子どもの漢方について
                                                              2025.11.3

●漢方薬とは

漢方薬は、もともとさまざまな植物の根や草、木の皮を細かく刻んで煮出し、煎じ薬として飲まれてきた歴史を持ちます。 したがって、漢方薬は食材に近く、その効果は経験的に知られてきたものです。

今日では、漢方薬は中国医学の理論を元に、日本人に合うよう改良され、さまざまな病気に幅広く投与されるようになりました。

漢方薬は赤ちゃんでも使えます。年齢に応じて、体質に応じて、症状に応じて、漢方薬は投与されます。

漢方はゆっくり効果が出る薬が多いですが、15分ぐらいで効果が出る薬もあります。また、同じ病名でも証によって薬が異なります。その時の、お子さまの状態で投薬が行われます。

現在では煎じ薬をエキス剤として用いることが一般的になっています。(一部は錠剤もあります)飲ませ方には小さなお子さまだと工夫がいるようです。

●漢方医学と西洋医学
西洋医学(近代医学)は症状―診察、検査から病気を診断し、その診断された病気に対し最適な治療方法(投薬、処置、手術など)を選択して、病気を治していこうとするものです。

それに対し、漢方医学で「病気」とは、いろいろな心身(生体)のバランスが崩れた状態と考えます。そして病気の治療とは、自然治癒力を高め、このバランスが狂ってしまった生体の働きを、もとの調和の取れた状態に修復していくことになります。

●漢方薬が有効な病気
今日の医学は、西洋医学(近代医学)に基づき、大きく進歩してきました。
しかし、西洋医学でも治療に難渋したり、はっきりとした治療方針を示せない病気群もあります。それは検査上明らかな異常を認めない病気や神経や心、体質がからむ病気です。このような病気は、漢方薬のよい適応となります。

子どもの病気でいうと、
①かぜをひきやすい(易感染性)、やせて顔色が悪い、下痢や便秘をくり返す。
②夜泣き、チック、憤怒けいれんのような、心のコントロールが未調整のため起こる病気。
③夜尿症、再発性腹痛(特に腸に異常はないが、強い腹痛をくり返す)、周期性嘔吐症(精神的に緊張したり、下痢をすると頻回の嘔吐がおこる)のような神経、気質がからんだ病気。
④鼻水、鼻閉など、感染症の急性期、慢性期の微症状。
などは漢方薬のよい適応となります。
当クリニックは、このような症状を示すお子さまの治療に、漢方薬も積極的に投与しています。

●漢方薬の処方の基礎
漢方薬は、病名ではなく、「証」によって、患者の状態を捉えます。
「証」とは、現在の症状、外見や体格、体質、食生活、性格などを総合的に判断し、寒熱、虚実、気・血・水という概念で患者の病態を捉えることです。

①寒熱(かんねつ)
熱は発熱や炎症、寒は冷えや寒気などの症状です。
寒には温める薬、熱には冷やす薬を処方します。

②虚実(きょじつ)
虚実は体力の充実度や抵抗力の強さを表します。
虚証は弱々しく体力の無い、やせて顔色も悪く、肌につやが無い状態です。実証は体力が充実し、食欲もあり、生命力に溢れた状態です。
虚には補う薬(補剤)、実には減らす薬(瀉剤)を処方します。

③気・血・水(きけつすい)
病気とは体内を流れ、体の恒常性を保っている気・血・水の異常によって起こると考えます。
気は気力のことで、生命を維持するエネルギーを意味します。気が上がり過ぎると「のぼせ」、気が不足すると「気虚」、気が滞ると「気うつ」の状態になるとされます。
血は血液やホルモンなど、からだのすみずみに栄養を運ぶ機能です。血の流れが悪くなると「瘀血(おけつ)」といい、月経異常やのぼせが起こります。逆に、血の働きが衰えた状態を「血虚」と言い、栄養不良になり貧血になります。
水は血液以外の体液など体の水分を指し、水分の代謝や皮膚の免疫機構に関係し、その異常は「水毒」と呼ばれます。水毒があると、やたらと喉が渇いたり、むくんだり、鼻汁、頭痛、めまいを起こします。

●当クリニックでよく用いる漢方薬
以上の説明を踏まえて、当クリニックでは以下の漢方薬を投与しています。

症状別 番号 処方 効能 成人量
かぜの急性期 1 葛根湯 頭痛、肩こり、発汗のないかぜの初期、鼻汁 7.5 実中寒
27 麻黄湯 関節痛、悪寒、発熱、汗が出ない、インフル初期 7.5 実寒
かぜの慢性期 90 清肺湯 粘り気の強い痰、激しい咳、息切れ 9.0
29 麦門冬湯 慢性化した空咳。痰の切れにくい咳。激しい発作性の咳 9.0 中虚熱
10 柴胡桂枝湯 悪寒があり、体が痛み始めた時。腹痛、神経質、疲労 7.5 中虚熱
55 麻杏甘石湯 粘り痰、喘鳴、激しい咳に即効性あり。喘息 7.5
喉違和感 16 半夏厚朴湯 ヒステリー球、不安、めまい、つわり 7.5 実中
胃腸弱 43 六君子湯 食欲不振、嘔吐、疲れやすい、虚弱児の体質改善 7.5 虚寒
99 小建中湯 虚弱、やけ型、疲労、血色悪、頻尿、多尿、神経質 15.0
41 補中益気湯 疲れやすく、気力体力落ちて食欲無し。寝汗 7.5 虚熱寒
32 人参湯 虚弱で食の細い子に。胃カタル、胃アトニー、冷え性 7.5
悪心 17 五苓散 のどが渇く、悪心、嘔吐、腹痛。水も吐くとき。二日酔い 7.5
便秘 62 防風通聖散 肥満、むくみ、便秘 7.5
100 大建中湯 冷えから来る便秘、腹部の膨満、ICS 15.0 虚寒
84 大黄甘草湯 即効性期待。便秘の基本処方 7.5 実中虚
51 潤腸湯 ころころ便、硬便 7.5 中虚
夜尿症 26 桂枝加竜骨牡蛎等 夜尿症、神経衰弱、抑うつ 7.5
99 小建中湯 虚弱、疲労、血色悪、頻尿、多尿、神経質 15.0
2 葛根湯加川?辛夷 鼻閉、蓄膿 7.5 中実
104 辛夷清肺湯 鼻閉、蓄膿、慢性鼻炎 7.5 実中
花粉症 19 小青竜湯 水様鼻汁、痰、くしゃみ、鼻閉 9.0 中虚
127 麻黄附子細辛湯 体力無し、悪寒、微熱、頭痛、めまい、手足冷え 7.5
かゆみ 15 黄連解毒湯 赤ら顔、いらいら、熱を伴う激しい痒み。口内炎 7.5 熱寒
34 白虎加人参湯 身体がほてって痒い。かゆみ、紅斑強い。のどの渇き 9.0 実中熱
6 十味敗毒湯 皮膚化膿症、乾燥性の湿疹 7.5
22 消風散 じくじくした、滲出性の強い痒み 7.5 実熱
にきび 58 清上防風湯 熱、赤ら顔、赤鼻 7.5 実熱
50 荊芥連翹湯 にきび、蓄膿 7.5 実中熱
疲れやすい

不眠
41 補中益気湯 消化機能衰え、四肢倦怠。目声に力無し 7.5 虚熱寒
48 十全大補湯 体力気力衰え、貧血気味、寝汗、四肢の冷え 7.5 虚寒
54 抑肝散 気が高ぶって、不眠、夜泣き、癇が強い 7.5
12 柴胡加竜骨牡蠣湯 不眠、いら立ち、小児夜驚症、小児夜泣き 7.5 実中熱
26 桂枝加竜骨牡蛎等 夜尿症、神経衰弱、抑うつ 7.5
冷え 37 半夏白朮天満湯 かぜをひきやすく、胃腸虚弱、冷え性。立ち眩み、めまい 7.5
38 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 慢性的な冷え、第一選択。しもやけ、下腹部痛 7.5 中虚寒
筋肉 68 芍薬甘草湯 こむら返り 7.5 実虚
ひきつけ・夜泣き 72 甘麦大棗湯 夜泣き、ひきつけ 7.5 中虚
54 抑肝散 虚弱体質、神経高ぶり、不眠、夜泣き、癇症 7.5
83 抑肝散加陳皮半夏 虚で、不眠症、夜泣き、小児疳症 7.5 中虚
女性の漢方 25 桂枝茯苓丸 月経不順、更年期障害、冷え性、のぼせ。妊婦禁 7.5 実中熱寒
23 当帰芍薬散 貧血、更年期障害、月経不順、冷え性、貧血。妊婦可 7.5
24 加味逍遙散 月経不順、熱感、発汗、多彩な症状 7.5 中虚熱寒

●漢方薬の飲ませ方
漢方製剤は、食べ物に近いものなので、食物と一緒にとると、腸からの吸収が悪くなります。空腹時、または食前1時間ぐらいの服用が良いでしょう。

子どもの場合は、エキスをお湯に溶いて、それを冷ませてから飲ませます。もしいやがるようなら、砂糖を加える、シャーベットのように凍らせて飲ませる、エキスをオブラートに包んで飲ませる、ゼラチンを加えてゼリーにして食べさせる、なども良い方法です。

量が多ければ、半分ずつ2回に分けて飲ませてもかまいません。

また、赤ちゃんでは、少量の白湯で練って、口のほほの内側にこすりつけても良いでしょう。


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