同時接種は本当に危険か

はじめに

 世界的に何の問題もなく、普通に行われているワクチン同時接種に、今日本では「危険」などというなんとも馬鹿馬鹿しい、大ウソのレッテルが貼られようとしています。しかも、情けないことに、医師の間でもこの大ウソに動揺し、引きずられている人もいるようです。

 繰り返しますが、同時接種は何ら問題のない普通の医療行為です。なぜ「同時接種は危険」などというデマ情報が広まってしまったのでしょうか。怒りをもって、検証していきたいと思います。


1 発端


 平成23年2~3月にかけて、ワクチン接種後に6人の子どもが死亡したと報道されました。(→厚労省の6例のまとめはこちら)。その後、ヒブワクチン+DPT接種3日後に亡くなった生後6カ月未満の基礎疾患のない乳児例も加えられ、計7例とされました。

 ところが7例と一括りにされていますが、これらはヒブ+プレベナー、DPT+プレベナー、DPT+ヒブ+プレベナー、ヒブ+BCG、DPT+ヒブとワクチンの内容は種々で、しかも接種後1~7日と死亡した日時にも大きな幅があり、そもそも7例とまとめること自体に無理があるのです。

 しかし厚労省はこの報告を受けて、2011年3月4日に小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)、ヒブワクチンの接種を一時中止にしてしまいました。しかし、DPTとBCGは中止されませんでした(→厚労省の発表はこちら)。この7例に接種されたワクチンの内訳は、ヒブワクチン6例、DPT5例、プレベナー4例、BCG1例であり、なぜヒブ、プレベナーだけが対象で、DPTがはずされたのでしょうか。

 実は今から30数年前に、今回と同じような出来事がありました(DPT接種後、2名の小児が有害事象で亡くなった)。この時、やはりマスコミ左翼が耳がつんざくような大馬鹿騒ぎをし、これと連動して、ワクチン反対派がどす黒いけたたましい金切り声をまき散らし、結局DPTは中止に追い込まれたのでした。その結果、何が起きたのか。ワクチン反対派が吹聴するように、「危険なワクチンを中止させ、日本の子どもたちはワクチン禍から救われた」のでしょうか。

 幻の病気と呼ばれた百日咳の大流行(1万人以上の患者が出た)と、多数の死亡者の群れがその結果でした。

 VPDの会代表で、ワクチン普及に献身的な活動をされている、薗部友良先生は悲しみをもって、当時を振り返っておられます。

 かつて、全菌体DPTワクチンが一時期、接種中止となったとき、マスコミは一大キャンペーンをはって、ワクチン接種による副反応の恐ろしさを報道しました。その結果、国民の予防接種に対する熱意が低下し、すぐに2歳以上で接種が再開されたにもかかわらず(それまでは生後3カ月以上だった)、著しく接種率が落ちました。

 3年後、接種歴のない者や2歳未満児を中心に、約1万3千人もの百日咳患者が報告され、20~30人もの死亡者も出てしまいました。中止前の3年間では死亡例が10例であったのに、この中止後3年間で113例にもなったとの報告もあります(Paul A. Offit著「予防接種は安全か」日本評論社)。

 当時は、百日咳にかかって激しい咳のために酸素欠乏状態となり、脳障害を起こしたりする重症患児が多く訪れました。しかし、百日咳の流行によって患者や死者が発生した点や百日咳の恐ろしさについてはわずかに報道されただけでした。 

 また数年以上前のある学会で、「我々には麻疹で何人亡くなるかということは関係ない、むしろそのワクチンで何人亡くなるかということの方が問題だ」と発言した記者の方がいました。このとき私は悲しい思いで、「もっと命の尊さを考えた報道をしてほしい」と切実に感じました。(ワクチンの匠第3回、「守れる命を守れる社会に」:阪大微研HP)
 

 
また、2004年、厚労省で行われた専門家会議で、加藤成育医療センター長も次のように述べておられます。

 
百日咳に関しては、平山先生が大先輩で大変恐縮ですけれども、1970年代のちょうど真ん中辺りに、このADEMどころではないような、いわゆる百日咳に十分関連があるであろうと思われるような死亡例というものが日本で続きまして、その影響を受けて百日咳に関するワクチンが一時、3か月間中止になって、しばらくの間接種がとまった。

 また、すぐ、その後、再開はされたものの、非常に恐怖感があって、百日咳を含む3種混合ワクチンの接種率が、従来80%であったものが9%まで低下したという事実があります。

 その百日咳ワクチンをやめてしまった大きな理由は、当時、百日咳という病気が教科書上、幻の疾患と言われたんです。もう百日咳という病気はありませんと。私の恩師が教科書に、百日咳は幻の疾患であると書いたんです。私はそうだと思っていた。それで、死亡者も当然なかったんです。それで皆さん、やめてしまったと。

 やめてしまったところ、接種率が下がったらばどうなったかというと、それをやめた後の5年間で何と150人の乳幼児が百日咳で死亡したんです。それで、完全に歴史が10年間さかのぼってしまったという現実があるんです。(04/07/23 日本脳炎に関する専門家ヒヤリング会議議事録

 

 厚労省の役人にとって、DPTを中止してまた30数年前の悪夢が起きたら、何より大事な自分たちの保身に大きな影響が出てしまいます。ヒブワクチン、プレベナーは開始されたばかりのワクチンで、まだ年間800人の細菌性髄膜炎を減らすほどの接種の集積はありません(まだ、その数の赤ちゃんがかかって、苦しんでいるということです!)。そのため、姑息にもDPTを外して、ヒブ、プレベナーだけ中止にしたのだ、という見方が真実味を持って語られているのです。
 しかし、ワクチンを受けることにより、ヒブ、肺炎球菌性髄膜炎はほぼ100%防げるのです。それを、なんら専門家に諮ることなく、役人の一存で勝手に中断し、多くの子どもを危険におとしめた彼らの無責任さ、責任放棄は厳しく追及させるべきものです。

 2011年3月24日に行われた、「薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」及び「子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会」の合同会議において、東大小児科五十嵐教授、岡部国立感染症研究所感染症情報センター長、保坂日本医師会理事、齊藤成育医療センター感染症科医長などはヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの接種の重要性、一定程度ワクチン接種後にSIDSなどの紛れ込み事故が起こることを明らかにし、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種再開を強く求めました。
 もともと問題のないワクチンですから、討議の結果、「小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの安全性の評価結果について」がまとまり、ようやく4月1日、接種中止は解除されることになりました。これでヒブ、プレベナーのワクチンは再開され、また積極的なワクチン接種が行なえると多くの小児科医は喜んだのです。
 ところが、とんでもないどんでん返しが待ちうけていたのです。(→詳細は3章へ)


2 今回の死亡に関して

 そもそも今回のワクチン接種後のいたましい死亡例はどう考えればよいのでしょうか。

 実は、人工栄養、うつぶせ、親の喫煙を三大リスクとする乳幼児突然死症候群(SIDS)と考えられる突然死で、毎年150人の赤ちゃんが亡くなっています。また、心臓病、肺の病気、ウイルス感染症、細菌性髄膜炎や脳炎などで年間約2500人の新生児・乳児が死亡しています。これらがたまたまワクチン接種後の時系列で、接種に引き続いて起こる可能性があるのです。

 ワクチンと直接関係のある健康被害を真の副反応、たまたまワクチン接種後あまり時間が経過しないうちの起きたもので、本当はワクチンと関係ない健康被害を紛れ込み(ニセの副反応)と呼びます。

 ふつう厚労省の発表するワクチンの副作用(健康被害=有害事象)はこの両者を合算したものなのです。ワクチン反対派は本当はこのことを知っていながら、わざと有害事象すべてをワクチンの「副作用」としてすり替えて、卑劣にも「ワクチンは危険!」と大宣伝を行っているのです。

 2009年オランダでも、小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)接種後に3例の死亡例が出ましたが、精査の結果、ワクチンとの因果関係はないと結論が出て、接種を中断することなく、プレベナーの接種は続けられました。
 今回の事例も紛れ込みをまず考えて、検討を進めていくべきでしょう。

 予防接種外来でいつもご説明しているように、接種後30分以内に体調が悪くなれば、即時型アレルギー反応が強く疑われます。当クリニックでも、過去11年間に28.000回のワクチン接種を行ってきましたが、接種直後にじんましんが出現したお子さまが、何人かいらっしゃいました。このような事例では、ワクチン接種との関連が強く疑われます。

 それ以上時間がたっている場合はワクチンとの直接的な因果関係以外にさまざまな因子がかかわってきます。乳幼児突然死症候群、潜在するウイルス感染、事故なども検討されなければなりません。大切なことは情報を握っている人間、組織が全ての情報を包み隠さず、公開することです。その上でさまざまな専門家が科学的に十分検討して、結論を出すべきだと思います。


3 同時接種について

 ところが、全ては元通りとはいきませんでした。姑息にも厚労省の役人は、ヒブワクチン、プレベナーの接種を再開する代わりに、同時接種は危険だから単独接種がよい、という何ら医学的に根拠のない「トンデモ」方針を、こっそりこの通達をもぐりこませていたのです。

 しかもこのような同時接種は危険だ、とか、同時接種ではなく単独接種を基本に、などという内容の議論は、「薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」及び「子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会」の合同会議中にいちども討論が行われたことはありませんでした。

 にもかからわず、厚労省のペーパー医者役人が通達の 5(2)2に「その際、入念的な対応として、単独接種を基本とし同時接種が必要な場合には、…」と勝手に書きこんでいたのです。この文案が出席者によって発見され、(しかもこの文案について、厚労省の役人は出席者に一言も説明をしなかったようです)、単独接種が原則のようなこの文言に対し、東大の五十嵐教授などが強く反論し、結局「単独接種を考慮しつつ」という表現に落ち着いたのでした。

 医薬品等安全対策部会安全対策調査会と子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会の合同会議の結果は以下の通りです。

3 同時接種について
① 厚生労働省が実施した電子メールによる調査(866医療機関から回答)によると、平成23年2月の1か月間では、小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチンの接種のうち、何らかのワクチンとの同時接種が約75%以上を占めている。また、製造販売業者の調査でも、同様の傾向が見られている。

② 製造販売業者の国内での市販後調査/臨床試験では、小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチンそれぞれとDPTワクチンの同時接種、小児用肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチンのいずれの調査でも、同時接種により重篤な副反応の発現は増加していない。

③ 現時点までの、国内での基礎疾患を有する患者に対する接種実績等からみても、特に安全性上の懸念は報告されていない。

 欧米においては、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの同時接種において、局所副反応や発熱を増加させるが、重篤な副反応は単独接種と比べて差はみられないとする報告があるなど、同時接種の安全性については問題はないとされ、推奨されている。

 以上からみて、今回調査した国内外のデータからは、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの同時接種における副反応の発現率は、単独接種に比べて高い傾向があるとする報告もあるが、重篤な副反応の増加は認められておらず、特に安全性上の懸念は認められない。

 この報告書のどこを読んだら、同時接種が危険である、または同時接種より単独接種の方が安全だ、という結論が出てくるのでしょうか。


4 なぜペーパー医者役人は同時接種を嫌い、単独接種にこだわるのか

 デマの発信者=厚労省のペーパー医者役人は、なぜ同時接種を嫌い、単独接種にこだわるのでしょうか。その唯一の根拠らしい文言は、

「万一重い副反応が生じた際などに、単独接種の方がどのワクチンの接種後に起こったのかが分かりやすくなることなども考慮されます。」 

 単独接種の方が、健康被害が起きた時に、どのワクチンが原因だかわかりやすくなるというのです。彼らが単独接種にこだわるのは、何かあった時、役人が仕事がしやすい、という一点のみであり、接種を受ける人の受けやすさや利便性などを全く考えていない、官僚の冷たい発想といわざるを得ません。

 この考えでいけば、DPT,MRなど全ての混合ワクチンが否定されてしまいます。また、今後進めていかなければならない、DPT-IPVや5種、6種ワクチンの開発を真っ向から否定する、時代錯誤のカビの生えた骨董的な考えだと言わざるを得ません。

 今後、日本でもワクチンの種類が外国並みに増えて、ロタウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチンなども接種スケジュールに入ってくると、単独接種をしていては毎週のように病院に通わなければなりません。時間的、体力的に、保護者の方、赤ちゃんは大きな負担を負わなければならないのです。しかも、その単独接種のメリットというものは、子どもと親には全く何の御利益もなく、ただただ役人だけが仕事がしやすくなるという代物なのです。

 そのため、小児科学会も

 
また、その(同時接種の)利点として、以下の事項があげられる。
   1) 各ワクチンの接種率が向上する。
   2) 子どもたちがワクチンで予防される疾患から早期に守られる。
   3) 保護者の経済的、時間的負担が軽減する。
   4) 医療者の時間的負担が軽減する。
 以上より、日本小児科学会は、ワクチンの同時接種は、日本の子どもたちをワクチンで予防できる病気から守るために必要な医療行為であると考える。


と同時接種を積極的に勧めているのです。(日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方 2011.4.28)


 繰り返しますが、同時接種は何ら危険な接種方法ではありません。同時接種が危険だなどという噴飯ものの暴論は、世界中で日本だけで見られる、例の特殊なガラパコス思考の産物と考えられます。

 同時接種がごく普通に行われている外国から見ると、まったくもって、理解できない珍妙な考えに映ることでしょう。

 何が本当に子どものためになるのか、この一点を踏まえた、血の通った温かい、そして科学的な視点に基づく施策が求められているのです。

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