鈴の木版-新型コロナウイルス感染症総説 第1版


目次

0.はじめに
Ⅰ.新型コロナウイルス感染症SARS-CoV-2の病原体と症状
     ①病原体
     ②潜伏期間、感染経路
         潜伏期間
         感染経路
         感染力
     ③症状
Ⅱ.新型コロナウイルスSARS-CoV-2の診断
     ①PCR検査
     ②抗原検査
     ③抗体検査・イムノクロマト検査
         抗体検査
         イムノクロマト検査
Ⅲ.新型コロナウイルス感染症の集中治療と治療薬
     ①治療
         人工呼吸
         エクモ
         その他の管理
     ②治療薬
        抗ウイルス剤
         ファビピラビル(アビガン)
         シクレソニド(オルベスコ)
         レムデシビル(ベクルリー)
         ナファモスタット(フサン)

         イベルメクチン(ストロメクトール)
         ロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ)
         クロロキン
         イベルメクチン(ストロメクトール)
        重症患者に対する治療薬
         トシリズマブ(アクテムラ)
終わりに




0. はじめに

 武漢で発生した「新型コロナウイルス感染症」は中国からアメリカ、 ヨーロッパを経て、現在は南米と、まさしく燎原の火のごとく、世界中を焼き尽くす勢いで、今なお止まるところを知りません。1月1日、令和2年が始まったとき、誰がこんな事態になることを想像したでしょうか。

 世界中で感染者数700万人、死亡者も40万人を突破し、我が国でも感染者数1万7千人、死亡者は916人を越えました(2020年6月8日現在)。 新型コロナウイルス感染症はすでに未知の恐ろしい伝染病ではなく、多くの患者さんの臨床報告から、その全体像についてはほぼ明らかになってきています。

 それと共にこの間、さまざまな嘘八百のエセ情報が、一部は無知から、一部は悪意をもって、一部は政治的な煽動・謀略として、テレビ、インターネットから大量に流されています。 このデマに踊らされて発信者の思惑通り、阿鼻叫喚となって、右往左往する人達がいます。

 本稿では、鈴の木こどもクリニックのかかりつけの患者さんに、医学的根拠に基づく正しい情報を発信いたします。日本における新型コロナウイルス感染症流行は、終熄過程に入っていましたが、7月から反転し新規感染者が急増する事態になっています。またまた、活気を取り戻したデマゴーグどもが涎を流して、毒ガスを大量に撒き散らし始めています。現在の状況は悲鳴を上げるような、3月に匹敵するような危機的状況なのでしょうか。

 鈴の木こどもクリニックは、かかりつけの患者さんに、新型コロナウイルス感染症が再度落ち着くまで、マスコミ(特にテレビ、新聞)、インターネットのデマ情報に踊らされることなく、冷静で賢明な行動で、お子さまとご家族を守っていくことを、改めて強く呼びかけたいと思います。クリニックと共に新型コロナウイルス感染症と闘いましょう!



Ⅰ.新型コロナウイルス感染症SARS-CoV-2の病原体と症状

 まず、2020年7月19日時点の、新型コロナウイルス感染症の臨床像についてまとめてみます。

①病原体

 病原体は、新型コロナウイルス=SARS-CoV-2(サーズコロナウイルスツー)というウイルスです。 新型コロナウイルス感染症の病気の名前は、COVID-19といいます。この病気の名前は、今や悪の代名詞となった、WHO=世界保健機関が命名しました。 当初は、武漢肺炎とも呼ばれていました。

 コロナウイルスは、その出自はニドウイルス目コロナウイルス科に属する、大きさが100nmぐらいのRNAウイルスです。ちなみにインフルエンザウィルスも100nmなので、ほぼ同じ位の大きさのウイルスです。

 コロナウイルスはウイルス表面にエンベロープという脂肪から成る二重膜を持ち、そこから突起(スパイク蛋白、Sタンパク質)が林立し、あたかもウイルスの形が王冠のように見えることから、王冠を意味するcoronaと名付けられました。 
(右写真はコロナウイルスとは 2020.1.10 国立感染症研究所から引用。右下はCDC-HPより引用)

 *SARS-CoV-2はこのエンベロープを持っているため、アルコールや有機溶媒によって、簡単に不活化(感染性を無くすること)することができるのです。

 コロナウイルスは自然界では、動物によって棲み分けをしています。宿主(ホストhost。いつも感染している相方)にはほとんど悪さをせず、軽いかぜ症状や下痢を引き起こすだけで、おとなしく共存しています。

 これはある意味、当然のことであって、宿主が死亡するということはウイルスも存在できなくなり、死んでしまいます。宿主が元気な状態が、ウイルスも生存し、増殖するためには必要な条件なのです。

 実は人間にもしっかり4種類のコロナウイルスが常在し、かぜの10~15%(流行時には35%)はヒトコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV)が起こしています。ヒトコロナウイルスHCoVは、229E、OC43、NL63、HKU1の4種類です。そして、6歳までには
ほとんどの人は、これらのコロナウイルスに一度は感染します。これらのヒトコロナウイルスHCoVは、人に感染しても軽いかぜの症状しか起こさず、人と長い間共存してきたのです。

 最近、2種類の別のコロナウイルスが人に感染し、流行しました。この2種類とは、重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome:SARS)コロナウイルス(SARS-CoVと略します)と、中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome:MERS)コロナウイルス(MERS-CoVと略します)です。

 この2種のコロナウイルス(CoV)はもともと、SARSコロナウイルスはキクガシラコウモリ(当初は、ハクビシンが疑われていました)、MERSコロナウイルスはヒトコブラクダが宿主hostでしたが、何らかの理由でヒトに感染する力を持ち、ヒトを発病させるようになったと考えられています。しかし、慣れないせいか?、その力加減がわからず、ヒトを重症化させたり、殺してしまったようです。そのため、SARSコロナウイルスは自分も消滅してしまいました。

 SARSコロナウイルスは、中国広東省で大流行し、2002年11月から2003年7月にかけて、8098人が感染し、774人の死者を出しましたが、その後消滅しました。流行時、SARSコロナウイルスは高齢者や慢性疾患を持つ人を重症化させたり、死亡させたりしましたが、子どもにはほとんど感染しませんでした。

 また、MERSコロナウイルスは、アラビア半島で流行し、2494人が感染し、858人が死亡しました。しかし、実はサウジアラビア国民の0.15%はMERSコロナウイルスに抗体を持っていると評価されており、実際は感染しているヒトは5万人を越しているのではないかともいわれています。また、SARSと同様に、高齢者や慢性疾患を持つ人が重症化・死亡しましたが、子どもはほとんど感染しなかったようです。
 
 人に感染する7種類のコロナウイルス(軽症4種、重症3種)を、忽那先生の表を参考にまとめてみました。
(忽那賢志:総説 新型コロナウイルス感染症より一部改変)

名  HCoV-229E、OC43、
NL63、HKU1
SARS-CoV MERS-CoV SARS-CoV-2 
 病名 かぜ SARS (重症急性呼吸器症候群) MERS(中東呼吸器症候群)  COVID-19(新型コロナウイルス感染症)
 発生年 毎年 2002~2003年 2012年~現在  2019年~現在
 発生地域 世界中 中国広東省 アラビア半島とその周辺  中国湖北省武漢
 宿主動物 ヒト キクガシラコウモリ ヒトコブラクダ  コウモリ?
 死亡者数/感染者数 不明/70億人 778人/8098人(終息) 858人/2494人(50000人?)  35万人/550万人
 好発年齢 多くは6歳以下 中央値 40歳(0-100歳)
子どもにはほとんど感染しない
中央値 52歳(1-109歳)
子どもにはほとんど感染しない
 60歳以上
子どもにはほとんど感染しない
 主な症状 上気道炎、(胃腸炎 高熱、肺炎、胃腸炎 高熱、肺炎、胃腸炎、腎炎  高熱、肺炎、上気道炎
 重症化因子 重症化しない 糖尿病等の慢性疾患、高齢者 糖尿病等の慢性疾患、高齢者  糖尿病等の慢性疾患、高齢者
 感染経路 飛沫、接触 飛沫、接触、糞口 飛沫、接触  飛沫、接触
 ヒト-ヒト感染 1人→多数 1人→2~5人。
多数に移すス-パースプレッダーも。
1人→1人以下。
多数に移すス-パースプレッダーも。
 1人→2.6人以下。
多数に移すス-パースプレッダーも。
 潜伏期 2-4日 2-10 2-14  1-14日
 感染症法 指定無し 二類感染症 二類感染症  指定感染症


 

 新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、上記系統樹からみると、ニドウイルス目、コロナウイルス科オルソコロナウイルス亜科、ベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属という仲間で、SARS-CoVと近い関係にあり、そのためにSARS-CoV-2と名付けられました。
(忽那賢志:総説 新型コロナウイルス感染症より)

 SARS-CoV-2は、SARS-CoVと同じく、ヒト細胞表面にある、アンギオテンシン転換酵素2(ACE2:エースツー)をレセプター(受容体、接続する場所。ちょうど磁石のN極とS極のような感じです。)として、ヒト細胞に侵入します。


 SARS-CoV-2は、まず最初に、ウイルス表面にある突起状のスパイク蛋白(右イラストのSタンパク質)を、ヒト細胞のACE2・リセプターにぴったりと結合させます。すると、ヒト細胞膜にある、「TMPRSS2(テムプレスツー)」や「FURIN(フーリン)」などの蛋白分解酵素が、ウイルスのスパイク蛋白を溶かしてしまい、ウイルスはヒト細胞と融合します。

 その結果、ウイルスは細胞内に取り込まれ、ウイルスの遺伝情報(RNA)をヒト細胞内に放出します。
 放出されたウイルスRNAは、ヒトの細胞の成分を勝手に利用して、自分の分身のウイルスを大量に複製、製造していきます。このときに、RNAポリメラーぜという酵素がタンパクを作るために働きます。

 参考:井上純一郎・山本瑞生(東京大学医科学研究所) より。図転載。

     SARS-CoV-2がACE2に結合するアニメーションの紹介

 こうして、ヒト細胞内に充満したウイルスはヒト細胞を破裂させ、細胞外に自由に飛び出していきます。

 体の中で、ACE2がたくさん存在するのは、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)、心臓、下気道(肺、気管支)、小腸、腎臓、精巣、血管などです。これらの部位がSARS-CoV-2が増殖しやすい箇所と考えられ、実際SARS-CoV-2は人体内に侵入すると、まず上気道、下気道で増殖します。

 コロナウイルスは、インフルエンザウイルスのように小さな変異を繰り返して、形を変えたりはしないようです。その理由は、コロナウイルスは校正機能を持つ酵素を持っているために、RNA遺伝子に変異が起きても自力で間違いを除去し、正しい遺伝子を複製することができるためです。したがって、将来ワクチンができてもインフルエンザのように、毎年ウイルスの変異を考えてワクチン株を選択しなければならない、という心配はなさそうです。

 また、SARS-CoV-2はその構造の2万8144番目のアミノ酸が、セリンserineであるS型と、ロイシンleucineであるL型に分けられます。中国の報告だと、L型の方が症状が重くなるそうです。

 最近、欧米からSARS-CoV-2は3つのグループに分けられるという報告もあります。今後の検討が待たれます。

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②潜伏期間、感染経路

1)潜伏期間
 感染してから発症するまでの潜伏期間は1~14日間で、感染してから5日ぐらいで発病することが多いようです。

 台湾からの報告だと、発病2日前ぐらいの無症状の時期から、発熱、咳などの症状が出て5日後ぐらいまでが感染力があると報告されています。特にまだ潜伏期である発病前に最も感染力が強く、これがSARSやMERSと大きく異なる点だと指摘されています。



2)感染経路
 感染の経路は、咳、痰の飛沫による飛沫感染と、痰、鼻水などに触って移る接触感染が主と考えられています。また、咳鼻などの症状がなくても、会話だけでもウイルスが飛散することも証明されています(飛沫感染のリスクがあります)。

  *NEJM: Visualizing Speech Generated Oral Fluid Droplets with Laser Light Scattering

 気管挿管、鼻吸引などの医療的処置を行うときには、微粒子が飛び散り、エアゾル(微粒子)感染といって、特殊な空気感染を起こすため、空気感染に準じた感染予防が行われます。

 飛沫感染について、もう少し詳しく見てみます。

 インフルエンザウイルスは感染して6時間後には、1億個/㎖まで増殖しますが、SARS-CoV-2は同じ時間で10万~100万個/㎖の増殖に留まります。従って、呼吸器から放出されるウイルスの量は、SARS-CoV-2はインフルエンザウイルスの1/100程度となります。

 また、飛沫感染は2m離れると起こらないとされています。これは、さまざまな大きさの微粒子(エアロゾル)は2mまで到達する前に水分を失い、中にいるウイルスは乾燥して感染力を失うからです。しかし、湿気の多い密室では、空気中を漂うエアロゾルは乾燥せず水分を保持し続け、30分近くもエアロゾルの中のウイルスは、感染力を保つといわれています。

 また、ウイルスを含んだエアゾルの大きさも感染に影響すると言われています。5~10㎛のエアロゾル(飛沫)は30mの落下に17~62分かかり、その間に吸い込まれて鼻や喉に沈着します。一方、2~3㎛のエアロゾル(飛沫核)は落下せず空気中を漂い、吸い込まれると肺の中まで到達してしまいます。

 湿気の多い密室では、吐いた息に含まれる1㎛のエアゾルも感染力を持ちます。すなわち、湿気の多い密室では普通に向かい合っているだけで、会話をしなくても、咳やくしゃみを浴びなくても、感染してしまいます。

 このように、部屋の加湿は喉や呼吸器にはやさしいですが、エアロゾルの中のウイルスの乾燥を妨げ、感染力を保たせる一面もあるので、加湿のし過ぎも逆効果のようです。

 逆に接触感染では、感染が成立するためには、より多くのウイルスの量が必要と言われています。接触感染はウイルスで汚染された手指を介して、感染が広がります。



3)感染力
 感染力は1人から2.6人と、ほぼインフルエンザウイルス並みと報告されています。ただし、バスや屋形船など、「換気の悪い、閉鎖空間」では前述したようにウイルス粒子は乾燥しないため、感染力を失わず、感染が拡大するようです。このような環境では、咳などが見られなくても普通の会話、呼吸でもウイルスが飛散するようです。

 インフルエンザウイルスに比べ、SARS-CoV-2は細胞内で複製されるウイルス量は100分の1のため、インフルエンザウイルスほど感染力は強くない、という見方もあります。また、ウイルス量が少ないため、抗原検査で陽性に出にくい可能性があります。

 接触感染に関しては、物の上に付着したウイルスの感染力は3時間ぐらいと考えられています。しかし、鼻水や痰など粘性のある生体物質で包まれている場合には、表面が乾燥してもウイルスは感染力を失わず、何日も感染力を保つようです。

 我が国の検討では、感染を広げたのは感染者の2割のみで、8割の人は他の人に感染させなかったことがわかっています。ダイアモンド・プリンセス号では、実に1人の香港人の老人から約700人が感染したことになります。

 季節型インフルエンザは感染後18時間で発病し、約2日間でウイルス量はピークに達し、排出は1週間続きます。なかには2週間ぐらいウイルスを排泄し続ける人もいるようです。

 一方、鼻かぜを起こすヒトコロナウイルス(SARS-CoV-2ではない、普通のウイルス)では、感染後3日で発病し、実験動物では1ヶ月近くもウイルスが検出される例もあるようです。

 SARS-CoV-2も上気道(喉、鼻)、下気道(肺、気管支)でウイルスが増殖し、ここから採取した患者の検体から発病3~4週後になっても、ウイルス遺伝子が検出されることもあるようです。また、血液、尿、便からSARS-CoV-2の遺伝子の一部が検出されることもありますが、感染力のあるウイルスではないようです。

 アビガンをつくった白木教授によれば、PCR法を複数回行った場合、ウイルスは病気の回復期には陽性と陰性の検査結果を繰り返しながら、徐々に消えていくのだそうです。すなわち、ウイルスが少なくなっていくため、検出できたり、できなかったりするようです。

 また、主な症状が消えた後のPCR検査陽性は、感染性と相関しない、すなわちヒトには移さないといわれています。後述する台湾CDCの論文だと、発病5日を過ぎると感染力は無くなると報告されています。

     *白木公康、木場隼人:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察

 2020年5月1日に、JAMA(アメリカ医師会雑誌)に台湾CDC(衛生福利部疾病管制署)のCOVID-19についての論文が掲載されました。 台湾はどこかのインチキ検査大国とは異なり、世界で新型コロナウイルス感染症の制圧に最も成功している国です。

 この論文の骨子は、①接触者の追跡は、発病4日前まで行わなければならない。②COVID-19は、発病する前からから発病後5日までは感染する(それ以降は感染しない)。 ③コロナの2次感染の期間は、4~5日という内容です。(西伊豆カンファレンス、仲田医師のまとめ

 また、台湾では、COVID-19の流行が始まる時、公衆衛生医師を中心に強力な権限を持つ中央司令室を設置し、 ②国民健康保険と入国検疫データベースをわずか1日でリンクさせ、病院の外来で旅行の有無がわかるようにし、③感染させる可能性のあるハイリスクの人には、自宅で14日間、隔離してもらう。そして、違反者には罰金107万円を課したそうです。④また、マスクの価格を1枚29円とし、不当利益をかすめ取ろうという輩には、禁固最大7年、罰金1,770万円を課したそうです。(西伊豆カンファレンス、仲田医師のまとめ、)

 その結果は、台湾は2020年6月9日現在、感染者443人、死亡者7人と、世界で最もCOVID-19を完全にに制圧した国と高く評価されているのです。(テドロスのWHOは、ことごとく台湾を無視してきました。)

   *Hao-Yuan Cheng, et al: Contact Tracing Assessment of COVID-19 Transmission Dynamics in Taiwan and Risk at Different Exposure Periods Before and After Symptom Onset  
   *C. Jason Wang ,et al: Response to COVID-19 in Taiwan Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing

  *仲田和正:台湾のCOVID-19感染ダイナミクス JAMA Internal Medicine, May1, 2020

 *台北駐日文化経済代表処:台湾の新型コロナ対策、アメリカの医療雑誌で紹介される

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③症状 

 まず発熱や呼吸器症状(咳、喉の痛み、鼻水など)や頭痛、全身の倦怠感などが起ります。嘔吐、下痢は少ないようです(全患者の10%未満の報告が多い)。

 また、この時期に味覚障害、嗅覚障害を訴える患者さんも多いようです。イタリアでは、約30%の患者が味がわからない、臭いがしないと訴え、特に女性や若い人に多かったと報告されています。ただし、味覚障害・嗅覚障害は他のウイルス感染症でも起こること、COVID-19の症状だったとしても2週間ぐらいで軽快することが多いため、それほど心配しなくても良いと、耳鼻科学会が声明を出しています

  
*嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染症についてー耳鼻咽喉科からのお知らせとお願いー

 病初期はかぜと区別はつきません。そもそもかぜの15%は、別種のヒトコロナウイルスが原因なのです。普通のかぜならば、2~3日で快方に向かいますが、新型コロナウイルス感染症では1週間ぐらいかぜ症状がとれず、味覚嗅覚障害や異様なだるさが続くことが特徴とされています。
 
 1週間ぐらいで80%の人は、症状は治まり治ります。しかし、20%の人は1週間過ぎたあたりから逆に咳がひどくなり、胸が苦しくなり肺炎になります。

我が国のCOVID-19死亡率。10歳前は0%。80歳以上は12%。

 さらにその一部の5%が重い肺炎に進展し、集中治療が必要になり、生命が危険になります。特に、重症化のリスクのある人、高齢者、基礎疾患を持つ人(心血管疾患、糖尿病、悪性腫瘍、慢性呼吸器疾患など)、肥満、喫煙者は要注意と言われています。

 この急激に症状の悪化する、COVID-19の重症化のメカニズムについては、最近明らかにされてきていました。サイトカインストームと血栓塞栓症の存在が、深刻化のカギとなるようです。

①サイトカインストーム

 まず、サイトカインストームから見ていきます。最初に、次の動画をご覧ください。(特に2:40~のあたり)

     コロナウイルスとは何か & あなたは何をすべきか

 サイトカインとは、タンパク質からできている、主に白血球などヒトの免疫細胞から分泌される、「情報物質」のことです。タンパク質からできてい伝書鳩のようなもので、さまざまな種類があり、細胞間で頻繁に行き来しています。

 このサイトカインはいろいろな種類の免疫細胞(白血球やマクロファージなど)から発出されており、一つのサイトカインは多彩な機能を持っています。また、同じような働きのサイトカインも複数存在します。

 このサイトカインの主な働きは、白血球(好中球やTリンパ球、Bリンパ球などが含まれます)などの免疫細胞に働きかけ、これらの細胞の働き(免疫機能)を強化・活性化したり、ある場所(炎症部位)に呼び集めたりします。集まってきた免疫細胞は、同じようにサイトカインを分泌して、他の免疫細胞にも働きかけを行います。そして、お互いネットワークを作り、あるときは協調し、あるときは相手の働きを抑えたりして、相互に作用しあうことで、がんや病原体など、からだにとっての「異物」と戦っているのです。

 サイトカインには多くの種類があります。代表的なものは、インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)、ケモカイン(CCLなど)、コロニー刺激因子(顆粒球コロニー刺激因子:G-CSF、エリスロポエチンなど)、腫瘍壊死因子(TNF)、増殖因子(EGF、FGF、TGF-βなど)などがあげられます。

 中でもTNF-α(腫瘍壊死因子)、IL-1(インターロイキン1)、IL-6(インターロイキン6)は体の中で炎症を起こすため、炎症性サイトカインと呼ばれます。一方、IL-10(インターロイキン10)やTGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)などは逆に炎症を鎮めるため、抗炎症性サイトカインと呼ばれます。

 このうち、炎症性サイトカインは、マクロファージとTh1細胞(ヘルパーT細胞というリンパ球の一つのグループ)から、抗炎症性サイトカインはTh2細胞(ヘルパーT細胞というリンパ球の別のグループ)から、それぞれ産生されます。炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの2つのサイトカインは、アクセルとブレーキの働きを担っていて、炎症反応を全体として調節しているのです。

 このサイトカインの働きが活発になると、からだの症状として、発熱や倦怠感、頭痛、凝固異常(血が止まらなくなる)などが起こります。しかし、これらの症状は不快ですが身体を守るための防衛反応であり、身体に異常が起きているのを知らせるシグナルという意義も持っているのです。

 しかし、免疫反応が激烈になると、IL-6などの炎症性サイトカインが際限なく大量に放出された状態となってしまいます。この状態を、サイトカイン・ストーム(サイトカインの嵐、免疫暴走)と呼びます。

 サイトカインストームが起こると、綿密な指令に基づいて、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスの上で、感染した細胞だけに向けられていた免疫細胞の攻撃が、手当たり次第に健康な細胞にも向けられるようになります。その結果、健康な正常組織まで大規模に傷害され、全身状態の急激な悪化や血栓形成(血管の中に小さな血の塊ができて、血管を塞ぎ、組織が障害される)が起こります。

 心筋梗塞、肺塞栓、脳梗塞、下肢動脈塞栓(血栓で足の微小な血管が詰まってしまい、激痛や潰瘍ができる)などが起こると、最終的には死に向かうこともあります。

   
参考:*コロナ患者、本当にこわい「免疫システムの暴走」

 新型コロナウイルス感染症のサイトカイン・ストームを防ぐために、炎症性サイトカインIL-6の働きを抑えるトシリズマブのようなIL-6阻害薬の投与が、現在検討されています。

②新型コロナウイルスによる血栓形成

 SARS-CoV-2が肺から血液内に侵入すると、ウイルスは血管にある内皮細胞のACE2のリセプターに接着し、細胞を壊します。傷つき炎症を起こした血管の周囲に、小さな血の塊り(血栓)ができます。この血栓が、小さな血管を塞いで、詰まらせてしまいます。血栓が心臓や肺の血管に詰まると、心筋梗塞や肺梗塞になり、重症化します。ウイルス性の肺炎があれば、さらに悪化し、死亡するリスクが高まります。

 また、欧米では川崎病類似の症状を示す、COVID-19の報告が行われていますが、我が国では今のところ、そのような例は見られないようです(日本川崎病学会の声明はこちら)。血栓形成が関与している可能性があるかもしれません。

      
 *図は忽那賢志「総説 新型コロナウイルス感染症」から転載

   参考:峰宗太郎;どんなウイルスで、どのように感染するのか? 新型コロナウイルスのそもそも論

       日本川崎病学会、日本川崎病研究センター:川崎病とCOVID-19に関する報道について

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Ⅱ.新型コロナウイルスSARS-CoV-2の診断

 「ケンサ!ケンサ!」と検査の意義も限界も種類もわからないまま、馬鹿の一つ覚えのように、マスコミに煽られて大騒ぎしている人達がいます。

 COVID-19の検査を行なうことは、治療管理を行うための単なる手段に過ぎません。ただの臨床検査を、何かそれ自体がとても素晴らしい、神聖で重要な儀式だと褒め称えることは、全く無意味で愚かなことです。

 しかも、韓国など特定の国名を出して、「見習え」などと妄言を吐くのは、我が国の医療を馬鹿にしているとしか思えません。日本の医療体制は世界で最も優れており、新生児死亡率は世界最低、平均寿命も世界最高レベルです。日本の医療がしっかりしているからこそ、COVID-19においても世界最小の死亡率で踏みとどまっているのです。

 少なくても日本の医療陣は今総力を挙げて、新型コロナウイルス感染症の脅威に立ち向かい、感染爆発が起こらないよう、必死で感染症の最前線を支えているのです。知ったかぶりをして現場の苦労など知ろうともせず、医療を混乱させるだけの馬鹿げた戯言を吐きまくる、ワイドショウのクズどもを本当に何とかしてほしい。

 日本の医療陣は、前方の新型コロナウイルス感染症の脅威とともに、後方で足を引っ張り続けるマスコミに棲息する馬鹿どもの猛毒とも戦わなければならないのです。

参考:
テレビ朝日に出演しました
ベルギーから一時帰国中の心臓外科医の澁谷医師が、テレビ朝日の朝のニュース番組「グッド!モーニング」でコロナウイルス診療について、インタビューされた内容について語っています。(一部抜粋。原文はこちら))

カットだけならまだいいのですが、僕がヨーロッパ帰りということで、欧州でのPCR検査は日本よりかなり多い(日本はかなり遅れている)といった論調のなかで僕のインタビュー映像が使用されて、次のコメンテーターの方の映像に変わっていき、だからPCR検査を大至急増やすべきだ!というメッセージの一部として、僕の映像が編集され、真逆の意見として見えるように放送されてしまい、とても悲しくなりました。

 →テレビ朝日の卑劣なヤラセ対応はこちら。

本当のことを知ってください! ~新型コロナウイルス感染症についてテレビ朝日を筆頭に、テレビの風評被害に苦しむ現場の医師の訴えです。

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①PCR検査

 
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の最も正確な検査は、PCR検査です。

 PCRはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、その細胞に特徴的な遺伝子の部分を探し出して、その部分を特殊な器械を使って、処理を行い、増幅させて、目に見えるように拡大して検出する検査方法です。

 なつかしい高校生物に、わかりやすいPCR法の解説を見つけましたので、ご紹介いたします。→ 【高校生物】 遺伝17 PCR法

 PCR法で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)しか持っていない遺伝子部分が陽性になれば、SARS-CoV-2が存在しているという証拠になります。ただし、PCR法はこの遺伝子部分の検出率があまり高くないため、本当は陽性なのに陰性になってしまう(検出できない)偽陰性が多く出るのが欠点です。

 PCRの感度(陽性率)は残念ながら、良くみても70%ぐらいです。すなわち、10人の患者がいると3人は本当は感染しているのに、検査上陰性の結果が出てしまうため、注意が必要です。

 *朝日新聞が信奉してやまない、韓国の素晴らしい検査キットは、SARS-コロナウイルス-2が100%検出可能な、医学的には考えられない、想像を絶する素晴らしい検査キットのようです。

 また、 従来のPCR検査は、煩雑なRNA抽出作業が必要で、多くの時間と労力、検査方法に習熟した技術者が必要でした。そのため、大量の検体を処理できず、技術者が足りないため、増大する検査ニーズに必ずしも十分に対応しきれていませんでした。(我が国はどこかの国のように、いい加減な粗製濫造とはレベルが異なります。)

 現在、新しい検査キットが次々と登場し、検査処理能力の拡大が期待されています。そして今、一番期待されているのが以下のご紹介する島津製作所のnCoVキットです。



島津製作所:「nCoV 2019新型コロナウイルス検出試薬キット」

 2020年4月20日に発売された、PCR検査キットです。

 現在使われているPCR法による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出では、鼻から検査棒を挿入し、 鼻の奥の検体を取り、この検体からSARS-CoV-2の遺伝子=RNAを抽出して、さらに加熱などの煩雑な作業を行う必要がありました。 そのため、大量の検体を処理することが、物理的にも時間的にも困難だったのです。

  島津製作所の2019新型コロナウイルス検出試薬キットは、検査する材料を直接PCRの反応液に加えることができます。キットには必要な試薬が全て含まれており、下図に示したように、全て工程を70分で終了できるそうです。

  
 
 煩雑なRNAを抽出することなどの作業が不要のため、検査スタッフも少数で済み、検査ミスのおこりやすい処置も少ないという長所があります。しかし、このキットの使用には、PCR装置や分注ピペット、小型遠心機などの機材が必要なため、検査会社や保健所で行われることになるようです。十分な感染予防処置が執れないため、開業医療機関では、検査は施行できません。

 このキットの開発には、ノロウイルスなどの病原体検出試薬の開発を通じて培った島津製作所独自の技術を活用されたそうです。
(写真、図は島津製作所HP 2020年4月10日: プレスリリースより)



栄研:「Loopamp 2019-nCoV 検出試薬キット

 2020年3月18日に、栄研化学は新型コロナウイルス検出キット「ルーパンプ2019-nCoV検出試薬キット」を発売しました。

 この検査キットは、LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)によって、検査を行います。LAMP法は小児科医にとって、マイコプラズマや百日咳の臨床検査でおなじみの検査方法です。

 LAMP法はまず、4種類のプライマー(FIP、F3、BIP、B3)と鎖置換型DNAポリメラーゼ、基質(デオキシヌクレオチド3燐酸)、反応緩衝液、逆転写酵素のセットで、検査試薬を作ります。

 この検査試薬に、鼻咽頭の拭い液や喀痰の検体から抽出したRNAを入れて、『リアルタイム濁度測定装置LoopampEXIA』という器械で65℃に温め、35分間で新型コロナウイルスを検出する、という検査方法です。

 LAMP法はPCR法に比べると、65℃の決められた温度で反応が進むため、煩雑な操作がいらないという利点があるようです。

 また、反応の増幅のスピードも速く、標的以外のものが増えにくい点も優れています。現在百日咳、マイコプラズマなど、すでにいくつかの感染症で実際に臨床の場で使われている測定方法です。(→LAMP法の原理

      (写真は糖尿病リソースガイドより)

 今、二つの検査キットを紹介しましたが、現在使用中や発売予定のSARS-CoV-2の検査キットの一覧です(下表。2020年4月13日現在)。これらにキットを用いて、今後SARS-CoV-2の検査は、必要な場合に一段と速やかに実施できるようになると期待されます。

  *4月24日に杏林製薬の「SARS-CoV-2 GeneSoC ER 杏林」が発売になりました。(報道はこちら
  *5月8日に富士フイルム和光純薬は「ミュータス和光g1」用検査試薬の発売を始めました。(報道はこちら
  *その後も続々と新しい製品が登場しているようです。

製品名 発売元 検査方式 製品 検査時間 感染研との一致率 発売日
LightMixR Modular
SARS-CoV(COVID-19)
ロシュ・ダイアグノスティックス PCR 研究用試薬 3時間半 100% 2月4日
新型コロナウイルス検出
RT-qPCRキット
シスメックス PCR 体外診断用
医薬品
2時間半 100% 3月30日
FLUOROSEARCH Novel Coronavirus
(SARS-CoV-2)Detection Kit
医学生物学研究所 PCR 研究用試薬 2時間20分 100% 3月27日
Loopamp 2019-nCoV
検出試薬キット
栄研 LAMP 体外診断用
医薬品
55分 陽性90%、陰性100% 3月18日
SARS-CoV-2
GeneSoC ER 杏林
杏林 PCR 研究用試薬 35分 陽性90%、陰性100% 4月24日
Smart Amp 2019
新型コロナウイルス検出試薬
ダナフォーム SmartAmp 研究用試薬 50分 陽性90%、陰性100% 3月19日
新型コロナウイルスRNA検出試薬
Genelyzer KIT
キャノン LAMP 研究用試薬 30~40分 陽性90%、陰性100% 未定
2019新型コロナウイルス
検出試薬キット
島津製作所 PCR 研究用試薬 70分 100% 4月20日
SARS-CoV-2DetectionKit  東洋紡  PCR 研究用試薬  1時間  不明 4月13日



抗原検査

 
抗原検査は抗体検査とは異なり、病原体を調べる検査です。病原体を検出するという点では、PCR検査と同じです。

 ヒトの体に侵入してくる病原体(ウイルス)の遺伝子(RNA)をそのままでは見えないため、数百万倍から数十億倍に特殊な装置で増幅して、目に見えるようにして、診断するのがPCR検査です。

 これに対し、病原体のタンパク質を免疫反応を利用して、目に見えるように着色して診断するのが、抗原検査です。PCRが遺伝子を増幅して検査するため、鋭敏に病原体を検出できるのに対し、抗原検査は抗原の量が少なければ、そのまま陰性になってしまいます。したがって、PCRより、感度が下がるのが、欠点です。

 
参考:みらかホールディングズ:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原迅速診断キットの製造販売承認申請について


③抗体検査・イムノクロマト検査

 PCR検査やLAMP法は、鼻咽頭拭い液や痰中に含まれる、ウイルスの遺伝子の特徴的な部分をいろいろな処理方法で目に見える形に増やして、器械を使って検出する方法でした(遺伝子増幅法といいます)。



①抗体検査

 これに対し、病気になると身体の中に病原体と戦う免疫物質(液性抗体=免疫グロブリン)ができるので、それを検出するのが抗体検査です。抗体検査には、イムノクロマト法や酵素抗体法(ELISA)などの測定法があります。

 病原ウイルスが体に侵入すると、まず免疫グロブリンM(IgM)が作られます。これは、感染初期1週間、まず感染を広げないように戦う初動部隊です。その後、正規軍である免疫グロブリンG(IgG)が出動してきます。そして、このIgG が病原ウイルスを体の外に追い出します。

 さらに、再び病原体が侵入してこないように、IgGはつねに血液中を巡回して、警戒します。免疫がついたかどうかは、このIgGを調べるのです。IgMは感染後数日から高くなり、1週間がピークとなり、減少していきます。IgGは感染後、2~3週から高くなり、髙値を持続します。

IgGは1ユニット。IgMは、5ユニットが集合した形をしています。
(http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/koutai.pdf)
まずIgMが血液中に増加します。2~3週になると、IgGが増えてきます。
IgMは2週ぐらいで消失していきます。
柳田絵美衣

 
 免疫グロブリンを調べることは、感染後すぐには抗体は上昇しないため、感染早期の診断を行うことはできません。あくまで、感染後1週間ぐらいして、抗体ができたかどうかを調べる検査であり、早期診断には不向きで、病気の早期診断はできません。

 しかし、COVID-19は、感染から発症までの潜伏期間が5日ぐらいで、さらに発病してから1週間程度経過した後に、症状が急変し重症肺炎に陥るという長い経過をとるため、早期診断が出来ない抗体検査でも病気の診断が間に合うと考えられます。

 しかも、抗体検査は採血手技で検体を採取するため、採取時のエアゾル飛散などの二次感染リスクは比較的低いと考えられます。そのため、十分に感染防御に気をつければ、診療所でも検査は可能です。

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②イムノクロマト法(抗体検査の測定法)

 イムノクロマト法の原理は、セルロース膜上を検査材料が試薬を溶解しながら、ゆっくりと流れる性質(毛細管現象)を応用した免疫測定法による抗体検査です。

 測定原理は、まず検体(血液など)をキットの左端に垂らします。検体中の抗原(病原体)は、下図のようにキットの左端にあらかじめ置かれていた、金属コロイドなどで標識された標識抗体と免疫複合体(反応物)を作ります。

 この免疫複合体はキットの台上を右側に移動ていきます。そして、帯状のキャプチャー抗体が置かれている部位で免疫複合体が反応を起こします。反応が起これば、この部位が着色し、ラインとして見えるようになります。反応が起きなければ、ラインが浮き出ず、元のままということになります。このラインの有無で陽性か、陰性か、判定します。


    

(AcuteCare イムノクロマト法 免疫検査の基礎原理:https://www.acute-care.jp/ja-jp/learning/course/immunoassay/ria/ic)


イムノクロマト法のメリットとしては、
 ①目でみて、陽性か陰性か、判定できる。
 ②特別な装置を必要とせず(読み取り器械を使う機種もあります)、操作が簡単。
 ③キットの保管方法が多くは室温保存で、手間がかからない。

デメリットとしては、
 ①目視による判定のため、微妙なラインなど判断に迷う場合がある。
 ②測定時間を厳守しないと、正確な判定ができないこともある(時間が経ってから、陽性ラインが浮き出てくることがあります)。
があげられます。

 
イムノクロマト法によるSARS-CoV-2ウイルス特異抗体検出法は、小児科外来でも簡単に検査することが可能なため、一般医療機関でも早急に実施できる体制整備が強く望まれます。しかし、現在まだ精度に問題が多く、満足すべき検査キットは市場に上梓されておりません。したがって、現状では誤判定のリスクも高く、安易に抗体検査を行うべきではありません。

 現在、先走って、IgG のみの欠陥抗体検査を大々的に宣伝し、営業活動をしている(1回5500円だそうです)クリニックがあります。ここは、TBSテレビ御用達の「感染症に詳しい」コロナ商人が経営する「クリニックチェーン店」で、以前も、5分間3000円のコロナ電話相談を行っていました。

 公共放送を自分のクリニックの営業に利用し、評価の定まらない抗体検査を宣伝するのは、放送法上、問題にならないのでしょうか。

 4月23日、日本感染症学会は海外で使用されている4種類のCOVID-19抗体検査キットを性能評価し、「診断への活用は推奨できない」と発表しました。(くわしくはこちら
 
 また、アメリカFDAも、現在の抗体検査は診断を行うものではない、と声明しています。

 次に引用するNEJM(The New England Journal of Medicineはアメリカの最も権威ある医学誌です。)の短報は、抗体検査の乱用に警告を発しているFDAの声明文を伝えています(FDA声明)。


April 20, 2020 FDA Warns Providers About Limits of SARS-CoV-2 Antibody Tests

By Amy Orciari Herman           Edited by David G. Fairchild, MD, MPH, and Jaye Elizabeth Hefner, MD

The FDA late last week issued a letter warning healthcare providers about the limits of serological tests to detect SARS-CoV-2 antibodies. The agency is urging clinicians to "not use serological (antibody) tests as the sole basis to diagnose COVID-19 but instead as information about whether a person may have been exposed."

In mid-March, the FDA "provided regulatory flexibility" for test developers, the agency noted, which has resulted in scores of antibody tests quickly hitting the market without the agency's usual review. As of April 18, just four antibody assays had received emergency use authorization from the FDA.

The agency said it "is not aware of an antibody test that has been validated for diagnosis of SARS-CoV-2 infection." The tests measure IgM or IgG antibodies, but IgM antibodies may not develop at all, and IgG antibodies usually don't develop until later in the disease process. Therefore, using such tests to diagnose COVID-19 will miss infections.

A New York Times story details the low accuracy seen with many of the tests on the market — sometimes as low as 20–30%. Not only do they miss infections, but most tests "detect" antibodies in some people who don't have them. One infectious disease expert told the Times: "People don't understand how dangerous this test is. We sacrificed quality for speed."


 信頼できる抗体検査キットが登場し、一般のクリニックで正規の保険診療として、検査→投薬というインフルエンザ診療と同じようなスタイルで、新型コロナウイルス感染症の診療が行える日が、一日も早く来ることが強く望まれます。

 以下は現在、我が国で使用できる抗体検査(イムノクロマト法)の紹介です



クラボウ「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット

 中国からの輸入品のようです。血液中の新型コロナウイルス抗体(IgM,IgG)を迅速に検出します。
 操作手順は、①検体の添加 ②検体希釈液の添加 ③15分程度静置 の3ステップで、ラインの有無を目視で確認することで結果を簡単に判定できるそうです。(→操作ビデオ

 *ただし、このキットは中国製のため、信頼度に注意が必要です。アメリカFDA(The U.S. Food and Drug Administration) が使用を認めた4つの抗体検査キットの中に、この中国製のキットは入っていませんでした。



デンカ:「新型コロナウイルス感染症の簡易検査キット」
 
 現在、開発中のようです。「新型コロナウイルス感染症の簡易検査キット開発状況について」報道発表はこちら

  *FDA、12種類のSARS-CoV-2の抗体検査キットを評価

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参考:
国立感染症研究所:迅速簡易検出法(イムノクロマト法)による血中抗SARS-CoV-2抗体の評価

柳田絵美衣:15分で検査結果が出る「新型コロナウイルス抗体検査キット」とは?

柳田絵美衣:新型コロナウイルス検査 「PCR検査」と「抗体検査キット」の違いは?


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Ⅲ.新型コロナウイルス感染症の集中治療と治療薬

 次に新型コロナウイルス感染症COVID-19の治療薬について、見ていきたいと思います。いくら、検査を行っても、治療が出来なければ新型コロナウイルス感染症は制圧できません。現在、いくつかの治療薬が有力な候補として、検討されています。


①治療

人工呼吸

 SARS-CoV-2は呼吸器に感染し、肺炎を起こし、しばしば致命的になります。重症肺炎に進展し、呼吸不全が進行すれば、①ネーザルハイフローHFNC、②非侵襲的陽圧人工換気NPPV、③侵襲的陽圧人工換気IPPVなどの呼吸管理が行われます。通常の呼吸で十分な酸素が供給できなくなれば、人工呼吸器の力を借りて、酸素を補給し、炭酸ガスを排出します。エアゾルの発生に注意して、呼吸管理を続けます。

①鼻から高圧酸素を流入させます。 ②気管挿管などはせず、マスクで人工呼吸を行います。



エクモ ECMO (Extracorporeal membrane oxygenation)

 
エクモとは、「体外式膜型人工肺」のことで、血液を体の外に一度抜き出し、人工肺で酸素を加えて、炭酸ガスを逃がし、再びその血液を体の中の血管に戻す装置のことを言います。

 右図のように、一度血管の中に太いチューブを通して、ポンプの力で大量の血液を体の外に抜き出し、膜型人工肺Oxygenatorで酸素を溶け込ませ、炭酸ガスを取り除き、動脈血のように酸素が十分含まれた血液にして、再び太いチューブから体の中に戻します。

 ちょうど血液透析と似ていて、透析では腎臓の代わりに人工腎臓(透析装置)が老廃物を血液中から洗い出しますが、人工肺は肺の代わりに酸素を血液に加えます。

 この間に、肺と心臓を休ませ、肺が回復するまでの時間稼ぎをするのがエクモの役目です。したがって、肺が回復しないとエクモから離脱することは出来なくなります。エクモは究極の治療では無く、あくまで生体が回復するまでの緊急避難的な、しかし最強の治療です。エクモを行えば、誰でも助かるわけではありません。

 また、血液を良い状態に維持しつつ(血が止まらなくなったりします)、体の状態を安定させながら、エクモを続けることは極めて高度な全身管理が要求され、エクモに習熟した最高レベルのスタッフが必要とされます。そのため、どこでも無制限にエクモを実施できるわけではありません。


(図はTamim Hamdi et al:Review of Extracorporeal Membrane Oxygenation and Dialysis-Based Liver Support Devices for the Use of Nephrologistsより転載)


その他の管理

 適切な輸液管理(点滴)と昇圧剤(ドパミン、ドブタミンなど)による循環管理が重要です。

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②治療薬

ファビピラビル(アビガン)

①効果と作用機序
 ファビピラビル(アビガン)は経口薬です。使用量は、初日が1800㎎ずつ(200㎎錠剤を9錠)を1日2回服用、2~5日目は1回800㎎(200㎎錠剤を4錠)を1日2回、最大14日間服用します。

*新型インフルエンザ感染症では、アビガン投与量は初回1600mg-維持量600mgでしたが、新型コロナウイルス感染症では初回1800mg-維持800mgに増量されているようです。(日本感染症学会の「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方第1版」)

 インフルエンザウイルスなど、ウイルスのグループは細菌(一応、植物に分類されています)とは異なり、自分で増殖することが出来ず、他の動物の細胞を利用して、自己を増やします。

 この増殖過程のうち、ヒト細胞内に侵入したインフルエンザウィルスのRNAはヒトの細胞に侵入すると、ヒト細胞内の核に入り込み、ヒトの細胞成分を利用して自分の複製を作らせます。

 ファビピラビルはこの作業を行う、インフルエンザウィルスのRNAポリメラ-ゼの働きを抑えることで、インフルエンザウィルスの複製、増殖を防ぎます。
 (役に立つ薬の情報~専門薬学:アビガン(ファビピラビル)の作用機序:抗インフルエンザ薬

 ファビピラビル(アビガン)はもともと新型インフルエンザウイルス感染症のパンデミック対策の治療薬として、富山大学の白木公康教授のグループと富山化学(現富士フイルム)によって作られた抗インフルエンザウイルス薬です。

 開発当時、アビガンは新型インフルエンザパンデミックの時、人類を救う切り札として大きな期待がかけられました。

 ところが、マウスの動物実験で催奇形性が認められたため、新型インフルエンザパンデミックの時、他の薬が効かない場合にのみ使用という制約の下で、非常用パンデミック対策として備蓄されることになりました。


 しかしこの薬は、RNAポリメラ-ゼを阻害する作用があるので、インフルエンザウィルス以外にも、ノロウイルス、エボラウイルスなどのRNAウイルスにも有効で、フランスに輸出され、アフリカ、ギニアのエボラ出血熱患者に使用されました。

 そして、今回、やはりRNAウイルスの仲間である新型コロナウイルスにも効果があるか、治験が始まったのです。

   *塚崎朝子:「アビガン」で新型コロナは迎撃できるか…素朴な疑問に答える 期待のインフル治療薬・誕生秘話

②副作用

 動物実験で胎児が死亡したり、催奇形性の報告があったため、新型インフルエンザ対策の備蓄用薬剤として認可はされたものの、一般診療で抗インフルエンザ薬として使用はできませんでした。

 もしもアビガンが新型コロナウイルス感染症に投与が可能になれば、生殖年齢の女性の場合は投与前に妊娠していないことを確認した上で、服用期間中及び投与終了後7日間は避妊をしなければならない、とされています。男性もまた、精液中へ移行することから、投与期間中及び投与終了後7日間までは避妊(必ずコンドームを着用)すること、妊婦とは性交渉を持たないことが必要です。
 
 その他の副作用としては、尿酸値が上昇するため、痛風の症状を悪化させる可能性があります。

 また、大きな錠剤を最初の日は朝、夕それぞれ9錠ずつ服用しなければならず、高齢者には少し負担になるという場合もあるようです。(この時はお湯で溶いて、胃チューブで胃に注入してもよいそうです。
COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方第1版」)

 アビガンは、妊娠可能な女性以外の服用は、あまり問題はありません。特にCOVID-19は、高齢者が重症になるリスクが高いため、認可されれば、高齢者を中心に、幅広く使用されることになると思われます。


 
一部で声高に叫ばれているアビガンの催奇形性も、動物実験で観察されたもので、当然ですが人間での報告ではありません。動物実験で催奇形性が認められ、妊婦の禁忌薬はビタミンAを始め、多数報告されています(主な医薬品一覧)。アビガンだけの副作用ではありません。

 また、すでにアビガンは中国、日本で多数の臨床使用例が蓄積されていますが、現在の所、目立った副作用の報告はありません。




③COVID-19に対する臨床効果


 日本全国でアビガンを投与し、治療効果があったという報告が相次いでいます。

 4月18日の感染症学会シンポジウムでもアビガンの臨床例の報告があり、藤田医科大の土井洋平教授は、国内の約200の医療機関でアビガンを投与した約350例の治療効果のまとめを行い、軽症例の90%、人工呼吸器が必要だった重症例の60%に、薬を飲み始めてから2週間後に症状が軽快したと報告しました。5月現在、すでに3000例以上に使用されています。ただし、重症例では救命できなかった例もあり、軽症~中等症を中心に、重症化予防を目的に使用されることになりそうです。

学会で治療薬の状況報告 「アビガン」などで改善例も

日本感染症学会、新型コロナウイルス感染症、症例報告から


参考: PMDA:アビガン錠200mg 

   役に立つ薬の情報~専門薬学:アビガン(ファビピラビル)の作用機序:抗インフルエンザ薬

   東京新聞:「命救う薬に」コロナへの効果期待 アビガン開発者に聞く
    …あの東京新聞が、驚くことに良質な記事を掲載しています。東京新聞にも、まともな記者がいることを知ってびっくりしました。
 

   WIRED:Nature,期待の抗インフルエンザ薬「アビガン」は、新型コロナウイルスとの闘いで人類を勝利に導くか

   【識者の眼】菅谷憲夫「COVID-19流行は緊急事態─今こそ、ファビピラビル(アビガン®)の使用を解禁すべき」

   ミヤネヤ:出演した白木教授に対する宮根の仕打ち(YouTube)
   …マスコミ司会者である宮根誠司サマが、アビガンを作った白木教授を馬鹿にしきった態度で、話もろくに聞かず、上から目線であしらっています。
   おそらく、この時点では、白木教授を「小物」だと思っていたのでしょう。相手の実績とか、人格では無く、はったりと虚名があるかで人を判断する、
   ワイドショウ司会者の下劣でさもしい本性がよく出ていますね。



④問題点

 アビガンは現在いくつかの問題を抱えています。

 第一は、中国の動きです。2020年3月17日、中国の科学技術省主任はファビピラビルの臨床試験で良好な結果を得たとし、「今後、中国内の医療機関に対し、患者の診療ガイドラインへの掲載を推奨する」などと語りました。ファビピラビルはロピナビル・リトナビル(カレトラ)との比較試験において、ウイルス排出期間を短縮し(4日 対 11日)、X線で改善が見られ(91.43% 対 62.22%)、さらに安全性にも問題がなかったと発表しました。ところが、何故かこの論文は撤回されました。しかし、中国政府は現在も、アビガンの大量生産を続けています。

 富士フイルムはすでに2016年6月に、中国の大手製薬企業である浙江海正薬業とファビピラビルの特許ライセンス契約を締結し、開発・製造・販売する権利を供与していましたが、その契約は既に終了しました。したがって、浙江海正薬業などはファビピラビルの後発品を自由に大量に作り、世界に供給できるのです。

 中国が製造するファビピラビルの後発品「法匹拉韋」が、日本の「アビガン」と世界中でシェアを奪い合う、新幹線の受注合戦のような、悪夢のような状況が生まれる危惧が高まっているのです。すでに、中国はファビピラビルの後発品を、トルコに提供し始めています。

 作ったのは日本だが、世界に供給し、利益を上げるのは中国という、馬鹿げた展開が現実味を帯びてきているのです。

 第二は、薬の副作用をあげつらい、世の中を混乱させることが自分の生き甲斐だと信じきっている、狂信的な薬剤反対カルトの妨害活動です。彼らは今息を潜めて、虎視眈々と出番を待っています。 少しでも、アビガンに副作用の報道が出たら、宮根某や恵某と言ったワイドショウの頭がカラのゲス司会者を煽り立てて、大騒ぎさせようと今から腕まくりをして待ち構えているはずです。

 彼らの煽りで大騒動になったタミフルは、医師が自由に処方できるようになるのに11年もかかりました。やはり大騒ぎしたHPVワクチンは、未だに呪縛は解けず、接種の勧奨が再開されていません。

 「麻疹で何人死のうが関係ない。我々が問題にするのは、麻疹ワクチンの副作用だけだ。」と言い放った、人間のくずのような新聞記者が現実にいました。今ワイドショウで口泡飛ばして、「アビガン、アビガン」と騒いでいる連中も、万が一、アビガンがマスコミから集中砲火を浴びる事態になったら、まっさきに逃亡するか、相手陣営に寝返るでしょう。「私は副作用のことは知らなかった。」などと言いわけしながら、変わり身早く…。

 すでに薬害カルトの蠢動は始まっており、4月25日の毎日新聞の松本光樹署名の記事など、アビガンの問題点をあげつらい、足を引っ張る工作が各所で散見されるようになってきました。松本クンは毎日新聞の大先輩の次の良書を、ぜひ熟読されることをお勧めします。(小島正美:メディア・バイアスの正体を明かす

 第三は国内の新たな反対勢力の登場です。

 日本医師会COVID-19有識者会議は5月18日に、 「新型コロナウィルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」を発表しました。
 この声明は、まず特例承認されたレムデシビルを、「周到な研究デザインで有効性が実証され、今後COVID-19に対する標準治療薬と位置づけられる」と大絶賛しています。「しかし、COVID-19の特効薬に位置づけられるかどうかは、肝障害などの副作用の問題もあり未知数で、承認後も慎重に適正使用を心がけ、未知・重篤な副作用が生じた場合は、速やかな報告が必須である」そうです。

 そして、「レムデシビルは、元来エボラ出血熱を標的として開発された薬剤のため、世界のいずれの国においても薬事承認取得には至っておらず、今回の COVID-19を適応症として初めて承認を得た新薬のため、治療薬として使用するためには今回のように早期に承認を得る必要があった」と無理筋の超早期承認を正当化しています。

 そして、後段では、ある「既存薬」という表現で、激しくアビガンを否定し、攻撃しています。おそらく、某国際医療なんじゃらの医師が執筆したと思われますが、読んでいて暗鬱になる、憎しみが充満したひどく感情的な声明文です。(原文はこちら

 少し詳しく声明文を読んでみましょう。いわく「
(レムデシビルを絶賛した後、)一方で、現在治療薬の候補として検討されている薬剤には、すでに他の疾患を適応として承認を得ているもの(既存薬=アビガンのこと)もあるが、これらの既存薬は、適応外処方であるものの、日本の医療保険制度のもとでは一律には禁止されておらず、医師の裁量及び患者のインフォームドコンセントにより現時点においてもCOVID-19 に対する処方は可能である。

 いわく「今回のCOVID-19パンデミックは医療崩壊も危惧される有事であるため、新薬承認を早めるための事務手続き的な特例処置は誰しも理解するところである。しかし有事だからエビデンスが不十分でも良い、ということには断じてならない。」。
(→これは当たり前のことです。アビガンを処方する医師も、だれもそんなことは考えていなかったと思います)

 いわく「特にCOVID-19のように、重症化例の一方で自然軽快もある未知の疾患を対象とする場合には、症例数の規模がある程度大きな臨床試験が必要となる。」
(→理想的にはその通りだと思いますが、それなら日本で開発された薬は、国際製薬資本が開発した薬に数のスケールでも資金力でもかなうわけがありません。常に我が国は、国際製薬資本の下請けの地位に甘んじろということなのでしょうか。)

 いわく、「観察研究だけでは有意義な結果を得ることは難しいことを指摘しておきたい。「観察研究により有望とされた事項は、質の高いランダム化比較試験により厳格に確認または否定されなければならない」と述べられているとおり、適切な臨床試験の実施は必須である。一般にランダム化比較試験に患者を登録するよりも観察研究の方が患者の同意も取得しやすい。また試験参加医師の負担も少ない。パンデミック下の臨床研究ではその傾向がさらに顕著である。しかし「エビデンスの判定基準を下げる」という誘惑には抗うべきである。 そうしないと当該薬の有効性は承認前には証明されず、有効かつ安全な治療薬の開発にも悪影響を及ぼすであろう。」
(→ここは何の実績もないレムデシビルを持ち上げるため、多数のアビガンの臨床報告を「観察研究だけでは有意義な結果を得ることは難しい」と切り捨て、さらに一歩踏み込んで「有効かつ安全な治療薬の開発にも悪影響を及ぼす」とまで言い切っています。


 ここから佳境に入ります。この筆者は言います。「有効性を永遠に証明できなかった薬剤は過去に
存在した。科学的に有効性が証明された治療を選ばずに証明されていない薬剤を患者が強く希望したために、治癒するチャンスをみすみす逃した事例が過去にあったことを忘れるべきではない。そして「科学」を軽視した判断は最終的に 国民の健康にとって害悪となり、汚点として医学史に刻まれることなる。最近COVID-19に感染した有名人がある既存薬を服用して改善したという報道や、一般マスコミも「有効』ではないかと報道されている既存薬を何故患者が希望しても使えないのか、と煽動するような風潮がある。 またパンデミック下のランダム化比較臨床試験不要論を主張する医師も存在する。」(→そんな阿呆な妄言を吐く馬鹿ものは、ワイドショウ御用達の「感染症に詳しい」クズ医者だけだと思いますが。)

 「しかし我が国が経験した
サリドマイドなど数々の薬害事件を忘れてはならない。 品質、有効性、および安全性の検証をないがしろにした結果の不幸な歴史をのりこえるべく、今日の薬事規制が存在している。」
(→すごいですね、この執筆者は。アビガンを有効性が永遠に証明されない薬剤、アビガンを服用することは治癒するチャンスをみすみす逃すこと、そしてアビガンを投与することは国民の健康にとって害悪となり、汚点として医学史に刻まれる。決めつけています。)

 そして、サリドマイドまで持ち出して、半狂乱ですね。ただ、サリドマイドをアビガンと結びつける情報誘導が現在、洪水のように流されていますが、サリドマイドの薬害事件の本質は、動物実験で催奇形性を調べていなかったのに、妊婦に発売したこと。外国で認可・承認されているからと、わずか2時間足らずの審査で我が国では製造許可が下り、発売されたことではないでしょうか。


 副作用について十分調査されず、外国で承認されているからスピード認可された経緯は、むしろレムデシビルの方だと思えるのですが。それとなぜサリドマイドなのでしょうか。普通は、ここはイレッサを上げるべきでしょう。何故、イレッサを出さないのか、不思議ですね。

 
こんな駄文が急遽5月18日に発表されたということは、何としてもアビガン承認を阻止したい勢力が蠢いているのでしょうか。

 さらに、5月20日には、今度は共同通信が、
「治療薬アビガン、有効性示せず  月内承認への「前のめり」指摘 (2020/5/20 10:16 )
を報道しました。この前のめりというのは、安倍首相の5月中の承認を目指すと指していると考えられ、非常に政治的なインチキニューズを乱発している、左翼通信社の面目躍如といった内容となっています。

 新型コロナウイルス感染症の治療薬候補アビガンを巡り、国の承認審査にデータを活用できると期待された臨床研究で、明確な有効性が示されていないことが19日、分かった。複数の関係者が共同通信に明らかにした。

 感染した著名人がアビガンの投与後に回復したと公表し、安倍晋三首相は「5月中の承認を目指す」とするが、現時点で薬として十分な科学的根拠が得られていない状況だ。

 アビガンは催奇形性の問題などがあり、専門家からは「効果や安全性を十分確認せずに進むのは納得できない」 「月内の承認方針は前のめりだ」などの声が出ている。

 アビガンは富士フイルム富山化学が開発した新型インフルエンザの治療薬。新型コロナ向けに国の承認を得るには、臨床研究や治験でウイルスの減少や肺炎症状の改善といった効果があるとのデータを示す必要があるが、企業による治験は完了していない。

  企業とは別に、藤田医大(愛知県)を中心に多施設共同の臨床研究を実施。無症状と軽症の感染者を対象としてアビガンの投与時期を変えて比較する内容で、このデータが国の承認審査で活用できると期待されてきた。

 しかし複数の関係者によると、今月中旬に厚生労働省に報告された中間解析結果で、ウイルスの減少率に明確な差が出なかった。研究は今後も続けることが決まった。

 ほかにも全国の医療機関が参加する研究でアビガンが投与された患者約3千例のデータが集まっている。結果は近く公表予定だが、関係者は「審査の補足資料にはなるが、承認の主要な根拠には使えない」と話す。

 白木教授のアビガンが、正確な医学的ファクトのもとに、暗黒勢力に付け入る隙を与えずに、COVID-19で苦しむ患者さんのために、医師が自らの判断で、自由に処方できる日が一日でも早く訪れることが熱望されます。

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シクレソニド(オルベスコ)

①効果と作用機序
 シクレソニド(オルベスコ)は吸入ステロイドの喘息治療薬で、気管支喘息の大人、子どもに普通に使われています。一般診療所でも、使い慣れた吸入薬です。
 
 2020年2月19日、国立感染症研究所コロナウイルス研究室は、シクレソニドが強い抗ウイルス活性を持つことを報告しました。この効果は、他の吸入ステロイド治療薬では認められず、シクレソニドのみがコロナウイルスに対して増殖抑制効果が有していました。

 この作用は、シクレソニドがSARS-CoV-2のもつタンパク質NSP15に働いて、ウイルスのRNA複製を抑制するために起こると報告されています。その結果、SARS-CoV-2が肺の細胞で増殖し、肺障害と肺に炎症を同時に起こすことを、シクレソニドの持つ抗ウイルス作用と抗炎症作用が抑えることによって、重症化しつつある肺傷害の治療に有効であると考えられています。

②副作用

 吸入ステロイドの薬なので、内服薬に比べると、全身の副作用はほとんどなく、発疹、嗄れ声などが報告されているくらいです。現在、気管支喘息の治療管理に普通に用いられている吸入薬です。

③COVID-19に対する臨床効果

 3月2日、日本感染症学会で神奈川県立足柄上病院の医療チームから、ダイアモンド・プリンセス号乗客のCOVID-19陽性肺炎患者3名へ、シクレソニドを投与したところ、3例とも2日ほどで状態が好転した、という症例報告が発表されました。

 この結果を受けて、現在、感染症学会はオルベスコの新型コロナウイルス感染症に対する効果を見るために、臨床試験を行っています。使用量は、200㎍インへラーを1日2回、1回に2吸入ずつ14日間使用となっています。

④問題点 

 オルベスコはドイツのアルタナ社が開発し、現在、帝人ファーマが販売していますが、日本向けのオルベスコ製品は国内では無く外国で製造されており、しかも、製造国は非公開とされています。そのため、帝人の裁量で自由にオルベスコの増産が出来ないようです。しかし、現在帝人が、海外からの輸入の増産に取り組んでいるようです。

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レムデシビル(ベクルリー)

効果と作用機序

 レムデシビルはRNAポリメラーゼ阻害薬です。この作用機序は、アビガンと同様のものと考えられます。

②副作用

 まだ臨床実験という少数の患者に投与された段階での成績では、肝機能障害、下痢、皮膚の発疹、腎機能障害などが見られ、重篤な副作用として全身の多臓器不全、ショック、急性腎障害などが報告されています。
 今後、臨床的に投与されながら、副作用についても慎重に検討されていくことになると思われます。

③COVID-19に対する臨床効果

 レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬です。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに対して、抗ウイルス活性を示すため、COVID-19の治療薬として研究が始まりました。

 レムデシビルは現在、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の医師の主導で臨床試験が行われており、我が国の国立国際医療研究センターもこの臨床試験に参加しています。このNIAID主導の試験は、5月中に終了するようです。

    *AFP:レムデシビル、コロナ治療に「明確」な効果 米発表

     *Nature:エボラ治療薬「レムデシビル」は、新型コロナウイルスの“特効薬”になりうるか

 中国でもやはり、医師の主導でレムデシビルの治験が行われていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行が収まってきて被験者が集められないという理由で、中止となりました。これはおそらく政治的な背景があると考えられます。

 さらに、中国はレムデシビルは効果が無かったという上記治験の結果を、Lancet誌で公表しました。

 これとは別に、製薬会社である米ギリアド・サイエンシズ社が、日本を含む世界各国で第3相臨床試験を行っています。こちらの試験は、COVID-19の重症患者400例が対象のものと、中等症の患者600例が対象のものの2つで構成されており、日本でも4月14日から患者へ投与が行われました。

 現在の標準治療に上乗せする形で、レムデシビルを5日間または10日間投与して有効性、安全性を検証し、重症患者対象の試験結果は4月中に、中等症患者対象の試験の結果は5月に発表する予定だそうです。一部の結果は、発表されました。(
日経:米ギリアド、コロナ薬候補「レムデシビル」で肯定的な結果

 4月10日に、米医学誌New England Journal of Medicine(NEJM)にレムデシビルの投与を受けたCOVID-19患者53人のデータが掲載され、68%の患者が症状の改善を得られたそうです。

 2020年5月に入りアメリカ、日本で緊急で承認されたレムデシビルですが、2020年5月上旬までの臨床試験の結果からは劇的に新型コロナウイルス感染症を改善したり、死亡率を減らす薬ではないように思われます。

 ベクルリー(レムデシビル)は5月7日から特例承認薬として、我が国で使用できるようになりました。
  1.酸素飽和度94%以下(酸素飽和度は体の中の酸素の濃度をみます。酸素飽和度が95%を切ると、低酸素状態と評価されます。)
  2.酸素吸入を要する(1.と同じです)
  3.体外式膜型人工肺(エクモ)導入
  4.侵襲的人工呼吸器管理を要する(人工呼吸参照)

 のいずれかに当てはまる、重症患者が対象となるようです。

④問題点

 我が国では無償供与ではないようで、薬品代が高価になる可能性があります。

      
*当分は無償供与という報道がありました。(2020.5.8)報道はこちら

 また世界各国への配布、米国本国の使用量の確保などのため、当然日本への配分は少量と考えられます。そのため、厚生労働省の役人が流通を管理し、新型コロナウイルス感染症の重症患者を診ている、お気に入りの医療機関に優先的に配分するなど、厚労省のペーパー医者役人のおもちゃになる可能性が危惧されます。また、実際の臨床使用は、ごく限られたものになりそうです。

       *Gem Med:新型コロナ治療薬「レムデシビル」、供給量に限りがあるため厚労省から医療機関に配分

 副作用の強い、使いづらい薬になりそうですが、他に治療方法のない重症患者の症状改善や、治療に要する期間の短縮が期待されます。ちょうど、副作用は強いが、がんを治す効果も期待できる、抗がん剤のような存在になっていくのではないでしょうか。

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ナファモスタット(フサン)

①効果と作用機序

 ナファモスタット(「注射用フサン」)は、蛋白分解酵素を阻害する作用や急性膵炎を抑える作用などを持ち、急性膵炎や出血傾向のある患者さんの治療に用いられてきました。

 コロナウイルスは、ウイルスの表面のスパイク蛋白質を、ヒト細胞膜のACE2(アンジオテンシン転換酵素2)受容体に結合させます。

 次に、スパイク蛋白質をタンパク分解酵素TMPRSS2(テムプレス2)の働きによって分解させ、さらに活性化し、ウイルスとヒト細胞膜を融合させ、ヒト細胞内に侵入します。(右図)

 ナファモスタット(フサン)はセリンプロテアーゼ阻害作用によって、この蛋白分解酵素TMPRSS2(テムプレス2)の働きを抑えます。

 そのため、コロナウイルスはヒト細胞内への侵入できません。そのため、コロナウイルスの感染を防ぐことができると考えられています。

   参考:井上純一郎・山本瑞生(東京大学医科学研究所) 新「型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定より。図も引用。

②副作用

 ショック、アナフィラキシー様症状、高カリウム血症、血小板減少、白血球減少、肝機能障害、黄疸などの報告があります。

③COVID-19に対する臨床効果

 国立国際医療研究センターなどで、投与したときの効果について検討が行われるようです。

   参考:医療用医薬品 : フサン 写真は日医工HPから



*「レムデシビルより600倍?」 新型コロナ”治療効果”ナファモスタット=韓国研究チームが特許出願  WoW! Korea 5/15(金) 11:17配信

 新型コロナウイルスの治療薬としてナファモスタットが、レムデシビルより600倍の効果をもつと期待されることがわかった。

 14日、韓国メディアによると、韓国パスツール研究所の研究チームがこの効果を発見したという。研究チームは「新型コロナウイルス抑制効果のある24の薬物でヒト肺細胞培養実験をおこなった結果、血液の抗凝固剤、膵炎治療薬の成分とさるナファモスタットメシル酸塩が、最も強い抗ウイルス効能を示した」と発表。

 新型コロナウイルスが細胞に侵入する過程で、TMPRSS2というタンパク質分解酵素が作用するという
ドイツの研究結果を参考にしたという。 既存の商用薬物のうち、ナファモスタットがTMPRSS2を抑制する点に着眼した。この研究チームは、研究結果を論文事前掲載サイト「バイオアーカイブ」に報告し、特許を出願した上で関連分野の国際ジャーナルに論文掲載への承認を申請した。

 韓国パスツール研究所科学技術情報通信部と行政安全部が支援する国民生活安全緊急対応研究事業の一環として、既に許可されたものや開発段階の薬の中で新型コロナウイルス治療薬の候補物質を発掘する薬物再創出研究をことし2月から実施してきた。(YaHoo newsより 5.15より

 すごいですね。日本で発見されて、すでに臨床治験が行われている薬を新たに「発見」し、特許請願まで行うところが、日本人には考えられない、メンタリティですね。こよなく彼の国を愛する、朝日新聞などは、さぞお喜びのことでしょう。まさか、日韓友好のために、フサンの特許を韓国に無条件で譲れ、などとツイッターにハッシュタグを付けて、いつものように下僕を総動員して裏工作しないか、少し心配になりますね。

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ロピナビル・リトナビル配合剤(Lopinavir/Ritonavir、 LPV/r:カレトラ)

①効果と作用機序
 ロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ)はもともとエイズHIVの治療薬でした。

 HIVも、SARS-CoV-2と同じくRNAウイルスです。HIV粒子はレセプターを介して宿主細胞に侵入し、宿主細胞の核内でDNAを支配し、HIV自身の複合タンパクを作ります。次に、自分のプロテアーゼ(タンパク分解酵素)を使って、複合蛋白を切り取って、機能タンパクを完成させます。この機能タンパクとHIVのRNAが合体して、新たなHIV粒子が生まれます。

 プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼの酵素活性部位に結合し、その活性を消失させる薬剤です。ロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ)はこのプロテアーゼ阻害剤の一つです。

②副作用
 

 飲み合わせに注意しなければならない薬剤が多岐にわたることと、吐き気、嘔吐、下痢や腹痛など胃腸症状がよくみられるようです。また、長期服用では、高脂血症やリポジストロフィーなど脂質代謝異常もあらわれやすくなります。リポジストロフィーは、手足や顔が痩せ、胸や肩・腹部が太ってくるなど体脂肪の分布異常です。

 重い副作用として、高血糖や糖尿病、膵炎、肝障害、不整脈、皮膚障害などの報告があります。


③COVID-19に対する臨床効果

 中国の臨床報告では、あまり効果が見られなかったようです。また、消化器症状など副作用も強く、期待値は現在少し落ちているようです。

     参考:おすくり110番:ロピナビル・リトナビル配合剤


クロロキン

①効果と作用機序

 クロロキンはもともとマラリアの治療薬ですが、クロロキン耐性マラリアが増加したため、現在使用はされなくなりました。クロロキンの類似薬で、SLE(全身性エリテマトーデス)の治療に使用されている、免疫調整剤ヒドロキシクロロキン(プラケニル)は新型コロナウイルス感染症に有効な可能性があります。

②副作用  

 強い心毒性、網膜障害があります。我が国では認可されておりません。新型コロナウイルス感染症の臨床試験でも、死亡者が出ています。

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イベルメクチン(ストロメクトール)

①効果と作用機序

 イベルメクチンは、伊東市のゴルフ場近くの土の中から、ノーベル賞を授賞した大村智博士によって発見された、放線菌という細菌が産生する物質から作られた薬です。イベルメクチン(ストロメクトール錠)は腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として、長い間使用されてきました。

  糞線虫症は、土から皮膚からヒトに入り込んで、主にヒトの十二指腸や小腸上部の粘膜に寄生して、腹痛、下痢などの軽い消化器症状を起こす寄生虫の病気です。しかし、重症になると、糞線虫と共に大量の腸内細菌が全身に広がり、敗血症、肺炎、髄膜炎などを合併し、死亡することもあります。この状態を播種性糞線虫症と呼びます。

 我が国では沖縄や南西諸島に多い風土病で、成人型T細胞性白血病を合併している患者さんが多いことが問題となっています。イベルメクチンを服用することでほぼ確実に駆虫することができます。

   *平田哲生:腸管糞線虫駆虫薬イベルメクチン

  疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニ(疥癬虫)が皮膚の表面の角質層に寄生し、人から人へ感染する皮膚病です。ヒゼンダニが密集する、重症型の角化型疥癬(痂皮型疥癬)と、ダニは少数ですが激しい痒みを伴う普通の疥癬(通常疥癬)に分けられます。

 近年わが国の高齢者施設などで集団発生の報告がよく見られます。疥癬に特徴的な所見は 疥癬トンネル(曲がりくねった線状で茶色の少し盛り上がった皮膚症状)で、手、指や指間、肘、アキレス腱部などに認められます。その他、全身にぽつぽつや赤い点が現れます。

 治療はイベルメクチンを服用することと、イオウ剤、クロタミトンクリーム(オイラックス)などの塗り薬を使用します。
 
    *国立感染症研究所:疥癬とは

  イベルメクチン(ストロメクトール錠)は、現在この2つの病気の治療薬として、日常診療で処方されている駆虫剤です。

 糞線虫症では2週間ごとに2回、疥癬では1回服用です。

 患者の体重当たりの1回投与量は(ストロメクトール錠は、イベルメクチンとして約200μg/kgを1回の投与量とします)、以下の通りです。
(写真はマルホHPより)
      *PMDA:ストロメクトール錠3mg

②副作用

 副作用は悪心、下痢、腹痛、かゆみ、発疹、肝機能障害などが報告されています。重い副作用として、まれに中毒性皮膚壊死があります。現在、疥癬治療薬として広く用いられていますが、特に重大な副作用の報告はありません。

③COVID-19に対する臨床効果

 2020年4月4日、オーストラリア、メルボルン市の研究チームは、イベルメクチンにSARS-CoV-2を抑制する効果があったと発表しました。1回量のイベルメクチン投与で、SARS-CoV-2の複製を48時間以内に止めることができたそうです。(実験研究です。)

 また、アメリカのユタ大学などの研究チームは、人工呼吸器を使用する必要があった重症患者のうち、イベルメクチンを使用しなかった患者の死亡率は21.3%に対し、イベルメクチンを使用した患者の死亡率は7.3%と約3分の1、イベルメクチンを使用した全患者の死亡率は1.4%に対し、イベルメクチンを使用しなかった患者の死亡率は8.5%と、約6分の1に抑えられたと報告しました。(臨床研究です。)

 我が国でも、2020年5月6日、北里大学はイベルメクチンについて、新型コロナウイルス感染症の治療薬として、承認を目指す治験を実施すると発表しました。安倍首相もまた、2020年5月15日の記者会見で、イベルメクチンの早期承認を目指す考えを表明しています。

     *北里大、新型コロナに対しイベルメクチンの医師主導治験を開始へ

 新型コロナウイルスに対する作用はまだよく分かっていません。

 一つの仮説として、SARS-CoV-2はヒトの細胞質タンパク質を核内へ運ぶ「インポーチン」と結合することがわかっています。その結果、免疫を発動させるSTAT1という物質が、ヒト細胞核内へ移動することができなくなり、SARS-CoV-2に対するヒトの免疫が作動しなくなります。
 イベルメクチンは、このウイルスと「インポーチン」との結合を邪魔して、その結果ウイルスに対する免疫を発動、インターフェロンが誘導され、SARS-CoV-2を抑えこむのではないかという説明が行われています。
 
 いずれにしろ、使いやすい薬なので、正式な新型コロナウイルス感染症の治療薬として、使用できる日が待ち遠しいですね。

     
*4月8日抗寄生虫薬イベルメクチンが新型コロナウイルスに効果がある理由( Antiviral Research オンライン掲載論文)

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トシリズマブ(IL-6阻害薬:アクテムラ)

①効果と作用機序  
 トシリズマブは、中外製薬が作り出した抗IL-6受容体阻害剤という注射薬で、製品名を「アクテムラ」といい、点滴注射、皮下注射で使用します。
  (右写真は、アクテムラ点滴静注用400mg。中外製薬HPより)

 新型コロナウイルス感染症は通常は1週間ぐらいで軽快しますが、20%ぐらいの人が肺炎になり、2~3%のヒトが重症化します。この重い肺炎は、急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratori Distress Syndrome ;ARDS)と呼ばれ、免疫の暴走が原因で起こることがわかっています。

 この免疫の暴走に深く係わっているのが、炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)です。トシリズマブ(アクテムラ)はIL-6より先に肺組織に働き、IL-6が肺のリセプターに結合し、炎症を起こすことを妨害します。その結果、免疫の暴走によっておこる、重症肺炎の悪化をやわらげる働きが期待されます。(新型コロナウイルス感染症の症状参照)

     *アクテムラの概要について

②副作用

 アクテムラは現在、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、スチル病、高安動脈炎などのいわゆる膠原病に使われています。

 副作用はアナフィラキシー、IL-6の働きを抑えるため、感染症にかかりやすくなったり、重くなる可能性があります。また、白血球や血小板という血液成分が少なくなる可能性があります。

③COVID-19に対する臨床効果

 トシリズマブ(製品名「アクテムラ」)の新型コロナウイルス感染症に対する臨床試験を中外製薬が5月に始めるそうです。また、中外製薬の親会社のロッシュも海外で臨床試験を始めています。

 また、同じ抗IL-6受容体阻害薬のサリルマブ(製品名「ケブザラ」)も欧米で臨床試験が実施されており、日本でも近く試験が始まる見通しです。両剤はいずれも、日本で主に関節リウマチの治療薬として使われています。

      *旭化成ファーマ:ケブザラについて

 中国では、さらに別のの抗IL-6受容体阻害薬を用いた、臨床試験が行われているようです。

 トシリズマブは、IL-6の働きを抑制することによって、あくまでCOVID-19のサイトカインストームを鎮める薬です。新型コロナウイルス感染症そのものの治療薬ではありません。したがって、単独投与ではなく、アビガンなどの抗ウイルス薬と併用することが、基本となります。

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抗ウイルス剤のまとめ

 日本感染学会は抗ウイルス剤の治療について、
1.50歳未満の患者では、肺炎を発症しても自然治癒する可能性が強いので、必ずしも抗ウイルス剤は必要ない。
2.50歳以上の患者、および糖尿病、心血管疾患、慢性肺疾患、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等のある患者は、重篤な呼吸不全を起こす可能性が高く、死亡率も高いため、低酸素血症を呈し、酸素投与が必要となった段階で抗ウイルス剤の投与を検討する。
としています。

 一方、アビガンを作った白木教授は、アビガンの早期投与が重症化阻止のために必要と述べられています。

 新型コロナウイルス感染症の治療薬の登場は、愁眉の課題です。早く臨床研究をまとめて、医師が治療のために投薬できる態勢を作り上げてほしいものです。

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終わりに


 本論考でも明らかにしたように、新しい検査キットも稼働し始め、アビガン、オルベスコ、ストロメクトールなどの有効な抗ウイルス剤の投薬ももうすぐ始まる情勢です。また、東京を始めとするCOVID-19の新規患者発生数も4月上旬をピークに、終熄に向かっています。

 もう少しです。コロナを押さえ込めるまで、みなで力を合わせて、がんばっていきましょう。

参考文献:
 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き・第2版、2020.5.18



診療の合間に少しずつ執筆しているため、随時加筆して更新していきます。
  2020.4.17 初稿
  2020.4.22 シクレソニドについて、加筆しました。
  2020.4.27 クロロキン、カレトラ、フサンについて、加筆しました。
  2020.5.10 アビガン、レムデシビルについて、大幅に加筆しました。

  2020.5.16 イベルメクチンについて、加筆しました。
  2020.5.27 トシリズマブについて、加筆しました。

 
 2020.7.15 とりあえず、第1版としてまとめました。

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