気管支喘息と診断された患者さんへ

●はじめに

 気管支喘息は、夜間突然ヒューヒュー、ゼイゼイと音がするようになり、呼吸が苦しくなって、咳が止まらなくなる病気です。少し前までは、秋の台風シーズンになると、夜間の小児科救急外来はヒューヒュー、ゼイゼイ、青ざめ肩で息をしている喘息発作の子であふれかえり、入院する子も多数みられました。又、減感作という注射に、週何回も病院へ通う子どもも多く、ひどい発作を繰り返す子は「施設療法」といって地方の保養所に入所して治療することもあったほどです。

 第一に、喘息は今もありふれた病気でありながら、各病院小児科病棟の入院患者は激減しており、喘息発作も軽症化しています。むかしよくみられた、肩で息をしてゼイゼイする、典型的な発作の子どもをみることも少なくなりました。

 第二に、喘息は親子で必死に闘病生活するような難病ではなく、発作を起こさない普通の生活を送っていく中でお薬を飲んで治していく病気だ、という治療が確立したのです。一部の小児科アレルギー専門医がめざしていた、極端な除去食の強制や「シンプルライフ」という何の楽しみの無い宗教者のような生活スタイル、身体の鍛錬療法は少なくても喘息治療の中心からは消えていきました。

 第三に、吸入ステロイドについてです。これは喘息の発作を完全に抑え、今や喘息治療の中心的な薬剤となりましたが、かつてのアトピー性皮膚炎に対するステロイド軟膏のように、きわめて有効であるがゆえに、効果と副作用を慎重に評価して乱用を慎まなければならない薬剤です。

 しかし、小児喘息も1割以上が子どもの間に寛解せず、また治ったと思っていても、風邪をひいたときなどに発作を起こす人もいます。子どもの時の喘息発作の回数や程度や重さが、大人に持ち越すかどうかの因子になるという考えも有力視されています。そのため、当クリニックでは吸入ステロイドも喘息の程度に応じて、必要な場合には積極的に導入するようにしています。

 喘息は特別な難病ではありません。きちんとお薬を飲み、吸入し、呼吸の状態を測定し、定期的に当クリニックのアレルギー外来に通っていれば、いつのまにか発作が消えていく(寛解といいます)病気なのです。しかし、喘息は完全に克服するまで長く時間のかかる病気です。小児の発育を正しく評価し、必要な期間、必要な強さの薬剤を選択し、本人を取り巻く生活環境を家族とクリニックのみんなで相談して整えていき、発作が完全に出なくなるまで頑張りましょう。

 気管支喘息は、小児科専門クリニックのもとで、本人、お母さま、お父さま、クリニックの医師、看護師、栄養士、事務員がチームを組んで、みんなで取り組む病気だと当クリニックは考えています。

●気管支喘息とはどんな病気でしょう

 T.気管支喘息の定義

 小児気管支喘息は、発作的にゼイゼイ、ヒューヒューする呼吸困難(息が苦しい)を繰り返す病気です。赤ちゃんが気管支炎になったり、かぜをひいたりした時にゼイゼイすることは、それほど珍しくはありません。気管支喘息はこのゼイゼイ、ヒューヒューを繰り返し、反復することが診断のポイントになります。さらに発作で生じた呼吸困難は、自然に治ったり、治療によって軽快します。進行性に悪化しつづけるということはありません。

 しかし喘息の患者の呼吸器の組織を調べると、気道(空気の通り道。気管支)は狭くなっており、また好酸球やリンパ球が沢山集まってきて組織が赤く腫れていることが観察されます。

 また、喘息と診断するには、同じような症状を示す肺、心臓の病気を否定しなければなりません(この場合は別の病気になります)。

 気管支喘息は、アトピー型(抗原に特異的なIgE抗体を証明できるもの。子どもでは圧倒的にアトピー型が多く、特にダニに対する特異的IgE抗体の保有率は90%に及びます)と非アトピー型(特異的IgE抗体がみつからないもの。ウィルス=RSウィルス、パラインフルエンザウィルスなどやマイコプラズマなどによる感染症が引き金になってゼイゼイしだすお子さまもいます)に分類されることがあります。

 U.気管支喘息の病態生理

 V.気管支喘息の症状

 喘息発作を起こすと、胸が締め付けられるように息苦しくなり、息を吐く時にゼイゼイ、ヒューヒュー音を立て、ゆっくり息をはき出します。呼吸回数も増し、肩を上下させながら呼吸をします。息を吸い込んだ時に、肋骨の間が陥没します。発作がひどくなると、話ができなくなり、うずくまるようになります。

 W.気管支喘息の危険因子とその予防

 X.気管支喘息の疫学

 小児気管支喘息は、日本のこどもの5%にみられ、男女比は1.5:1で男子に少し多いようです。ただ性差は縮まってきています。親族に喘息の人がいる子の喘息の発病率は、喘息の人がいない子の発病率の約2倍と報告されています。

 一般にアレルギー体質の子の、そのアレルギー症状の移り変わりをアラ-ジック・マーチ(アレルギーの行進)と呼びます。その経過は、1歳前(乳児期)は湿疹が出やすく(アトピー性皮膚炎といわれる子も多い)、1〜2歳ごろは風邪をひいた時に少しゼイゼイし、2〜5歳頃になると気管支喘息と診断される例が多いようです。

 喘息のお子さまは2〜3歳で60%、6歳までに80〜90%が気管支喘息と診断されています。一方、12〜15歳頃(中学生)までに60〜80%の喘息児は症状が出なくなります(「アウトグロー」という)。 残りの10〜20%は、大人になってからも体調が悪いと喘息発作を起こすといわれています。

 喘息は死亡することがある病気です。主な死因は窒息死です。喘息発作が原因で亡くなる人の割合は、10万人に対して0.4〜0.5人ですが、15〜19歳の”思春期喘息”では、患者が親の言うことを聞かず、病院にもきちんと通院せず、携帯吸入器を用いて気管支拡張剤を乱用して、気管支が完全に閉塞して病院に着いたときにはすでに窒息死している例があり、問題になっています。

●気管支喘息の検査について

T.アレルギーの検査

@総IgE値(非特異的IgE;IgE-RIST)

 非特異的IgEは、血液中のIgEの総量を測ります。IgEは前章で見たように、Th2細胞の命令でB細胞が作り出す免疫グロブリンで、アレルギー反応を引き起こします。したがって、IgEが増えていれば、アレルギーを起こしやすい体質があると考えられます。大体の目安は、赤ちゃん10IU/ml以上、幼少児では100IU/ml以上、成人では250IU/ml以上で高値と判定します。

A血中好酸球数、鼻汁好酸球

 好酸球(エオジン細胞)もまた、アレルギー反応が起こるとTh2細胞の指令(IL5)で炎症場所に集まってきて、組織を破壊したり、他の細胞を動員したりして、アレルギー反応を一段と悪化させる働きをします。好酸球は通常は全白血球数の7%以下ですが、寄生虫が感染していたり、感染症の終末期、さらにアレルギー反応がからだのどこかで続いていると7%以上になります。したがって、血中好酸球が7%以上あれば、今現在アレルギー反応がからだのどこかで起きている疑いがあります。

 また、好酸球が鼻汁中に多数出現している時は、鼻粘膜でアレルギー反応が起きていることを意味し、アレルギー性鼻炎、花粉症が疑われます。

BIgE-RAST(ラスト)

 IgE-RASTは、血液中の特異的IgE抗体(ダニならダニに対してのみ反応するIgE抗体)を調べる検査です。特異的IgE抗体が高値ということは、その測定項目に対するアレルギー反応が起こりやすいことを意味します。現在よく行われている特異的IgE抗体測定法はキャップ・ラスト法(CAP法)と呼ばれる検査法で、IgE抗体の量を7段階に分けて、2以上を陽性、4以上を強陽性と判定します。

 また、MAST法(マスト法)はIgE抗体量によって5段階に分ける検査法で、1以上が陽性、3が強陽性と判定します。少ない採血量で多項目のアレルゲンの検査ができるため、初診時や年少児で行われます。

 このIgE-RASTは気管支喘息やアレルギー性鼻炎ではきわめて有用な検査ですが、アトピー性皮膚炎では必ずしも必須な検査ではありません。

 U.呼吸器の検査

 @胸部レントゲン検査

 気管支喘息と鑑別が必要ないろいろな病気の可能性を否定するために行われます。

 A呼吸機能検査

 もっとも簡単な呼吸機能検査はピークフロー(PEF;最大呼気流量)の測定です。このピークフローの測定で喘息を管理することができます。

●気管支喘息の治療について