U.細菌の病気

          溶連菌感染症

          カンピロバクター腸炎

          マイコプラズマ肺炎



溶連菌感染症

 溶連菌感染症は、A群β溶血性連鎖球菌による感染症です。溶連菌感染症は、感染して2〜4週後に急性糸球体腎炎(PSAGN)やリウマチ熱、アナフィラクトイド紫斑病を引き起こすことがあり、完全に除菌することが必要です。

溶連菌の症状

 潜伏期間は、通常1〜4日で、感染経路は咳などからうつる飛沫感染が主で、食品による経口感染の報告もあります。

 症状は突然の38℃以上の発熱、のどの腫れや痛み、首のリンパ節の腫れが多く、溶連菌の出す毒素による赤く細かい小さな発疹がくび、胸、わきの下や臀部、大腿部に広がります。溶連菌によるのどの出血斑を伴なう咽頭炎は特徴的で、典型例では検査をしなくても、小児科専門医なら診断がつくほどです。苺舌はあまりはっきりみられないことが多いです。咳はあまりみられません。病初期に頭痛を訴えることも多く、また嘔吐、腹痛を伴うことも少なくありません。解熱後、指の皮が剥けてくることがあります(落屑)。これらの症状が幼稚園児、小学生に見られれば、溶連菌感染症を疑わなければなりません。

 3歳以下のお子さまの場合は、より軽い微熱、鼻汁、リンパ節の腫れがだらだら続くこともあります。

 とびひや皮膚の化膿巣が、溶連菌によることもあります。

 年齢は515歳の子どもに多くみられますが、家族内感染でお母さま、お父さまにうつることもあります。

溶連菌の検査

 診断は咽頭培養といって扁桃の細菌を培養して確定しますが、結果が出るまでに1週間以上かかるため、最近では溶連菌迅速試験がよく用いられます。

 溶連菌迅速検査はA群溶連菌抗原を検出するもので、A群溶連菌感染の有無が5分で判断できます。血液検査では、ASO(抗ストレプトリシンO抗体、溶連菌の菌体外毒素に対する抗体)が感染の1週間後から増加し、3〜6週でピークになるため、この上昇は診断的価値があります。

溶連菌の治療

 治療は、ペニシリン系抗生剤(ワイドシリン、パセトシン)を10〜14日間服用することが原則です。これは現在の急性感染を治療するだけでなく、急性糸球体腎炎やリウマチ熱などの合併症を予防するために投与しています。
 ただし、ペニシリン系抗生剤は服用1週間過ぎごろに、発疹が出る場合があり、その時は他の抗生剤に変更します。
 抗生剤服用後、1〜2日で発熱、咽頭痛、発疹などの症状はほとんどおさまりますが、必ず10日間は服用してください。

 抗生剤服用終了1週間後に尿検査を行い、尿に異常がないことを確認して、治療を終了しています。

 予防方法としては、手洗い、うがいをよく行うことが勧められています。

登校・登園基準

 学校保健安全法では「医師が感染のおそれがなくなったと認めるまで」、保育所における感染症対策ガイドラインでは「抗生剤治療開始後24時間〜48時間を経過していること」が登園の目安とされています。当クリニックでは、抗生剤治療開始後、1〜2日目に再度診察を行い、症状が改善していれば、登校・園許可をお出ししています。

カンピロバクター腸炎

 カンピロバクター属は赤ちゃんの敗血症という重い病気の原因菌(Campylobacter fetus)として知られ、ヒトに感染することはあまりない、珍しい細菌だと思われてきました。ところが、検便の技術が進歩し、酸素のあまり存在しない真空に近い環境下(微好気性)で下痢便を培養すると、この仲間(Campylobacter jejuni/coli)が高率に検出され、ヒトの細菌性腸炎の主要な病原菌であることが明らかになりました。

 カンピロバクタ−は自然界に広く分布し、いろいろな動物に感染しています。ヒトにはペットとの直接の接触や汚染された鶏肉を介して感染します。また、汚染された水道水を飲んで集団発生した報告もあります。
(写真は国立感染症研究所HPのカンピロバクタ―感染症より転載。)

カンピロバクター腸炎の症状

 潜伏期は2〜10日で、感染経路は生食肉、特に鶏肉の経口感染が主だといわれます。また、調理に使った包丁、まな板、手指などを介して感染することもあるようです。カンピロバクターは酸素(空気)と触れると死滅するので、室温に放置された食品は感染力は低下しますが、逆に冷蔵した場合は長期間生存し、食中毒を引き起こすといわれています。感染を防ぐ一番確実は方法は、食品の加熱をしっかり行うことです。

 カンピロバクター腸炎の主な症状は、発熱、腹痛、下痢、血便です。1〜3歳の乳幼児では赤い血の混じった粘血便がよくみられますが、他の発熱、嘔吐などの症状は軽いようです。一方、学童ではかなり強い腹痛と水様の下痢が頻回で、血便も伴ないます。体温は37〜38℃の発熱が1〜2日続き、頭痛も訴えますが、嘔吐はあまりみられません。

食中毒としてのカンピロバクター腸炎

 カンピロバクター腸炎は汚染された水道水によって集団発生したという報告もあります。また、生の鶏肉などにより、食中毒をおこします。

カンピロバクター腸炎の治療

 治療は、カンピロバクターに効果のある抗生剤(エリスロマイシン、ホスミシン)を投与します。また、下痢に対しては、整腸剤(乳酸菌製剤)も併用します。ロペミン(ロぺラミド)はカンピロバクターなどの細菌性腸炎では使用してはいけません。

登校・登園基準

 登校・園基準は、特にありません

マイコプラズマ肺炎

 マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモ二アエ(肺炎マイコプラズマ)という、細菌とウイルスの中間の大きさの極小細菌による感染症です。

 マイコプラズマという名称は、培養すると細長い糸状になり、カビのように見えることがあり、ギリシャ語でキノコを意味するmykesに由来するmykoと、形を意味するplasmaから名づけられました。

 オリンピックの年に発生するといわれましたが、2000年以降は毎年患者が発生し、限定された地域や小学校、家族内で小流行をくり返していました。

 ところが、2011年に久しぶりに大きな流行があり、そして、今年(オリンピックの年です!)、再び大きな流行になっています。(右図は感染症研究所感染症疫学センターIDWRマイコプラズマ肺炎より転載)

マイコプラズマ肺炎の疫学

 潜伏期間は、通常2〜3週です。

 感染経路は咳などからうつる飛沫感染が主ですが、咳で飛び散った痰などに接触してうつる接触感染もあるようです。

 感染力は弱いため、学校や家族のような閉鎖した空間の中の小集団で流行します。

 秋〜冬にかけて多いようですが、春〜夏にも発生しています。
2016年の今回の流行も、7月(27週)ごろから患者が増えてきています。

マイコプラズマ肺炎の症状

 症状は、まず発熱と頭痛を伴った全身倦怠感が現れます。3〜4日このような症状が続くと、咳がだんだんひどくなっていきます。

 最初は、しつこい乾いた咳で、次第に強くなり、夜間、明け方に激しく出ます。咳のため、吐いたりします。胸痛を訴えることも、まれではありません。また、血が混じることもあります。

 咳が最もひどいのは2週目ぐらいで、その後も発病1ヵ月ぐらいはひどい咳がなかなか改善せず、長引くのが特徴です。

 発熱の程度と持続する時間はさまざまで、
23日から1週間以上も熱が続くこともあります(抗菌剤が有効なら、2〜3日で解熱することが多いです)。時に赤いぼつぼつや蕁麻疹様の発疹(じんましんや多形滲出性紅斑)がみられることがあります。鼻水はあまり目立ちません。

 子どものマイコプラズマ感染症の25%は悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状を起こすという記載もあります。

 年齢は5歳〜15歳、特に小学生に多くみられますが、大人にも感染するので、マイコプラズマ肺炎とお子さまが診断されたら、マスクと手洗いの励行が必要です。赤ちゃんにも感染しますが、肺炎にはならず、かぜの症状で終わることが多いようです。

マイコプラズマ肺炎の合併症

 マイコプラズマ肺炎は軽い肺炎なので、必ずしも入院する必要はありません。ただし、肺に水がたまったり(胸水貯留)、ひどい肺炎で呼吸が苦しくなったり、脳炎・髄膜炎になったりした場合は、入院した上で強力な治療が必要です。

 合併症としては、肝機能が悪くなるマイコプラズマ肝炎や、脳炎・無菌性髄膜炎・ギラン・バレー症候群(足の力が抜けて、歩けなくなる神経の病気)などが知られています。

マイコプラズマ肺炎のX線像

 聴診上では、呼吸音に雑音は聴かれず、異常がないことが多いです。

 マイコプラズマ病原体は空気とともに侵入すると、まず呼吸器の上皮細胞の外側で増殖します。増殖したマイコプラズマ病原体は、今度は「気管」や「気管支」、ガス交換が行われる「肺胞」などの気道粘膜を破壊していきます。

 特に、体内に侵入してきたきた病原体を肺から外に追い出す働きをしている気管支エリアを攻撃します。
そのため、気管支の表面の粘膜が破壊されたり、潰瘍(組織が下掘れになった状態)を起こし、 マイコプラズマ肺炎に特徴的な激しく頑固な咳が引き起こされます。

 気管支、細気管支が破壊されたり、炎症を起こし、腫れたり、いろいろな液体、物質が溢れたりすると、以下のX線のようなマイコプラズマ肺炎のX線像になっていきます。

マイコプラズマ肺炎の検査

@血清診断

 血液検査では、寒冷凝集反応(単一血清では64倍以上、ペア血清では4倍以上)やマイコプラズマ抗体(PA)検査(単一血清では640倍以上、ペア血清では4倍以上)を行いますが、結果が出るまで数日かかるため早期診断はできません。しかも、2回採血し、抗体価の上昇を確認することが推奨されており、今日ではあまり行われなくなりました。

A遺伝子検出法(LAMP法、Loop-Mediated Isothermal Amplification法)


 2011年10月から、マイコプラズマ核酸同定検査(LAMP法)がマイコプラズマ肺炎の診断に使用できることになりました。LAMP法によるマイコプラズマ核酸検出は、肺炎マイコプラズマに特異的なDNAを、直接検出する高感度な遺伝子検査で、感度や特異度が高く、マイコプラズマ肺炎の診断もっとも優れていると評価されています。

 当クリニックも正確なマイコプラズマ肺炎の診断を行うために、この検査法を採用しています。(→LAMP法の原理
 
 LAMP法は、検査会社への外注のため、結果が出るのに数日かかることが最大にネックになっており、症状からマイコプラズマ肺炎を疑う場合は治療を始めながら、検査結果を待つことになります。

Bイムノクロマト法

 最近、マイコプラズマ感染症に対し、新しいイムノクロマト法の検査キットが相次いで発売されました。感度、特異度はLAMP法に及びませんが、15分で判定できることから、使用している医療機関もあるようです。
 当クリニックは診断の正確性を重視しており、イムノクロマト法はLAMP法に感度、特異度ではるかに及ばないため、LAMP法を引き続き、使用しています。

 プライムチェックマイコプラズマ抗原(アルフレッサファーマ)は特異度はよい(偽陽性が少ない)が、感度がLAMP法に比べて悪いようです(陽性率が低くなります)。

 リボテストマイコプラズマ(旭化成)は感度はよいが、偽陽性が多く、特異度がよくないようです。

その他、プロラクトmyco(LSIメディエンス)、イムノエースマイコプラズマ(タウンズ)なども発売されています。

マイコプラズマ肺炎の治療

 マイコプラズマ病原体は、細胞壁を持たないため、ペニシリン系(パセトシン)やセフェム系抗生剤(メイアクト、フロモックス、トミロン、セフゾンなど)は全く効果がありません。マクロライド系抗生剤(エリスロマイシン、クラリス、ジスロマック)やテトラサイクリン系(ミノマイシン)は有効で、マイコプラズマ肺炎の発熱を2〜3日で解熱させます。

 有効な抗生剤を発病5日以内に飲み始めれば、症状を軽くすることができるので、マイコプラズマ肺炎をうたがい、正しい診断を行うことが大切です。

 2010年ごろから、マクロライド系抗生剤(クラリス、ジスロマックなど)に耐性を示す、マクロライド耐性肺炎マイコプラズマ感染症が大幅に増えてきました。これは、クラリスなどマクロライド系抗生剤が乱用させたためです。従来、マクロライド系抗生剤を飲めば速やかに解熱しましたが、4日マクロライドを服薬してもよくならない場合、耐性マイコプラズマ肺炎感染症の可能性を疑います。

 マクロライド耐性肺炎マイコプラズマ感染症の治療には、10歳以上ならミノマイシン、10歳未満ならトスフロキサシン(オゼックス)を投与します。

 ミノマイシン(ミノサイクリン)はテトラサイクリン系の抗菌剤で、歯牙形成期にある8歳未満の小児が服用すると,歯牙の黄染やエナメル質形成不全、骨発育不全をおこす可能性があるため、9歳以下は原則投与をひかえます。10歳以上に使用する場合も、できるだけ短期投与にとどめることが推奨されています。(通常3〜5日間)
 
マイコプラズマに対しては、良好な効果を示します。

 オゼックス(トスフロキサシン)
はニューキノロンという抗菌剤の仲間で、このグループは関節障害などの副作用を起こす可能性があるため、小児の適応はありませんでした。オゼックスは小児に投与することが認められた数少ないニューキノロン系の抗菌剤で、マイコプラズマ感染症にも効果を示します。

 そのため、マクロライドが効果がない(マクロライド耐性)マイコプラズマ感染症で、ミノマイシンが使用できない10歳以下の小児に対して投与されます。しかし、ミノマイシンに比べて、マイコプラズマ感染症に対しての効果は強くありません。また、副作用(他のニューキノロン系に見られる関節障害、光線過敏症、けいれんなど)や耐性菌を誘導しないよう、やはり使用は短期にとどめることが推奨されています。

 また、咳を鎮めるために鎮咳剤、痰を切るために去痰剤なども投与されます。

マイコプラズマ肺炎の予防

 予防方法は、特にありません。流行時はマスク、手洗いの励行が必要です。

登校・登園基準

 学校保健安全法では、第3種の「その他の感染症」に含まれます。

 登校基準ははっきり定められていないため、熱が続いたり、咳がひどい間は自宅で安静にし、咳も落ち着き、熱が下がったら、登校してもよいでしょう。ただし、体育はしばらくお休みしてください。

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