チメロサールと自閉症の関係について   2017.2.1更新

アメリカでは、予防注射液中のチメロサール(有機水銀)が原因で自閉症になった、という訴訟が起されています。

また、いまだにワクチン液中の水銀が、自閉症に関連していると誤解している人が見られます。(最もこの件については、八百長試合とサブリミナルで悪名高い、あのTBSをはじめとする、捏造マスコミの無責任煽情的な報道の影響も大きいと思われます。→詳細は後述。)



チメロサール(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム)は有機(エチル)水銀製剤で、微量でも強い殺菌作用があるため、予防接種液(DPT、日本脳炎など)中に防腐剤として添加されてきました。

エチル水銀は腸管から積極的に排泄されるため、7日以内で血液中の量は半減します。これに対し、水俣病の原因になった無機(メチル)水銀は、血液中の量が半減するのに1.5ヶ月(約45日)もかかります。したがってエチル水銀は体内に蓄積しにくく、2002年のアメリカのデータでもチメロサ―ル含有ワクチンを接種された児の血液中の水銀濃度はアメリカの環境庁の基準を下回っていたのです。

ワクチンと自閉症の関連については、1998年にWakefieldという人が『腸炎に関連した後天性の自閉症』という論文で、MMRワクチンが精神発達の遅れに関係したと、Lancetという英国の有力な雑誌で発表したのが最初です。

この論文の反響は大きく、イギリスの麻疹ワクチンの接種率が、1997-1998年の91%から、2002-2003年には79%に低下したほどでした。しかし、当初からこの論文には多くの疑問と批判が寄せられていました。

さらに、この論文に対する大規模な追試験が英国ロンドン市と米国カリフォルニア州で行われましたが、その結果はWakefieldのいうようなワクチンと自閉症の関連を示すデータは得られませんでした(その結果はLancetとJAMAという雑誌で発表されています)。

その後もWakefieldの報告を裏付けるデータは発表されず、MMRワクチン、麻疹ワクチンと自閉症の関連はほぼ否定される状況になりました。

旗色の悪くなったWakefieldは、2003年になると今度は、腸炎や生ワクチン中のウイルスの感染が問題なのではなく、ワクチン液中に含まれている防腐剤の水銀(チメロサ-ル)が自閉症の原因なのだと主張し始めました。

実は2001年にBernardというアメリカの心理学者が、DPTに含まれるチメロサールのために自閉症患者が激増しており、その自閉症の症状と水銀中毒の症状は酷似している、とMedical Hypotheses(医学の仮説)という雑誌に発表していたのです。Bernard自身は医師ではなく、単に水銀中毒と自閉症患者の症状が似ているというだけの仮説でしたが、この主張はアメリカで反響を呼びました。

当時アメリカ上院議会議長であったDan Burton議員(共和党,インディアナ州)は、自閉症の孫を持ち、その原因がワクチンによるためだと固く信じていました。彼の裁量によって、アメリカでたびたびワクチンと自閉症に対する公聴会が開かれ、JAMAによると彼はThe US Institute of Medicine(IOM)という公的機関の報告文書(MMRと自閉症の因果関係の証拠がないとした報告)を机にたたきつけ、激怒し赤面しながら,「You don't know there's no link、 do you? Do you?」と叫んだということです。

しかし何としてもチメロサ-ルを「極悪人」にしたてたいBurton議員の”奮闘”にもかかわらず、チメロサ-ルと自閉症の間に明らかな関連がある、という信頼すべき報告はほとんどなく、逆にチメロサ-ル含有ワクチンが自閉症と無関係であるという報告が相次ぎました。

Madsenらのデンマークの研究、Stehr-Greenらのカリフォルニア,スウェーデン,デンマークを結ぶ国際的な研究などは、チメロサ-ル含有ワクチンの使用を止めてからも自閉症が増え続けている現状が報告されています。

そして、「チメロサ-ルを含むワクチン接種と自閉症が関係しているという仮説は、立証はされていないが、可能性はある」という報告を2001年に出していた、The US Institute of Medicine(IOM)も、2004年に最終的な調査の結果をまとめ、
①チメロサ-ル含有ワクチン、およびMMRワクチンは、いずれも自閉症を引き起こさない。
②自閉症とチメロサ-ル含有ワクチン、およびMMRワクチンに関係があるという仮説は、これを支持するデータはなく、結局単なる仮説にすぎない。
という結論を公表しました。

追い討ちをかけるように、WakefieldはMMRが自閉症に関連したという訴訟を行うデータをまとめるために、訴訟を準備していた数人から総額5万5000ポンド(約1150万円)を受け取っていたという事実が暴露され、
LancetはWakefieldの論文を掲載したのは誤りであったと声明しました。

2010年2月、さらにこの論文掲載を完全に撤回しました。





現在チメロサールが自閉症を引き起こすという証拠(エビデンス)は全くありません。世界保健機関(WHO)のワクチン安全性委員会(Global Advisory Committee on Vaccine Safety)も、ワクチン中のチメロサールと子どもの自閉症の間の因果関係を示す決定的証拠はないと結論しています。

また、IOMも、「チメロサ-ル含有ワクチンの現行の接種スケジュールの見直し」や「小児期の定期接種の推奨に関して、チメロサ-ルと自閉症に関する仮説に基づく見直し」が必要であるという提言は行わない(すなわち見直す必要はない)、と勧告しています。

にもかかわらず、アメリカ、カナダでは集団訴訟が次々と強行され、わが国でも「小児科医」という肩書きのプロ市民運動家とその信徒達が豊富な資金に物を言わせて(彼らのあの潤沢な活動資金はいったいどこから、または誰から提供されているのでしょうか?)マスコミに棲息する同調者をも動員して、相も変わらず「副作用!」「予防接種は恐ろしい!」という、日本の子どもの健康を脅かす煽動が続けられているのです。

さらにこのような子どもの健康に関する問題を複雑にしているのは、一部のマスコミによる、一方的な偏向捏造報道とそれと背反するタイアップ商品の恥知らずな宣伝です。

TBSといえば、2005年の5月6日の「ぴーかんバディ!」で大規模な健康被害を起こし、恥知らずにも責任を視聴者に押し付け、逃走し、謝罪もしなかった鉄面皮な事件が有名ですが、実は2004年3月7日にも「報道特集」という番組で、水銀(ワクチンも含む)による自閉症の治療と称して、何ら科学的に検証されていない「キレート療法」なるものの鳴り物入りの宣伝を行っているのです。

久米宏のニュースステーション内でのアトピー性皮膚炎に対する、犯罪的なステロイド軟膏バッシング発言が、その後のアトピービジネスの興隆を招き、多くのアトピー性皮膚炎患者を地獄の苦しみにおとしめたことは有名なエピソードですが、TBSの「報道特集」も、水銀入りのワクチン→(勝手に断定しています)→自閉症→キレート療法で回復、などという荒唐無稽な筋立てで視聴者を惑わし、「キレート療法」なるものに自閉症の保護者を誘導しようとしている、白インゲンに勝るとも劣らない悪質な番組です。(キレート療法に対する小児神経学会の意見はこちら

薬やワクチンに対しては、副作用、健康被害とそれこそほんのささいなことでもけたたましく騒ぎたてておきながら(そして厚労省や政府を攻撃するのは大好きなくせに)、金儲けの種になりそうなら、効果も副作用もはっきりしない、あやしげなカルト「療法」の宣伝に恥ずかしげもなく狂騒するのが、わが日本のマスコミのどす黒い真の姿のようです。
 
MMR騒動の火付け役になったLancetでも、2003年に次のようなコメントが掲載されています。

大西洋の両岸で,多くの人々が自閉症の原因がワクチンであると主張している。妙なことには,異なるワクチンが非難されている。アメリカでは,親の活動家は三種混合ワクチン(ジフテリア,百日咳,破傷風)やその他のチメロサ-ルthiomersal(thimerosal)含有ワクチンを問題としている。

イギリスでは,親はMMRが原因としている。MMRワクチンは弱毒化生ワクチンであり生きたウイルスで作られているため,チメロサ-ルthiomersalは含まれていない。英米間の緊張状態を緩和するためのタイムリーな試みとして,運動家の中には,両方のタイプのワクチンの組み合わせにより自閉症が起こるとする説を考え出したものもいる。

自閉症とワクチンの因果関係説は一連の時間的一致に基づいている。自閉症が最初にアメリカで論文に記載されたのが1943年であり,ジフテリアの集団接種は1940年代に導入された。

自閉症はアメリカおよびイギリスにおいて最近増加しているようであり,アメリカでは児童のワクチン接種率は増加し,イギリスでのMMR接種率も増加している。あかちゃんがワクチンを受け,幼児が自閉症になっており,MMRは12ヶ月以後に接種され,自閉症は18ヶ月頃に表面化するのである。

アメリカからの最近の報告は,自閉症とワクチンや水銀との因果関係説を支持するエビデンスがないことを表明している。

チメロサ-ルthiomersalは,特に問題なく半世紀以上も使用されてきた。エチル水銀が含まれているが,サメやマカジキやメカジキに含まれるメチル水銀に比べ血液脳関門を通過しない。また水銀中毒が自閉症の原因とされたこともない。

運動家は水銀中毒の症候が自閉症のそれと類似していると主張しているが,詳しく観察すると,両状態の特徴的臨床症状はまったく異なるものである。誤解に基づくワクチンへの攻撃をやめさせるために,アメリカの運動家をこれらの情報で説得できるであろうと楽観視することはできない。

イギリスでは,MMRと自閉症の因果関係を否定する圧倒的なエビデンスがあるにもかかわらず,MMRに対する反対運動はおさまっておらず,接種率が減って問題となっている。運動家はますます無理のある見解に追い込まれ,一旦自閉症が増えている原因としてMMRを非難していたが,現在ではMMRは疫学的研究が検出できないほど小数の一部のサブセットの原因として扱われている。

窮地に追い込まれている親は因果関係を誤解してしまうことは理解できるが,役に立たない科学者(junk scientists)やお金めあての弁護士,そしてすぐに真に受けるジャーナリストによって,親の不安が利用されるのは恥ずべきことである。

Fitzpatrick M. Heavy metal. Lancet 361: 1664, 2003.



チメロサールによる自閉症騒動は上記のように全く根拠のない馬鹿騒ぎですが、まれに起こるチメロサールのアレルギー反応や体内への水銀の蓄積を少しでも抑える(水銀の蓄積はたとえ極微量でも少ないに越したことはありません。もちろん、これはメカジキやキンメダイなどの魚介類を食する場合の水銀摂取への注意と同等のものです)ため、接種量を減らす努力は必要だと思います。

しかし、防腐剤が添加されていないワクチン液の使用は、1回ごとに使い捨てにしないと汚染の危険が全くないとはいえません。

この点を踏まえて、当クリニックでは2004年2月よりDPT、日本脳炎ワクチンについては、チメロサールフリー(チメロサールが添加
されていない)のワクチンに全面的に切り替え、1回ごとに使い捨てで使用しています。しかし、インフルエンザワクチンに関しては、分注する操作を行うことを考慮し、汚染事故を防ぐため、現在もチメロサールを微量(0.005mg/ml)含有しているワクチンの使用しています。

時々、得意げにチメロサ-ルフリーのインフルエンザワクチンを使っていると宣伝している、小児科クリニックのホームページに出会うことがあります。

このようなクリニックは、おそらく乳児に対しても幼児に対しても、きっちりワクチン1バイアルを使い捨てで使用していることでしょう。もしも、防腐剤の入っていない(チメロサ-ルフリーの)ワクチンを何人分かに分けて使用しているのなら、その汚染対策もあわせて保護者に説明すべきです。

2016年、熊本大地震のために、化血研のインフルエンザワクチン製造が止まり、2016年のシーズンはチメロサ-ルフリーのインフルエンザワクチンは供給されなくなりました。当クリニックは上記のように、一貫してチメロサール入りのワクチンは安全だと言明し、ワクチン接種を続けてきました。

そのため、このような事態になっても、当クリニックの立場・見解は全く修正の必要はありません。患者さんを前にして、右往左往したり、言い訳に明け暮れることはありません。かかりつけの患者さんは、今シーズンも、当クリニックを信頼して接種にいらしていただければ、と思います。

謝辞:Wakefieldの論文の反響、LancetのFitzpatrickのコメントはじゃじゃ丸トンネル迷路「過去の話題」からリンク、および引用させていただきました。また、その他の資料もいろいろと参考にさせていただきました。厚く御礼申し上げます。




追記:2011年1月、
Wakefieldがなんとデータの改ざんにまで手を染めていたことが明らかになりました。Wakefieldはすでにイギリスの医師免許をはく奪されています。

医者にもあるまじき、金まみれのペテン師の片棒を担ぎ、騒々しくワクチン反対派のお太鼓持ちを買って出て騒音をまき散らしていた、わが国のすぐ真に受けるジャーナリスト達はどのように責任を取るのでしょうか。(2017.2.1)


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