解熱剤の使い方
2024.1.15
●熱が出る理由について(発熱のメカニズム)
感染症は、ウイルスや細菌などの病原体が、ヒトの体内に侵入しておこります。
侵入した病原体を体の中から追い出すために、白血球やマクロファージ(大食細胞)などヒトの体の防衛=免疫を担当する細胞が病原体と戦います。これらの防衛(免疫担当)細胞は、戦いを有利に運ぶために、「内因性発熱物質」(サイトカイン、インターフェロン、腫瘍壊死因子など)という物質を放出します。
この発熱物質は、体温を調節する中枢がある、脳の視床下部(ししょうかぶ)近くの細胞を刺激して、プロスタグランディンEという物質を作らせ、まき散らします。このプロスタグランディンEが、体温調節中枢の体温設定を上げるため、ヒトは発熱するのです。
熱が出ると、病原体を食い殺す白血球やマクロファージの働き、病原体を破壊するミサイルである抗体の働きが、何倍にも強くなることが分かっています。また、病原体であるウイルスは、高温(38℃~40℃)環境だと増えることができないといわれています。
このように熱が出るということは、病気を早く治すため、体に備わっている防衛反応なのです。病気が快方に向かえば、熱は自然に下がってきます。
●解熱剤の働き(薬理作用)
解熱剤は、細胞が(発熱を引き起こす物質である)プロスタグランディンE(上記)を作ることを抑えます。
そのため、プロスタグランディンEが作られなくなり、体温調節中枢の体温設定が下げられるため、熱は下がってくるのです。
●解熱剤の副作用について
長期にわたり、頻回に解熱剤を使用した場合、病気を治そうとする自然治癒力を弱める可能性があります。また、解熱剤を乱用すると、体温が上下することにより、体力の消耗を早める可能性もあります。
解熱剤の種類(ボルタレン、ポンタール)によっては、まれに低体温やショックをおこすことがあります。また、アスピリンはライ症候群、ボルタレン、ポンタールはインフルエンザ脳症との関連が指摘されています(下記参照)。
●解熱剤の種類
アセトアミノフェン
アセトアミノフェン(カロナ-ル、アンヒバ、アルピニー)は安全性が高く、世界中で広く使用されています。日本小児科学会でも2000年12月に、インフルエンザの発熱に対しては、アセトアミノフェンが適当だという、理事会見解を発表しました。
他の感染症でも安心して使用できます。
ジクロフェナクナトリウム
ジクロフェナク(ボルタレン)はインフルエンザ脳症において、死亡率が有意に高いことがわかり、インフルエンザ脳症には使用禁止になりました。
また、小児のウイルス性疾患(水痘、インフルエンザ等)でも、原則的には使用しないことになりました(医薬品安全対策部会)。
アスピリン
アスピリン(小児用バッファリン=後述、ミニマックス、EAC)は、インフルエンザや水痘で使用した場合、ライ症候群(急性脳症)を引き起こす可能性があり、子どもには使用できません。
ただし、「小児用バッファリン」という商品名の薬剤は、薬局で買う薬はアセトアミノフェンが主成分ですが、病院で出される薬はアスピリンが含まれていました。これは非常に紛らわしいため、2000年11月、病院用の「小児用バッファリン」
(内容はアスピリン)は「バッファリン81mg」という名前に変わり、小児の解熱剤としては使用できなくなりました。
イブプロフェン
イブプロフェン(ブルフェン)は、プロピオン酸系の非ステロイド系消炎剤ですが、アメリカではアセトアミノフェンとともに解熱剤として広く用いられています(アメリカではイブプロフェンとアセトアミノフェンしか、解熱剤として使われていない)。
インフルエンザ脳症は、欧米ではほとんどみられないため、この薬はインフルエンザ脳症、ライ症候群を誘発しないと考えられています。また、この薬はアセトアミノフェンより解熱効果が強いため、当院では小学校高学年以上の学童に錠剤で処方しています。
●解熱剤はどんな時に使うか
熱が高くても、お子さまが元気で水分もとれ、食欲もあり、よく眠り、機嫌も悪くなかったら、解熱剤を使う必要はありません。
38.5℃以上の高熱で、元気がない、不機嫌で食事をとらない、ぐったりしている、という場合は、そのままでは全身状態が悪化し、場合によっては入院加療が必要になるかもしれません。
ある程度熱が下げれば、お子さまは楽になり、ゆっくり休め、食欲が多少出てくることが期待されます。体力(自然治癒力)を保つために使用されるものが、解熱剤です。
解熱剤は38.5℃以上で症状が強いとき、頓服で使いましょう。1日3回、他の薬と一緒に定期に飲ませる必要は全くありません。このような使用法は、かえって病気を長引かせると考えられています(副作用の項を参照して下さい)。
1回使用したら、最低6時間は間隔をあけます。高熱が続くようなら、もう一度、使用しても良いでしょう。ただし使用は1日に2回までにします。
●坐薬と飲み薬(粉薬、錠剤)の選択について
赤ちゃんには坐薬,もう少し大きい子は粉薬が良いと思います。同じアセトアミノフェンという薬なので、効き目は同じです(坐薬のほうが吸収は速いです)。
坐薬をいやがったり、下痢をしている場合は粉薬が良いし、吐いていたり、年齢がいっても薬を拒絶する子には坐薬が良いでしょう。要は確実に投薬できることが大切です。
小学校高学年以上のお子さまには、効きの良い錠剤の解熱剤(ブルフェン=イブプロフェン)を処方することもあります。
●解熱剤を使っても熱が下がらない場合
急激に発熱している状態の時は、アセトアミノフェンはほとんど効かない場合もあります(もともと解熱作用は弱い)。
このような時は、解熱剤を何回も使うのではなく、薄着にして風通しを良くし、水分をまめに与え、脇の下やソケイ部をアイスノンや氷嚢(氷水を入れたビニール袋をタオルで包む)などで冷えすぎない程度に冷やして、様子をみましょう。
解熱剤は6時間以上間隔をあければ、もう1回使用しても良いでしょう。
また、熱性けいれんのあるお子さまは、けいれん止めの坐薬(ダイアップ坐剤)の使用を優先して下さい(アンヒバ坐剤=解熱剤は、ダイアップ坐剤を挿入して30分以上あけてから、使用して下さい)。

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