●はじめに
スギ花粉症の患者さんは年々増加しています。東京都の平成8年の調査によると、スギ花粉症の有病率は19.4%と、10年前の2倍に増加していました。現在、全国で1200万人の人がスギ花粉症で悩まされているのではないかと推定されています。また、スギ花粉症の低年齢化が進み、6~7歳ごろから花粉症の症状が現われる子どもが増えてきていると報告されています。花粉症は、くしゃみ、鼻水、鼻閉などの鼻症状のみならず、目のかゆみ、頭が重い(頭重感)、のどの痛み(咽頭痛)、さらに喘息、胃腸症状(下痢、腹痛)など全身の病気です。おとなと違い、子どもに好ましくない花粉症のお薬もあります。子どもの花粉症は、小児科専門医を受診することをお勧めします。
Ⅰ.スギ花粉症のシーズン
スギ花粉の飛散は、2月上旬から4月にかけてのスギの開花時期に起こります。したがって、この時期がスギ花粉症のシーズンということになります。しかし、スギの近縁に当たるヒノキの花粉の飛散が3月下旬から5月上旬まで続くので、ヒノキ花粉症もある患者さんはゴールデンウィーク明けまで症状が長引きます。
Ⅱ.スギ花粉症のメカニズム
スギ花粉が鼻から身体の中に何年も進入し続けると、身体の中にスギ花粉に対してこれを攻撃し破壊する抗体(スギ花粉特異的IgE抗体)が作られるようになります。ふつうは花粉は無害な物質なので、抗体は作られません。しかし、スギ花粉に反応しやすい素質を持つ人は、身体の防御システムの司令塔であるTリンパ球が過敏にスギ花粉に反応し、Bリンパ球に命令し、抗体を作らせます(このような過敏な免疫反応をアレルギーというのです)。このつくられたスギ花粉に対する抗体は、マスト細胞(肥満細胞)に接着して新たな敵(スギ花粉)の侵入に備えます。そして、スギ花粉が侵入してくるのを発見するや、マスト細胞から攻撃物質(ヒスタミン、ロイコトリエン)を発射させます(脱顆粒)。ヒスタミンは知覚神経を刺激し、くしゃみ、鼻水を生じさせます。また、ヒスタミン、ロイコトリエンは鼻の粘膜を腫れさせて鼻閉を起こします。一方、目ではヒスタミンが目の結膜を腫らしたり、知覚神経を刺激してかゆみを起こさせたりします。さらに免疫司令塔(Tリンパ球)の命令で好酸球が出動してきて、鼻や目の粘膜の炎症(赤く腫れる状態)をさらに激しくさせます。
Ⅲ.スギ花粉症の症状
スギ花粉症の症状は、スギ花粉を目や鼻から排除するための防御反応です。鼻がつまるのはスギ花粉を体内に侵入しないように物理的に空間を塞ぐことですし、涙やくしゃみは花粉を排除するための反応と考えられます。
①目の症状:目のかゆみ、充血、涙目、目やに、目がごろごろする
②鼻の症状:くしゃみ、はなみず、鼻づまり
③全身症状:頭痛、頭重感、全身倦怠感、咽頭痛
Ⅳ.スギ花粉症の治療
○ 予防的(初期)治療
スギ花粉症の治療は、まずスギ花粉の飛び始める前に、抗アレルギー剤(化学伝達物質遊離抑制薬)を飲み始めることから始めます。これを初期療法といい、花粉症の症状を軽くすることができるといわれています。抗アレルギー剤はシーズンの終わりまで続けることが大切です(スギなら5月上旬、ヒノキなら5月下旬まで)
さらに、抗アレルギー剤の点鼻薬と目薬を使用して、様子をみます。
○ 免疫舌下療法
スギ花粉を少量ずつ摂取して、からだにスギに対する免疫を高める、免疫舌下療法が始まりました。
○ シーズンの治療
大量に花粉が飛散し始めると、抗アレルギー剤だけでは症状が抑えられなくなります。症状がひどくなってきたら、ステロイドの点鼻と抗ヒスタミン薬の内服を併用します。また、漢方薬も副作用(特に眠気)が少なく、併用すると効果があります。
以下に、それぞれの薬の特長を示します。
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抗アレルギー剤 |
対症薬 |
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抗ヒスタミン薬 |
ステロイド点鼻薬 |
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薬の作用 |
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ヒスタミンの働きを抑える |
鼻粘膜の炎症を抑える |
薬の効き方 |
花粉を吸入しても、症状が出にくくなる |
花粉症の症状を抑える |
花粉症の症状を抑える |
効果の出る時期 |
1~2週間後 |
20~30分後。すぐ効くが、作用時間も短い |
2~3日後 |
副作用 |
弱い眠気 |
強い眠気 |
鼻に限定した使用のため、副作用は少ない |
使用時期 |
シーズン前から毎日飲む |
症状が出たら飲む |
症状が出たら使用する |
代表的な薬 |
クラリチン、アレジオン、アレグラ、ザジテン*、セルテクト、アゼプチン、アレギサール(*点鼻薬もあり)
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ぺリアクチン、ニポラジン、タベジール、ホモクロミン、ジルテック |
フルナーゼ、リノコート |
漢方薬=小青竜湯、麻黄附子細辛湯、葛根湯加川弓辛夷が用いられます。
Ⅴ.スギ花粉症の生活上の注意
○花粉の遮断
1.晴れて風のある日は外出を控える
スギ花粉は晴れて風のある日に多く飛びます。このような日はできるだけ、外出を控えるか、マスクやメガネを着用します。
外出時にメガネやゴ-グルを使用すると、目の結膜に接触するスギ花粉の数は1/3に減少するといわれています。コンタクトレンズのお子さまは花粉症のシーズンの間はメガネに変えることをお勧めしますが、コンタクトレンズを使用する時は、防腐剤無添加の人工涙液で洗眼することが必要です。
スギ花粉症用の各種マスクもかなりの予防効果が期待できます。
2.室内への花粉の侵入を防ぐ
掃除の時以外は窓を閉めきり、花粉が室内に入ってこないようにします。布団や洗濯物は戸外に干さないか、取り込む時に花粉を十分叩き落とす必要があります。
また、外出から帰ってきた時は、髪や衣服についている花粉をよく払い落としてから、家の中に入ります。表面が凸凹した花粉がつきやすい毛織物の衣服は避けたほうがよいでしょう。
また、帰宅した時はお子さまに洗顔、うがいを励行させ、鼻水が出ている時は鼻をかませます。
○生活環境の改善
1.環境をいつも清潔にする
できるだけ、部屋の中は整理整頓し、ごみや花粉を部屋の中に残さないように注意しましょう。頻回の掃除も有効です。ふとんやカーペット、ベッドの下などを電気掃除機で十分吸いこみます。また、掃除機を使う際には、窓を開けて噴射口を室外に向けて行う必要があります。(花粉を室内に残さないため)
2.ストレスを避け、十分な睡眠を
過労やストレスは一般にアレルギーの症状を悪化させるといわれています。十分な睡眠と体力をおとさないよう、お母さまの配慮が必要と思います。
3.かぜをひかないようにする
花粉症の時期に流行るかぜは、鼻かぜを主な症状とするウィルスが多いです。鼻かぜは鼻の粘膜をさらにあらして、症状を悪化させるので、注意が必要です。(早めの受診を)