サブクレードKについて
2025.12.7
はじめに
今シーズンのインフルエンザ流行に関して、またぞろワイドショウなどのオールドメディアは、「まだ11月なのに、インフルエンザの大流行が始まった!」「サブクレードKという、おそろしい新しいウイルスが猛威を振るっている!」などと、新しいカタカナ語を振り回しながら、嬉々として浅ましい視聴率稼ぎにいそしんでいるようです。
実際、サブクレードKはどうだったのでしょうか。簡単にまとめてみたいと思います。
インフルエンザウィルスの分類とサブクレードKの出自
2025/26シーズン流行しているインフルエンザウイルスは、A型H3N2香港型です。ちなみに、昨シーズンはA型のH1N1pdm(新型)でした。
インフルエンザウイルスは、まず内部の蛋白質でA型 、B型、C型の型に分類されます。A型インフルエンザウイルスはさらに、トゲ(H鎖、N鎖)の種類、組み合わせによって、H3N2、H1N1などの亜型に分類されます。(2025年のインフルエンザ/インフルエンザの種類をご参照下さい)
亜型の中で先祖をたどれる同じ出自を持つグループを、系統群(クレード=Clade)と呼びます。そのCladeの中で、トゲの変異の状態でさらに細かく分類したグループを、亜系統(サブクレード=Subclade)と呼びます。
インフルエンザA型のH3N2亜型のSubcladeには、J.2、 J.2.4、 J.2.4.1などがあり、このうちJ.2.4.1は変異が多いため、サブクレードKという名称で、独立して呼ばれることになりました。
したがって、サブクレードK(SubcladeK)はAH3N2香港型ウイルスの中の一変異グループで、特に突然変異で生まれた新しい新種というわけではありません。
東京都感染症情報センターHPに図示された、A型H3N2インフルエンザウイルスの系統樹を転載します。クレード2a.3a.1の中のHA1:K2N、S144N、N158D、I160K、Q173R、T328A、HA2:S49Nの7つのアミノ酸変異を持つグループが、サブクレードKです。

このうち、S144Nに変異(144番目のアミノ酸が変化)が起こると、新しい糖鎖が形成され、この糖鎖がウイルスの表面のトゲを覆い隠すようになります。これを「グライカン・シールド(糖鎖の盾)」と呼び、この糖鎖のヴェールによって、ヒトの免疫細胞はウイルスのトゲ認識しづらくなり、ウイルスを排除するための攻撃力が低下してしまいます。これを「免疫回避」と呼び、この結果サブクレードKはヒトの免疫をかいくぐり、広がっていくことになります。
サブクレードK流行の原因
サブクレードKは2025年6月頃から、インフルエンザの流行の終わりかけた南半球のオーストラリアで出現しました(日本の夏はオーストラリアの冬で、インフルエンザシーズンに当たります)。その後、サブクレードKは免疫回避を武器に、イギリスをはじめとするヨーロッパ諸国や日本を含む北半球全体へ、あっという間に広がっていきました。
おりしもこの時期、我が国は大阪・関西万博が開催中であり、オーストラリアやヨーロッパなどからの多数の来訪者が訪日してきました。その結果、彼らの国で流行しているサブクレードKも同時に持ち込まれ、我が国での感染が拡大したのです。
一方、我が国も2025年に入り、社会活動が完全にコロナ前に回帰し、感染対策への意識は希薄となり、マスクの着用率も低下していました。感染に対する備えが低下していたのです。
しかも、コロナ流行下の数年間、季節型インフルエンザは全く流行しなかったため、十分なインフルエンザウイルスに対する免疫記憶を持たない日本人が若年層を中心に増加し、その結果インフルエンザウイルスに対する集団免疫が低下し、インフルエンザが容易に大流行する下地が形成されてしまったのです。(そのため、昨シーズンも年末にかけて、AH1N1ウイルスの大規模な流行が起こりました)
これらの要因が組み合わされ、2025年のインフルエンザシーズンは、11月から例年より2ヵ月も早く、大規模な流行が始まってしまったのでした。
サブクレードKの症状
厚労省の感染症対策課は、「インフルエン感染が拡大するスピードが速いものの、症状や重症度は従来のインフルエンザと大きく変わらないと想定される。」と述べています。
実際、今シーズン100名以上のインフルエンザAの患者(大多数は、サブクレードK感染者と考えられます)を診療して、特に例年と著しく症状の異なる患者さんはみられませんでした。(やや全身の関節痛を訴える患者さんが少ないという印象はありました)
サブクレードKとインフルエンザワクチンについて
今シーズンのインフルエンザワクチンの株決定は、まだサブクレードKが登場する以前の2025年2月に、サブクレードJの株で選定され、サブクレードKの細かいアミノ酸変異には対応しておりません(上図表参照)。
しかし、サブクレードJもサブクレードKもA型H3N2のクレード2a.3a.1の一部であり、ワクチンにはH3N2の抗体が含まれていることから重症化、入院を減らす効果は期待できるとされています。
厚労省の感染症対策課も、「本年の不活化インフルエンザHAワクチンに、インフルエンザウイルスA/H3N2株は含まれている。実際に、流⾏しているインフルエンザウイルス流⾏株とワクチン株に、抗原性(免疫の反応性の程度)に違いがあったとしても、⼀定程度の有効性が保たれるとする報告もある。」とワクチン接種を勧めています。
さらにインフルエンザHAワクチンにはAH1N1株、B型ビクトリア系統も含まれていること、インフルエンザに対する免疫記憶を強化することができることから、今からでもインフルエンザワクチンの接種を当クリニックは強くお勧めしています。(2025/26のインフルエンザワクチンについて)
参考:厚労省感染症対策部感染症対策課:インフルエンザウイルスのサブクレードKについて

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