事堂には、①傍聴者に配慮した設備(車いすスペース、親子席の設置)、②難聴者用の音声伝達システムの更新、③タブレット型端末による電子表決システムの導入、④委員会室の傍聴席を増席、が計画、整備されたそうです。

 品川区でも今年度からタブレット型端末によるIT化の取り組みが始まっており、品川区側からのこれに関連した質問も多かったのですが、鹿児島市議会事務局からは、議員の抵抗もあり、まず電子表決システムを確実に運用することが肝要であるため、現時点ではタブレット型端末は電子表決のみに使用する方針という回答でした。

 説明の後、新しく完成した市議会議事堂を視察しました。傍聴席の前に、記者席までありました。

鹿児島市議会事務局の説明 座席にはタブレット型端末設置 市議会議事堂

 また、理事者席側と議員席側のそれぞれに演壇があり、それぞれが向き合う配置になっていました。議員にとって、誰のために、誰と質疑するかを考えると、対面式は良い配置だと思いました。(品川区では議長の前で議員席に向かって質問するスタイルになっています。)

 また、本会議で一問一答方式の導入、本会議でも議員呼称を君から議員へ変更、請願・陳情提出者に委員会審査日を連絡、インターネットによる生中継を始めるなど、品川区でも検討すべき議会改革が次々と実行されていました。
 鹿児島市議会の取り組みは、私にとってもいろいろと参考になりました。

 鹿児島市を出た後、霧島市福山町のレストラン「壺畑」で昼食を摂りました。福山町はくろずの生産で有名な地域で、食事の後、同じ敷地にあるくろず情報館でくろずの製法、歴史などについて、説明を受けました。

 くろずは蒸し米、米麹、地下水を壺に入れて、でんぷんからブドウ糖、アルコールを経て酢酸を生成し、熟成させて作るのだそうです。地域一帯にはくろずを作る壺が整然と並んでおり、壺畑と呼ばれ、その眺めは壮観でした。

   

 福山町から鹿児島空港に向かい、全日空機で東京に戻りました。福山町で小ぶりの雨に降られたほかは、晴天で暑い毎日でした。
 しかし、2日後の8月5日(土)に、この一帯、鹿児島、屋久島は台風5号に直撃されています。


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