ワクチン忌避 Vaccine Hesitancy とは何か

最近、お子さまに大切なワクチンの接種を拒否している親と、ときどき遭遇することがあります。 このような「ワクチンを受けさせない親」の存在が今、世界中で問題になっています。

 なぜならば、親のワクチン忌避によって、子どもの健やかに権利であるワクチン接種を受けることができず、VPDの脅威から我が身を守ることができなかった子どもたちが今、 世界中で恐ろしい感染症の餌食となり、苦しみ、感染症の流行の温床となり、感染症の脅威を増幅させているのです。

 この事態を重く見
たWHO(世界保健機関)は、2019年1月、「 2019年の世界の健康に関する10の脅威」を発表しました。その第8番に挙げられたのが、 Vaccine Hesitancyです。 Vaccine Hesitancyとは、「ワクチン接種の機会が提供されているにもかかわらず、接種を先延ばしにしたり、拒否したりすること」と定義されています。

8.Vaccine hesitancy

 Vaccine hesitancy – the reluctance or refusal to vaccinate despite the availability of vaccines – threatens to reverse progress made in tackling vaccine-preventable diseases. Vaccination is one of the most cost-effective ways of avoiding disease – it currently prevents 2-3 million deaths a year, and a further 1.5 million could be avoided if global coverage of vaccinations improved. 

 Measles, for example, has seen a 30% increase in cases globally. The reasons for this rise are complex, and not all of these cases are due to vaccine hesitancy. However, some countries that were close to eliminating the disease have seen a resurgence. 

 The reasons why people choose not to vaccinate are complex; a vaccines advisory group to WHO identified complacency, inconvenience in accessing vaccines, and lack of confidence are key reasons underlying hesitancy. Health workers, especially those in communities, remain the most trusted advisor and influencer of vaccination decisions, and they must be supported to provide trusted, credible information on vaccines. 

 In 2019, WHO will ramp up work to eliminate cervical cancer worldwide by increasing coverage of the HPV vaccine, among other interventions. 2019 may also be the year when transmission of wild poliovirus is stopped in Afghanistan and Pakistan. Last year, less than 30 cases were reported in both countries. WHO and partners are committed to supporting these countries to vaccinate every last child to eradicate this crippling disease for good. 
 
 WHOのVaccine Hesitancy Working Groupは、Vaccine Hesitancyは時期や地域、ワクチンの種類によって異なり、その主な理由として、Confidence(予防接種に対する信頼の無さ)、ComplacencyVPDワクチンで防げる病気のリスクに対する、独りよがりな安心感)、Convenience(ワクチン接種の受けやすさの障壁)を挙げました。

①Confidenceは予防接種に対する信頼のことで、ワクチンの有効性と安全性、ワクチンメーカーや国のシステムに対する信頼です。これが揺らぐと、Vaccine Hesitancyが発生します。

 その一例として、イギリスにおけるMMRワクチン(麻疹風疹おたふく混合ワクチン)と自閉症騒動の事例があります。1998年にWakefieldというイギリスの医師が、MMRワクチンと自閉症が関連するという論文を発表し、これがマスコミで大々的に取り上げられ、大騒ぎとなり、欧米ではMMRの接種率が大きく低下しました。この騒動の顛末は、Wakefieldは訴訟を準備していた数人から約1150万円の報酬を受け取っていたこと、しかも論文の患者のデータを改ざんしていたこと、この研究を行うに当たり、研究の舞台となった病院から許可を得ていなかったこと、などの不祥事が次々と明るみにされ、掲載学術誌はこの論文掲載を取り消し、この人物はイギリスの医師免許を剥奪されました。(くわしくはこちらで詳細に解説しています)

 MMRワクチンと自閉症の関連については、 現在医学的には完璧に否定されているにもかかわらず、医学的ファクトを無視した反ワクチン運動の攻撃の標的とされ続け、2019年のアメリカにおける麻疹の大流行の遠因となっているのです。

②Complacencyは「VPDにはかからないから、ワクチンは不要」などという、VPDに対する独りよがりの安心感や自己満足を指しています。VPDの病気としての恐ろしさ、感染のリスクを、知らないがゆえに過小評価し、ワクチン接種による予防の必要性を理解できない例です。

③Convenienceはワクチン接種の受けやすさ、ワクチン接種に対する障壁です。

 我が国でいえば、 任意接種の費用がかかること、予防接種のスケジュールが複雑なこと、平日仕事をしている人は子どものワクチン接種になかなか時間が取れないこと、 日本全国どこでも予防接種を自由に受けられないという、地域的な制限も、接種を妨げる障壁になっています。MR5期の馬鹿げた抗体検査も、このConvenienceの阻害の好例だと考えます。

 Confidence、Complacencyに関しては、最大の犠牲になる子どもたちを救うために、小児科医も医学的なファクトに基づいた説明を保護者の方に、粘り強く続けていきたいと思います。
 2017年のアメリカ疾患予防管理センターCDCの調査でも、ワクチン接種を迷ったアメリカの保護者が最終的にワクチン接種を選択した理由で最も多かったのは、医療者の説明だったそうです。


 Convenienceについては、ワクチンを受けやすい環境を小児科医と基礎自治体としての区が最大限連携して、整えていくことが必要だと考えます。

 たとえば医学的に全く意味のない、事細かな規則の機械的な適用をやめること、またワクチン接種希望者が接種を受けやすい環境作り、たとえば以前の生ポリオの集団接種のような会場方式の集団接種なども、特に成人のMR5期などでは検討すべきと当クリニックは提案したいと思います。

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