アトピー性皮膚炎について

0.はじめに

我が国では、生後3ヶ月健診時のアトピー性皮膚炎の罹患率は16.2%、1歳半健診では7.89%、3歳児健診では13.2%、そして大学生では8.2%と報告されてきました。

文部科学省の学校保健統計調査によると、2010年度から2015年度まで6年間のアトピー性皮膚炎の有病率は幼稚園児で低下、小中高校生では横ばいでした。

東京都3歳児全都調査では、アトピー性皮膚炎の罹患率は、1999年度16.6%、2004年度16.0%、2009年度15.8%、2014年度11.5%、2019年度は11.3%と低下してきています。気管支喘息、食物アレルギーも2019年度は前回調査より減少しています。


本稿は、日本皮膚科学会と日本アレルギー学会の2つの診療ガイドラインが統合された「アトピー性皮膚炎のガイドライン2018」をさらに改訂した、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」に基づいて、最新のアトピー性皮膚炎の解説を行います。

そして、「ガイドライン2021」に準拠した、当クリニックのアトピー性皮膚炎の治療について、ご説明していきたいと思います。



Ⅰ.アトピー性皮膚炎とは

①アトピー性皮膚炎の定義

まず、型どおりアトピー性皮膚炎の定義から始めたいと思います。

アトピー性皮膚炎とは、
「増悪と寛解を繰り返す、かゆみのある湿疹を主病変とする病気であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されています。

すなわち、
①年齢によって、身体のさまざまな部分に、かゆみが強い発疹が出たり、ひっこんだりする。
②本人や家族にアレルギー疾患を持った人がいる。
ことが、アトピー性皮膚炎の定義となります。

 *アトピー性皮膚炎のガイドラインとして、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021が公表されています。

アトピー素因とは、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎・結膜炎などのアレルギーの病気を、本人か家族が持っていることをいい、アレルギーの症状が起こりやすい遺伝的な体質をいいます。


②アトピー性皮膚炎のメカニズム 

アトピー性皮膚炎とは、皮膚の抵抗力の落ちた状態に、アトピー素因と、さまざまな皮膚を悪化させる因子(悪化因子)が加わり、発病していくと考えらえています。

1)皮膚の異常(バリア機能の低下)

①角質の異常

皮膚の最外層にある角質層は、わずか0.01~0.02mmという薄さですが、体をラップのように覆い、外部からの刺激や異物の侵入を防いだり、水分の喪失を防ぐという大切な役目を果たしています。

この角質層は、皮膚の角質細胞と細胞間脂質であるセラミド等で構成されています。

アトピー性皮膚炎の患者は、角質細胞間脂質であるセラミドが異常に少ないため、皮膚をみずみずしく保つ、水分保持能力が格段に落ちています。

また、角質細胞は、厚さ1mm位の扁平な細胞で、この角質細胞内には、主な細胞成分である、ケラチンとフィラグリンがからみあって充満しており、外界のさまざまな刺激から皮膚内部を守っています。

さらに、角層細胞同士は、角質細胞間脂質(セラミドなど)によって結合され、強力なバリアを形成しています。

しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、遺伝的にフィラグリンが少ない人がいて、このような人は角質細胞は菲薄になり、皮膚のバリア機能の働きが著しく低下してしまいます。

②表皮の異常

表皮顆粒層にもタイトジャンクションと呼ばれる細胞間接着構造があり、皮膚のバリア機能を担っています。

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アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、このタイトジャンクション形成に係わるクラウディン-1が少ないため、タイトジャンクションが脆弱となり、バリア機能の低下している人がみられます。

2)皮膚の炎症のメカニズム(2型免疫反応の亢進)

皮膚バリア機能が低下すると、たやすくアレルゲン(アレルギーを引き起こす蛋白質。ダニ、ハウスダストなど。)が皮膚から浸入します。

侵入したアレルゲンは、まず抗原提示細胞に捕捉されます。

抗原提示細胞とは、樹状細胞やランゲルハンス細胞と呼ばれる皮膚の表面近くで、敵の侵入を感知するアンテナ細胞で、常に敵の侵入を監視しています。ひとたび、敵を発見(=アレルゲンを捕捉)すると、敵侵入の警報をTリンパ球(T細胞)に伝えます(提示します)。

まず、白血球のおさらいをしましょう。(詳しくは、免疫総論をご参照ください。)
白血球は骨髄由来の白血球(好中球や好酸球など)とリンパ球に大別されます。
さらにリンパ球は、T細胞(Tリンパ球)、B細胞(Bリンパ球)、NK細胞に分けられます。

このうち、T細胞は免疫組織の総司令官であり、B細胞はT細胞の命令を受けて、抗体ミサイルを発射して敵と戦う実戦部隊です。
免疫組織の司令官であるT細胞は、さらにヘルパーT細胞とキラーT細胞に分けられます。ヘルパーT細胞はCD4+細胞とも呼ばれ、免疫を調整しています。
一方、キラーT細胞はCD8+細胞とも呼ばれ、ウイルス感染細胞などの敵に侵された細胞を始末しています。


Th1細胞とTh2細胞はいずれもCD4陽性のT細胞であるが、産生するサイトカインの種類によって分類される。Th1は、γ-interferon(γIFN)を産生することを特徴とし、そのためにマクロファージの活性化をもたらす。その結果、多くの炎症反応の惹起に関与する。一方、Th2はinterleukin-4(IL-4)を産生することを特徴とし、B細胞を活性化する。その結果、IgE産生を介するアレルギー反応など、B細胞による抗体産生応答に必須である。

ヘルパーT細胞はさらにT1細胞とT2細胞に分けられます。ヘルパーT1細胞(Th1細胞)はインターフェロンガンマ(γIFN)を産生し、マクロファージを活性化します。そして多くの炎症反応を起します。
一方、ヘルパーTh2細胞(Th2細胞)は、インターロイキン-4(IL-4)を産生することを特徴とし、B細胞を活性化します。

活性化したB細胞はアレルギー反応の主役であるIgEを大量に作りだし、放出します。このIgEは肥満細胞につっくきます。IgEが結合し、アレルゲンと肥満細胞は、ヒスタミンを大量に放出し、痒みの原因になります。

また、Th2細胞はインターロイキン-31(IL-31)というサイトカインを分泌しますが、これが痒みの大きな原因になると最近明らかになりました。

3)痒みの増強→皮膚の掻爬

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴います。



Ⅱ.アトピー性皮膚炎の症状 

次にアトピー性皮膚炎の症状をみてきましょう。

①アトピー性皮膚炎の症状は、年齢によって変化する

アトピー性皮膚炎の皮膚症状は、年齢とともに変化していくことが特徴です。湿疹がひどくて、お悩みのおかあさまにも、この湿疹がずっと続くわけではない、といつもお話ししています。

赤ちゃん期(2歳まで)

乳児期には口の周りや頬に、赤いポツポツ、ジュクジュクした発疹が出ます。
また首、肘のくぼみ、膝のうら、手首や足首などの汗のたまりやすい部分が赤くなります。

幼児期(2~12歳)

赤ちゃんの時期を過ぎるころになると、ひどい湿疹のあった赤ちゃんも、かなりの確率できれいな皮膚に戻ります。
しかしこの時期になってもアトピー性皮膚炎の症状の続く人は、顔面の発疹が減りますが、手足の関節のあたりや体に発疹が増えてきます。
また、皮膚が乾燥してざらざらになってきます。

学童期・思春期(13歳以上)

思春期・成年期はアトピー性皮膚炎が悪化しやすい時期です。
いったん治った皮膚の症状が思春期になってぶり返す例もみられます。この時期の発疹は、顔面、胸部、背部、肘窩など上半身に強くみられ、特に顔面はいわゆる「アトピー性皮膚炎の赤ら顔」などと呼ばれる、独特の顔つきになります。


②かゆみが最大の症状

アトピー性皮膚炎のお子さまは、湿疹が目立つことも辛い症状ですが、何よりも最も苦しめられる症状は、かゆみです。

お子さまは我慢することができず、掻きむしり、血まみれになってしまうこともあるほどです。
自分で掻くことのできない赤ちゃんが、抱っこしているママの服に顔をこすりつけて、一日で顔が真っ赤に腫上がることもよく経験します。

お風呂に入ったり、夜ふとんに入って体があたたまると、かゆみが増すことはよくみられます。これは、皮膚があたたまると、かゆみを感じる神経がかゆみに反応しやすくなるためと、昼間は遊びに夢中になっているため、あまりかゆみを感じず、夜、眠り始めるとかゆみが気になるためと考えられます。

ストレスもかゆみを悪化させる原因と考えられています。

最近、この痒みを和らげる新薬が次々と登場してきました。(コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏。それぞれの項目をお読みください。)

③アトピー性皮膚炎の重症度について

アトピー性皮膚炎の重症度は、医学的には、皮疹(皮膚の湿疹)の面積と炎症の強さで分類します。

軽症 面積にかかわらず、皮膚に軽度の赤みや乾燥だけが認められる状態
中等症 強い炎症を伴う皮疹が、体表面積のおよそ10%未満に認められる状態
重症 強い炎症を伴う皮疹が、体表面積のおよそ10%以上で30%未満に認められる状態
最重症 強い炎症を伴う皮疹が、体表面積の30%以上に及ぶ状態

皮疹は面積より個々の皮疹の重症度が重要視されます。



Ⅲ.アトピー性皮膚炎の治療

①治療の考え方

アトピー性皮膚炎は、適切な治療により、症状がコントロールされると、「寛解(かんかい)」といわれる状態になります。
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能の低下と免疫異常を基盤にさまざまな因子が関係して発症してくる病気のため、残念ながら完治は難しく、生活環境や生活習慣などによって、再び症状がぶり返すことがあります。

そのため、アトピー性皮膚炎の治療は、
「症状がないかあっても軽く、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達して維持すること」
「軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないこと」

を目標に行われます。

アトピー性皮膚炎の治療は、「薬物療法」、「スキンケア」、「悪化因子の検索と対策」を三本柱として、進めていきます。
炎症に対しては、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬、コレクチム外用薬を個々に、あるいは組み合わせて用い、これに保湿薬などのスキンケアをしっかりと行います。

しかし、治療により皮膚が一見きれいになって見えても、皮膚の深い層に炎症が残っている場合もあるので、治療を途中で止めてはいけません。最近、プロアクティブ療法が大切な皮膚の治療といわれるようになりました。

②治療の三本柱

アトピー性皮膚炎の治療は前項で述べたように、「薬物療法」、「皮膚の生理学的異常に対する外用療法やスキンケア」、「原因・悪化因子の検索と対策」の三本柱で進めます。


① アトピー性皮膚炎の、皮膚の炎症と痒みを抑える、薬物療法を行う
② アトピー性皮膚炎の、皮膚の炎症を予防する、スキンケアを行う
③ アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子をさがして、可能なら除去する


以下、それぞれの治療について、具体的に述べていきます。



1.炎症やかゆみを抑える薬物療法

かつてステロイド軟膏やタクロリムス外用薬が、薬害グループやマスコミのゴロツキ連中によって、“怖い薬”だとさかんに誹謗中傷された時期がありました。

久米宏のテレビ朝日番組、ニュースステーションでの「ステロイドは悪魔の薬」のデマ発言によって、どれだけ多くのお子さまが塗炭の苦しみを味わされたことでしょう。(母親ではありません。地獄の苦しみを味わったのはお子さまです。この悲劇は、食物アレルギーの厳格食事療法でも繰り返されました。)

圧倒的な医学的ファクトの積み重ねの前に、この非科学的なステロイド忌避の声は徐々に小さくなりましたが、いまだに呪縛から解けず、ステロイドを忌避する患者さんに遭遇します。

ステロイド外用薬は、その有効性と安全性が医学的に山ほど検証されており、現在多くのアトピー性皮膚炎のお子さまが痒みの無い、快適な日常生活を過ごすことに、大きく貢献しているのです。

アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症は速やかに、そして確実に鎮火させることが重要です。そのためにステロイド外用薬を中心にタクロリムス外用薬、コレクチム軟膏などを組み合わせて治療を進めます。



ステロイド外用薬(軟膏)

●効果
ステロイド外用薬は炎症を抑えます。

炎症を抑える強さによって、
①ストロンゲスト、②ベリーストロング、③ストロング、④ミディアム、⑤ウィーク
と、5つのランクに分類されます。
実際の外用薬を、分類、表示しました。(下図)

  強さ 一般名 製品名
Ⅰ群 ストロンゲスト (きわめて強い)   
プロピオン酸クロベタゾール
デルモベート
    酢酸ジフロラゾン  ジフラール、ダイアコート 
Ⅱ群  ベリーストロング(かなり強い)  
フランカルボン酸モメタゾン
フルメタ
    酪酸プロピオン酸ベタメタゾン アンテベート 
    フルオシノニド  トプシム、シマロン 
    ジプロピオン酸ベタメタゾン  リンデロンDP 
    ジフルプレドナート  マイザー 
    アムシノニド  ビスダーム
    吉草酸ジフルコルトロン  ネリゾナ、テクスメテン 
    酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン  パンデル 
Ⅲ群 ストロング(少し強い)
    プロピオン酸デプロドン エクラー
プロピオン酸デキサメタゾン
メサデルム
    吉草酸デキサメタゾン ボアラ、ザルックス
    吉草酸ベタメタゾン リンデロンV、ベトネベート
    プロピオン酸ベクロメタゾン プロパデルム
    フルオシノロンアセトニド フルコート
Ⅳ群  マイルド(穏やか)
    吉草酸酢酸プレドニゾロン リドメックス
    トリアムシノロンアセトニド レダコート、ケナコルトA
    プロピオン酸アルクロメタゾン アルメタ
    酪酸クロベタゾン キンダベート
酪酸ヒドロコルチゾン ロコイド
    デキサメタゾン グリメサゾン、オイラゾン
Ⅴ群 ウィーク(弱い)
    プレドニゾロン プレドニゾロン
酢酸ヒドロコルチゾン コルテス

剤形としては、軟膏、クリーム、ローション、テープがあります。

髪の毛のある頭髪部にはローションが塗りやすく、外用薬のべとべとが嫌いな人にはクリームがよいでしょう。
ローションは顔や体に塗っても構いません。
テープ剤はひび割れや皮膚表面が固くなった部位に使われることがあります。(当クリニックはあまり使用していません)

●副作用

①全身への副作用
 

内服薬(リンデロンシロップ、デカドロンエレキセル、プレドニンなど)や注射薬(サクシゾン、ソルコーテフ、リンデロンなど)は全身にステロイドが広がるため、副作用が起こる可能性があります。

しかし外用薬(軟膏)では皮膚から吸収されるステロイドの量は微量のため、全身性の副作用が起こる可能性はほとんどありません。

②皮膚におこる副作用

外用薬のため、不適切な強さのステロイド外用薬を長期間にわたって塗り続けた場合にのみ、塗られた皮膚に副作用が起る可能性があります。

 ⅰ)ホルモンとして直接皮膚に影響する副作用
    血管が拡張して皮膚が赤くなる
    皮膚が萎縮して薄くなる
    にきび(顔・胸に使用している場合)ができる

 ⅱ)ステロイドが局所の抵抗力を抑えるために起こる 感染症の副作用
    カンジダ皮膚炎(おむつかぶれ)や皮膚の化膿疹が悪化する
    ヘルペスウイルス感染症が悪化する(カポジの水痘様発疹)
    みずいぼが増える

●使用方法(塗り方)

人差し指の先端から第1関節部まで、外用薬チューブから押し出された量(約0.5g)が成人の手のひら2枚分にあたります。(成人の体表面積の2%にあたります。)

たとえば、子どもに成人の手のひら4個分(0.5g×4/2)の赤い湿疹部位があれば、1日に2回塗ると(1日1g消費))5日間で5gチューブ1本がなくなります。



塗り始めて3~4日で赤みやかゆみが治まりますが、赤みが取れても指でつまんで硬いところはやわらかくなるまで、10日から2週間くらい、さらに塗ります。

プロアクティブ療法について

アトピー性皮膚炎は、よくなったり悪くなったり、皮膚の状態が変化します。湿疹がひどいときにステロイド剤を塗り、よくなれば保湿剤で維持することが行われてきました。これは、リアクティブ療法とよばれる治療法です。

しかし、この方法だとステロイド軟膏を止めると、またすぐ皮膚が赤く、湿疹が再発することが多いです。

これは見た目は皮膚がきれいになっても、実は皮膚の内部には炎症が残っているため、再燃してしまうのではないかと考えられるようになりました。

そこで、十分なステロイド外用薬の治療で症状を抑えた後も、保湿薬塗布に加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を、定期的(週1~3回)に塗って症状が抑える「プロアクティブ療法」が行われるようになりました。

プロアクティブ療法によって、皮膚の症状がない状態を維持することができます。また、ステロイド外用薬の使用量も少なくて済むため、ステロイドの副作用も心配はいりません。





タクロリムス軟膏(プロトピック水和物軟膏)

●効果

身体の免疫反応が高まっている状態を正常に整えることで皮膚の炎症を抑えます。炎症を抑えるメカニズムがステロイドと異なるので、ステロイド外用薬で治療が困難な場合にも有効です。ステロイド外用薬の長期間の連用で報告されている皮膚萎縮や毛細血管の拡張がタクロリムス外用薬ではありません。塗ると、かゆみやヒリヒリするなどの刺激が生じますが、皮膚の状態がよくなると次第におさまります。皮膚がジュクジュクしているところや口・鼻の中の粘膜部分や外陰部には塗らないでください。

●副作用

熱感、痛み、かゆみ、毛嚢炎(細菌による感染症)などが確認されていますが、多くは皮疹の改善に伴って軽減、消失します。

●塗り方

皮膚から吸収されやすい顔や首(頸部)、そしてステロイド外用薬で部分的(局所性)に副作用があらわれやすい部分などに塗ります。




コレクチム軟膏(デルゴシチニブ軟膏)

2020年6月にアトピー性皮膚炎治療薬の新しい外用薬として、デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)が登場しました。(小児用は2021年6月発売)

コレクチム軟膏はJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬とよばれる外用薬です。

ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬とは異なるメカニズムでアトピー性皮膚炎の患者の痒みを抑えます。

ヤヌスキナーゼ(JAK、ジャック)は、さまざまな細胞間伝達物質であるサイトカインが細胞のレセプター(受容体)に結合すると、そのサイトカインの命令(シグナル)を核に伝達する通信係の役目をします。

ヤヌスキナーゼは全部で4種類あり(JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2)、それぞれ異なるシグナルを伝達しています。

このJAKを通じて届けられた命令(シグナル)をもとに、細胞核はさまざまな物質を分泌します。炎症性サイトカインが大量に放出されると、皮膚に炎症がひどくなり、痒みが強くなり、アトピー性皮膚炎が悪化してしまいます。

コレクチム(デルゴシチニブ)は、このJAKのシグナル伝達を全てブロックしてしまいます。そのため、炎症性サイトカインの分泌が抑えられ、その結果皮膚の炎症が悪化したり、痒みが増したりする症状が抑制されることになります。

●効果

コレクチム軟膏の炎症を抑える働きは、ステロイド剤のランクでいうと、ストロング~マイルドクラスの効果のようです。(タクロリムスと同程度。)
しかも効果が出るのに時間が掛かり、塗ってもすぐ赤みが引くことはないようです。一方、痒みは速やかに抑えるようです。

また、皮膚の水分量を保持する働き(保湿効果)も認められています。

●副作用

国内小児第3相試験で、小児アトピー性皮膚炎患者137名にデルゴシチニブ軟膏最長52週(13ヶ月)使用しましたが、特に重篤な副作用はみられず、にきび、毛包炎、塗布部位のヒリヒリ感などが報告されています。

●使用方法(塗り方)

2歳以上が使用の対象になります。

まず、0.5%製剤で開始して皮膚の改善状態で0.25%製剤に変更してもよいし、最初から0.25%製剤を使用してもよいとされています。

1回の使用量(塗布量)は5g以内で、身体の表面積の30%までとされています。



モイゼルト軟膏(デュピクセント)

デュピルマブ(デュピクセント)は、皮膚の2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応を抑制する、注射製剤です。

他の治療で効果が得られない、12歳以上のアトピー性皮膚炎の患者が対象となります。




その他の治療法

抗ヒスタミン薬、免疫抑制薬(シクロスポリン)、デュビルマブ(デュピクセント)、経口ステロイド薬、紫外線療法などの治療もあります。



③炎症を予防するスキンケア(→スキンケアについての、実践的な詳しい説明はこちら

皮膚を清潔に保ち、水分と油分(皮脂)を補給することは、皮膚を良い状態に保ち、アトピー性皮膚炎の症状の悪化を抑えることができます。そのために、しっかりスキンケアを行います。

スキンケアの意義は、

①皮膚の清潔を保持…感染(黄色ブドウ球菌など)から防御と汗、皮脂、汚れなどの除去→洗う
②バリア機能の保持…皮膚を乾燥から守ることと、かゆみ(掻き壊し)を予防する→塗る

①洗う

皮膚の清潔を保つには、毎日の入浴・シャワーが大切です。石鹸を使って洗うことが必要です。

ⅰ)石鹸
石鹸は剤形(固形、液体、ポンプ式)はどれでもよいです。
石鹸・シャンプーを使用する時は、洗浄力の強いものは避け、悪化するようなシャンプー、リンスは使用しないようにします。
石鹸に含まれる添加物は、皮膚の刺激物になるので、添加物の無い石鹸を選びます。
かゆみを生じるほどの高い温度の湯は避け、入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は使用を避けます。

ⅱ)洗い方
洗う順番を決めて、洗います。
肘の内側、外側は曲げて伸ばして、良く洗います。
しわを伸ばして良く洗います。

ⅲ)すすぎ方
石鹸・シャンプーは残らないよう、十分すすぎます。皮膚に残ると、悪化因子となってしまいます。
シャワーヘッドを持っている手、耳の後ろはすすぎ残ししやすいので、シャワーヘッドを持ち替えてよくすすぐ。
最後のすすぎでは、髪もよくすすぎましょう。
脇の下、股もお湯を掛けてよく流します。

②塗る
皮膚の保湿を保つため、保湿剤を効果的に使用しましょう。

洗ったら、すぐ塗ります。
ごしごし擦り込むのは止めましょう。
適度の量(FTU=Finger Tip Unit)を塗りましょう。
しわをのばして、塗りましょう。

保湿剤は、肌の乾燥を防ぐための塗り薬です。こまめに塗ることが、大切です。
入浴やシャワーの後は、保湿剤を使用する習慣をつけましょう。
お子さまがいやがらない保湿剤を使いましょう。

軟膏の塗布量(FTU=Finger Tip Unit)
口径が4mm5g
口径が5mm10g
大きな容器は、専用のスポーンを使用します。
スプーン 小さじ 5ml=4g









保湿剤(
皮膚の乾燥を防いで、皮膚バリア機能を補う薬)一覧
皮膚の保湿を主としたもの(皮膚に潤いを与える)

 一般名  製品名
ヘパリン類似物質含有製剤   ヒルロイドクリーム
 ヒルドイドソフト軟膏
 ヒルドイドローション
 尿素含有製剤      ケラチナミンコーワクリーム
 パスタロンソフト軟膏
 パスタロンクリーム
 パスタロンローション
 ウレパールクリーム
 ウレパールローション


皮膚の保護を主としたもの(皮膚にふたをして、水分が体の外に逃げるのを防ぐ)

 一般名  製品名
 ワセリン  局方白色ワセリン
 プロペト(精製ワセリン)
 亜鉛華軟膏    サトウザルベ
 亜鉛華軟膏
 ボチシート(リント布に亜鉛華軟膏塗布)
 その他  アズノール軟膏



④原因・悪化因子の検討と除去

患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者においてそれらを十分確認してから除去対策を行います。

気候、発汗、精神的なストレス、体調過労、日光、食物(卵、ミルクなど)、環境因子(ダニ、ハウスダストなど)、接触抗原(布、親の衣服など)が悪化因子としてあげられます。

とりわけ、乳幼児では肌は抵抗力が弱いため、細菌感染やウイルス感染がアトピー性皮膚炎を悪化させます。

●生活環境の改善

乳児期は食べ物がアトピー性皮膚炎の悪化因子になります。

乳幼児期を過ぎると、ダニ、ハウスダスト、カビなどの環境的な要素がアトピー性皮膚炎の悪化因子になります。この環境的な要素は、生活の中の工夫や努力によってかなり減らすことができます。

とりわけ、ダニはアトピー性皮膚炎に深く関係する悪化因子のため、十分な対策が必要です。

1.皮膚の清潔

毎日の入浴したりシャワーを使いましょう。このとき、石鹸やシャンプーは洗浄力の強いものは避け、皮膚を強くこすらないようにします。また、石鹸やシャンプーは皮膚に残らないよう、十分にすすいでください。

水温は肌にかゆみを生じるような、熱い温度はさけます。
そして、入浴後には、必ず適切な保湿剤を塗布するようにします。保湿剤は、肌のうるおいを保ち、皮膚の乾燥防止に有用です。使用感のよい、お子さまが喜ぶ保湿剤を使いましょう(炎症を予防するスキンケア参照)。

2.生活上の注意

爪を短く切り、なるべくかかせないことが大切です。(手袋や包帯などによる保護が有用なことがあります。お子さまの状態に応じて適切な処置を行うことが大切だと思います)。

新しい肌着は使用前に水洗いしてから使用します。

患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者においてそれらを十分確認してから除去対策を行います。

気候、発汗、精神的なストレス、体調過労、日光、食物(卵、ミルクなど)、環境因子(ダニ、ハウスダストなど)、接触抗原(布、親の衣服など)が悪化因子としてあげられます。

とりわけ、乳幼児では肌は抵抗力が弱いため、細菌感染やウイルス感染がアトピー性皮膚炎を悪化させます。



本論文で引用した図、表、シェーマは以下の資料から転載させていただきました。著者の方々には厚く御礼申し上げます。
 アトピー性皮膚炎のおはなし マルホ
 Pediatric Community 子どもの皮膚疾患のために Vol.2 マルホ
 アトピー性皮膚炎の治療目標と主な治療薬 マルホ
 アトピー性皮膚炎の重症度評価の補助に TARC シオノギ製薬
 アトピー性皮膚炎とは 鳥居薬品
 スキンケアボード ー健康な皮膚を保つためにー マルホ