ロタウイルスワクチンについて           2023.9.15最終更新

1.ロタウイルスについて

ロタウイルスは、レオウイルス科ロタウイルス属に分類される、大きさ100nmの正20面体のRNAウイルス(RNAという核酸を持っているウイルス)です。

写真のように、車輪(ラテン語でrota)のような形をしているため、ロタウイルスと名付けられました。(右写真は、CDC-Photos of Rotavirusより。原図はこちら

 ロタウイルスは60本のとげ(スパイク)を持ち、ウイルス粒子は3つの被殻(カラ)に分かれています。

最も外側の部分にはVP(Viral Structual Protein)というウイルス蛋白質が存在し、VP4(ウイルス構造蛋白質)というとげの部分のP(プロテアーゼ感受性)蛋白質と、VP7という最外殻のカラの部分のG(糖)蛋白質から構成されています。

P蛋白質は11の遺伝子型、G蛋白質は10の血清型があり、この組み合わせでいろいろなロタウイルスが報告されています。

そして、G1P[8]などとGタイプとPタイプの組み合わせで、ロタウイルスの種類を表現します。

ヒトから42種類のロタウイルスが見つかっていますが、
胃腸炎を起こすのはG1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]の5通りの組み合わせがほとんどです。

一方、中間部(内層)のVP6の部分にはもっとも多量の蛋白質が存在し、これがA群からG群まで分類されています。このうち、ヒトに感染するのは、A群、B群、C群を持つウイルスのみで、しかもほとんどはA群です。

さらに、ウイルス粒子の最内層(中心深部)はVP1、VP2、VP3から構成され、VP1とVP3は11分節の2本鎖RNAとからみあって存在しています。

したがって、ヒトでロタウイルス胃腸炎を起こすのは、VP6(カラの内側)がA群で、VP7(カラの外側)とVP4(トゲ)がG1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]の5種のロタウイルスということになります。

2.ロタウイルスワクチンの比較

タウイルスワクチンとしては、すでにアメリカでは1998年にロタシールドというアカゲザルのロタウイルスに、ヒトロタウイルスの一部を組み込んだ、4価経口ロタウイルスワクチンが開発され、使用されたことがありました。

ところが、ワクチン接種後に腸重積を起こした赤ちゃんが少なからず報告され、1999年に使用中止となりました。

ワクチンのウイルスが、赤ちゃんの腸のリンパ節を腫れさせて、腸をめり込ませたのではないか、ともいわれましたが、正確な因果関係は不明です。特に生後3か月を超えて接種した赤ちゃんに多く見られたようです。

現在、世界中で使用されている2種類のロタウイルスワクチン(ロタテック、ロタリックス)はロタシールドの教訓を踏まえ、腸重積のリスクを減らすため、生後2か月から接種を開始し、6か月までにワクチンを終了させるスケジュールが推奨されています。

また、問題になる腸重積のリスクについても13万2千人規模の大規模な追跡調査が行われましたが、両者とも接種後に腸重積の増加は認められなかったと報告されました。
現在、世界で使われているロタウイルスワクチンは2つあります。

一つは、2011年11月21日からわが国で使用されている、ロタリックス(GSK=グラクソスミスクライン社製。1価のワクチンのため、RV1とも呼ばれます)です。

もうひとつが、2012年7月20日に我が国では遅れて発売になった、ロタテック(MSD社製。5価のワクチンのため、RV5とも呼ばれます)です。

両者は同じロタウイルス胃腸炎を予防するワクチンですが、まったく内容も生い立ちも違います(簡単に下記の表にまとめました)。

ワクチン ロタリックス(RV1) ロタテック(RV5)
材料ウイルス ヒトロタウイルス(G1P[8])を弱毒化  ウシロタウイルスのV7に、ヒトロタウイルスのG1,G2,G3,G4を組み入れたリアソータント(遺伝子組み換え)のウイルス4種と、ウシロタウイルスVP4にP[8]遺伝子を組み込んだリアソータントのウイルス1種の計5種のウイルスを混ぜてある
価数(ウイルスの種類) 1価(1種類のロタウイルス) 5価(5種類のウイルスが入っている)
接種方法 2回 1.5mlを経口接種 3回 2mlを経口接種
ワクチンのウイルス量  106個(ヒトロタウイルスなので、よく繁殖する) 107~8個(ウシロタウイルスでヒト腸内での繁殖が悪いため、ワクチンのウイルス量を多めにしている)
周囲への感染(腸からのウイルス排せつ量) 多い
(ヒトロタウイルスなので、よく繁殖する)
少ない
(ウシロタウイルスなのでヒト腸内での繁殖が悪い)
腸重積との関連 なし なし


3.ロタウイルスワクチン(ロタリックス、ロタテック)の接種方法

ロタリックスは、生後6週(1ヶ月半)から1~2か月間隔でシロップ状のワクチン液を2回飲みます。

24週までに終了することになっていますが、初回接種は生後14週6日(3ヵ月半)までに始めることが強く勧められています。それ以降は、当クリニックでは接種は行っておりません。


その理由は、以下の2点です。
①ロタウイルス胃腸炎は12~23ヵ月(1~2歳)をピークに、6~35ヵ月(生後6ヵ月から3歳)までの乳幼児に多い病気のために、生後24週(6ヵ月)までに免疫をつけておきたい。

(生後6ヵ月までにワクチンを済ませておけば、重症のロタウイルス胃腸炎にならないですむため)

②生後6ヵ月以降は、腸重積という病気が増えてくるため、ロタウイルスワクチン接種後に腸重積が起きた場合、ワクチンの副反応とまぎらわしくなるため。

(ワクチンの副反応と区別がつかなくなる)

一方、ロタテックは生後6週(1ヶ月半)からやはり1~2か月間隔で、液状のワクチンを3回飲みます。

こちらの方が少しさらさらした感じです。ロタテックは3回接種のため、生後32週(8ヵ月)までに終了することになっています。やはり、生後2ヶ月から、1か月間隔の接種が勧められます。

以下、それぞれのロタウイルスワクチンについて、説明いたします。

4.ロタウイルスワクチンRotarix(ロタリックス:GSK)について 



①内容:
G1P[8]に属するヒトロタウイルス89-12株を、順次継代培養して、毒性を無くしたRIX4414株というロタウイルスを、アフリカミドリザル腎臓由来のベロ細胞で培養し、増やします。

そのウイルス液を精製し、添加剤を加えてシロップ状にした、液状ワクチンです。

シロップはキャラメルのような味がします。

②効果:
このワクチンは、G1P[8]1種類のワクチンですが、他の病原性を持つ、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]ロタウイルスに対しても予防効果を持つことが明らかにされています。

その理由は、VP4(トゲ)とVP7(カラの外側)に、それぞれ共通の免疫を誘導する部分があり、また内部のたんぱく質(VP2、VP6)は遺伝子型にかかわらず免疫が作られるから、と説明されています。

国際的な研究では、重症ロタウイルス胃腸炎には96%の有効率を示し(欧州6カ国の成績)、すべてのロタウイルス胃腸炎に対しては82%の有効性(シンガポールの成績)という報告があります。(その他にも、いくつもの報告があります)

③副反応:
国内臨床試験の接種後30日以内に報告された主な副反応を示します(508例中)。

症状 発現件数   発現頻度(%) 
咳/鼻水 17 3.4
発熱 7 1.4
不機嫌、過敏   37 7.3
食欲低下 9 1.8
下痢 18 3.5
嘔吐 8 1.6
胃腸障害 2 0.4
血便 2 0.4

5.ロタウイルスワクチンRotaTeq(ロタテック:MSD)について 



①内容:
ウシロタウイルス(WC3株)とヒトロタウイルスを同じ細胞に感染されると、感染細胞内でそれぞれのウイルスの遺伝子の再集合(リアソータント)が起こります。

その結果、両方の親ウイルスの遺伝子を持った、子孫ウイルスが生まれてきます。

ウシロタウイルス(WC3株)V7(カラの外側)の代わりに、ヒトロタウイルスのG1、G2、G3、G4を持つV7遺伝子を持った、リアソータント(遺伝子組み換え)ウイルス4種と、さらにウシロタウイルス(WC3株)のVP4(トゲ)の代わりに、P[8]遺伝子を持つヒトVP4を持った、リアソータントウイルス1種の、計5種のウイルスを混合したシロップ状のワクチンが、ロタテックです。

ただ、もともとウシロタウイルスなので、ヒトの腸管での繁殖はやや悪く、接種回数、接種量がヒトロタウイルスから作られるロタリックスよりも多くなっています。

②効果:
このワクチンは、G1、G2、G3、G4、P[8]が含まれているため、ヒトに病原性を持つG1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]の全てのロタウイルスをカバーした予防効果が認められています。

国際的な研究では、重症ロタウイルス胃腸炎には98%の有効率を示し、入院を94%減らし、すべてのロタウイルス胃腸炎に対しては74%有効だったという報告があります(Vesikari, et al. N Engl J Med 2006;354:23-33.)。(その他にも、いくつもの報告があります)

③副反応:
国内臨床試験のおける副反応を示します(380例中)。

症状 発現件数   発現頻度(%) 
発熱 5 1.3
下痢 21 5.5
嘔吐 16 4.2
胃腸炎 13 3.4


6.腸重積について

ロタウイルスワクチンは腸管で繁殖し、免疫を誘導するため、腸管リンパ節が腫れる可能性があります。そのため、自然感染でも起こりうる、ロタウイルス感染による腸重積が、ワクチン接種後にも起こる危惧がありました。

実際、第一世代のロタウイルスワクチンである、ロタシールドは腸重積が多発したため、使用が中止になっています(2節参照)。そのため、第二世代である、ロタリックス、ロタテックも発売前に、腸重積を引き起こすリスクが高いか、13万2千人が参加した大規模な臨床試験が行われました。その結果、ロタウイルスワクチンは特に腸重積のリスクを特に増やすことはないと評価され、ワクチンは発売されました。

しかし、ロタリックス、ロタテックを実際に使用を始めると、ワクチン接種後の腸重積がちらほら報告されるようになりました。そのため、ロタウイルスワクチン接種後の腸重積の発生頻度の検討が再度行われたのです。その結果は、

①ロタウイルスワクチンを接種することによって、ワクチンによる腸重積の頻度は若干増える。特に初回接種後の1週間以内が多い。
②2回目の接種以降は増えるという報告と増えないという報告がある。



ロタリックスは初回接種後7日間に腸重積が有意に増加していた。2回目接種では変わらなかった。(ロタウイルスワクチンに関する最近の知見)


ロタテック(RV5)は腸重積の頻度は初回接種後7日間が全体の1/4であった。また、初回接種後21日以内に発症した腸重積のうち、1/3が初回接種が15週以降であった。(ロタウイルスワクチンに関する最近の知見)

③ロタウイルス胃腸炎はワクチン導入により、減少している。
④ロタウイルスワクチン接種後の腸重積が、特に重症となるということはない。早期発見し、早期治療を行えば、良好な経過を示す。
と、まとめられました。

世界保健機関(WHO)は、ロタウイルスワクチン接種後の腸重積に対する見解として、「諸外国の市販後調査で、ワクチン接種後(特に1週間)に腸重積のリスク増加(10万人接種当たり1~2人)が認められているものの、ベネフィット(ロタウイルス感染に伴う重度の下痢、死亡の予防)が腸重積のリスクを大きく上回っている」として、ロタウイルスワクチンをすべての国の予防接種のプログラムに組み込むことを推奨しています。

また、腸重積のリスクは早期診断、早期治療によって減らすことができると、指摘しています。

7.ロタリックスとロタテックとどちらがお勧めか


基本的には、どれらも優秀なワクチンなので、どちらを使用しても特に問題ありません。

①長所
ロタリックスの方が、接種回数が少ないこと(2回>3回)、接種量が少ない(1.5ml>2ml)ことは利点と考えられます。
一方、ロタテックは、ロタリックスで抗体の上りがあまり良くないG2P[4]にも、十分効果が期待できる点が評価されています。

②欠点
ロタリックスは1価のため、G1P[8]以外の免疫の誘導はやや弱い(特にG2P[4])ようです。ロタテックは、腸管内でワクチンウイルスが増殖中に他のリアソータントが生ずる可能性が理論上、0ではありません。

③当クリニックの使用ワクチン
ロタウイルス胃腸炎に対する効果は両者とも素晴らしいものがあるので、副反応を減らすために、接種回数が少なく、腸重積が増える3~5か月までに接種が完了する、ロタリックスを当クリニックでは採用しています。当クリニックは生後8週、12週での接種をお勧めしています。

(2012.6.20執筆。2016.3.27一部加筆修正。2018.5.13加筆修正)


本文 1.ロタウイルスについて の左段図は、DoubleSmile ロタウイルスQ&A 谷口孝喜 P.7 「ロタウイルスの粒子構造と各構造の特徴」を使用させていただきました。
各著者の先生に厚く御礼申し上げます。

写真の赤ちゃんは、お母さまのご許可を得ております。無断転載厳禁。



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