2006年もまた、プール熱の当たり年のようです。ほぼ毎年(去年は大流行ではありませんでしたが)、この時期になると「国立感染症研究所感染情報センターによると、過去10年来最大の流行で警戒が必要…」の記事が新聞をにぎわします。冬のインフルエンザ、夏のプール熱は今や季節の風物詩のようですね。以下に2004年、2003年のプール熱の解説を再掲載します。特に今回補足するところはありません。(2006.7.23)
現在、プール熱が大流行しているという報道が行なわれています。いわく「国立感染症研究所感染情報センターによると、過去10年来最大の流行だ(昨年も同じ内容の記事が報道されました。下記参照)。」、いわく「プールが始まるので、更なる流行が懸念される。」など。
それを読まれたためか、ここ数日、クリニックでも「昨日プールが始まったら熱が出ました。プール熱でしょうか。」とか、「昨日プール教室に行ったので、プール熱か心配です。」というお母さまのご質問も増えてきています。
近年迅速診断が広く行なわれるようになり、いくつかの感染症は外来で容易に診断できるようになりました。プール熱の原因ウィルスである、アデノウイルスもその一つです。これがプール熱に対する医療関係者の関心を高める一つの背景になっているようです。(読売新聞参照)
本当にプール熱は大流行しているのでしょうか。また、それは大変なことなのでしょうか。少し掘り下げて考えてみたいと思います。
プール熱はアデノウイルス感染症の一型である
プール熱(咽頭結膜熱)は、アデノウイルスの感染により、発熱、咽頭炎、結膜炎の症状を示す病気です(→プール熱(咽頭結膜熱))。したがって、アデノウイルス迅速診断が陽性であっても目が赤くない、ただの扁桃炎はアデノウィルス扁桃炎と考えるべきです。プール熱(咽頭結膜熱)ではありません。
プール熱は、以前は小学校でプールを介して移ると考えられていました。実際、患者は小学生が多かったのです。しかし、現在ではプール熱は5歳以下が患者の60%を占めているといわれています。そして幼稚園、保育園で多く流行しています。また、病原ウィルスのアデノウイルスは、主に飛沫感染(せき、くしゃみの唾液から移る)で広がり、プールでの流行は少ないのです。(時々「何故プールに入っていないのにプール熱にかかるのですか」と聞かれますが、プール熱は主にせきで移るのです。) しかし、時には患児の結膜のアデノウイルスに汚染された、プールの水に接触して感染することもあります。したがって、一般的な予防は大切です。
プール熱(咽頭結膜熱)は、アデノウィルスの様々な病気の一つのグループです。今シーズンもアデノウイルス感染症にかかった兄弟(チェックAD陽性)で、お兄ちゃんがプール熱(咽頭結膜熱)、弟がアデノウイルス扁桃炎という例もありました。したがって、アデノウイルス感染症は同じウィルスでも人によりさまざまな病気の形をとるようです。
プール熱(咽頭結膜熱)は学校保健法の第二種の伝染病に指定されており、主要な症状がなくなった後、2日を過ぎるまでは登校・園できません。しかし同じスペクトラムに属するアデノウイルス扁桃炎は、学校保健法の対象疾患になっておらず、咽頭結膜熱を特別に第二種の伝染病とするよりはアデノウイルス感染症全体を指定するほうが合理的と考えられます。今後の検討が待たれます。
アデノウイルス感染症は増えているか
それではアデノウイルス感染症は増えているのでしょうか。幾つかのデータによると、アデノウイルス感染症(プール熱、扁桃炎などを含む)は今シーズンはやはり多いようです。その最大の理由は、小児科診療の現場の実感では、保育園や幼稚園での流行だと考えられます。昨年の産経新聞でも述べましたが、以前は夏休みになると子ども達はいなかに帰省したり、両親と旅行に行ったりしてばらばらとなり、集団での流行が収束したのです。ところが、現在では保育園に夏休みも冬休みもなく、幼稚園も保育園との競合上夏季保育などを行なっているため、子ども達は一年中集団で生活しており、流行が収まらずだらだらと続いていくのです。
しかもアデノウイルスや他の夏かぜウィルス(ヘルパンギーナ、手足口病)は3~4週にわたって便からウィルスが排泄されるので隔離は意味がありません。したがって、ウィルスを便から排泄したまま子ども達は保育園に戻ってくるのです。そのため、完全に感染を収束させることは困難で、流行が続くと考えられます。
この「保育園」由来伝染病は今後も増加することはあっても減ることはないでしょう。プール熱もヘルパンギーナも手足口病も今後ますます流行が続くと思われます。これらの「保育園」病に対する最も合理的な対策は、病児保育、病後児保育の充実です。理想的にいえば、全ての保育園に病後児保育室が併設されれば、これらの病気は始めて減少に向かうと思われます。当クリニックも微力ではありますが、病児保育室を立ち上げ、この課題への取り組みを始めようとしています。
プール熱は怖い病気か
プール熱が大流行!との報道が溢れていますが、それではプール熱に感染することは恐ろしいことなのでしょうか。結論的に言えば、プール熱は5日高熱が続き、目が赤くなりますが、重症になることは少なく、自然に治る例がほとんどです(アデノウイルスの中には重症になる型(7型)もあるので、熱が下がるまで、元気、食欲、呼吸などのお子さまの全身状態には、注意が必要です)。
したがって、プール熱にかかったとしても恐れる必要はありません。安静にして、水分補給し、無理のない範囲で栄養を取り、回復を待ちましょう。目薬を点して、眼科の先生がOKしたら登園しましょう。
ただし、便からのウィルスの排泄が続くのでオムツの扱いには注意し、手洗いを励行します。また、プールに入る時は、水泳前後に十分シャワーを浴び、プールに入る前にはお尻をよく消毒薬につけて、さらに洗眼も十分行なうことが必要です。(2004.7.17)
2003.8.3産経新聞への当クリニック長のコメントについて
2003年8月3日の産経新聞全国版第1面に、「子どもに流行-プール熱と手足口病」という記事がのりました。この記事中、当クリニック長のコメントが要約されていますが、実際には産経新聞社会部の記者の方にいろいろとプール熱についてお話しした一部が、「院長の話」として掲載されています。
取材の時、記者の方にお話した内容を再録しておきます。
①プール熱(咽頭結膜熱)は、アデノウイルス感染症の一型(発熱・咽頭炎・結膜炎が主症状)だ。
②アデノウイルス感染症は現在品川でも流行しているが、昨年とあまり患者数は目だって増えていないようだ。特にプール熱は現在見られ始めたところ。
③近年、アデノウイルス感染症は迅速診断が可能になった(→咽頭結膜熱の診断)。
③アデノウイルス感染症だけでなく、夏かぜ(ヘルパンギーナ、手足口病)もここ数年多い。
④夏かぜは3~4週にわたって便からウィルスが排泄されるので、完全に流行を押さえるのは難しい。特に、最近は小学校、幼稚園が夏休みになっても保育園が開園しているので、流行が続くことがある。(この部分が記事になっています)
現在、プール熱が爆発的に流行しだしたという事実は、少なくても品川ではありません。もしも高熱が続き、目が赤くなってきたら、その時はプール熱の可能性もあるため、小児科で検査を受ければよいと思います。プール熱だと診断されれば、プールに入ってはいけません。ただ、安静にしていれば、5~7日で解熱するので、診断さえ正確なら、それほど恐怖を感じるような病気ではありません。(2003.8.05)