コロナワクチン総論

2022.11,20更新



①ワクチンの種類


ワクチン(予防接種)とは、ヒトの身体の中に病原体そのものや、病原体のからだの一部、病原体の出す毒素などを、ヒトに有害な影響を及ぼさないように処理した上で接種して、病原体に打ち勝つ抵抗力を獲得するものです。

ワクチンの投与方法には、注射(筋注、皮下注、皮内注射)、内服(経口)、点鼻があります。

まず始めに、ワクチンを分類します。

 大分類  小分類  ワクチン(青字はコロナワクチン)
Ⅰ生ワクチン ①生ワクチン MRワクチン、水痘ワクチン、おたふくワクチン、BCG、ロタワクチン
Ⅱ不活化ワクチン ①不活化ワクチン(狭義) インフルワクチン、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、日本脳炎ワクチン
②トキソイド 破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド
  ③組換え蛋白・ペプチドワクチン B型肝炎ワクチン、ヌバクソビッド(ノババックス社製コロナワクチン)塩野義製コロナワクチン(S-268019)
④VLPワクチン HPVワクチン
Ⅲ核酸ワクチン ①DNAワクチン
(遺伝子ワクチン) ②mRNAワクチン スパイクバックス(モデルナ社製コロナワクチン)、コミナティ(ファイザー社製コロナワクチン)
  ③ウイルスベクターワクチン バキスゼブリア(アストラゼネカ製コロナワクチン)

Ⅰ生ワクチン

毒性をきわめて弱くした病原体を、生きたまま体に接種して、病気に軽く感染させ、しっかりした免疫をつけようというものです


麻疹・風疹(MR)混合ワクチン、水痘ワクチン、おたふくワクチン、BCG、ロタウイルスワクチンがこれに含まれます。

不活化ワクチン

①(狭義の)不活化ワクチンは、細菌、ウイルスをこなごなにして、その一部の成分を体に注入するものです。
ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、四種混合ワクチン(うち、百日咳、不活化ポリオ)、日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン、髄膜炎菌ワクチンなどがこれに属します。KMバイオロジカル開発中のコロナワクチンもここに含まれます。

さらに、このグループの中には、組換え蛋白・ペプチドワクチン(不活化ワクチンに含まれるさまざまな成分の一部を、遺伝子組み換え技術を用いて、大腸菌や酵母菌の中に遺伝子を転写し、免疫獲得に必要な抗原蛋白やペプチドだけを大量に作らせたワクチン。アミノ酸が多いと蛋白、少ないとペプチドと呼びます。)があり、B型肝炎ワクチンがこれに属します。

ノババックス社製ヌバクソビッド、塩野義製薬が開発中のS-268016のコロナワクチンはこのグループに含まれます。

②トキソイドは、細菌が産生する毒素を無害化して、人に接種するものです。
ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイドがこれに含まれます。

③VLP(Virus Like Particle=ウイルス様粒子)ワクチンは、ウイルスを包む殻のタンパク質の部分を人工的に合成して、人に接種するものです。これはにせものの中身の無いウイルスで、肝心の遺伝子が含まれていないため、病原体が増殖することはなく、病気も発病することはありません。

子宮頸がんを予防するHPVワクチンが、このVLPワクチンになります。(HPVワクチンについてはこちらをお読みください。)
(上図は、廣谷徹:ワクチンの種類より転載)

Ⅲ核酸ワクチン(遺伝子ワクチン)

核酸ワクチンは、コロナウイルスの遺伝子情報をヒトの体に注入するもので、さらに遺伝子の種類によって、DNAワクチンとRNAワクチンに分けられます。

DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)は核酸と呼ばれ、タンパク質の設計図(遺伝子と呼ばれます)です。塩基であるAアデニン、Gグアニン、Cシトシン、Tチミン、Uウラシルを対にして組み合わせて、対応するタンパク質を合成する情報コードです。(わかりやすい説明はこちらをご覧ください)

*細胞の中でDNAの持つ遺伝情報からタンパク質がどのように作られているのかは、こちらのアニメーションをご覧ください。
 
①DNAワクチンはヒトの体に接種されると、ワクチンに含まれるDNAはヒトの細胞核内に侵入し、mRNA(メッセンジャーRNA)を作ります。
このウイルスDNAの命令で作成されたmRNAは、細胞の核内から細胞質へ移動し、ヒトの細胞成分を勝手に使って、DNAの指示通りにウイルス蛋白を合成させます。
作り出されたウイルス蛋白は、ウイルスの成分であり、ヒトの体の一部では無いため、ヒトの免疫組織は異物(敵)として認識し、抗体を作って攻撃し、体の中から排除します。

この記憶は保存され、新たに同じ蛋白を持ったウイルスが侵入してきた時には、速やかに異物=敵として認識し、攻撃して排除します。これがDNAワクチンの原理です。

②mRNAワクチンは、DNAを介すことなく、直接ウイルス蛋白の設計情報を持ったmRNAをヒト体内に注入します。注入されたmRNAは、ヒトの細胞質でヒトの細胞成分を勝手に使って、設計図通りのウイルス蛋白を合成させます。

作り出されたウイルス蛋白は、ウイルス自身の成分であり、ヒトの体の一部では無いため、ヒトの免疫組織は異物(敵)として認識し、抗体を作って攻撃し、体の中から排除します。

しかし、注入されるmRNAは非常に脆弱で、ヒトのRNA分解酵素で簡単に分解されてしまうため、細かい脂肪の殻でmRNAを包み込み、脂質ナノ粒子(LNP:lipid Lipid-polymer nanoparticle)という安定したカプセルにして、壊れないよう注入します。
脂質ナノ粒子(LNP)でカプセル化したことにより、ヒトの細胞内にmRNAが取り込まれやすくなります。

のワクチンで使用された、脂質ナノ粒子(LNP:Lipid-polymer nanoparticle)とは、直径が10nm(10ナノメータ)から100nm(100ナノメータ)の大きさの脂質(脂肪)を主成分とする粒子で、いろいろな成分が入っていて、細胞にくっつきやすい性質になっています。

内部にDNA、RNAや薬物などを包み込んで運搬する、運搬係(ベクターと呼びます)として働きます。いわば、新型コロナウイルスの遺伝子情報を脂肪で包みこんで、ヒトの細胞に入りやすくする脂肪の殻のような存在、といえます。


この記憶は保存され、新たに同じウイルスが侵入してきたときには、速やかに異物として認識、攻撃し、排除します。これがmRNAワクチンの原理です。

さらにmRNAを取り込んだ細胞では、ウイルス遺伝子の命令で作られたウイルス蛋白の一部が細胞表面から顔を出して、まるでウイルス感染細胞のような、ヒトの細胞とは異なったおどろおどろしい顔つきになるため、免疫細胞=T細胞(リンパ球)に正体を見破られ、T細胞に攻撃されて破壊されます(細胞性免疫反応といいます)

mRNAワクチンは液性抗体だけでなく、この細胞性免疫も獲得するため、効果がより強くなると考えられています。

現在接種が行われている、コロナワクチンのコミナティ(ファイザー社製)とスパイクバックス(モデルナ社製)は、このmRNAワクチンです。

核酸ワクチンは、生きた病原体を弱らせたり(生ワクチン)、粉々にしてその死骸の一部を体に注入するワクチン(不活化ワクチン)ではありません。
生きた病原体とは全く独立した核酸遺伝子断片を実験室内で化学的に作成し、さらに脂肪微粒子(LNP)で包み込んでヒトの体に注入するという、今までのワクチンとは全く新しい、異なる工程で作り出されるワクチンです。

このワクチン製造には、病原体の存在は必要なく、必要なのは核酸遺伝子(の一部)のため、短期間に大量生産が可能です。しかも病原ウイルスはいないため、病気の汚染の心配も全くありません。

また、RNAウイルスが変異しても、一部切り取ったRNA断片が変わっていなければ効果に問題はないし、変異した部分に該当するなら、別の核酸遺伝子の一部を増幅すれば良い、ということになります。

「工業生産」されたワクチンで、生物学というよりは化学の香りのするワクチンですね。


③一方、ウイルスベクターワクチンは、mRNAワクチンのように、病原ウイルスの蛋白を作るmRNAを、ヒト体内に直接注入するのではありません。

その代わりに、チンパンジーのアデノウイルスなど新型コロナウイルスと無関係な他のウイルスに、新型コロナウイルスの断片を作る遺伝子情報を組み込んで(無関係のウイルスの遺伝子を組換えて)、組み換え遺伝子を持つウイルスを人に注射します。

ヒトの体内に注入されたウイルスは、新型コロナウイルスのとげの蛋白(スパイク蛋白)を持っているため、このトゲの蛋白に対し、免疫が誘導されるようになります。

このウイルスは、新型コロナウイルスの遺伝子断片をヒトに運搬するだけの役割のため、ウイルスベクター(運び屋=ベクター・ウイルス vector)と呼ばれます。

バキスゼブリア(アストラゼネカ社製)は、このウイルスベクターワクチンで、実用化された史上2番目のワクチンとなります。(ちなみに史上1番目のウイルスベクターワクチンは、エボラウイルスに対して開発されたrVSV-ZEBOV vaccineです。)

厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が8月21日に委員会に提出した資料の図がわかりやすいので、転載いたします。

 ピンクエリアは従来型ワクチン。グリーンエリアは新しいワクチン。(厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部

 *新型コロナウイルスワクチンの4つの種類の解説アニメーションです。(There are four types of COVID-19 vaccines: here’s how they work

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②ワクチンの有効性

ワクチンの有効性は、次の3つの項目で評価されます。
①immunogenicity:
免疫原性(血液検査の有効率)=ワクチンを接種されたヒトの血液中に出現した抗体のレベル(抗体価)が、感染や発病を阻止できるレベルに達したヒトの割合を調べます。

②efficacy:
臨床試験の有効率=接種したヒトの群と、ワクチンを接種していないヒトの群(対照コントロール群)を比較して、発病したヒトの割合を調べます。

③effectiveness:
実際の有効率=多くのヒトがワクチンが接種した後、実際にどのくらいヒトが発病し、感染症が実際に減少したかを調べます。
有効率はおもに発病するかどうかで評価することが多いですが、重症化率や致命率を指標にすることもあります。

核酸ワクチンの初期のデータでは、efficacyは90%以上(コミナティは95%、 スパイクバックスは94.1%)と報告されました。(これは初期のデータです。最新のデータは、各ワクチンの項をご覧下さい。)

efficacy:臨床試験の 有効率90%とは、1000人ワクチンを接種したら、900人がコロナにかからなかった、という意味ではありません。1000人にワクチンを接種し、1000人に偽ワクチン(他のワクチンや生理的食塩水など)を接種した時に、ワクチン接種群で10人発病(0.01)し、偽ワクチン接種群で100人発病(0.1)したとすると、 このワクチンの有効率は1-0.1/1という計算で、90% と評価されるという意味になります。

すなわち、偽ワクチンを接種した人と比較して、ワクチン接種したものの発病率(リスク)が相対的に90%減少した。あるいは、偽ワク
チンを接種した人のうち90%は、ワクチンを接種していれば発病しなかった。ということです。

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ワクチンの副反応

ワクチン接種は、健康な人に生きた病原体や死んだ病原体の一部を植えつけるものですから、必ず何らかの生体反応が起こります。このうち、生体に不利益な現象を
有害事象adverase eventと呼びます。これは、ワクチン接種後のタイミングで起こる現象全てを含みます。極端な例として、ワクチン接種後、帰宅途中でころんで足を捻挫しても、ワクチン接種後の有害事象となるのです。

この有害事象のうち、ワクチン接種自体によって誘導された、健康不利益な現象を
副反応adverse reactionと呼びます。ワクチン接種後に起こる注射部位の腫れやアナフィラキシーなどは代表的な副反応です。

1)一般的な副反応(注射部位が腫れる、痛み。全身違和感、頭痛、発疹など)
2)アナフィラキシー反応、ショックなどの重い副反応
3)mRNAワクチンの心筋炎・心膜炎、ウイルスベクターワクチンの血栓症など、それぞれのワクチンで報告された副反応は、各ワクチンの項で詳述しました。各項目をご参照下さい。
4)ワクチンの遺伝子が人に悪影響を与える、不妊になる、など、医学的に全く根拠のない悪質なデマ情報はこちらをご覧下さい。