2007年の麻疹流行について
①世界中に恥をさらす、今回の麻疹流行
麻疹(はしか)は発病すると治療法がなく、今なお多数の発病者、死亡者(WHOの推定では、世界で毎年3000万人以上の発病者と90万人の死者)が出ている、恐ろしい伝染病です。肺炎を6%に合併し、また麻疹脳炎を1000~2000人に1人の割で起こします。脳炎は死亡率は約15%、後遺症が20~40%に残るとされ、肺炎・脳炎の合併は小さい子であればあるほど死亡率が高くなるといわれています。そのため、世界中で麻疹を制圧するために、精力的な取り組みが続けられているのです。
WHOは2000年(平成12年)、全世界における麻疹の死亡者を減らすさせるために、国連児童基金(UNICEF=ユニセフ)、米国疾病管理予防センター(CDC)と共同で、「麻疹による死亡率減少と地域的な排除のための世界麻疹排除対策戦略計画(Global Measles Strategic Plan for measles mortality reduction and regional elimination)」を計画しました。その計画で、具体的な活動を枠組みを提示し、1回目の麻しんワクチン接種に加えて、すべての小児に2回目の接種機会を与えることを勧告したのです。
WHOは麻疹排除に向かう段階を3つに区分しました。
第一段階は、制圧(control)期です。この時期は、麻疹患者の発生、死亡の減少を目指します。
第二段階は、集団発生予防(outbreak prevention)期です。麻疹の発生を低く抑えつつ、集団発生を防ぐ段階です。
そして最終段階は、完全に麻疹の発生がなくなった排除(elimination)期です。
日本は、残念ながら、中国、インドなどの衛生状態が悪い発展途上国とともに、第一段階 制圧(control)期に入れられています。
一方、オーストラリアなど多くの国は第二段階の集団発生予防(outbreak prevention)期に進んでおり、アメリカやヨーロッパ、南アフリカや中近東の一部国家は、すでに排除(elimination)期に到達しています。
国立感染症研究所感染症情報センターHPより
多くの先進国が集団発生予防(outbreak prevention)を実現しているのに、ひとりわが国は麻疹制圧(control)期をクリアすることすらできません。それどころか、アメリカで発生する麻疹は日本人が持ち込むという、嘲りさえ受けているのです。
そのような状況下での、今回の麻疹の大流行というような何ともみっともない醜態は、わが国の予防接種行政が発展途上国以下だという情けない実態を白日の下に曝しだしているのです。
わが国の予防接種のシステムは、
①無能、無策、小心な厚生労働省の官僚、
②いまだに「ワクチン接種はワクチン会社のぼろもうけのためだ。資本主義反対!」と叫ぶ、化石のようなただ害毒だけを垂れ流している、ワクチン反対派、
③ワクチンで極少数の健康被害者が出るたびに、鬼の首でもとったようにけたたましく騒ぎ立て、そして騒げば騒ぐほど社会を悪化させ、守らなければならない、母と子を不幸にしていく(しかもその事実に自分達も気づきだしている)捏造狂騒マスコミ、
④多くの子ども達の健康を守る視点をすっぽりと欠落させ、公衆衛生の概念などこれっぽっちも思い至らない、とんでも判決の専門馬鹿の裁判官。
これらの人々によってずたずたに引き裂かれてしまったのです。
先進国の子どもが当然のことのようにワクチン接種によって守られ、かかることもない、恐ろしい伝染病に日本の子どもはいまだに脅かされています。
また、ワクチン接種にしても、先進国の子どもが当然のことのように十分保護され、経済的負担なしに行われている接種を、日本の子どもの保護者は高額な費用を負担し、なおかつ自己責任という名の下に厚労省の役人に責任は及ぼしませんという一筆を書かなければ受けることができないのです。
しかも、その予防接種行政そのものが、発展途上国以下の情けないしろものなのです。
今回の麻疹流行騒動は、わが国の予防接種システムがいかに時代に遅れており、みすぼらしい代物なのかを、世界中に恥をさらすことによって、痛烈に暴き出しているのです。
②厚労省の対応
今回の首都圏における麻疹大流行は予期されない突発的な出来事だったのでしょうか。実はそうではないのです。昨年から麻疹が大流行する危険な前兆が多くみられていました。関東周辺を中心に、麻疹の散発的な小流行が続いていたのです。
2006.4月 茨城県、千葉県で麻疹流行
2006.5月 岐阜県大垣市で麻疹小流行
2006.5月 広島県福山市で麻疹小流行
2006.11月 愛知県名古屋市で麻疹小流行
2006.11月 東京都世田谷区で麻疹流行
2007.2月 東京都国立市に麻疹広がる
2007.3月 東京都中野区、杉並区などに一挙に麻疹拡大。この後、全都の流行へ。
このような状況下で、麻疹が大流行する可能性、危険性を予測し、それに対する対応策(予防接種の勧奨、予防接種の備蓄、臨床検査の十分量の確保、学校での流行に備えて、文科省、地方自治体、医師会等との協議)を厚労省は行っておくべきでした。少なくても、麻疹はそれだけの社会的な備えをしなければならない伝染病のはずです(1998年の沖縄での流行では患者2000名、8名の乳幼児が死亡しています)。
しかし、厚生労働省の役人の危機意識は薄く、昨年のMR2期接種においても各方面の働きかけにもかかわらず、接種年齢を5歳のみとしたのです。
麻疹は2007年2~3月から東京郊外で小流行を繰り返し、4月以降はもはや流行を食い止めることはできない、燎原の火のような蔓延状態になっていきました。
しかし、この間、厚労省の役人が積極的に何か麻疹対策を打ち出した形跡はありません。4月から麻疹の本格的な流行が始まると、当初は麻疹ワクチン接種を呼びかけました。ところが、流行が拡大し、麻疹ワクチンを接種する人が激増し、なんと5月15日段階で麻疹(単抗原)ワクチンが底をついてしまったのです。麻疹ワクチンは流通から姿を消してしまい、各医療機関が麻疹ワクチンを入手することができなくなりました。
5月16日段階、すでに麻疹ワクチンを医療機関が入手できなくなった時期に、厚労省はこんなのんきな通達を出していたのです。しかし、彼らの思惑をはるかに越えるスピードで事態は進行し、あわててさらに通達を出しています。
関東地方を中心に流行中のはしか(麻疹)のワクチン接種に関する問い合わせが相次いでいることから、厚生労働省は18日、ワクチンの在庫状況を各都道府県に周知し、適正な使用を呼びかける通知を出した。16日時点ではしか・風疹の混合ワクチンを含め約45万本。厚労省は「在庫切れの心配は当面ない」としているが、未接種ではしかにかかった経験がない人にワクチンが行き渡るよう「流行していない地域や接種経験者はなるべく控えてほしい」と呼びかけている。
はしか単独ワクチンの在庫は11万本で、追加の供給は9月ごろになる見通し。一方、混合ワクチンは在庫が34万本あり、今後も毎月十数万本の出荷が予定されている。混合ワクチンの価格は1本6000円程度で単独ワクチンの約2倍だが、混合と単独を併用していけば当面在庫が底をつく心配はないという。
国立感染症研究所が18日公表した感染症週報によると、今回の流行で集団感染が目立つ15歳以上の今年のはしか患者は6日時点で計155人で、昨年の年間患者数の約4倍。東京都内では、都や区の呼びかけでワクチン未接種の子どもに緊急に予防接種する動きが広がっている。
相も変わらず自己保身だけの通達ですが、まず「適正な使用」とは「流行していない地域や接種経験者はなるべく控えてほしい」ということを意味するなら、これは全く馬鹿げた通達です。なぜなら、ワクチンを打っているのに麻疹にかかってしまう、PVF(ワクチンを打ったのに免疫ができなかった人)やSVF(ワクチンの効果が下がってきた人)の例が今問題になっているのであり、そのためには2回目のワクチン接種が必要なのは自明の理です。だからこそ、MR2期接種も始めたところではないのですか。
接種経験者にワクチン接種を控えてほしいということは、PVFやSVFの人は麻疹にかかっても構わない、と厚労省の役人は言いたいのでしょうか。
また、流行していない地域だからこそ、ワクチンを積極的に打って、地域の集団レベルの麻疹抗体を高めておくことが必要なはずです。厚労省の役人はその地で流行が始まってから、泥縄式にワクチンの接種を始めることが「適正使用」だというのでしょうか。
何故、毎度のことですが、こんな馬鹿げた通達が出るのでしょう。本当は、ワクチンが足りないのです。麻疹ワクチンもMRワクチンも足りないのです。ところが、ワクチンが足りないと発表すると、また自分達の杜撰な予防接種行政が追及されるため、「在庫切れの心配は当面ない」などと表面を取り繕いつつ、裏では「適正使用」などと称して、メーカーに圧力をかけて出荷を調節して責任逃れをはかっているのが、現在の厚労省の麻疹対策の全てなのです。
ところが、事態はさらに悪化します。「麻疹単抗原ワクチンはすでに姿を消したが、MRワクチンは十分ある。」などと発表した矢先、5月23日には今度はMR混合ワクチンも少なくなり、ワクチンメーカ2社で作るMRワクチンのうち、1社のワクチン(ミールビック)が事実上、供給が止まる事態に陥ってしまったのです。
さらに、5月23日には「麻疹の抗体検査をしてから、適正にワクチン接種を」などと通達を出したとたん、今度は麻疹の抗体検査の試薬が底を突いてしまったのです。多くの検査機関で麻疹の一番標準的な検査(HI検査)は5月23日以降、より正確なEIA法(麻疹IgG抗体検査)も5月28日以降は最早検査が不可能という最悪の事態になってしまったのです(→報道はこちら)。しかも、
検査試薬が欠乏した理由というのが、検査会社が需要が急増した検査試薬を緊急で輸入しようとしたのに、厚労省の審査が遅々として進まず、結局間に合わなかったという、何ともあきれかえる事実が真相のようです。
麻疹の大流行が続いているのに、検査はできない(検査試薬がない)、ワクチンはない(麻疹単抗原もMRも)、という信じられない状況が、5/28の現実なのです。
ワクチンが無いなら、宝樹医師(渋谷区)らの提唱するように、ワクチンがないことをはっきり認めて、外国から麻疹ワクチンを緊急輸入するなど、十分なワクチンを確保して、全力で麻疹対策を遂行すべきです。(1960年ごろ、わが国にポリオが蔓延したときに、当時のソ連やカナダからポリオ生ワクチンを緊急輸入し、ポリオを撲滅したではありませんか。
また、韓国も2002年から2005年の麻疹制圧対策のときはワクチンを輸入し、大規模な追加接種を実行しています。)
③今回の麻疹流行の土台を作ったのは、ワクチン反対派とマスコミ
現在の麻疹流行の渦中で、小児科クリニックはどこも比較的平穏のようです。当クリニックでも幸いなことに、今回の麻疹流行ではまだ麻疹患者は来院していません。それは、今回の麻疹が主に高校生、大学生、20歳台を中心に流行しているからです。
この年齢層は1989年から1993年にかけて、MMRワクチンが実施されていたとき、ちょうどワクチンの接種年齢を迎えていた人達です。当時、彼らの親達はマスコミからMMRを打つと髄膜炎になるぞ、ワクチンは怖いぞ、と散々脅かされて、ワクチンに対する恐怖感を植えつけられ、子どもに対しワクチン接種を行う意欲を喪失した人たちです。その彼らの子ども達が、麻疹ワクチン未接種のまま、麻疹に対する免疫も持たずに成長し、今次々と麻疹の餌食になっているのです。
そして、2007年9月現在の集計では、髄膜炎などよりはるかに重い、麻疹脳炎にすでに10歳台で4名、20歳台で5名の人が罹患しているのです。また、全国で260校以上の中学、高校、大学等が休校に追い込まれたのでした。
したがって、今回の麻疹流行の原因(麻疹に感受性のある集団)を作ったのは、MMR騒動のときに、とにかくワクチンに対し、あらん限りの罵詈雑言を浴びせ、ワクチン反対のプロ市民を正義の味方と褒め称え、ワクチンに対する不信感を多くの人間に植え付けた無責任なマスコミです。
2007年の現在、若い良識的な保護者の間では、ワクチン接種は当たり前のことであり、子どもの健康のために必要なものだという健全な常識が定着しています。しかし、数年前まではそれは常識ではありませんでした。さらに、20年前はワクチン接種に反対し、「ワクチンを打たない」ことが、「進歩的」で「よく予防接種のことを考えている」として、マスコミに絶賛された時代もあったのです。
マスコミに古来から伝承された「勧善懲悪劇」は、
かわいそうな「庶民」の犠牲者が、正義の「市民団体」の仲間に助けられ、国家、悪徳企業、御用学者の悪者達と戦い、これを打ち破る。そしてそこに正義の味方の「新聞記者」が登場して、感動的な記事を書いて、民衆と高らかに勝利をたたえあう。
という反吐が出るようなシナリオです。そして、信じ難いことですが、今なお、新聞記者は本能的に現実の事件をこのシナリオに無理やり当てはめようと努力するようです。
マスコミ左翼の黄金時代の1960年代から1970年代の公害問題では、このシナリオが光り輝いた時期もありました。それが、現代のワクチン劇やタミフル劇でも、性懲りも無く、この図式に沿ってシナリオが描きあげられていくようです。
こんな馬鹿げたシナリオに縛られている限り、マスコミがワクチンを積極的に打ちましょう、などと使命感溢れる良識的な発言をすることはまず期待できないと思われます。(同志のプロ「市民」運動家に飲み会で叱られる?)
2007年の麻疹の流行で世界中の笑い者になったのは、無能な行政官庁=厚労省と無力な日本人の感染症専門家とともに、どす黒いプロ「市民」と乳繰り合いながら、いまだに馬鹿げた左翼史観から抜け出すことのできず、「ワクチンを積極的に受けましょう」ときっぱりと言い切ることのできない、無責任で井の中の蛙、日本のマスコミ連中です。