2018年の麻疹について
1.今回の流行の経過
3月20日に明らかになった、台湾人旅行者から広がった沖縄の麻疹の流行は、5月6日現在、沖縄で75人、しかも4次感染者も出て、ますます拡大しています。さらに、この麻疹は本土にも飛び火し、愛知県でも18人、東京都下でも10人と患者がじわじわと増えつつ、品川にも近づいてきています(国立感染症研究所の麻疹特集はこちら。東京都感染症情報センターの麻疹流行状況はこちら)。
さらに連休の期間、大規模な人の移動によって、麻疹はさらに人から人へと急激に伝播し、2007年の大流行の悪夢が再現される恐れさえ、ないとはいえない状況になってきました。最近の報道はこちら)
2.どう対応したらよいのか
麻疹が広がっている現在、それでは大切なお子さまを守るため、どのような対策を立てればよいのでしょうか。
麻疹は飛沫核感染(空気感染)で感染するため、麻疹患者と同じ空間(飛行機、電車、バスの中、映画館、レストランなど)にいるだけで、ワクチン未接種のお子さまは感染し、ほぼ100%発病します(麻疹について)。
麻疹は高熱が続き、目は充血し、唇は乾き、咳は止まらず、食事はとれず、全身がまだら模様になり、患者さんは大変苦しみます。
さらに、肺炎や脳炎を合併したり、最悪の場合は、SSPE(亜急性硬化性全脳炎)を感染した数年後に発症し、知能が低下し、最後には死亡する小学生もいるのです。
麻疹は治療法がない病気ですが、予防接種で発病をほぼ確実に防ぐことができます。
免疫を持たない場合、麻疹ウイルスの感染は防ぎようもなく、発病してしまった子どもが悲惨な状態になって苦しんでいるのに、何も治療してあげられない、悲惨な病気が麻疹(はしか)です。
しかし、麻疹は繰り返しますが、ワクチンを接種さえしていれば、自らと周りの人を守ることのできる病気なのです。
万が一、感染しても軽く済ませることができるのです。麻疹対策のただ一つの確実で効果的な方法は、MRワクチンの接種です。
今回麻疹が流行している沖縄県の麻疹患者のワクチン接種状況です(沖縄県HPより)。10歳未満の麻疹患者のほとんどがMRワクチン未接種であり、全世代でも未接種と不明が大半を占めています。
3.当クリニックの対策
麻疹流行に対しては、MRワクチンを2回接種することで、ほぼ100%を感染を防げます。自分、周りの家族、ワクチンで身を守れない境遇の人たち(妊婦、難病の人など)を守りましょう。
国立感染症研究所感染症疫学センターは、2018年4月17日に「麻疹風疹混合(MR)ワクチン接種の考え方」を公表開しました。
この国立感染症研究所の考え方を基本に、当クリニックはかかりつけの患者さんに以下の対応をお勧めいたします。
①定期接種対象者…1歳児(MR1期対象者)、小学校入学1年前5~6歳児(MR2期対象者)
は、MR定期接種をできるだけ早急に行ってください。
MRワクチン未接種の1歳過ぎのお子さまは麻疹、風疹に免疫を持たないため、可能な限り急いで、接種を行ったほうがよいと思います。特に保育園に通っている1歳児はワクチンを急ぎましょう。保育園には、何時麻疹を発病してもおかしくない、ワクチンをしていない子どもが登園しているのです。
②1か月以内に、海外旅行、国内旅行を予定している人は、なるべく旅行の2週間以上前にワクチン接種を済ませましょう。
抗体が立ち上がるのに2週間ぐらいかかることと、接種後1週間は副反応の出現に注意した方が良いからです。特に今、麻疹は国内だけでなく、アジアの多くの地域で流行しています。外国だから、安心ということは全くありません。
③0歳児の家族は、積極的なMRワクチン接種をお勧めします。
0歳児が感染するとすると、保育園に預けていなければ、家族から感染するケースがほとんどでしょう。ご両親、同居家族は、MRワクチンを2回接種した方が良いでしょう。
2回接種が済んでいる方は必要ありません。1回のみの接種の方は、免疫がついていない可能性があるため、2回目のMRワクチン接種をお勧めします。
④品川近隣で麻疹が発生した場合、生後6~12か月児
(この場合、緊急避難的な接種であることを、保護者が十分ご理解いただいている条件で)麻疹単抗原ワクチンか、MRワクチンを接種いたします。ただし、この月齢でMRワクチンを接種しても、十分な抗体の上昇が得られない可能性があります。
⑤19歳未満の品川区民で、MRワクチンを1回しか接種していない方
MR任意公費接種として、MRワクチンを1回無料で追加接種できます(→品川区のお知らせはこちら)。かかりつけの患者さんは、ご来院の上、鈴木医師とご相談ください。
⑥麻疹抗体陰性、低抗体価の妊婦や麻疹含有ワクチン不適当者の方のご家族
本人はワクチンが接種できないため、周りの方がぜひMRワクチンの接種してください。かかりつけの患者さんは、ご来院の上、鈴木医師とご相談ください。
⑦現在、2~5歳のMRワクチン1回接種済みのお子さま
基本的に追加接種はいりません。1歳時に行ったMRワクチンによって、十分な抗体が得られている可能性が強いと考えられるからです。
しかし、抗体価が下がってきている可能性がある4~5歳児、家族にワクチンの打てない生後6か月前の乳児や免疫の落ちた高齢者、免疫不全の難病の人が同居している、などの環境のお子さまは、MR2期の前に前倒しで任意接種を行ってもよいかもしれません。
また、通っている保育園、幼稚園、小学校などで麻疹患者が発生した場合は緊急接種が必要です。
ただし、この場合は任意接種になるため、接種料金が発生します。公費の補助はありません。また、MR2期については、接種時期を調整して、接種は行った方が良いと思います。
追記
①MRワクチンを2回接種が済んでいる人、②麻疹にかかったことが医学的に証明されている人、③血液検査で麻疹抗体価が十分高い人は、
MRワクチン接種は必要ありません。
また、MR接種希望の妊娠出産年齢の女性は、妊娠していないことを確認し、ワクチン接種後は2か月間の避妊が必要です。
必ず接種前に、ご確認をお願いします。
症状写真の転載は固くお断りします。麻疹の写真を掲載したい医療機関は、ご自分で写真を撮らせていただいて、自験例を載せることが最低限のマナーです。
【参考】 現在、沖縄県は来沖する観光客向けに、Q&Aを掲載しています。(原文はこちら)再録いたします。
Q1. 今の沖縄県の麻疹の流行状況はどうなっていますか?
A1. 沖縄県の医療機関、自治体、保健所、衛生環境研究所、県庁では全力で麻疹の患者さんの把握を行っています。最新の状況は以下のサイトをご覧ください。なお、情報は随時更新されておりますのでご注意ください。
Q2. これから沖縄へ行く予定ですが、どうしたらいいですか?
A2. まず、ワクチン接種歴をご確認ください。1 歳で1 回、小学校入学前1 年間の方以上の方は2 回接種歴があれば、問題なく旅行できます。もし回数が足りない場合は、ワクチン接種をご検討ください。
Q3. ワクチンを接種して沖縄に行きます!3 日後出発ですが間に合いますか?
A3. ぜひ接種してからお越しください。ただし、ワクチンの効果を最大限に発揮させるにはワクチン接種後2 週間経過してから来ていただくことが好ましいです。
また、ワクチン接種後1 週間程度経過した時期に(特に1回目の接種の際に)、ワクチンの影響で軽度の発熱や発疹を認めることがあります。そのため、早めのワクチン接種をよろしくお願いいたします。
Q4. 1 歳未満の子供を連れていきたいのですが・・・
A4. 定期接種では、基本的に1 歳未満のお子様へはMRワクチンは接種しておりません。
沖縄県内では、現在、期間限定で住民に対して生後6 か月から12 カ月未満の乳児へ予防接種を実施していますが、麻疹流行を受けての緊急避難的な対応です。
旅行でお越しになる小さいお子様にも沖縄県の素晴らしさを体験していただきたいのですが、現在の麻疹の流行が終息した後、来ていたくことが安心です。
どうしても沖縄に行く必要がある場合は、かかりつけ医、または専門医にご相談ください。
Q5. 大人でも注意したほうがいいのですか?
A6. 成人でもこれまでに麻疹にかかっていない、あるいはワクチンを接種していなければかかってしまいます。発熱、発疹に加え、肺炎や脳炎などを合併し重症化する場合もあります。子供よりも重症化しやすいとも言われており、十分な注意が必要です。
Q6. 自分自身が高齢で、麻疹にかかったか、ワクチンを打ったかわからないのですが…?
A6. 概ね50 歳以上の年齢、特に、ご高齢の方は、ワクチンがなかった時代に麻疹にかかっていると考えられていますので、基本的には麻疹にはかかりません。
現在の沖縄県の流行では、20 代から40 代のワクチン未接種の方がたくさん麻疹にかかっています。
Q7. 妊婦と一緒に行って大丈夫でしょうか?
A7. 妊娠中にはしかにかかると、「早産」や「流産」のリスクが高くなります。また、妊娠中は赤ちゃんへの影響を避けるため、MRワクチンを接種することができません。
このため、2回のワクチン接種を完了できていない妊婦の方については、沖縄県の流行が終息してから、お越しいただいた方が安全です。里帰りや出産等を含め、どうしても沖縄に行く必要がある妊婦の方については、かかりつけの産科医にご相談ください。
Q8. 人込みを避ければ麻疹にはかかりませんか?
A8. 麻疹の感染力は極めて強く、典型的な麻疹の患者さんからは空気感染し、同じ空間にいたり、すれ違ったりするだけでも感染する可能性があります。
麻疹が流行している地域では、麻疹の患者さんが人混みに紛れていることも考えられ、むやみに人混みに入ることは麻疹に感染するリスクを高めてしまいます。人混みを避けることのみで、麻疹への感染を予防できるわけではありませんが、感染するリスクのある方々は、できるだけ人混みを避けるようにしてください。
今回の麻疹流行に関連した、MRワクチンについてのご相談のあるかかりつけの患者さんは、お子さまをお連れになって、診察時に鈴木医師にご相談ください。
電話での接種についてのご相談は、受付事務スタッフは医療関係者ではないため、正確なお答えはできません。電話での麻疹流行についてのお問い合わせは、ご遠慮いただきますよう、重ねて、お願い申し上げます。
2018.5.19 補筆