夜尿症

夜尿症について

夜尿症の相談が増えてきています。以前、夜尿症は10歳を越えて続くようなら治療をしましょう、とお話ししてきました。しかし、近年夜尿に対し、6歳過ぎたら、積極的な治療が勧められるようになりました。

オランダの調査では、夜尿症は親の離婚、親の不仲に続き、3番目の心理ストレスと評価され、いじめよりも上位にランクされています。

夜尿は命にかかわる病気ではありませんが、子ども、親によって大きな負担になる病気です。「いずれ治るから」と漫然と放置するのではなく、早く夜尿を克服し、自信を持ってお子さまが生活が楽しめるよう、積極的な治療を行うことが必要だと、現在では考えられるようになりました。

今なお、「そのうち治るから」とか「もう少し経過を見ましょう」というような対応を行っている医療機関もあるようです。しかし、夜尿はお子さま本人、お母さまにとって、深刻な病態です。一時の早い解決(治癒)に向けて、本人、保護者、かかりつけの医療機関が力を合わせて、がんばりましょう。当クリニックは、夜尿の子さまを力いっぱい応援します。(→おねしょ卒業!プロジェクト


夜尿症の定義

まず、夜尿症の定義について、ご説明します。「5歳を過ぎても、週2回以上、少なくとも3ヵ月以上連続して、夜間睡眠中におしっこをもらすもの」を、夜尿症と定義します。

全国で、5-15歳で夜尿症の定義に当てはまる人は、約80万人いるといわれています。
このうち、医療機関で夜尿の相談をした人は1/5程度といわれています。

5歳の時点では、夜尿症児は5歳児全体の約20%といわれています。それがその後、1年ごとに10~15%ずつ夜尿症は治って、減っていきますが、約0.5%は成人になっても夜尿が続くといわれています。


夜尿症の原因

夜尿症の病因は、「覚醒障害、抗利尿ホルモン(ADH)の日内変動の欠如、排尿機能発達の遅れが2~3つ、重なったもの」と考えられています。

覚醒障害とは、寝ている時に尿意が起きても眼がさめない、ということです。覚醒障害があると、尿意があっても、眼がさめないため、尿を漏らしてしまいます。

抗利尿ホルモン(ADH)は夜間に分泌が高まります。その結果、このホルモンの作用で夜間は尿量は少なくなります。そのため、夜間睡眠中は頻回にトイレに行かなくてもよいのです。

夜尿のお子さまは、この抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が夜間も増えないために、尿が濃縮されず尿量が多く、夜間でもトイレに行きたくなるのです。

また、夜尿は遺伝的な因子が認められており、片親が夜尿症だった場合は40%、両親が夜尿症だった場合は70%のお子さまに、夜尿がみられると報告されています。

注意すべきことは、夜尿症を起こしている5%未満の児に、尿路奇形、尿管結石、尿崩症、糖尿病、潜在的二分脊椎、ADHD(発達障害)などの土台となる病気(基礎疾患)が見つかることです。
これらの基礎になる病気がある場合は、その治療をしっかり行うことで、夜尿症もまた改善します。


夜尿症の分類

夜尿症には、幾つかの病型(タイプ)があり、まずどの病型なのか分類することから、診療は始まります。それぞれが、全体の1/3ぐらいずつといわれています。

①多尿型
夜間作られる尿の量が多いため、膀胱から溢れて、夜尿になるタイプです。夜間尿量が多い原因は、前章で述べた抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が夜間も増えないため、尿が濃縮されず、尿量が多い場合と、寝る前に水分を取りすぎて尿量が多くなる、生活習慣に問題のある場合、などが考えられます。

夜間の尿量が、1時間当たり0.9ml/kg(たとえば、6時間睡眠をとった、体重20kgの子なら、108mlとなります)以上だと、夜間多尿と判断します。

②膀胱型
このタイプは、膀胱で尿を溜める力が弱いため、尿がそれほど多くなくても、漏らしてしまいます。膀胱平滑筋の収縮力が強く、尿道括約筋の排尿抑制が弱いタイプです。

体重当たり7ml(たとえば、20kgの子だと、140ml)以下だと、膀胱で尿をためる力(機能的膀胱尿量)が少ないと判断します。

③混合型
多尿型、膀胱型、両方の要素を持っているタイプです。

夜尿症の治療

夜尿症の治療は、生活改善、薬物療法、アラーム療法の大きく分けると3つのアプローチがあります。

①生活指導(生活改善)

夜尿に関しては、夜間おしっこが近くならないように生活習慣を整えることから、治療が始まります。この生活習慣を改善するだけで、実に夜尿の1/3は治るといわれています。以下の項目をしっかり守ることが重要です。

1) 規則正しい生活をする
夜更かしや不規則な生活は、夜尿を悪化させます。早寝、早起き、決まった時間の食事を心がけます。朝食と昼食はしっかり食べましょう。夕食は控えめにして、寝るまで2~3時間はあけましょう。

2) 水分の取り方に気をつける
朝昼は水分は普通に飲んでかまいませんが、夕食後はコップ1杯程度の水分補給にとどめましょう。

3) 塩分をひかえる
塩分の取りすぎはのどの渇きから、水分の摂りすぎにつながります。また、塩分の取りすぎは腎臓の負担になります。

4) 夜間、トイレに起こさない
夜間トイレに起こすと睡眠が乱れて、夜尿が治りにくくなります。睡眠中にトイレに起こしてはいけません。

5) 寝る前にトイレに行く
トイレに行って、膀胱をカラにしてから、就寝しましょう。

6) 寝ている時に冷えないように気を付ける
冷えは尿量を増やし、膀胱を収縮させます。体を冷やさないように、寝る前には入浴してからだを温めるとよいといわれています。

②薬物による治療

夜尿症治療の薬は大きく分けて、4群になります。

1)抗利尿ホルモン薬

作用機序:多尿型に用います。尿を濃縮し、尿量を減少させます。

製剤:ミニリンメルト(経口薬。右写真)、デスモプレッシン・スプレー(点鼻薬)。

副作用:水中毒(水分を取りすぎると、尿として体の外に水分が排泄されないため、頭痛、浮腫、けいれんなどが起こる可能性があります)。

2)抗コリン薬

作用機序:膀胱型に用います。膀胱の平滑筋の収縮を抑えることで、尿を膀胱に多く溜められるようにして、がまん尿量を増大させます。

製剤:ポラキス、パップフォー、ウリトス、ベシケアなど。

副作用:口渇、便秘など。

3)三環系抗うつ薬

作用機序: 眠りを浅くして、おしっこに気付きやすくする、抗利尿ホルモンの分泌を促す、抗コリン作用がある、などといわれていますが、はっきりした機序は不明です。

製剤:アナフラニール、トフラニールなど。

副作用:食欲不振、悪心、不眠、てんかん発作など。最近、重篤な不整脈の副作用が注目されており、夜尿症の治療にあまり使われなくなりました。

4)漢方薬

精神を鎮めるといわれる漢方薬が、夜尿治療に有効なことがあります。

製剤:抑肝散、小建中湯など。

③おねしょアラームによる治療

おねしょアラーム(夜尿アラーム)は、センサー部分が水分に触れると、警報音を発したり、振動を起こしたりします。センサーをパンツやおむつに装着しておくことで、夜尿に気付かれる装置です。(右写真)

夜尿時にアラームで刺激し、排尿を途中で止める訓練を繰り返すことで、夜間就寝中の膀胱尿量を増やすといわれています。

使い方:
本体をパジャマの襟もとなどに装着し、センサーはおむつやパンツのおしっこでぬれやすい所に取り付けます。

方法:
アラームが鳴ったら、できるだけ早く起きるように子どもに話しておかなければなりません。子どもが起きなければ、親が子どもを起こします。できる限り、子ども自身でアラームを止めさせるようにして、夜尿を認識させます。

効果:
主に、膀胱型に用います。効果の具合は、6~8週で判定できることが多いようです。効果があれば、夜尿の回数が減ったり、1回のおもらしの量が減ったり、おもらしする時間が徐々に朝方に移動しくことでわかります。

欠点:
アラーム慮法は効果が出るのに、時間がかかるため、あせらず続ける必要があります。また、親がいっしょにがんばらないと(アラームが鳴ったら親が身の回りの世話をする。親が子どもにアラームを消させる、など)
アラーム療法は親子で夜尿を治そうという意欲を持ち続けることが大切です。


夜尿症の実際の治療の流れ

最後に夜尿症の診療の実際の流れについて、ご説明いたします。

①始めての診察

まず、夜尿について簡単な説明を行い、夜尿日記を渡し、記載の仕方をお話しします。さらに、今後の生活スタイルについて、ご説明します。
次回受診までに、一度尿検査を行います(尿を検査することで、夜尿のタイプ、隠れている病気の存在のチェックをします)。

②再診

夜尿日記を確認します。検尿結果を見て、いくつかの病気の可能性があるか、検討します。
生活習慣の改善のみで効果がない場合は、まず夜尿を多尿型、膀胱型、混合型に分類します。

ミニリンメルトなど薬物投与を行うか、アラームを始めるか、よく保護者の方、本人と相談します。治療を開始します。(近年は夜尿のタイプにかかわらず、家族で行いやすい治療法を選択していただく方法が取られるようになっています)

③その後の再診

この後は、夜尿日記を確認しながら、治療を続けます。夜尿が完全にみられなくなれば、治療は終了となります。



参考文献:大友義之、新島新一、清水俊明:小児夜尿症の経口治療薬について.東京小児科医会報 31:42-46、2012

      おねしょ卒業!プロジェクト

      小児科診療プライマリケア医に望まれる夜尿症診療 小児科診療 76:別冊、2013
      夜尿症診療は新たなステージへ 小児科診療 77:別冊、2014
      夜尿症~かかりつけ医による夜尿症診療~小児科臨床 65:別冊、2012
      プライマリーケアとしての夜尿症診療:小児科臨床 62:別冊、2009

      その他、フェリング・ファーマ、協和発酵発行のパンフレット、リーフレットも参考にさせていただきました。


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