フルミストについて

フルミストとは  

 フルミストの登場は衝撃的でした。鼻から点鼻する全く痛くないワクチン、しかも、従来のインフルエンザ不活化ワクチンより何倍も効果があるという、インフルエンザ生ワクチンが登場したからです。
 
 2003年、アメリカの食品医薬品局(FDA)は、この点鼻型のインフルエンザ生ワクチン、フルミストを認可しました。当初はAソ連型、A香港型、B型の3種のインフルエンザウィルスを含んだ3価のワクチンでしたが、2013年にB型をさらに山形系統、ビクトリア系統と2つのサブグループに分けた、4価のフルミスト(FluMist Quadrivalent)に代わりました。

 また、接種対象者は2003年には5~49歳でしたが、2007年に2~49歳に接種対象が拡大されました。2011年以降は欧州でも使用され始めました。

 日本では認可されていないため、日本各地の先進的な小児科クリニックでは、フルミストを個人輸入し、患者さんに投与するところが現れました。当クリニックも、2014年のシーズンからフルミストを個人輸入し、接種希望のかかりつけの患者さんに接種を行ってきました。

 フルミストは国内では2016年2月に第一三共が承認申請を行いました。そのため、近い将来、正式な認可ワクチンとして我が国でも患者さんに接種できる日が来る、と期待されていたのです。

フルミストの特長 

 
お話を進める前に、まずフルミストの特長をおさらいしておきましょう。

 フルミストは、鼻から投与される液状ワクチンです。このワクチン液に含まれるインフルエンザウィルスは、25℃の低温でよく増殖するウィルス(低温馴化cold-adaptedといいます)を培養を重ねて、ほとんど病原性のなくなった(弱毒化attenuatedといいます)ウィルスです。
 
 ヒトの鼻に噴霧すると、36~37℃ぐらいのヒトの体内はこのウィルスにとっては高温すぎるため、ほんのゆっくりしかペースでしか増殖できません(温度感受性化temperature-sensitiveといいます)。

 しかも、ほとんど病原性を失っているため、有害な症状を起こすことなく、きわめて軽い「局所感染」で人は免疫を獲得することができます。生ワクチンのため、インフルエンザの感染防止に高い効果が期待できると考えられてきました。


予防する病気 
 
通常のインフルエンザ、すなわちA型インフルエンザ(新型、香港型)、B型インフルエンザに効果があります。 

接種の方法

 2~49歳が対象です。1回接種が原則です。ただし、2~8歳でインフルエンザワクチンを1回も受けたことがない人は、免疫を確実にするために、1ヵ月間隔で2回接種が勧められています。

 接種方法は専用の器具を用いて、左右の鼻の中に0.1mlずつ、総計0.2ml噴霧します(右写真は実際の接種場面です)。

右写真はお母さまに掲載のご許可をいただいています。無断転載厳禁

不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)と、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)の作用の違い

  不活化インフルエンザワクチンとフルミストの違いを対比させながら、ご説明いたします。

 ①不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)

 
不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)は、インフルエンザウイルスのとげ(H鎖)を含む不活化ワクチンです。接種することにより、体内の血液中にインフルエンザウイルスへの迎撃用ミサイル(=血液中IgG抗体)が作られます。増殖したインフルエンザウイルスが全身に広がる時に、 血液中でこのミサイル=IgG抗体がウイルスを破壊=不活化することで発病を抑えたり、症状を軽くしたりします(重症化阻止)。

 しかし、空気とともに体の中に進入してくる、インフルエンザウイルスは、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖するため (インフルエンザの増殖参照)、 不活化ワクチンはインフルエンザウイルスの感染そのものを抑えこむことはできません。 それは、不活化ワクチンで作りだされるミサイル=IgG抗体は血液中に留まり、 鼻、気道の粘膜面には存在しないためです。

 また、A型インフルエンザウイルスはとげ(H鎖)の組成を細かく変えて(ドリフト=連続変異)、ヒトの防御システムから逃れようとします。H3N2(香港型)でも、シドニー型とパナマ型では微妙に形が異なり、不活化ワクチンの効果に大きな違いが出てきます。この細かい変異に対応できたかどうかで、その年の不活化ワクチンの効果が決まってくるのです。

 さらに現在の不活化ワクチンは、B型インフルエンザに対する抗体の産生はあまり良くないといわれています。

 
②経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)

 これに対し、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)は、実際鼻粘膜で弱毒化ワクチンウイルスが繁殖するため、鼻、気道でもIgG抗体とは別の迎撃用ミサイル=分泌型IgA抗体を作りだすことができます。そして、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖しようとするインフルエンザウィルスに対して、この分泌型IgA抗体は直接攻撃を加えます。 したがって、インフルエンザウィルスの侵入を撃退し、発病を押さえこむことができるのです(感染阻止)。

 また、ワクチンウィルスが増殖することにより、細胞性免疫を担当する細胞(CD8+T細胞)も活性化するため、不活化ワクチンと異なり、インフルエンザウィルスが微妙に型を変えても、ワクチンの効果が期待できるといわれてきました。

 ③フルミストと不活化インフルエンザワクチンの効果のちがい(アメリカ合衆国における、インフルエンザの不活化ワクチンと生ワクチンとの主要な相違点)

種類 不活化スプリットワクチン 弱毒生ワクチン
投与方法 筋肉内注射(アメリカ)
皮下注射(日本) 
鼻の中に噴霧
ワクチンのウィルスの状態 死んだウィルス 病原性の弱い、生きたウィルス
接種対象年齢 生後6ヵ月以上 2~49歳
インフルエンザ関連の合併症を起こす可能性 
の高い人への接種ができるか
できる できない
喘息のこどもや、過去12カ月間に喘鳴が見
られた2~4歳のこどもへの接種ができるか
できる できない
妊婦への接種ができるか できる できない
強度の免疫不全状態の人の家族・濃厚接触
者への接種ができるか
できる できない
接種後の鼻咽頭部からのインフルエンザ
ウィルスの検出
検出されない 接種後7日ぐらいまで、検出される

                                      横浜市感染症情報センター「インフルエンザ生ワクチンについて」を一部改変 

フルミストの効果

 当初は、A型インフルエンザに対する、5歳未満児の発病予防効果はワクチン株一致で89.2%、株不一致でも79.2%と驚異的なものでした。また、6ヵ月~7歳では、発病予防効果は83%と非常に良好な結果が報告されました。

 ところが2015年以降では、発病予防効果は不活化ワクチンより劣るという報告が増えてきています(下記詳述)。

フルミストの副反応

 鼻水、鼻つまりなど鼻炎の症状が約半数(40~50%)にみられるようです。発熱と咽頭痛が10%ぐらいに見られるようですが、数日で改善します。
 また、2歳未満への投与では入院と喘鳴の増加が認められたため、2歳児未満の子どもへの投与は認められておりません。


2016年以降の展開

 ①2016年フルミストに関して、衝撃的な出来事がありました。

 
それは、アメリカCDC(疾病管理予防センター)が、2016-2017年のインフルエンザワクチン接種に関して、フルミストを推奨しないと発表したのです(原文はこちら)。

CDC’s Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) today voted that live attenuated influenza vaccine (LAIV), also known as the “nasal spray” flu vaccine, should not be used during the 2016-2017 flu season. ACIP continues to recommend annual flu vaccination, with either the inactivated influenza vaccine (IIV) or recombinant influenza vaccine (RIV), for everyone 6 months and older. 

 2013年以降、CDCの調査によれば、フルミストの不活化ワクチンに対する優位性はだんだんと失われ、2015-2016年の予防効果の成績(2歳~17歳対象)では、

  経鼻生ワクチンの有効性          3% (95%CI  -49% to 37%)
  不活化ワクチン(注射)の有効性    63% (95%CI  52% to 72%)

 という惨憺たる結果だったため、CDCはこの成績をもとに、2016-2017年については、フルミストの接種を推奨しないと発表しました。

 
②このCDCの声明に対し、英イングランド公衆衛生サービス(Public Health England, PHE)は、2015-2016年も経鼻生ワクチン(欧米では、Fluenz Tetra)は十分なインフルエンザ予防効果があったと認め、2016-2017年はさらに接種の小学生の対象を拡大すると声明しました(原文はこちら)。

Public Health England (PHE), the Department of Health and NHS England remain confident that the children’s nasal spray flu vaccine plays an important role in protecting children, their families and others in the community from flu during the winter.

Provisional figures released by PHE show that the childhood nasal spray flu vaccine has been effective in the UK, both in protecting the children themselves and their communities from flu. Reports from the US have suggested a possible lower vaccine effectiveness, unlike the findings in the UK.

 当クリニックの昨年(2016-2017年)のフルミスト接種に対する対応

 当クリニックは2016年、このアメリカCDCの声明を受けて、2016-2017年のフルミスト接種を行うか、慎重に検討しました。

①あらかじめフルミストを2015年接種した患者さんへのアンケート調査を行い、アンケート回答者の75%の方がインフルエンザに罹患せずにすみ、81%で副反応を認めず、87.5%の方が今季もフルミスト接種を希望するという回答を得ました。
②アメリカでは2016年フルミストの接種が推奨されなかったが、イギリスなど欧州では、依然経鼻生ワクチン接種が評価されていること(上記記載済み)、
③アメリカCDCの方針(フルミストを推奨しない)が、2016年の結果次第では、1年で変更される可能性がないとはいえないこと、

などを考慮し、2016-2017年のシーズンはフルミストの接種を続けることにしました。


 
しかし、実際にはフルミストの輸入が大幅に遅れ、結局希望者にフルミストを接種できたのが、すでにインフルエンザの流行の始まっていた11月26日となり、ほとんど間に合わない事態になってしまいました。(フルミストを接種した方にワクチンの効果が期待できるのは、1月になってからということになりました。)

 今2017年の当クリニックの方針

 ① 2017年のシーズンも、CDCはフルミストの接種を推奨しなかった(フルミスト無効のCDCの評価は変わらなかった)

 アメリカのCDC(疾病管理予防センター)は、2017年-2018年のシーズンも、フルミストの使用を推奨しないことが明らかになりました(CNNの報道はこちら)。
  2016-2017年の結果を加えても、不活化65%、フルミスト46%でフルミストの有効性を確認できなかったという理由からでした。

 アメリカでは現在でもフルミストの接種が一部で続けられていますが(製剤自体は認可されているので接種可能)、あくまで公的なCDCに推奨されない、日陰者のワクチンとなってしまいました。アメリカ小児科学会(AAP)も会員医師にフルミストの接種をしないよう、呼びかけたようです。

 
② なぜ、フルミストは効果がなくなったのか

 あれだけインフルエンザに有効だったフルミストが、なぜほとんど効果がなくなってしまったのでしょうか。その原因はよくわかっていません。いくつかの仮説が考えられています。

①2013-2014年、3価だったワクチンが4価となり、生ワクチン中のそれぞれのインフルエンザウイルスがお互い干渉しあって、接種しても抗体が上がらなくなったのではないか、という説。
②特にH1N1インフルエンザに効果が認められなかったのは、すでにH1N1インフルエンザに自然感染していた人が多かったため、生ワクチンのウイルスを接種してもワクチンのウイルスが効果を発揮できなかったのではないか、という説。

その他、ワクチンの温度管理の問題など、いくつかの仮説が提案されていますが、いずれも仮説の域を脱してはいないようです。

 ③ 2017-2018年の当クリニックの方針

 残念ながらアメリカでは、フルミストは正統的なインフルエンザ予防対策から脱落してしまいました。AAP(アメリカ小児科学会)はインフルエンザに感染すると重症になる児やその家族や保育者などには、不活化ワクチンを確実に接種するよう推奨しています。

 
以上の①~③の検討を踏まえて、当クリニックは、2017-2018年のシーズンは、すでに歴史的使命の終わったと考えられるフルミストの輸入は見合わせることにしました。

 2017-2018年のシーズンにおいて、当クリニックはCDCの推奨に準じて、フルミストの接種は行わず、不活化ワクチンの接種のみを行います。今年も当クリニックでフルミスト接種をお考えだった患者さんには、誠に申し訳ございません。


 
当クリニックは有効性が確立し、安全性が確保された新しいインフルエンザワクチンは積極的に採用し、かかりつけの患者さんに接種の機会を提供していきますので、今シーズンは不活化ワクチンを確実に接種することを強くお勧めいたします。


2018-2019年、アメリカCDCは消極的ながらも再びフルミストの接種の推奨を行ったようです。(→原文はこちら
現在、当クリニックでもこの新情勢を受けて、2018-2019年フルミストを再開するか、現在慎重に検討を行っている所です。(2018.5.5)


参考文献資料:
フルミスト-Wikipedia     
医薬品卸業連合会:卸DI実例集.卸薬業38:55-59,2014
横浜市衛生研究所ホームページ 横浜市感染症情報センター インフルエンザ生ワクチンについて l
和歌山市小児科 生駒(いこま)医院ホームページ フルミスト-インフルエンザワクチンページ 
Flumist Product Information -Medimmune
中山哲夫.インフルエンザスプリットワクチンの限界と新規ワクチンの開発.モダンメディシン2015;61(10):283-289
ACIP votes down use of LAIV for 2016-2017 flu season
Provisional figures show that the nasal spray flu vaccine has been effective in the UK.
Flu vaccine: CDC panel again advises against FluMist - CNN.com
ACIP Says No to LAIV for 2017-18 Flu Season-AAFP.news

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