●アトピー性皮膚炎とは
T.アトピー性皮膚炎の定義
アトピー性皮膚炎とは、「増悪と寛解を繰り返す、かゆみのある湿疹を主病変とする病気であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。」と定義されています。
つまり、@年齢によって身体のさまざまな部分にかゆみのある発疹が出たりひっこんだりする。A本人や家族にアレルギー疾患を持った人がいる。ということが、アトピー性皮膚炎の定義となります。ここでいうアトピー素因とは、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の病気を本人か家族が持っていることをいい、アレルギーの症状が起こりやすい遺伝的な体質を指します。
現在アトピー性皮膚炎にはいくつかの診断基準が提唱されています。参考のために,そのうちの一つ(厚生省心身障害研究班の診断基準)を示します。
U.アトピー性皮膚炎のメカニズム
アトピー性皮膚炎のお子さまは、肌がかさかさして、かゆみを伴なう発疹が、繰り返し全身に出現します。最近の研究によると、アトピー性皮膚炎のお子さまの皮膚にはセラミド(角質細胞間脂質)という保湿因子(皮膚に水分を引きつけて肌をすべすべさせる物質)が生まれつき少ないことがわかってきました。またアトピー素因という、アレルギー症状をおこしやすい遺伝的な要素も関係しています。これらの土台の上に、皮膚の状態を悪化させる因子が加わった時、激しいかゆみをもった皮膚炎が広がると考えられるようになりました。
T.アトピー性皮膚炎の症状は年齢によって変化する
アトピー性皮膚炎の皮膚症状は、年齢とともに変化していきます。
@赤ちゃん(乳児期)
乳児期には口の周りや頬に、赤いポツポツ、ジュクジュクした発疹が出ます。また首、肘のくぼみ、膝のうら、手首や足首などの汗のたまりやすい部分が赤くなります。
A幼児期
赤ちゃんの時期を過ぎるころになると、ひどい湿疹のあった赤ちゃんもかなりの確率できれいな皮膚に戻ります。しかしこの時期になってもアトピー性皮膚炎の症状の続く人は、顔面の発疹が減り、手足の関節のあたりや体に発疹が増えてきます。皮膚が乾燥してざらざらになってきます。
B学童期・思春期
思春期・成年期はアトピー性皮膚炎が悪化しやすい時期です。いったん治った皮膚の症状が思春期になってぶり返す例もみられます。この時期の発疹は、顔面、胸部、背部、肘窩など上半身に強くみられ、特に顔面はいわゆる「アトピー性皮膚炎の赤ら顔」などと呼ばれます。
U.かゆみが最大の症状
アトピー性皮膚炎のお子さまが最も苦しめられる症状は、かゆみです。お子さまは我慢することができず、掻きむしり、血まみれになってしまうこともあるほどです。自分で掻くことのできない赤ちゃんが、抱っこしているママの服に顔をこすりつけて、一日で顔が真っ赤にただれることもよく経験します。
お風呂に入ったり、夜ふとんに入って体があたたまると、かゆみが増すことはよくみられます。これは、皮膚があたたまると、かゆみを感じる神経がかゆみに反応しやすくなるためと、昼間は遊びに夢中になっているため、あまりかゆみを感じず、夜、眠り始めるとかゆみが気になるためと考えられます。ストレスもかゆみを悪化させる原因と考えられています。
T.治療の考え方
まずアトピー性皮膚炎が疑われた場合には、正確に診断することが必要です(アトピー性皮膚炎かどうか)。典型例は診断は容易ですが、なかなか診断が困難な例もあります。当クリニックではこのような例は小児皮膚科外来で皮膚科専門医が診断するようにしています。そして、アトピー性皮膚炎と診断された時に治療を開始します。アトピー性皮膚炎の治療は、
@ アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子をさがして、可能なら除去する
A アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症を抑える薬物療法を行う
B アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症を予防するスキンケアを行う
の三つの柱で行います。アトピー性皮膚炎の治療は皮膚症状が悪化と改善を繰り返すため、長期にわたり行われます。しかし、アトピー性皮膚炎は元来自然治癒傾向が強い病気であること、そして人生に何回か(乳児期後期、思春期など)治癒するチャンスが巡ってくることを理解して、できるだけお子さまの皮膚の状態を良い状態を保ち、その時を待つことが大切だと思います。
U.アトピー性皮膚炎の治療
@原因・悪化因子の検討と除去
患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者においてそれらを十分確認してから除去対策を行います。
気候、発汗、精神的なストレス、体調過労、日光、食物(卵、ミルクなど)、環境因子(ダニ、ハウスダストなど)、接触抗原(布、親の衣服など)が悪化因子としてあげられます。
とりわけ、乳幼児では肌は抵抗力が弱いため、細菌感染やウイルス感染がアトピー性皮膚炎を悪化させます。
●生活環境の改善
乳児期は食べ物(特に卵)がアトピー性皮膚炎の悪化因子になります。
乳幼児期を過ぎると、ダニ、ハウスダスト、カビなどの 環境的な要素がアトピー性皮膚炎の悪化因子になります。 この環境的な要素は、生活の中の工夫や努力によってかなり減らすことができます。特に、ダニはアトピー性皮膚炎に深く関係する悪化因子のため、対策が必要です(ダニアレルギーについてを参照して下さい)。
1.皮膚の清潔
毎日の入浴したりシャワーを使いましょう。このとき、石鹸やシャンプーは洗浄力の強いものは避け、皮膚を強くこすらないようにします。また、石鹸やシャンプーは皮膚に残らないよう、十分にすすいでください。
水温は肌にかゆみを生じるような、あつい温度はさけます。そして、入浴後には、必ず適切な保湿剤を塗布するようにします。保湿剤は、肌のうるおいを保ち、皮膚の乾燥防止に有用です。使用感のよい、お子さまが喜ぶ保湿剤を使いましょう(炎症を予防するスキンケア参照)。
2.生活上の注意
爪を短く切り、なるべくかかせないことが大切です。(手袋や包帯などによる保護が有用なことがあります。お子さまの状態に応じて適切な処置を行うことが大切だと思います)。
新しい肌着は使用前に水洗いしてから使用します。
A炎症を抑える薬物療法
軽症 | 中等症 | 重症 | 最重症 |
外用薬
乳児〜成人 ステロイドを含まない外用薬が基本 (必要に応じて) ステロイド外用薬 (マイルド以下) |
外用薬
乳児〜2歳 ステロイド外用薬(マイルド以下) 2〜12歳 ステロイド外用薬(ストロング以下) 13歳以上 ステロイド外用薬(ベリーストロング以下) |
外用薬
乳児〜2歳 ステロイド外用薬(ストロング以下) 2〜12歳 ステロイド外用薬(ベリーストロング以下) 13歳以上 ステロイド外用薬(ベリーストロング以下) |
外用薬
乳児〜2歳 ステロイド外用薬(ストロング以下) 2〜12歳 ステロイド外用薬(ベリーストロング以下) 13歳以上 ステロイド外用薬(ストロング以下) |
内服薬
(必要に応じて) 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬 |
内服薬
(必要に応じて) 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬
|
内服薬
(必要に応じて) 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬
|
内服薬
(必要に応じて) 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬 (必要に応じて一時的に) 内服用ステロイド薬 |
十分効果が認められない場合はステップアップ(右側の治療へ移行)、十分な効果が認められた場合はステップダウン(左側の治療へ移行)する。最重症は原則として、一時入院して治療する。
図のような薬物療法のガイドラインが公表されています。アトピー性皮膚炎の治療は、いかに炎症を抑え、かゆみを抑え、皮膚を良い状態に保つかが治療のポイントになります。
●ステロイド外用薬(軟膏)
アトピー性皮膚炎の治療の中心はやはりステロイド外用薬です。いかに副作用を少なく、効果的にステロイド外用薬を使いこなすかがポイントになります。炎症がひどい時は少し強めの(ストロング)、炎症がややひどい所は弱いステロイド(マイルド)を、というように肌の状態に応じて、きめ細かくランクを調節していきます。(上記のアトピー性皮膚炎治療ガイドラインに基づいて)
ステロイド外用薬(軟膏)には以下の種類があります。
強さ | 一般名 | 製品名 | |
T群 | ストロンゲスト
(きわめて強い) |
プロピオン酸クロベタゾール 酢酸ジフロラゾン |
デルモベート ジフラール、ダイアコート |
U群 | ベリーストロング
(かなり強い) |
フランカルボン酸モメタゾン 酪酸プロピオン酸ベタメタゾン フルオシノニド ジプロピオン酸ベタメタゾン ジフルプレドナート ブデソニド アムシノニド 吉草酸ジフルコルトロン 酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン |
フルメタ アンテベート トプシム、シマロン リンデロンDP マイザー ブデソン ビスダーム ネリゾナ、テクスメテン パンデル |
V群 | ストロング
(少し強い) |
プロピオン酸デプロドン プロピオン酸デキサメタゾン 吉草酸デキサメタゾン ハルシノニド 吉草酸ベタメタゾン プロピオン酸ベクロメタゾン フルオシノロンアセトニド |
エクラー メサデルム ボアラ、ザルックス アドコルチン リンデロンV、ベトネベート プロパデルム フルコート、フルゾン |
W群 | マイルド
(穏やか) |
吉草酸酢酸プレドニゾロン トリアムシノロンアセトニド ピバル酸フルメタゾン プロピオン酸アルクロメタゾン 酪酸クロベタゾン 酪酸ヒドロコルチゾン |
リドメックス レダコート、ケナコルトA ロコルテン アルメタ キンダベート ロコイド |
X群 | ウィーク
(弱い) |
プレドニゾロン 酢酸ヒドロコルチゾン |
プレドニゾロン コルテス |
ステロイド外用薬(軟膏)を使う時は、処方した先生によく質問して(塗り方、回数、期間、どうしてこの強さのステロイドが必要か)、適切な使用を心がけましょう。
●ステロイド外用薬(軟膏)の副作用
@全身への副作用
内服薬(セレスタミンシロップ、デカドロンシロップ、プレドニンなど)や注射薬(サクシゾン、ソルコーテフ、リンデロンなど)は全身にステロイドが広がるため、副作用が起こる可能性があります(ただし、効果も強い)。しかし軟膏では皮膚から吸収されるステロイドの量は微量のため、全身性の副作用が起こる可能性はほとんどありません。
A皮膚におこる副作用
外用薬のため、塗られた部分の皮膚に副作用が起こる可能性はあります。しかし、この場合も長期にわたって、不適切な強さのステロイド外用薬を塗り続けた場合に起こる可能性があるもので、十分医師から説明を受けて使用しましょう。
@)ホルモンとして直接皮膚に影響する副作用
血管が拡張して皮膚が赤くなる
皮膚が萎縮して薄くなる
にきび(顔・胸に使用している場合)ができる
A)ステロイドが局所の抵抗力を抑えるために起こる 感染症の副作用
カンジダ皮膚炎(おむつかぶれ)や皮膚の化膿疹が悪化する
ヘルペスウイルス感染症が悪化する(カポジの水痘様発疹)
みずいぼが増える
※このような皮膚の副作用は、症状がおさまって薬をぬらなくなると通常数ヵ月から1年ほどで徐々に回復していきます。
皮膚を清潔に保ち、水分と油分(皮脂)を補給することは、皮膚を良い状態に保つことができ、アトピー性皮膚炎の症状の悪化を抑えることができるため、スキンケアは重要です。
皮膚の清潔を保つには、毎日の入浴・シャワーが大切です。
汗や汚れは速やかにおとす、しかし強くこすらない
石鹸・シャンプーを使用する時は洗浄力の強いものは避ける
石鹸・シャンプーは残らないように十分すすぐ
かゆみを生じるほどの高い温度の湯は避ける
入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける
入浴後には、必要に応じて適切なぬり薬を使用する
皮膚の保湿を保つため、保湿剤を効果的に使用しましょう。
保湿剤は肌の乾燥を防ぐためのぬり薬です。こまめにぬることが大切です。
入浴やシャワーの後は、保湿剤を使用する習慣をつけましょう。
お子さまがいやがらない保湿剤を使いましょう。