サーバリックスについて

①サーバリックスとは

 サーバリックスは2009年10月16日に厚生労働省から製造販売承認を受け、2009年12月22日より使用できるようになった、子宮頸がん予防ワクチンです。

 ふつう、ワクチンというと麻疹ワクチンやインフルエンザワクチンのように、急性感染症が対象のような感じがして、がん予防というと戸惑われる方がいらっしゃるかもしれません。

 しかし、子宮頸がんは実はヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染によって発病する病気なのです。このワクチンを接種することにより、子宮頸がんの60~70%が予防できるのです。すでに世界100カ国以上で接種が行われているワクチンです。このワクチンが今回、例によって1周遅れでわが国でもやっと接種できることになったのです。

②子宮頸がんについて


 まず、子宮頸がんとはどんな病気でしょうか。

 子宮頸がんはわが国では年間12000人の女性が発病し、2500人の方が亡くなっている、女性のがんでは乳がんに次いで、2番目に多い、恐ろしい病気です。
 しかも死亡はまぬがれても、進行すれば子宮を摘出しなければならないという、女性にとって耐え難い治療が必要になります。命は助かったが、子どもが生めなくなった。赤ちゃんは助かったが、ママが亡くなった。というような悲劇が後を絶たない、悲惨な病気なのです。そのため、このがんは「マザーキラー」とも呼ばれているのです。

 近年、この子宮頸がんが20歳代後半から30歳代前半の出産時期を迎えた女性に増え、問題になっています。しかし、このがんは予防接種とがん検診で100%予防することができるのです。

 1983年、子宮頸がんはウイルス感染によって引き起こされることが発見されました。(発見者のzur Hausen
教授は、この功績により、2008年のノーベル生理学・医学賞を授与されています。)

 子宮頸がんを発病させる発がんウイルスは、ヒトパピローマウイルス(HPV)という、いぼなどを起こすありふれたウイルスでした。
 このグループには100種類以上の仲間がいます。

 このうち、がんを引き起こす発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)は、16、18、31、33、45、52、58型など少数であり、16型と18型がそのほとんどを占めていることがわかりました(子宮頸がん全体の60~70%。20歳台に限れば90%)。
 したがって、この16型、18型を封じ込めれば、子宮頸がんのほとんどは防げるということになるのです。

 ところで、このヒトパピローマウイルス(HPV)はありふれたウイルスで、性交で感染します。しかし、性病のように特定の少数の感染者が感染を伝播させる病気と異なり、HPVはほとんどの女性が生涯に1回は感染するといわれているほど、日常的なウイルスです。
 HPVに感染した場合でも、ふつうはウイルスはすぐに排除され、子宮に留まっているのは短期間に過ぎません。

 しかし、ごくまれにヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮上皮にもぐりこみ、長期間にわたって正常細胞に攻撃し続けると、正常の子宮頚部上皮細胞がしだいに異常な形態に変質(異形成)していき、最終的にはがん細胞に変化し、生体を攻撃するようになってしまうのです(上図)。


 ただ、異型細胞(前がん状態)の段階で発見できれば(子宮がん検診で見つけやすい)、子宮を残したソフトながん治療が行えるのです。20~30歳代の女性の子宮がん検診は、ご自分と家族を守るためにも、ぜひ検査を受けられることを強くお勧めいたします。(品川区の子宮がん検診のご案内はこちら

③サーバリックスの働き

 
サーバリックスは人工的な遺伝子組み換え技術によって、ヒトパピローマウイルス(HPV)の殻のたんぱく質のみを増殖させて、殻だけの”にせウイルス”(=ウイルス様粒子(virus-like particle:VLP)を作ったものです。

 みかけはヒトパピローマウイルス(HPV)にそっくりですが、中身がありません。したがって、感染することもありません。

 また、効果を高めるためにAS04というアジュバンドが添加されています。AS04は、GSKの新型インフルエンザワクチン(アレパンリックス)にも添加されています(詳細はこちら)。
 そもそもアジュバンドというものは、抗原認識細胞の抗原を認識する能力を高める物質(予防接種の強さを高める物質)のことです。AS04には、アルミニウム塩とモノホスホリルリピッド(MPL)が含まれ、ワクチンを接種した場所に抗原を長くとどめたり、抗原認識細胞を刺激し活性化を高めたりして、少ない抗原量で免疫を高める働きがあります。

 サーバリックスはヒトパピローマウイルス(HPV)16型、18型の感染による発病を強力に抑えます。欧米の15~25歳以上の女性18,000人以上の大掛かりな試験では、4年の観察期間において、これらのウイルスによる前がん病変以上の発病を100%予防したと報告されています。

④接種の方法


 性交渉前の10歳以上の女性に、0、1、6ヶ月の3回、上腕に筋注します(初回の注射から、1ヵ月後に2回目、2回目からは5ヵ月後に3回目を接種します)。

 3回接種によって、子宮頸がんの主要な発がんウイルスである16型、18型HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染をほぼ100%予防できます。また、この効果は20年以上持続するといわれています。

 また、副反応は圧倒的に注射部位の症状で、疼痛99%、発赤88%、腫脹79%、全身症状としては疲労57%、筋痛47%、頭痛38%が報告されています。やや副反応の程度は強いようです。
 
 当クリニックでは、DT接種(11歳~12歳)に合わせて、サーバリックス接種も始めることをかかりつけの患者さんにお勧めいたします(アメリカ等でもこの年齢で定期接種が行われています。下図)。

 また、ヒトパピローマウイルス(HPV)の自然感染では免疫ができず、再感染が繰り返されるため、何回目かの感染で持続感染に移行する危険があります。したがって、すでに感染した女性でも新しい感染を防ぐことにより、子宮頸がんの発病のリスクを減らすことが期待されます。

 アメリカの予防接種勧告委員会(ACIP)でも、「性交渉の経験がない女性」以外にも、「13~26歳のすでに性交渉のある女性」、「子宮がん検診で異常が認められた女性」、「発がん性HPVに感染している女性」もワクチンの接種を勧めているのです。

  もしもかかりつけのお母さまで、サーバリックス接種を希望の方には接種を行いますので、医師にご相談ください。

 子宮頸がんの予防の両輪は、ワクチン接種とがん検診です。わが国の女性の子宮がん検診受診率は欧米が80%であるのに対し、わずか20%にすぎません。16型、18型以外のヒトパピローマウイルス(HPV)の感染もあります。みずからの健康と家族の幸せのために、ぜひ子宮がん検診を積極的に受けましょう。

 参考資料:「HPV insights 1、2、3」(メディカルビュー)「がんは予防できる時代へ-。」(メディカル トリビューン2009.11.5)、「自分で守ろう。自分のからだ」(小田瑞恵監修.グラクソ・スミスクライン)。
 「
HPV insights 1、2、3」からは図3点、「自分で守ろう。自分のからだ」からは図1点転載させていただきました。厚く御礼申し上げます。

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