JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤について
2024年11月15日更新1)新しいアトピー性皮膚炎の治療薬の登場
JAK阻害剤は、今まで耐えがたい痒みで夜も寝られない、顔がアカギレし、ざらざらの肌のため、外出もままならない、といった症状で苦しんできた重症のアトピー性皮膚炎の患者さんを、この塗炭の苦しみから救い出す、画期的な治療薬です。
JAK阻害剤は、ステロイド軟膏をきちんと塗っているのに良くならず、アトピーは治らないものだと諦めて、「もう良くならないんだ」「自分の肌は一生治らないんだ」と絶望している患者さんへの大きな福音となる、新しい薬なのです。
この稿では、この新しく登場したJAK阻害剤について、詳しく解説していきたいと思います。
2)ヤヌスキナーゼとは
JAK阻害剤は、ヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK、ジャックと呼ばれます)という、酵素(チロシンキナーゼ)の働きを阻害する薬のことです。
まず「ヤヌスキナーゼ」とは、どのような酵素なのか、みていきたいと思います。
細胞表面には、さまざまな細胞外からの指令を受け取るリセプター(受容体)と呼ばれる情報の受け取り口があります。
「サイトカイン」はこのリセプターに指令を伝える方の蛋白質で、細胞同士の情報や、細胞の増殖、分化、機能の発現(たとえば、免疫反応を起こすこと、など)の命令情報をリセプター(受容体)に伝えます。
実はサイトカイン自身も、細胞から作られる物質なのです。サイトカインは細胞から生み出されると、指令を伝えるため、目標の細胞へ向かいます。
そして目標の細胞に接近すると、その細胞の表面のリセプター(受容体)に結合します。サイトカイン自身は大きな分子量の蛋白質のため、直接細胞内に入り込み、細胞の核に指令を伝えることはできません。そのため、細胞表面のリセプターにまず接着し、情報を伝えようとします。
しかし、リセプター自身もサイトカインの指令を直接細胞の核に伝える能力を持っていません。そのため、リセプターはサイトカインが結合すると自分の体の一部分にくっついているヤヌスキナーゼ(JAK)という小酵素を活性化させます。
ヤヌスキナーゼ(JAK)は、この受容体(リセプター)の一部にくっついている、チロシンキナーゼという酵素です。サイトカインがリセプターに結合すると、ヤヌスキナーゼは別の場所にあったATP(アデノシン3リン酸)を引き寄せて、このATPからリン酸(P)をもらい(リン酸化)、活性化しパワーアップします。
「青少年のアトピー性皮膚炎患者さんにおけるリンヴォックの有用性」(Abbvie)より転載
リンをもらい活性化したヤヌスキナーゼ(JAK)は、今度はリセプター本体をリン酸化します。その結果、リセプターの一部に他の物質と結合できる場所(ドメイン)が開かれます。そして、この部位(ドメイン)に、細胞内に存在する「STAT」という伝達物質が移動してきて結合します。
「STAT」とは、「Signal Transducer and Activator Transcription(情報の伝達と転写)」を略した物質で、伝書鳩のようなものですね。
ヤヌスキナーゼ(JAK)によって、リン酸化され活性化したSTATは、2分子がくっついてペアになり(二量体)、お互いを活性化(リン酸化)しながら細胞質を移動して、細胞の核内に入ります。そして、核にサイトカインからの指令を伝えます。ここでやっと、サイトカインの情報指令が核に伝達されたことになります。
細胞の核はこの指令に基づき、いろいろな物質を作り出し、細胞外に放出します。この全過程を、「JAK-STATシグナル伝達経路」を呼びます。
ヤヌスキナーゼ(JAK)は今見てきたように、親のリセプター本体をリン酸化し、さらに子のSTATもリン酸化するという、二つの顔を持っています。
そのため、ローマ神話に登場する二つの顔を持つ門番の神である、ヤヌス(右写真、Wikipediaから転載)になぞらえて、ヤヌスキナーゼと名付けられました。(1月Januaryは、ローマ神 ヤヌスに由来しています)
ヤヌスキナーゼには、ヤヌスキナーゼ1(JAK1)、ヤヌスキナーゼ2(JAK2)、ヤヌスキナーゼ3(JAK3)、チロシンキナーゼ2(TYK2)と4種類があり、それぞれが組み合わさって、リセプター(受容体)と結合しています。その働きもさまざまです。
一方、下流の伝達物質であるSTATも7種類あります(STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5B、STAT6)。結合するサイトカインによって、対応するSTATもさまざまです。
ヤヌスキナーゼ(JAK)は広く細胞に分布し、いろいろなサイトカインの情報を細胞核に伝達しています。
アトピー性皮膚炎で特に問題となるサイトカインは、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン13(IL-13)、インターロイキン22(IL-22)、インターロイキン31(IL-31)、TSLP(Thymic
stromal lymphopoietin:抗胸腺間質性リンパ球新生因子)、インターフェロン・ガンマ(IFN-γ)です。
このうち、IL-4とIL-13は皮膚を赤く腫れ上がらせ、IL-31は皮膚のかゆみを起こし、TSLPは皮膚のかゆみと炎症を悪化させ、IL-22は皮膚の抵抗力を落とします。
そして、これらのサイトカインの指令の伝達には、主にJAK1がその役割を担っています。
「青少年のアトピー性皮膚炎患者さんにおけるリンヴォックの有用性」(Abbvie)より転載
JAK阻害剤(ヤヌスキナーゼ阻害剤)は、このヤヌスキナーゼの働きを阻害する薬剤です。
3)ヤヌスキナーゼ阻害剤について
ヤヌスキナーゼ阻害剤(JAK阻害剤)は、サイトカインの指令伝達経路(JAK-STATシグナル伝達経路)を阻害し、サイトカインの過剰指令に基づく炎症反応や免疫反応を抑制します。
そのため、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患、乾癬性関節炎、円形脱毛症などの治療薬として、膠原病内科、皮膚科領域で広く使用されてきました。
JAK阻害剤は重症アトピー性皮膚炎の炎症、痒みに対してもきわめて効果があることがわかり、アトピー性皮膚炎の治療にも応用されることになったのです。
アトピー性皮膚炎の発病には、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-31(IL-31)、TSLP、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)などのサイトカインが関係しています(前述)。
ヤヌスキナーゼ阻害剤(JAK阻害剤)は、ヤヌスキナーゼ(JAK)にATPが結合することを邪魔して、JAKを活性化させません。そのため、STATが活性化し、二量体となって、細胞核に指令を伝えることができなくなります。
このようにJAK阻害剤は、サイトカインの指令伝達経路(JAK-STATシグナル伝達経路)を抑制します。その結果、アトピー性皮膚炎の炎症、かゆみが抑えられるのです。
2020年にバリシチニブ(オルミエント)、2021年にはウパダシチニブ(リンヴォック)、アブロシチニブ(サイバインコ)という内服JAK阻害剤が、重症のアトピー性皮膚炎の患者さんに使用できることになりました。
また、外用薬JAK阻害剤(軟膏)として、2020年6月に、デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)が登場し、小児用は2021年6月に発売となりました。
JAK阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害薬Tyrosin kinase inhibitorの名称から、一般名は語尾にt in ib(チニブ)を付けて命名されます。
サイバインコはAbrocitinib(アブロシチニブ)、リンヴォックはUpadacitinib(ウパダシチニブ)、オルミエントはBaricitinib(バリシチニブ)、コレクチムはDelgocitinib(デルゴシチニブ)が一般名です。
「青少年のアトピー性皮膚炎患者さんにおけるリンヴォックの有用性」(Abbvie)より転載
4)アトピー性皮膚炎に投与するJAK内服阻害薬
JAK阻害剤の投与に当たっては、各患者さんのアトピー性皮膚炎の病状、今までの治療の経過、患者さんのいろいろな背景など、さまざまな条件を検討し、さらに各治療薬の特徴も踏まえながら、患者さんとよく相談し、適応を決めることが必須です。
特に最近生後6ヶ月から使用可能になった、ディプロマブ(ディピクセント)などの抗体治療薬との選択も重要になります。
現在、重症アトピー性皮膚炎に使用できる内服用のJAK阻害剤3剤を、比較してみます。
JAK阻害剤 | ウパダシチニブ | アブロシチニブ | バリシチニブ |
---|---|---|---|
リンヴォック | サイバインコ | オルミエント | |
阻害するJAK | JAK1(主) | JAK1 | JAK1、2 |
投与できる年齢 | 12歳から (12〜14歳は30kg以上) |
12歳から | 2歳から |
製剤 | 15mg、30mg | 100mg、200mg、50mg(腎機能低下時) | 4mg、2mg、1mg |
効果判定 | 12週 | 12週 | 8週 |
併用注意 | イトラコナゾール クラリスロマイシン リファンピシン |
フルコナゾール リファンピシン |
プロベネシド |
@サイバインコ(アブロシチニブ)
2021年12月13日に、アトピー性皮膚炎の内服薬として、発売されました。アトピー性皮膚炎のみに適応がある、JAK阻害剤です。
●製剤
50mg、100mg、200mgの3種類の錠剤があります。
小児では、通常100mg錠剤を1日1回服用しますが、最初から十分な効果を期待して、200mgの投与を勧める専門家もいます。
50mgは腎機能が低下している患者さん用です。
●作用機序
サイバインコはATPとの結合を遮断することによって、JAKの働きを阻害します。(詳しくは、ヤヌスキナーゼ阻害剤について)
特にサイバインコは、4種類のヤヌスキナーゼ(JAK)のうち、JAK1のみを選択的に強く抑制します。
JAK1は、アトピー性皮膚炎の赤く腫れる状態(IL-4、IJ-13)や、激しい痒み(IL-31)に深くかかわっている酵素です。
そのため、JAK1の作用を抑制することによって、アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症や痒みが劇的に改善します。
「青少年のアトピー性皮膚炎患者さんにおけるリンヴォックの有用性」(Abbvie)より転載
「サイバインコ錠アトピー性皮膚炎患者用投与前チェックシート」(ファイザー)より転載
●効果
アブロシチニブ(サイバインコ)100mg錠は、ウパダシチニブ(リンヴォック)15mg錠やデュピルマブ(ディピクセント)300mgシリンジよりは、やや効果は弱いようですが、200mg錠に増量すると重症のアトピー性皮膚炎にも強い効果が期待できるようです。
サイバインコ投与により、痒みは数日で劇的に改善し、皮膚の赤み、ざらざらなどの皮膚炎症状も1〜2週間で目に見えて軽快してくると報告されています。
また、副作用が出た場合も、休薬すれば作用時間が短いため、速やかに消失するようです。また、抗体治療薬ではないため、効き目は弱まることなく投薬、休薬が可能だとされています。
●副作用
高齢者では、帯状疱疹、単純ヘルペス、結核、B型肝炎の再活性化、肺炎など感染症、頭痛、血栓塞栓、胃腸障害、ふわふわしためまいなどの副作用が要注意とされています。
しかし、小児科では、毛のう炎、皮膚の赤み、にきびなどがよく見られる程度で、高齢者に比べて副作用の程度は軽いといわれています。
投与開始時に悪心、嘔吐などの胃腸障害、頭痛は比較的よくみられる症状ですが、1〜2週間ぐらいで軽快するようです。
●投与方法
12歳以上が対象です。リンヴォックと異なり、体重制限はありません。
1日1回、100mg1錠が標準投与です。しかし、最近200mg1錠を最初から推奨する考えもみられます。
●投与対象と診療手順
ストロングクラス(V群)以上のステロイド軟膏、またはプロトピック軟膏を6ヶ月以上適正に塗布しているにもかかわらず、アトピー性皮膚炎が良くならない12歳以上の中学生、高校生が対象になります。
当クリニックかかりつけで、6ヶ月以上当クリニックでアトピー性皮膚炎の標準的治療を受けてきた患者さんでは、ご希望があればただちにJAK阻害剤の投与のご相談を行います。
他医療機関がかかりつけのアトピー性皮膚炎の患者さんが、当クリニックでJAK阻害剤の治療を希望される場合は、まず当クリニックで6ヶ月間アトピー性皮膚炎の標準的治療を行い、改善は認められない場合に、投与のご相談を行わせていただきます。(すぐに処方はいたしません)
JAK阻害剤の投与を検討する場合は、まずアトピー性皮膚炎の重症度の評価を行います。重症度は、
@IGAスコア
AEASIスコア
Bアトピー性皮膚病変の体表面積に占める割合
の3項目を用いて、当クリニック医師が判定を行います。
*当クリニックはこの3項目の採点法につき、埼玉医大皮膚科助教授であった鈴木正諏訪皮膚科クリニック院長から、直接ご指導を受けました。
診察の結果、@ABが投与基準を満たしていれば、投与前検査として、血液検査と胸部X線検査を行います。また、薬剤についての説明パンフをお渡しし、希望者にお読みいただきます。
1週間後、再診し、投与前検査の結果に問題なければ、投与を開始します。
投与開始後も、症状改善状況、副作用の出現状況を密に観察し、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後には定期的な副作用検査を行います。
●投与できない人
貧血、白血球減少、血小板減少が認められた人、重症の肝機能障害、腎機能障害のある人、結核、肝炎の罹患している人、また妊娠している人はJAK阻害剤の投与は見合わせます。
また、JAK阻害剤投与中は、生ワクチンの接種はできません。
●当クリニックの方針
12歳から投与可能なため、投薬基準を満たしているアトピー性皮膚炎でお悩みの中学生、高校生には、サイバインコ100mgの投与を始めます。
一人一人個別に治療日記を作成し、ご本人と良く相談しながら、治療を進めてまいります。
Aリンヴォック(ウパダシチニブ)
関節症性乾癬、関節リウマチ、強直性脊椎炎、潰瘍性大腸炎など、さまざまなな免疫異常、自己免疫疾患に幅広く投薬されている、内服用のJAK阻害剤です。
●製剤
小児の場合、15mgを1日1回投与します。
小児とは、年齢12歳以上で体重30kg以上の方が対象となります。
リンヴォックはサイバインコと異なり、体重制限があります。
●作用機序
JAKのATP結合部位に先に結合し、ATPの結合によるJAKのリン酸化、活性化を阻止します。特に、JAK1の働きを抑えます。
そのため、STATが活性化されず、サイトカインの情報を核に伝達することができません。
その結果、IL-4、IL-13、IL-31などの皮膚炎、痒みを増悪させる炎症性サイトカインが放出されず、アトピー性皮膚炎の症状の悪化を防ぎます。(右下図:
「青少年のアトピー性皮膚炎患者さんにおけるリンヴォックの有用性」(Abbvie)より転載)
●効果
リンヴォック錠15mgとステロイド剤併用によって、皮膚の炎症症状は4週間で60%、かゆみの軽減は4週間で55%の人に認めれたと報告されています。(国際共同第V相試験AD
Up試験)
●副作用
皮膚の赤み、にきび、上気道炎、帯状疱疹、単純ヘルペスなどに注意します。
●投与方法
12歳以上で体重が30kg以上の小児に、リンヴォック錠15mgを1日1回投与します。
体重30kg以上の中学生から投与できます。
●投与できない人
貧血、白血球減少、血小板減少、重症の肝機能障害、腎機能障害、結核、妊娠している人は投与できないか、要注意です。
そのために投与前に、血液検査、胸部X線検査を行い、投与できるか判定します。
●当クリニックの方針
サイバインコより効き目は強力のようですが、当クリニックではまずサイバインコを投与します。サイバインコで効果が不十分な場合、副作用が強く出た場合は、リンヴォックの投与も行います。
B オルミエント(バルシチニブ)
アトピー性皮膚炎のほか、円形脱毛症、関節リウマチ、新型コロナウイルス感染症の肺炎にも使用されている、内服用のJAK阻害剤です。
●作用機序
JAK1/JAK2の働きを抑えます。
●副作用
毛のう炎、皮膚の赤み、にきび、帯状疱疹、単純ヘルペスに注意します。
●投与方法
2歳以上から投与ができることになりました。
15歳以上の小児、成人には1日1回、4mgを1錠服用します。(2mg錠剤に減量可)
2歳から15歳未満の児では、体重で投与量が分かれます。
体重30kg以上の児は1日1回、4mgを1錠服用します。体重30kg未満の児は1日1回、2mgを1錠服用します。
●投与できない人
貧血、白血球減少、重症の腎機能障害、結核、妊娠している人は投与できないか、要注意とされています。
そのために投与前に、血液検査、胸部X線検査を行い、投与できるか判定しなければなりません。
●当クリニックの方針
2歳以上が対象となり、小児にも処方ができるようになりましたが、血液検査、胸部X線検査など投与前の検査が過重なため、積極的な投与は考えておりません。
5)アトピー性皮膚炎に投与するJAK外用阻害薬
JAK阻害剤の外用薬としては、デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)が広く使用されています。
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ軟膏)
2020年6月にアトピー性皮膚炎治療薬の新しい外用薬として、デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)が登場しました。
小児用は2021年6月に発売となりました。
コレクチム軟膏は、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬とよばれる外用薬で、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬とは異なるメカニズムで、アトピー性皮膚炎の患者の痒みを抑えます。
ヤヌスキナーゼ(JAK、ジャックと呼ばれます)とは、チロシンキナーゼという酵素の一つで、細胞の表面にあるいろいろな伝達を受けるレセプター(受容体)にくっついています。
伝達物質であるサイトカインが細胞のレセプター(受容体)に結合すると、JAKはリン酸化されて活性化します。
そして細胞内にあるSTAT(Signal transducer and Activator of Transcription)と呼ばれる転写因子をやはりリン酸化されて、活性化させます。
この活性化したSTATは、二量体という二つくっついた状態で核内に移動します。そして、サイトカインからの命令(シグナル)を核に伝達し、さまざまな物質が作られ、分泌されていきます。
このヤヌスキナーゼは、全部で4種類あり(JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2)、それぞれ異なるシグナルをSTATを通じて核に伝達します。
このJAKを通じて届けられた命令(シグナル)をもとに、細胞核はさまざまな物質を分泌します。炎症性サイトカインが大量に放出されると、皮膚に炎症がひどくなり、痒みが強くなり、アトピー性皮膚炎が悪化していきます。
コレクチム(デルゴシチニブ)は、この4つのJAKファミリーのリン酸化(活性化)を全て阻害し、STATを活性化させず、シグナル伝達を全てブロックしてしまいます。そのため、組織を腫れさせる、炎症性サイトカインの分泌が抑えられます。
その結果、皮膚の炎症を抑えられ、痒みも抑制されていくのです。
●効果
コレクチム軟膏の炎症を抑える働きは、ステロイド剤のランクでいうと、V群〜W群レベルのようです。(タクロリムスと同程度)
しかも効果が出るのに多少時間がかかり、塗ってもすぐ赤みがひくことはないようです。一方、痒みは速やかに抑えます。
また、皮膚の水分量を保持する働き(保湿効果)も認められています。
●副作用
特に目立った副作用はありませんが、毛のう炎、皮膚の赤み、にきび、刺激感の報告があります。また、カポジ水痘様発疹、単純ヘルペスの発生に注意します。
●使用方法(塗り方)
2歳以上が使用の対象になります。0.25%、0.5%の2種類があります。
1日2回、病変部位に塗ります。1回の使用量(塗布量)はチューブ5g1本(=10FTU)以内で、身体の表面積の30%までとされています(てのひら1枚分の面積が、おおよそ体表面積の1%相当と評価します)。
使用の目安は、FTUの表に皮疹部位を当てはめて、塗布量を決めます。ティッシュが皮膚に着く、または皮膚がテカる程度に塗って下さい。強く塗り込む必要はありません。
小児はまず、0.25%製剤で開始します。1週間ぐらいから効果が認められ、1ヶ月ぐらいで痒みが治まってくるようです。効き目はマイルドのようです。子どもでも効果によっては、0.5%製剤の使用も可能です。
目や口、鼻の中など粘膜面には使用できません。皮膚のただれ、感染症の箇所(とびひなど)には使用できません。
薬を塗った箇所に、赤や白の吹き出物やにきび、水疱などが出現したら、受診して下さい。
●当クリニックの使用方針
ステロイド剤の副作用はなく、効き目は穏やかで、使いやすい軟膏です。 ただし、投与量に制限があり、注意が必要です。
顔や頸部のステロイド剤の副作用の出やすいところ、またプロアクティブ療法のステロイド剤の休薬時、軽症のアトピー性皮膚炎で痒みが強いお子さまに幅広く処方しています。