2019年度(令和元年度)予算特別委員会総括質疑 (2020.3.23)
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自民・無所属・子ども未来を代表して、 前半は私鈴木博、後半は大倉たかひろ委員が総括質疑を行います。 よろしくお願いいたします。
本日は、現在も流行が続く、新型コロナウイルス感染症について、お伺いいたします。
●新型コロナウイルス感染症について
2019年12月に中国武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は、わずか3ヶ月の間にまたたくうちに世界中に広がり、2020年3月20日現在、世界の126の国と地域で20万人が感染し、8700人が死亡している、 歴史的なパンデミックとなっています。
我が国でも、2020年3月20日現在、クルーズ船感染者を除き、95人の方が感染し、33名の方がお亡くなりになっています。
中国武漢市の海鮮市場から始まったとされる、この新型コロナウイルス感染症は、武漢市の全面閉鎖などの強力な対策にもかかわらず、初動の遅れから武漢市に封じ込めることに失敗し、あっという間に武漢から中国全土に、中国からから世界中に広がりました。
2020年1月30日、世界保健機関WHOは「公衆衛生上の緊急事態」を宣言しましたが、その後も感染は爆発的に拡大し、ついに2020年3月11日、パンデミック宣言に至ったのは、周知の通りです。
WHOは2月11日に、今回の新型コロナウイルス感染症をCOVID-19と名付けました。また、この原因ウイルス名を、国際ウイルス分類委員会は、SARS-CoV-2と命名しました。ちなみに我が国では、2020年2月1日に施行された指定感染症上の名称は、「新型コロナウイルス感染症」となっています。
もともと、人のかぜの 15%は、4種類のヒトコロナウイルスが原因でした。ところが、2002年にコウモリのコロナウイルスが、2012年にはラクダのコロナウイルスがヒトに病原性を獲得し、感染するようになり、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)を起こしました。
新たにヒトに感染するようになったSARS-CoV-2ですが、家系図を見ると、ベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属という仲間で、SARSコロナウイルスと近い関係にあり、そのためにSARS-CoV-2と名付けられたようです。
現在までに明らかになった、新型コロナウイルス感染症とはどのような病気か、ご説明をお願いいたします。
今、ご説明があったように、新型コロナウイルス感染症は、潜伏期が平均約5日、最大で14日と言われています。
感染の経路は、咳、痰の飛沫による飛沫感染と、痰、鼻水などを触って移る接触
感染です。感染力は1人から2.6人とほぼインフルエンザウィルス並です。ただし、バスや屋形船など、「換気の悪い、閉鎖空間」では異常に感染力が高まるようです。
また、我が国の検討では、感染を広げているのは、感染者の2割のみで、8割の人は他の人には移していませんでした。
新型コロナウイルス感染症はインフルエンザ感染症と異なり、子どもに少なく、高齢者、慢性の病気を持つ方に患者が集中しています。死亡率は0.3%ぐらいと推定されていますが、中国武漢市、イタリアロンバルディア地方など医療崩壊を起こした地域では異常に高くなっています。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」から、図を2点引用しました。
まず、典型的な新型コロナウイルス感染症の経過図を供覧いたします。症状は、まず発熱、咳、喉の痛みや頭痛、全身の倦怠感などが起ります。鼻水、下痢は少ないようです。普通のかぜならば、2~3日で快方に向かいますが、新型コロナウイルス感染症では1週間ぐらい症状がとれず、異様なだるさが続くことが特徴とされています。ただし、この時期はかぜと区別はつきません。そもそもかぜの15%は、別種のヒトコロナウイルスが原因なのです。
1週間ぐらいで8割の人は、症状は治まりますが、2割の方は1週間過ぎたあたりから咳がひどくなり、胸が苦しくなり、肺炎になります。さらにその一部が、重い肺炎に進展します。
同資料の年齢別死亡率です。中国CDC疾病対策センターの発表した4万4672人のデータによれば、0~9歳の子どもでは死亡率が0%だったのに対し、年齢が上るにつれて、死亡率は高くなり、80歳代では14.8%が死亡しています。
また、慢性の病気を持つ人は死亡率が高くなっています。
この新型コロナウイルス感染症の診断と治療について、ご説明をお願いいたします。
ご説明、ありがとうございました。SARS-CoV-2の検出は現在、 PCR法で行われています。
2019年9月11日、品川区議会厚生委員会は兵庫県立衛生研究所を行政視察し、この施設でのPCR検査の実際を見学し、説明を受けました。ちなみにこの施設は、現在西日本でSARS-CoV-2のPCR検査の中心施設となっています。
PCRは、Polymerase Chain Reactionの略で、その細胞に特徴的な遺伝子の部分を探し出して、この部分を特殊な器械を使って、増幅して検出する検査法です。SARS-CoV-2しか持っていない遺伝子の部分を増やして検出するため、陽性になれば、高い頻度でSARS-CoV-2が存在している証拠になりますが、検出率が低いのが欠点です。しかも、PCR検査は、多くの時間と労力を要します。
PCRの感度は残念ながら、良くみて70%ぐらいです。すなわち、10人の患者がいると3人は本当は感染しているのに、検査上陰性の結果が出るのです。本当は病気なのに陰性と判定された人が、自分が病気ではないというお墨付きをもらったものと勘違いして、感染を広げて歩く危険があるのです。
今のPCR検査は、たとえ検査結果が陰性であっても、新型コロナウイルス感染症にかかっていないという証明にはなりません。ダイアモンド・プリンセス号でも、一度PCR陰性だった人が何回も調べてやっと陽性になったのは、検査法の感度の問題なのです。
また、現在、PCRは3月6日から保険適応になり、接触者・帰国者外来において、診察する医師の判断で自由に行えるようになりました。国や保健所が検査を制限しているということはありません。
現在日本の指導的な感染症の専門家である、沖縄県立中部病院の高山義浩医師は次のように述べています。
検査を濫用することや、結果を過信することにも反対です。とくに、無症候の人には検査すべきではありません。
臨床医なら誰しも知ってることですが、ほとんどの臨床検査は診断における補助的な役割しかありません。感度の低い状況で使用することは、判断を誤らせるリスクがあるため躊躇します。
だからこそ私たち医師は、問診をして、診察をして、状態に応じた検査を選択しているのです。これからも、検査の適応は医師の判断にゆだねられるべきです。それ以上に検査しろだとか、希望者には全例だとか、余計なことは言わないでください。
不必要な患者さんにまで検査や治療を行わないというのは、新型コロナウイルスに限らず、皆保険制度の基本ルールなのです。医師の先生方におかれましても、今後とも検査の適応について、適切に判断いただければと思います。
私も含めて、日本の感染症治療に実際に携わる医師のほとんどは、このように考えているのです。
新型コロナウイルス感染症には、特別な治療法はありません。もともと80%の人は自然に回復するため、治療は必要ありません。安静にして自然に回復を待つのが、最良の方法です。
幾つかの治療薬がマスコミを賑わしていますが、これらの治療薬はあくまで重症の患者に救命のために、試験的に投与されているのが現状です。核酸アナログ製剤レムデシビル、エイズ治療薬カレトラ、インフルエンザ治療薬だったアビガン、気管支喘息吸入薬オルベスコ、抗マラリア薬のクロロキンなどの使用が検討されていますが、これらは効果、副作用などはこれから臨床検討されていく予定で、誰でも使えるわけではありません。
また、呼吸状態が極端に悪化したときは、非侵襲的陽圧人工換気、気管挿管による人工換気、膜型人工肺による体外循環装置エクモなどの最高レベルの治療が行われますが、実施できる施設に限りがあり、どこでも受けられるわけではありません。これらの貴重な我が国の医療的資源が、必要なときに必要とされる患者さんにスムーズに提供される体制の構築が今進められているのです。
以上の質疑を踏まえて、区の施策についてお伺いしていきます。
●区の施策について
第一に、高齢者施設についての対策について、お伺いします。
新型コロナウイルス感染症の大きな特徴は、若年者は軽症で済むものの、高齢者の死亡が多い点です。したがって、新型コロナウイルス感染症の最重要の施策は、リスクの高い高齢者をいかに新型コロナウイルスから守るか、ということになります。
中国でもイタリアでも、高齢者が大量に死亡しています。我が国でも高齢者施設での集団感染クラスターの報告が相次いでいます。名古屋市のデイサービス施設では63人が感染し、12人がなくなっています。また、伊丹市の介護施設でも利用者と職員25人の感染が確認されています。3点、お尋ねいたします。
1.高齢者施設内に新型コロナウイルスを持ち込ませない、施設内で流行させない 、徹底した感染予防の取り組みは、現在どのように行われているのでしょうか。
2.新型コロナウイルス感染症の流行は、現在蔓延期に入ってきました。そのため、入院して集中治療が行われ、回復期に入った高齢の患者さんは、急性期のベッドを空けるため速やかに施設で引き取る体制が、今後必要になると思われます。これについては、現在どのような検討が行われているのでしょうか。
3.万が一、新型コロナウイルス感染症が発生しデイサービスを閉鎖した場合の、在宅介護の支援方法はどのように検討されているのでしょうか。
それぞれご回答、ありがとうございました。新型コロナウイルスに対する最も重要な施策、高齢者を新型コロナウイルス感染症から守る予防対策の徹底した実行をお願いしたいと思います。
次に、子どもに対する対策についてお伺いします。
今回流行している新型コロナウイルス感染症は、小児は症状が軽いか、発症しないと報告されており、中国CDCの4万4672人のデータでも、0~9歳の致死率は0%でした。
保育所、学校における新型コロナウイルス感染症対策は 、集団生活の場が感染の増幅器になることを防ぐ、無症状の元気な新型コロナウイルスの感染児からリスクの高い高齢者や基礎疾患を持つ人に感染させる危険を避けることだと考えます。
保育課は従来から、「保育所における感染症対策ガイドライン」に基づき、保育所の感染予防対策を進めてきました。 そこで、お尋ねいたします。
1.現在の保育所の新型コロナウイルス感染症に対する対応について、ご説明ください。特に保護者への感染予防の一般的な啓発が重要と 思われますが、現在保護者に対してどのような対応が行われているのでしょうか。
2.全国で保育士の感染者の報告が続いていますが、 品川区ではクラスターの発生を抑えるため、保育士に感染者がでた場合の対応について、どのようにご検討されているのでしょうか。
ご説明、ありがとうございました。 保育所における感染対策については、この間もたびたび取り上げ、要望を行ってきたところですが、今回の新型コロナウイルス感染症の流行においても、
実効性のある感染予防対策の実施をお願いいたします。
教育委員会にお尋ねいたします。新型コロナウイルス感染症の拡大防止の目的で、2020年3月3日から全国の小中高校が一斉休校になりました。これに関しては、款別審査でもさまざまな質疑が行われました。
2002年のSARS、2009年の新型インフルエンザpdm09、2012年のMERS、2020年のCOVID-19と、10年以内のスパンで感染症の世界的流行が次々と発生しています。幸いなことに今回のSARS-CoV-2は、子どもにとっては重い症状を引き起こす、致命的なウイルスではありませんでした。
今回の新型コロナウイルス感染症流行は一斉休校処置も含めて、子どもたちに感染症とその予防について、そして今後も起るであろうパンデミックに対する実地の学びの機会を提供していると考えます。
学校に行けない。授業が出来ない。子どもが困っている。親が困っている。というような、否定的な議論ばかりが行われてきましたが、たとえば、
「生徒諸君、ありがとう。君たちが休んでくれたおかげで、地域に感染が広がらなかった。お年寄りが病気から守られた。君たちが行ったことは 休んだ間の学校の勉強以上のことだと思います。ありがとう」
というような、子どもを勇気づけ、励ますようなメッセージを発信することはできないものなのでしょうか。
子どもの感染症に対する意識を高め、休校という事態を前向きに捉える対応は必要だと考えます。ちなみにこのメッセージは、新型インフルエンザpdm09流行の時の休校処置のさいに発信されたメッセージを私が改変したものです。
今回の新型コロナウイルス感染症流行が、今後の学校現場における感染症予防教育にどのように生かされるのか、お伺いしたいと思います。
最後に医療を守る対策について、お伺いします。
現在感染爆発で医療崩壊が進むイタリアでは、医師・看護師2600人以上が感染し、医療現場からリタイアし、医師協会長を始め多数の死者がでています。医師・看護師の絶対数が足りないため、1万人の医大生や看護学生が試験を免除され、繰り上げ卒業で医療現場に動員されています。まさに学徒動員です。
いくらPCR検査をしても、医療が崩壊していては、助けられる生命も助けることはできません。感染蔓延期を迎えて、治療に当たる医療体制と医療従事者を守ることはきわめて重要です。そこで、質問いたします。
1.区は「帰国者・接触者外来」を持つ中核医療機関と一般診療所を支えるために、どのような対策をお考えでしょうか。
2.中核医療機関と一般医療機関の現在の負担を、どのように評価されているのでしょうか。
3.ピーク時の入院患者数、重症患者数を推計し、品川区の各医療機関への役割分担などは、都と連携して、シュミレーションなどは行われているのでしょうか。
4.感染蔓延期になって増えるであろう、自宅で療養する新型コロナウイルス感染症の軽症者について、区は電話での相談体制などどのような支援体制の整備をお考えなのでしょうか。
ありがとうございます。
我が国の現在の新型コロナウイルス感染症診療体制は、かぜ症状の患者さんはまず医療機関に電話をします。電話を受けた医療機関は「新型コロナウイルス感染症患者
との接触、地域への渡航歴」の有無を確認します。さらに発熱が4日以上かどうか、倦怠感や呼吸困難があるかどうか、慢性の持病があるかを 確認します。
その結果、自院か、新型コロナ相談窓口へ誘導することになります。新型コロナ相談窓口は、さらに患者さんから話を聞いて、必要なら「帰国者・接触者外来」を持つ中核病院受診を案内し、中核病院の「帰国者・接触者外来」では新型コロナウイルス感染症に対する診療を行います。
一般診療所では、サージカルマスクと手指消毒の予防処置をした上で、通常の診療を行います。ただし、インフルエンザなど疑い、迅速検査を行うには、N95マスク、ゴーグル、ガウン、手袋、手指消毒の徹底など、エアゾル感染を防ぐための予防処置をとってから行うことが望ましい、とされています。
現在、一般の医療機関は、発熱が続く患者さんが受診を希望されたときに、サージカルマスクをして患者さんを診察しますが、インフルエンザ迅速検査などを行う時は、さらに
N95マスク、ゴーグル、ガウンなどの感染予防処置が要求されています。
この装備をしないで検査を行い、万が一患者がCOVID-19だった場合は、濃厚接触者ということで施行者は隔離され、自宅待機となってしまいます。現在、どこの医療機関も来院する患者が激減しており、さらにどの程度の感染予防策をとりながら診療を行うか、臨床検査をどうするか、さらにマスク、アルコールなどがほとんど供給されないなど、かなり厳しい悩ましい状況の中で診療が続けられているのです。
特に小児科だと咳、発熱4日などは日常的にみられる子どもの症状です。新型コロナ相談窓口がどの程度機能しているのか、臨床現場では全く見えてこないのです。
新型コロナ相談窓口について、お尋ねします。
1.現在の区のコロナ対応における、帰国者・接触者相談センターの人員体制はいかがでしょうか。
2.37.℃以上の発熱が4日以上、高齢者や基礎疾患は2日で、帰国者・接触者相談センターに連絡することになっていますが、一般の医療機関と帰国者・接触者外来への振り分けがどのくらい行われているのでしょうか。この振り分けは、中核医療機関の負担を軽減するための処置と理解しますが、うまく機能しているのでしょうか。
3.新型コロナウイルス感染症の流行蔓延期を迎えて、効果的に施策を行うためには保健所の機能拡充が必要ではないかと考えますが、 区のご見解はいかがでしょうか。
現状は厳しいです。新型コロナウイルス感染症が致死率がそれほど高くないと分かった時点で、現在の指定感染症の指定は早急に解除しないと、医療機関は疲弊する一方だと思います。
●風評被害に対して
ある小児科クリニックが、 保護者の方に新型コロナウイルス感染症に対する知識をどこで得ているか、アンケート調査を行ったところ、95%がテレビ情報だったということでした。しかし、残念ながら、TV、特にワイドショウなどでコメンテータと称する感染症の専門家ではない方々の発言の中には、明らかな医学的誤りや事実誤認も多く、テレビの影響力もあり、大きな社会不安が引き起こされています。
風評被害、特にTV情報に対する品川区の見解と対応をお尋ねします。
ご回答、ありがとうございました。
社会に拡散される、幼稚で悪質なデマに対しては、いちいち反論し、正しい医学的ファクトに基づく事実をぶつけないと、そのまま事実として社会に受け入れられてしまう危険があります。過去にそのような残念な事例がいくつもありました。明らかに間違った情報は、品川区も、様々な媒体を使ってそれを正す情報を発信することを望みます。
今回の新型コロナウイルス感染症は日本という国家の危機であり、この疫病の脅威からお年寄り、慢性の病気の方、子ども達、全ての人々を守るために、全ての国民が力を合わせてワンチームとなって、立ち向かう必要があるのではないでしょうか。
小児科医としてこのことを強く訴えて、私の総括質疑を終わります。ご清聴、ありがとうございました。
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