ダニアレルギーについて

気管支喘息のお子さまの80%は、ダニアレルギーを持っているといわれています。気管支喘息の原因になるダニの正確な名称は、「ダニ目-無気門-チリダニ科-ヒョウヒダニ属-ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ」です。このダニについて、少し詳しくみてみましょう。

 Ⅰ.ダニの分類 

 ダニは昆虫ではなくクモに近い存在です。体はあたま(頭胸部)と胴体(腹部)の2部に分かれており、足は4対8本あります(ちなみにノミ・シラミは昆虫です)。大きさは大体0.1~0.8mmで、種類は地球上で4万種以上と考えられており、日本からは1700種以上報告されています。ほとんどは森林などで自由に生活しており、ヒトと関係するダニは極少数です。

 「ダニ全書」より

 ダニは次のように分類されます(図はダニ目の分類図)。 陰気門(一番右)にはイエササラダニが属し、畳の中でカビを食べて生活しています。無気門(右から2番目)は、畳や家具食器に付着するコナダニと、アレルギーの原因になるチリダニと、人の皮膚にトンネルを掘って疥癬を起こすヒゼンダニが含まれます。このチリダニが喘息の原因になります。前気門(右から3番目)には、住宅内に発生しヒトを刺すツメダニが属します。

 中気門(中央)には、ねずみやにわとりに寄生しヒトを刺すイエダニやワクモが含まれます。後気門(左から3番目)には野外に生息し、ヒトから血を吸う大型のマダニなどが属します。  

 Ⅱ. ヒョウヒダニについて

 

 ヒョウヒダニ(チリダニ)は大きさが0.2~0.5mmの小さなダニで、卵から成虫になるまで、15~20日であり、寿命は2~3ヶ月です。 

 イエダニやツノダニのように刺したりすることはありません。このダニは、人間のアカや抜け落ちた髪の毛などをえさにしているため、高温多湿で餌となるフケやアカなどが沢山存在する6~7月に盛んに増えます。

 密閉され湿度も高い、現在の日本の住宅構造は、ダニにとってきわめて快適で、繁殖の温床となっています。特に8~9月は、増加したダニが寿命で死ぬため、ダニの死骸が増える時期になります。ダニによるアレルギーは、生きているダニそのものよりも、その死骸や糞が原因で起こることが多いため、秋口はダニアレルゲン量が最大になります。これが秋に喘息発作の多い原因の一つとも考えられています。

 Ⅲ.ダニが好む環境

 ダニが繁殖するには、①温度:25℃、②湿度:65~75%、③えさ、④棲み家が必要です。

①温度:気温が25℃以上になるのは春から秋ですが、冬でも暖房をかけていると、ダニの好む温度になります。

②湿度:湿度が60%を超えるのは、日本では6~9月ですが、その他の季節でも加湿の仕方で60%を超えてしまいます。ふだんの生活湿度は50%を目安とすると良いと思います。

③えさ:ダニのえさはヒトや動物(ペット)が落とすフケヤ食べカス、カビ、ホコリです。えさとなる物を掃除して減らすことはダニ対策で重要です。また、お子さまに食べ歩きさせない注意も必要です。

④棲み家:ダニの繁殖場所ベスト4は、じゅうたん・カーペット、寝具(ふとん、毛布)、布製ソファー、ぬいぐるみです。条件が良ければ、一家庭内にいるダニは数千万から一億匹を超すといわれています。

 Ⅳ.ダニの増加の原因

 昭和30年~50年ころ、日本の家屋は木造から、コンクリートやプレハブの機密性や保湿性の高い、洋風住宅に変わっていきました。

 洋風住宅に使われたアルミサッシは機密性に優れ、すきま風が入らず、また冷暖房完備により、室温は1年中一定に保たれました。その上、専業主婦が少なくなり、家の中は一日中閉切りの家が多くなり、大掃除、虫干しなどの習慣もすたれてしまいました。このころから、ダニが急増するようになったのです。

 Ⅴ. ダニの多い場所

 室内のホコリの中にダニはいるのですが、小さくて目につきません。ふとんや枕の中、床には特に多く、ソファー、カーテン、ぬいぐるみなどにもたくさん生息しています。床はジュウタンが一番ダニが多く、たたみ、フローリングの順に少なくなります。室内で毛のあるペットを飼っている家では、ダニが多いことが明らかにされています。

 Ⅵ.ダニを減らすには

 住宅内のダニを全滅させることは不可能です。また、その必要もありません。ダニ数を最小限にするためには、通気を良くして湿気をとる。ごみやほこりを減らして清潔を保つ。この2点に気をつけましょう。

 ①通気を良くして、湿気を取るには、できるだけ換気をします。ことにダニが繁殖する初夏から秋は冷房中も換気に気をつけます。除湿機は使用しても良いでしょう。畳やじゅうたんから湿気を追い出すために、なるべく天日干しを励行したいものです。

 ②清潔を保つため、掃除をまめに行いたいものです。なるべく、必要のない家具は整理しましょう。また、拭き掃除はホコリ取りに効果的ですが、湿気を残さないよう、から拭きが良いと思います。

 ③掃除の具体的な進め方

○ 床の掃除

 1.畳の場合

 畳1畳あたり30秒以上かけてていねいに吸引します。週1回の掃除で、1ヵ月後には1/10にダニ数を減らすことができるといわれています。また、畳は水分を1畳あたり500cc吸収するといわれているので、定期的な乾燥(畳の端を少し上げて通気させるだけでも良い)が勧められています。

 2.じゅうたん・カーペットの場合

 じゅうたんはできる限り取り外しましょう。じゅうたんに掃除機をかける場合は、1畳あたり5分以上かけて念入りに吸引します。通気を良くし、乾燥に努めることも重要です。カーペットは、なるべくはがして天日干ししたり、その下裏側を掃除できるようにしたいものです。

 素材としては、ウールや麻で、裏張りが天然ゴムやジュートのものが無難です。枕の中身は、ダニが好むソバ、羽毛、羊毛は避け、プラスティック製のパイプ枕などが勧められます。

○寝具の掃除

 ふとん表面のダニ数は、ホコリ1gあたり約3000匹といわれ、その内部の綿には数百倍のダニとフンがかくれています。寝具の材料は、羽毛・羊毛などの動物性素材は好ましくありません。ふとん綿は綿100%、または化学繊維のもので、布地は木綿が良いでしょう。

 1.寝具を天日干しして、掃除機をかける

 できるだけ、寝具は乾燥を心がけ、天気のよい日には天日干しをしましょう(目安は1週に1回)。チリダニは50℃、20分の加熱で死滅しますが、ふとんの天日干しでは中綿が50℃に達することはなく、熱でダニを殺すことはできません。しかし、湿度を40%以下に下げることはできるので、ダニの繁殖を防ぐ効果はあります。(チリダニの発育に最も適した条件は、温度25℃、湿度65-75%です)。

 ふとんは軽く室外ではたいて、ほこりを出した後取りこみ、さらに掃除機をかけましょう。

 チリダニの卵が幼虫になる期間が約1週間であるため、週1回は使用しているすべてのふとん、枕、毛布などの表裏両方に電気掃除機をかけます。特に毛布類は最もダニが繁殖しやすい寝具のため、できれば厚手のタオルケットのようなものに変えた方がよく、使用する場合は必ず1週間に1回は掃除機をかけなければなりません。

 掃除機はふつうの家庭用掃除機(210W吸いこみ仕事率、紙パック式)で十分で、1㎡あたり20秒かけて(ふとん1枚両面を3分以上かけて)吸引すれば、1㎡あたり100匹以下にチリダニを減少させることができるといわれています。このぐらいのダニ数になれば、喘息発作がほとんど起こらなくなることがわかっています。

 また、ダニは線維にしがみつくと風速40mの風でも吹き飛ばされませんが、弱い風だと逆に飛ばされてしまいます。したがって、高価な強力な吸塵力の掃除機を購入する必要は全くなく、ふつうの掃除機で十分です。

 また、ふとんを敷いた後、寝るまでに30分以上時間をあけると舞い上がったホコリが落ち着き、吸い込む量が少なくなるといわれています。また、ふとんの上げ下ろしの際には、窓を開けて十分換気しながら行うと良いでしょう。

 2.ふとんの丸洗い

 ふとん丸洗いには、機械洗いと足踏み洗いの2つがあります。その効果は、ふとんを使用しない場合では1ケ月持続しますが、毎日使用する場合は、部屋の掃除の回数やふとんカバーの洗濯回数などで、その効果には大きな差がでてくるようです。時に業者に頼むのはよいでしょうが、いずれにしろ、掃除機をかけることは必要です。

 3.防ダニふとんカバーの使用

 ふとんカバーの繊維を高密度にし、ダニやダニのフンをふとんに入れない、ふとんから出さないようにする方法です。カバーの素材は、木綿より化繊(ポリエステル、ナイロン等)のほうが、高密度の生地を作れます。しかし、化繊素材にアレルギーを起こす人もいるため、製品選びには注意が必要でしょう。

 当クリニックには、防ダニシーツや防ダニふとんの見本を受付に置いてあります。ダニに対してアレルギーを持つお子さんの家庭内の環境整備では、寝具の対策が最も重要なため、その対策として、防ダニシーツや防ダニふとんの購入も考慮してよいと思います。一度、ご覧になって下さい。

 ただしこれらの製品は、一般のシーツ、ふとんに比べると高額であり、支払った金額に見合うだけの効果が得られるかどうかは人それぞれです。また、防ダニとは名ばかりの、アトピービジネスに類するインチキ製品も数多くあるため、ここではその効果が認められている商品だけを紹介しますが、すべてのお子さまに効果があるとは保証できません。購入にさいしては慎重に検討し、アレルギー専門外来か鈴木医師に一度ご相談下さい。

 4.防ダニふとんを使用

 防ダニふとんも、中綿の繊維に薬剤を吹き付けたり、薬剤をマイクロカプセルに入れ、繊維の中に編み込んである防ダニ加工綿を使用した製品と、防ダニふとんカバーと同じく、高密度繊維でダニやダニのフンの侵入を防ぐ製品があります。

 薬剤使用の製品は、中綿にダニ忌避剤を使用しているものが大部分で、ふとんの側生地に使用しているものはありません。しかし、中には揮発性の薬品や殺虫剤系の薬品を使用しているものがあり、安全性の上で、問題のある製品もありますので、注意が必要です。当クリニックでは、これらの製品のうち、効果の認められている製品を紹介しています。

○ソファー、カーテンなど

 ソファーはビニールや皮製のものなら、掃除がしやすくダニもあまり増えません。 また、カーテンもホコリがたまりやすいため、数ヵ月に1回ははずして丸洗いをしましょう。

○ぬいぐるみなどの手入れ

 ぬいぐるみは頻繁に洗濯のできるタオル地のものや、ダニの繁殖できない材質の物(待合室においてあるデズニ-人形がそうです)にするか、ビニールの袋やケースなどにいれて飾っておくのが良いと思います。

○殺ダニ剤は使わない

 ダニの殺虫剤は床のダニを減らしますが、生き残ったダニがすぐに増えるので効果は長続きしません。また、強力な殺ダニ剤は人体に影響します。殺ダニ剤はお勧めできません。

○空気清浄機は限界がある

 空気清浄器はフィルターファン式とイオン式があります。フィルターファン式は空気中の家屋塵を減らす効果はありますが、家中の空気をすべてきれいにする効果はありません。また、フィルターの交換、周辺機器の掃除はこまめに行う必要があります。イオン式は音はしませんが、捕集効果が劣ります。また寝具のホコリは減らないのでこれだけではダニ対策にはなりません。室内の掃除をしっかり行い、床などのホコリを減らした上で使用することが大切です。

 Ⅶ. ダニアレルゲンの測定

 寝具やソファーのダニの汚染を手軽に測定できるキットが、アサヒビールから発売されています。

 「ダニスキャン」という商品名で、アサヒビールのアトピーネット.com のインターネットのホームページから通信販売されています。価格は2回分が1480円(送料、税込みで2079円)(24個セット17760円)です。

 簡単にダニの汚染の程度がわかり、値段も手ごろです。

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