2019年度(令和元年度)決算特別委員会総括質疑 (2019.10.16)
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自民・無所属・子ども未来を代表して、前半は私鈴木博、後半は高橋伸明委員が総括質疑を行います。よろしくお願いいたします。
本日は、私は若い女性の健康を脅かす、子宮頸がんについて質問いたします。
●子宮頸がんの基礎について
現在、若い女性の間で子宮頸がんが増えています。
まず、子宮頚がんとはどのような病気なのか、ご説明をお願いします。
ご説明、ありがとうございました。
子宮頸がんは、子宮の入り口である子宮頸部に発生するがんです。原因はヒトパピローマウイルス、HPVの感染です。
発病は30歳~40歳代がピークで、20歳~30歳代でも増加しています。初期にはほとんど自覚症状がなく、進行すると性交時の出血、悪臭を伴うおりもの、性器出血などが見られるようになります。
ヒトパピローマウイルス(HPV)は200以上の種類があり、そのうち約40種類は性行為で感染します。梅毒などのように、特定の少数者が感染を広める性感染症とは異なり、HPVは性交渉を持った女性の50~80%が生涯に1度は感染するといわれているほど、ありふれたウイルスです。
このうち、遺伝子型16、18型など15種類のHPVは、子宮頸がんを引き起こすことがわかっています。そのため、この15種のHPVは、「発がん性高リスク型HPV」と呼ばれています。特に子宮頸がんでは、16、18型が圧倒的に多く見られます。NTT東日本関東病院近藤一成産婦人科医長より提供された、スライドを供覧いたします。
しかも、HPVに感染したとしても、大体90%は、侵入したHPVは排除され、子宮に留まる時間は短期間です。いつ感染したかわからないうちに感染し、治ることが多いのです。
しかし、ごくまれに何らかの条件で、子宮上皮にもぐりこんだHPVが、排除されずにそのまま子宮内に留まることがあります。この子宮内に留まったHPVは、長期間にわたって周りの正常細胞に攻撃し続けます。その結果、正常の子宮頸部上皮細胞はしだいにおどろおどろしい
CIN(子宮頸部上皮内腫瘍)とよばれる異型の細胞に変質していき、10年以上の長い年月の後に、最終的に凶暴ながん細胞に変身し、転移していきます。そして、最終的にがんに侵された人の命を奪うことになるのです。
子宮頸がんはわが国では年間約10,900人が発病し、2,900人が亡くなっています。
しかも死亡をまぬがれても、ごく初期のがんでなければ、子宮を全摘出しなければならず、子宮や卵巣を失うという女性にとって耐え難い犠牲が必要になります。命は助かったが、子どもが生めなくなった。赤ちゃんは助かったが、母親が死亡した、などという悲劇が後を絶たない、悲惨で恐ろしい「マザーキラー」とよばれるがんが、子宮頸がんなのです。
この子宮頸がんの現在の治療と、その成績はいかがでしょうか。
子宮頸がんの治療は、がんの進行具合によって異なります。がん細胞までには悪化していないが、異型な細胞の集まった前がん状態や超早期のがんならば、子宮頸部の円錐切除という手術で、子宮を温存することも可能です。
しかし、円錐切除術といっても、手術によって子宮の一部を切り取ることには変わりありません。手術後、子宮頸管粘液の分泌が減少したり、 子宮頸管が閉じてしまうなど、手術のリスクは厳然として存在しています。この円錐切除手術を、現在我が国では年間9000人をこえる女性が受けているのです。
がんがこれ以上拡がっている場合は、子宮や卵巣、リンパ節などを広汎に取り出す根治手術や放射線治療、抗がん剤の治療が行われます。
治療法の進歩によって、子宮頸がんを発病した患者さんのうち、かなりの人が救命できるようになってきたことは、とても喜ばしいことです。
しかし、がん治療によって、妊娠・出産ができなくなったり、性交時の痛み、排尿・排便障害、足が異常にむくむリンパ浮腫、ホルモン不足の症状(ほてり、肩こり、いらいら、動悸など)など、さまざまな後遺症や、女性としてのつらい気持ち、がん再発への恐怖など、身体的精神的な苦痛に苦しむ患者さんが少なくないのです。
●子宮がん検診について
そのため、子宮頸がんも、他のがんと同様、予防がきわめて大切です。
品川区の子宮がん検診の目的と方法、検診の受診率、受診者数をお示しください。合わせて、低迷する子宮がん検診に対する国および品川区の認識をご説明ください。
ありがとうございました。残念ながら今ご説明のあったように、子宮がん検診の受診率は、国や品川区の懸命な勧奨にもかかわらず、20%台と低迷しています。
子宮がん検診は、一次検診として問診、内診、さらに細胞診が行われます。
細胞診は子宮頸部をブラシなどで擦って、細胞を採取し、顕微鏡で観察し、がんかどうか判定します。簡単で痛みも少なく、結果も比較的信頼できると評価されていますが、前がん状態やがんを診断できる感度は50~70%といわれており、5人に1人は見逃されている可能性があります。
もしもこの1次検診で異常の疑いがあった場合は、精密な組織検査が行われ、子宮の浸潤がんと診断されれば、がんの進行度を調べることになります。
子宮がん検診は大切ながん対策ですが、その効果と限界について、区はどのように認識されているのでしょうか。
●HPVワクチンについて
子宮頸がん対策は、子宮頸がんの原因であるHPV感染を、ワクチンによって防ぐこと(一次予防)、検診によるスクリーニングで前がん病変のうちに発見し、浸潤がんになる前に治療してしまうこと(二次予防)が世界的に認められた、二つの柱とされています。
ところが、定期接種であるはずのHPVワクチン接種が我が国では 現状、ほとんど行われておりません。
子宮頸がんが、ウイルス感染によって発病する病気ならば、その発がんウイルスに対する免疫を獲得し、子宮頸がんの発病を阻止すること(1次予防)は非常に合理的な治療戦略です。
HPVワクチンは、発がんウイルスであるHPV16型と18型に対する感染予防効果が非常に高い優れたワクチンです。すでにHPVワクチンのすばらしい効果を示す研究報告、論文が世界中で多数発表されています。
さらにHPVワクチンが接種され始めて10年が経過し、HPV接種によって、前がん状態の減少だけでなく、浸潤がん(子宮頸がん)も減少するという報告も発表されています。
フィンランドでは、比較検討の結果、ワクチンを接種していないグループからは子宮頸がん患者が発生したのに、HPVワクチンを接種したグループからは子宮頸がんが見られなかったと報告されました。
平成29年11月に開かれた第31回厚労省副反応検討部会では、HPVワクチン接種により期待される、子宮頸がん罹患者数の減少は10万人あたり859〜595人、子宮頸がん死亡者数の減少は10万人あたり209〜144人であり、接種により多くの子宮頸がんの罹患や死亡の回避が期待できることが報告されました。
すでに新しい9価のHPVワクチンであるガーダシル9(シルガード9)の接種を公的接種として行っているオーストラリアでは、子宮頸がんの発病は激減しており、2028年までに子宮頸がんの診断を受ける女性が10万人あたりに4例未満(ちなみに我が国は16例)まで減り、2066年には10万人あたり1例未満と、先進国の中で最初に子宮頸がんを撲滅した国になると言われています。
なぜ、このような優れた効果が報告されているHPVワクチンの定期接種の勧奨が停止されたのか、また現在のHPVワクチンの接種数と最近の傾向について、お知らせください。
HPVワクチンは平成25年4月より定期接種となりましたが、ワクチンを接種した後に、広い範囲に広がる激しい痛みや、手足の動かしにくさ、身体の一部が勝手に動く不随意運動などの多様な症状が、HPVワクチン接種の副反応の疑いがあるとして報告され、この多様な症状が、HPVワクチン接種に関連するかを検討するために、厚労省はHPVワクチンの定期接種としての積極的勧奨を一時停止しました。
「子宮頸がんワクチンが副作用が強いから、接種が中止になった。」というのは、全くの誤解です。
この多様な症状に対する、その後の国の取り組みについて、ご説明ください。また、この症状に対する国際的な評価はどのようなものだったのでしょうか。
平成29年11月の厚生労働省専門部会において、慢性疼痛や運動障害などHPVワクチン接種後に報告された「多様な症状」とHPVワクチン との因果関係を示す根拠は報告されず、これら「多様な症状」は機能性身体症状と考えられる、との見解が発表されました。
平成28年12月の厚生労働省第23回副反応検討部会において、厚生労働省研究班祖父江班による全国調査結果が発表され、HPVワクチンの接種歴のない女性でも、
HPVワクチン接種歴のある人と同様の、「多様な症状」が多数存在することが報告されました。
また、名古屋市で行われた約3万人におよぶ大規模な疫学調査では、ワクチン接種後に報告された 「多様な症状」とワクチン接種との間に有意な関連が認められませんでした。
その一方で、ワクチンとの関連性ははっきりしないものの、多様な症状に苦しむ患者さんへの治療体制の整備が進み、現在、19施設が運動療法、教育・認知行動療法を行っており、接種後に何らかの症状が現れた方のための診療相談窓口が全国85施設に開設されました。
HPVワクチン接種を長期にわたり中断している日本に対し、国際的な視線は厳しいものがあります。WHOはたびたび日本保健当局に対し、若い女性の命を守るよう、警告を発してきました。
WHO ワクチン安全性に関する諮問委員会(GACVS)は、平成27年12月17日の声明で、<結果として、若い女性達はワクチン接種によって予防しうるHPV関連のがんに対して無防備になっている。GACVSが以前指摘したように、弱いエビデンスに基づく政策決定は、安全かつ有効なワクチンを使用しないことにつながり、実害をもたらしうる。>と述べています。GACVSはその後もたびたびHPVワクチンが安全であること、接種を中断していることは日本人女性を危険に曝していると声明しています。
また、平成28年4月に小児科学会、小児保健学会、産婦人科学会、小児科医会、保育保健協議会、感染症学会、呼吸器学会、渡航医学会、耳鼻咽喉科学会、プライマリ・ケア連合学会、環境感染学会、ワクチン学会、ウイルス学会、細菌学会、臨床ウイルス学会の15団体がHPVワクチンの積極的な接種を推奨しました。
しかし、HPVワクチンの積極的勧奨は再開されていないまま、ずるずると現在まで引き延ばされているのが現状です。
このような国の不作為に対し、若い女性に子宮頸がんの啓発をしっかりと行おうとする自治体が現れました。岡山県が令和元年に中学、高校生の保護者向けに作成したリーフレットを供覧します。
このリーフレットは子宮頸がんの病気の深刻さ、HPVワクチンの効果、その副反応をバランスよく述べた、素晴らしい内容です。
千葉県いすみ市も令和元年、同様の内容のHPVワクチン啓発のリーフレットを独自に作成し、配布しています。
このように、現在のHPVワクチンの中断に危機意識を持ち、若い女性の生命と未来のために、積極的な広報を始めた自治体もあるのです。
品川区もこれまでワクチン先進区として、23区の保健予防行政をリードしてきました。
HPVワクチンについて、全ての品川区民、特に若い女性の区民に必要な情報を届けてほしい。 副反応を極度に強調し、子宮頸がんの怖さと重さを過小評価するような、偏った情報提供でなく、
「有効性とリスクについての公平な正しい情報」と 「対象者は無料接種できる」という事実に基づく、客観的な情報を区民に積極的に提供することを切に望みますが、
区のご見解はいかがでしょうか。
すでにHPVワクチンの積極的勧奨が中断してから、6年がたってしまいました。HPVワクチンが平成25年定期接種になったとき、接種対象だった12~
16歳の少女はすでに現在では、18~22歳に成長しています。
そして、彼女達は、HPVワクチンに対する十分な情報提供がない中でHPVワクチンの大切さも知らず、今「接種漏れ」として、定期接種の時期を過ぎようとしています。
かつての日本脳炎ワクチンも積極的勧奨停止とその後の救済処置がありました。しかし、今回の勧奨停止は全く深刻度が異なります。
なぜならば彼女達はすでにHPVに感染している可能性が高く、今HPVワクチンを追加で接種しても、すでに感染しているHPVを排除したり、進行しているがん化を阻止することは、もはや期待できないのです。HPVワクチンを接種することは、HPV感染を防ぐ働きを期待する、ということになります。
しかし、もしも接種時期を逃した人が、HPVワクチンの大切さに気づき接種を希望されても、任意接種の扱いになり、無料で接種を受けることも、法に基づく副反応の救済処置を受けることも最早できないのです。
品川区として、最低限の処置として、これらの接種漏れの方々にHPVワクチン接種費用の助成を検討すべきと考えますが、区のご見解はいかがでしょうか。
また、これらの人は、すでにワクチンによる第一次予防が期待できないとするならば、二次予防として子宮がん検診は特に重要と思われます。
これらの接種漏れの人達への子宮がん検診の勧奨について、区はどのようにお考えでしょうか。
最後に、若い女性の生命と未来を奪う子宮頸がんを予防するために、HPVワクチンの接種と子宮がん検診の重要性を中学生、 義務教育学校後期の生徒に学習させることこそ、真の「がん教育」だと確信しますが、区のご見解はいかがでしょうか。
HPVワクチンの大切さ、区民への正確な情報提供の必要性を強く訴えて、私の質問を終わります。ご清聴ありがとうございました。
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