フルミストについて            2024.10.12最終更新

フルミストとは 

経鼻弱毒生インフルエンザワクチン=フルミスト(live attenuated influenza vaccine: LAIV) は、鼻から滴下される液状ワクチンです。接種方法は専用の器具を用いて、左右の鼻の中に0.1mlずつ、総計0.2mlプッシュし、滴下します(写真は実際の接種場面です)。

この接種写真はご本人、お母さまに掲載のご許可をいただいています。無断転載厳禁



フルミストの特徴

このワクチン液に含まれるインフルエンザウイルスは、25℃の低温でよく増殖するウイルス(低温馴化cold-adaptedといいます)を培養を重ねて、ほとんど病原性のなくなった (弱毒化attenuatedといいます)ウイルスです。
 
ヒトの鼻に噴霧すると、36~37℃ぐらいのヒトの体内はこのウイルスにとっては高温すぎるため、ほんのゆっくりしたペースでしか増殖できません (温度感受性化temperature-sensitiveといいます)。

しかも、ほとんど病原性を失っているため、有害な症状を起こすことなく、きわめて軽い「局所感染」で人は免疫を獲得することができます。

生ワクチンのため、インフルエンザの感染防止に高い効果が期待されました。



予防する病気
 

季節性インフルエンザ、すなわちA型インフルエンザ(H1N1、H3N2)、B型インフルエンザの発病を予防します。


接種の方法

アメリカ:

アメリカでは、2~49歳が対象で、1回接種が原則です。ただし、2~8歳でインフルエンザワクチンを1回も受けたことがない人は、免疫を確実にするために、1ヵ月間隔で2回接種が勧められています。

日本:
一方、2024年のシーズンから接種が始まる我が国では.接種年齢が2歳から18歳までに引き下げられています。したがって、我が国では、成人は経鼻ワクチンの接種を受けることができません。(注射嫌いのお母さまは残念ですね)

また、小児でも接種回数は1回とされました。




不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)と、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)の作用の違い

不活化インフルエンザワクチンとフルミストの違いを、アメリカのデータを対比させながら、ご説明いたします。

①不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)

不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)は、インフルエンザウイルスのとげ(H鎖)を含む不活化ワクチンです。接種することにより、体内の血液中にインフルエンザウイルスへの迎撃用ミサイル(=血液中IgG抗体)が作られます。

増殖したインフルエンザウイルスが全身に広がる時に、血液中でこのミサイル=IgG抗体がウイルスを破壊=不活化することで発病を抑えたり、症状を軽くしたりします(重症化阻止)。

しかし、空気とともに体の中に進入してくる、インフルエンザウイルスは、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖するため、 不活化ワクチンはインフルエンザウイルスの感染そのものを抑えこむことはできません。

それは、不活化ワクチンで作りだされるミサイル=IgG抗体は血液中に留まり、鼻、気道の粘膜面には存在しないためです。

また、A型インフルエンザウイルスはとげ(H鎖)の組成を細かく変えて(ドリフト=連続変異)、ヒトの防御システムから逃れようとします。

H3N2(香港型)でも、シドニー型とパナマ型では微妙に形が異なり、不活化ワクチンの効果に大きな違いが出てきます。この細かい変異に対応できたかどうかで、その年の不活化ワクチンの効果が決まってくるのです。

さらに現在の不活化ワクチンは、B型インフルエンザに対する抗体の産生はあまり良くないといわれています。

②経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)

これに対し、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)は、実際鼻粘膜で弱毒化ワクチンウイルスが繁殖するため、鼻、気道でもIgG抗体とは別の迎撃用ミサイル=分泌型IgA抗体を作りだすことができます。

そして、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖しようとするインフルエンザウイルスに対して、この分泌型IgA抗体は直接攻撃を加えます。

したがって、インフルエンザウイルスの侵入を撃退し、発病を押さえこむことができるのです(感染阻止)。

また、ワクチンウイルスが増殖することにより、細胞性免疫を担当する細胞(CD8+T細胞)も活性化するため、不活化ワクチンと異なり、インフルエンザウイルスが微妙に型を変えても、ワクチンの効果が期待できるといわれています。

③フルミストと不活化インフルエンザワクチンの効果のちがい(アメリカにおける、インフルエンザの不活化ワクチンと生ワクチンとの主要な相違点)

種類 不活化スプリットワクチン 弱毒生ワクチン
投与方法 筋肉内注射(アメリカ)
皮下注射(日本) 
鼻の中に噴霧
ワクチンのウイルスの状態 死んだウイルス(の一部) 病原性の弱い、生きたウイルス
接種対象年齢 生後6ヵ月以上 2~49歳(アメリカ)
2~18歳(日本)
インフルエンザ関連の合併症を起こす可能性 
の高い人への接種ができるか
できる できない
喘息のこどもや、過去12カ月間に喘鳴が見
られた2~4歳のこどもへの接種ができるか
できる できない
妊婦への接種ができるか できる できない
強度の免疫不全状態の人の家族・濃厚接触
者への接種ができるか
できる できない
接種後の鼻咽頭部からのインフルエンザ
ウイルスの検出
検出されない 接種後7日ぐらいまで、検出される

横浜市感染症情報センター「インフルエンザ生ワクチンについて」を一部改変



フルミストの今までの経過

①フルミスト登場

フルミストの登場は衝撃的でした。鼻から点鼻する全く痛くないワクチン、しかも、従来のインフルエンザ不活化ワクチンより何倍も効果があるという触れ込みの、インフルエンザ生ワクチンが登場したからです。
 
2003年、アメリカの食品医薬品局(FDA)は、この点鼻型のインフルエンザ生ワクチン、フルミストを認可しました。当初はAソ連型、A香港型、B型の3種のインフルエンザウイルスを含んだ3価のワクチンでしたが、2013年にB型をさらに山形系統、ビクトリア系統と2つのサブグループに分けた、4価のフルミスト(FluMist Quadrivalent)に替わりました。

また、接種対象者は2003年には5~49歳でしたが、2007年に2~49歳に接種対象が拡大されました。2011年以降は欧州でも使用され始めました(Fluenz Tetra)。

日本では認可されなかったため、日本各地の先進的な小児科クリニックでは、世界の情勢を踏まえ、フルミストを個人輸入し、患者さんに投与する施設が現れました。当クリニックも、2014年のシーズンからフルミストを個人輸入し、接種希望のかかりつけの患者さんに接種を行いました。

フルミストは国内では2016年2月に第一三共が承認申請を行いました。ながらく放置されてきましたが、2024年ようやく承認され、任意接種として使用できることになったのです。

フルミスト登場当初は、A型インフルエンザに対する、5歳未満児の発病予防効果はワクチン株一致した場合89.2%、株不一致でも79.2%と驚異的なものでした。また、6ヵ月~7歳では、発病予防効果は83%と非常に良好な結果が報告されました。


②アメリカCDC(疾病管理予防センター)フルミスト推奨を取り消す

ところが、2016-2017年のインフルエンザワクチン接種に関して、アメリカCDCはフルミストを推奨しないと発表したのです(原文はこちら)。

CDC’s Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) today voted that live attenuated influenza vaccine (LAIV), also known as the “nasal spray” flu vaccine, should not be used during the 2016-2017 flu season. ACIP continues to recommend annual flu vaccination, with either the inactivated influenza vaccine (IIV) or recombinant influenza vaccine (RIV), for everyone 6 months and older. 

その理由として、2013年以降、CDCの調査によれば、フルミストの不活化ワクチンに対する優位性はだんだんと失われ、2015-2016年の予防効果の成績(2歳~17歳対象)では、

経鼻生ワクチンの有効性          3% (95%CI  -49% to 37%)
不活化ワクチン(注射)の有効性    63% (95%CI  52% to 72%)

という結果だったため、CDCはこの成績をもとに、2016-2017年については、フルミストの接種を推奨しないと発表しました。

このCDCの声明に対し、英イングランド公衆衛生サービス(Public Health England, PHE)は、2015-2016年も経鼻生ワクチン(欧米では、Fluenz Tetra)は十分なインフルエンザ予防効果があったと認め、2016-2017年はさらに接種の小学生の対象を拡大すると声明しました(原文はこちら)。

Public Health England (PHE), the Department of Health and NHS England remain confident that the children’s nasal spray flu vaccine plays an important role in protecting children, their families and others in the community from flu during the winter.

Provisional figures released by PHE show that the childhood nasal spray flu vaccine has been effective in the UK, both in protecting the children themselves and their communities from flu. Reports from the US have suggested a possible lower vaccine effectiveness, unlike the findings in the UK.

しかし、アメリカのCDC(疾病管理予防センター)は、2017年-2018年のシーズンも、フルミストの使用を推奨しませんでした。2016-2017年の結果を加えても、不活化65%、フルミスト46%でフルミストの有効性を確認できなかったという理由からでした。

フルミストの有効性が低下した理由について、いくつかの仮説が唱えられました。

①2013-2014年、3価だったワクチンが4価となり、生ワクチン中のそれぞれのインフルエンザウイルスがお互い干渉しあって、接種しても抗体が上がらなくなったのではないか、という説。
②特にH1N1インフルエンザに効果が認められなかったのは、すでにH1N1インフルエンザに自然感染していた人が多かったため、生ワクチンのウイルスを接種してもワクチンのウイルスが効果を発揮できなかったのではないか、という説。

その他、ワクチンの温度管理の問題など、しかしいずれも仮説の域を脱することはありませんでした。

③アメリカCDCは2018年、再びフルミストを推奨

ところが、アメリカCDCは、2018-2019年のシーズンでは再びフルミストの接種を勧奨する、と声明しました。フルミストの効果を再度検証したところ、有効性が確認されたから、という理由でした。

During the Feb. 21-22 meeting of the CDC's Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), the group voted 12-2 to recommend the inclusion of live attenuated influenza vaccine for the upcoming flu season.(原文はこちら

現在では、フルミストは世界36の国、地域で承認されたワクチンとなっています。



フルミストの効果

我が国のコロナ前の2016-2017年のシーズンの、フルミストのインフルエンザ感染症に対する発病阻止の有効性 (vaccine efficacy) は28.8%でした。
ただし、インフルエンザ分離株の83%がA/H3N2型で、A/H1N1型やB型に対する有効性は確認できませんでした。
(その後、A/H1N1型やB型に対しても有効という報告もありました)

また、フィンランド、ドイツ、カナダの臨床検討では、フルミストとインフルエンザHAワクチンの有効性に差はなかった、と報告されています。



フルミストの副反応

鼻水、鼻つまりなど鼻炎の症状が約半数(40~50%)にみられるようです。
発熱と咽頭痛が10%ぐらいにみられるようですが、数日で改善します。

また、アメリカの報告だと2歳未満への投与では入院と喘鳴の増加が認められました。そのため2歳児未満のこども、および喘息児は投与されておりません。

当クリニックでは、2015年にフルミストを当クリニックで接種した患者さんへのアンケート調査を行い、アンケート回答者の75%の方がインフルエンザに罹患せずにすみ、81%が副反応を認めず、87.5%の方が次のシーズンもフルミスト接種を希望するという回答を得ました。

アンケートの結果、副反応で多かったのは、やはり鼻汁・鼻閉でした。



今シーズンの当クリニックのフルミスト接種のご案内

フルミストが正式に承認されたため、今シーズンから当クリニックは任意接種として、
10月15日(火)からフルミストの接種を始めます。

接種ご希望の方は、下記の説明をお読みの上、クリニック受付に電話でご予約ください。入荷に限りがありますので、在庫がなくなり次第、終了とさせていただきます。

また、ご質問がある方は鈴木院長の診察時に、直接ご相談ください。

電話でのご相談は患者さんとの電話対応業務に支障が出るため、申し訳ございませんが対応できません。また、メールでの個別のご相談にも対応しておりませんので、ご了解をお願いいたします。

接種年齢:
2歳~18歳 ただし、喘息発作を頻回に繰り返す方、ゼラチンでアナフィラクシーを起こしたことがある、医療機関での処置に激しく抵抗するお子さまは、接種はできません。

接種費用:
8000円(品川区からフルミスト接種に2000円補助がでることが発表されましたので、受付窓口では6000円のお支払いとなります)

当クリニックがフルミストを推奨する人:

当初いわれていたような、不活化ワクチンに対する圧倒的な優位性は、フルミストにはありません。インフルエンザに対する有効性は、不活化ワクチン、フルミストでほぼ同等と評価されています。

接種費用は1回2000円助成がありますが、フルミストの方が当然不活化ワクチンより高額になります。

当クリニックは数シーズンにわたるフルミストの実際の接種経験から、下記に該当する方にフルミストの接種をお勧めします。

1.2~18歳のお子さまが対象ですが、鼻に点鼻するので、特に4~5歳以降で、処置などに協力的なお子さま(接種は全く痛くはありませんが、恐怖で暴れるお子さまにはうまく点鼻できない例がありました)

2.ワクチンをしているのに、毎年インフルエンザにかかってしまう人

3.注射に病的な恐怖感を持っているお子さま(小学生でも結構います)

4.注射をすると血管迷走神経反射を起こして倒れる人

5.インフルエンザワクチンの接種部位が異常に赤く腫れあがる人



通常のインフルエンザHAワクチンも例年通り、10月3日から接種を行います。9月9日(月)から、予約の受付を始めています。当クリニックは、インフルエンザ不活化ワクチンの接種を、変わらずお勧めいたします。(→インフルエンザワクチン詳細

2024年9月26日が発売予定だったフルミストの発売(供給)は延期されましたが、10月4日(金)に発売となりました。ご希望の方は、本文記載の通り、クリニック受付に電話でご予約をお願いいたします。




参考文献資料:

厚労省:小児に対するインフルエンザワクチンについて
PMDA:経鼻弱毒生インフルエンザワクチン2.5臨床に関する概括評価
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会:経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方


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