第2次タミフル騒動について

2007年2月から3月にかけて、タミフルで異常行動が起きる!とマスコミが馬鹿騒ぎした時、執筆した解説文です。

Ⅰ.オセルタミビル(タミフル)

オセルタミビル(タミフル)は物騒がせな薬です。2003-4年のインフルエンザ騒動の時には、「タミフルがない!」といって、日本中がパニックになったのは記憶に新しいところです(第一次タミフル騒動)。そして、この騒動の最中に、「夜中でも熱が出たら一時でも早く病院へ行け。検査をしてもらい、すぐにタミフルを飲め!タミフルを飲まなければインフルエンザ脳症になるぞ!」とけたたましく騒ぎたて、親を脅かし煽りまくって、日本中の夜間救急外来をパンクさせたのは、TVワイドショーなどのマスコミでした。
(本文付録 2003年のインフルエンザ騒動をふりかえってを参照下さい)。

2007年の今、「タミフルを飲むと頭がおかしくなる!タミフル脳症(?)だ!」「タミフルは薬害エイズと同じ(?)だ!」などと、またぞろワイドショ-などのTVで馬鹿騒ぎしているのは、全く同じ顔ぶれの
連中です(第2次タミフル騒動)。懲りない人々です。それにしても、小泉「改革」もそうでしたが、有能なシナリオライター(今回は薬害反対グループ)が影でシナリオを書くと、面白いように筋書き通り踊らされるのが日本のマスコミの習性のようです(視聴率のためにわざと踊らされている?)。

TVの番組というものが、公共性からほど遠い、恣意的で興味本位で低レベルのゴシップ記事以上でも以下でもないことが、最近ようやく認識されてきたようです。健康記事においてさえ、子どもの健康を願って(細心の注意を払って)客観的中立的実証的に製作されているのではなく、大切なスポンサー様と視聴率をかせぐために、あざとく刺激的な内容になるよう厚化粧を施され、場合によっては(日常的に?)捏造と医学を全く無視した情報操作が行われていることが次々と明らかになってきています。

賢い保護者は、TVの垂れ流す、検証もされていない、軽薄な煽動的メッセージを信用してはいけません。TV番組の「情報」というものは、スポンサー様の歓心を買うために面白おかしく、事実を曲げて、捏造されているのです。にもかかわらず、その事実にうすうす気づいているのに、いざとなるとTVのエセ情報に振り回される人々が少なくありません。現在の第2次タミフル騒動の誇大粉飾を見抜き、踊るTV局や影で糸を引いている特定集団にいいように操られることはやめましょう。大切なわが子を守るためには、正しい客観的な情報をもとに、冷静に対応することが必要です。

そのために、本章で論述する、タミフルに関する現在の知見を参考にしてください。


①効果と作用機序fluvzousyoku

オセルタミビルはノイラミニダーゼ阻害剤といって、インフルエンザのNA(ノイラミニダーゼ)の働きを抑える薬です。インフルエンザウィルスのNAは、インフルエンザウィルスが出芽して、感染細胞から飛び出すことを助けます。このNA(ノイラミニダーゼ)の働きを抑えるノイラミニダーゼ阻害剤が投与されると、インフルエンザウィルスは感染細胞から分離できなくなり、細胞にくっついたまま最後は死んでしまいます(右図)。

オセルタミビルの製剤が、タミフルです(カプセル、ドライシロップがある)。タミフルは中華料理の食材である、トウシキミの実である八角の成分シキミ酸から半合成され、製造されています。

タミフルはノイラミニダーゼのとげを持つ、A型インフルエンザ、B型インフルエンザ両方に有効です。1~2日で熱は下がり、インフルエンザの症状は軽くなります。また、新型インフルエンザウィルス(A型インフルエンザの一種です)にも効果があると考えられています。ただし、B型インフルエンザには効果は劣るといわれています。

タミフルは、高熱を呈したインフルエンザ患者には劇的に奏効し、1日程度で熱が下がり、症状は軽快します。最近、「タミフルはたかだか1日発熱を短縮するだけ」などと訳知り顔に評論する人間もおりますが、インフルエンザの高熱症状を体験したり、看病したりしたものでないとインフルエンザのこの辛さはわからないと思います。このような意見を吐く人間は、自分が重症のインフルエンザに罹患したり、自分の最愛の息子がインフルエンザの高熱でうわごとを言っているときでも、「タミフルはたかだか1日発熱を短縮するだけ。タミフルは使う必要がない。」などと嘯いているのでしょうか。(最もタミフルを飲んでうわごとをいえば、おそらくタミフルのせいだと大騒ぎするでしょうが。)


しかしタミフルの効果が現われるには半日以上はかかるため、急激に進行するインフルエンザ脳症の発症を抑えることは難しいと考えられています(2003年にはタミフルを服用したにもかかわらず、インフルエンザ脳症を発症した例もありました)。また、タミフルの主な働きは高熱を劇的に下げて、全身状態を改善することなので、あまり症状が重くないインフルエンザでは、目だった効果はみられないと思われます。

②副作用と問題点

(従来いわれた副作用)

タミフルは副作用として、服用患者の5%に腹痛、下痢がみられますが、症状は軽く服用をやめれば消失します。腎障害が新聞に大きく取り上げられたこともありましたが、これもきわめてまれな副作用です。

薬の効かない耐性ウィルスは、タミフルでも1/100の割合で出現しますが、タミフルの耐性ウィルスはシンメトレル(アマンタジン)のそれとは異なり、感染力が弱いため、あまり問題にしなくてよいといわれています。また、タミフルを飲んで速やかに解熱しても、ウィルスの排出は数日間は続くこと、解熱後1~2日後に再び発熱するお子さまが少なくないため、いつまで園や学校を休ませなければならないのか、結論の出ていない問題も残っています。


また、タミフルの問題点として薬価が高額なことも挙げられます。この薬の乱用は医療費を押し上げる可能性があります(投与人数の多いため)。

また、ドライシロップと称していますが、きわめてまずい薬で飲み方に工夫がいるようです(食事と一緒に服用することが勧められています)。


(最近問題になっている副作用)

ところがその後、タミフルの使用と副作用について、重大ないくつかの問題が提起されました。

第一は、製薬会社自身(ロッシュ)が持ち出してきたもので、2004年1月に突然、中外製薬や塩野義製薬のMR(営業担当者)が、各医療機関を訪問し、「お得意様各位」「米国における抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」の安全性情報についてのお知らせ~1歳未満の患児への処方について」というパンフレットの配布を始めたのです。

このパンフレットには、生まれて7日目と14日目の幼若ねずみに体重あたり1000mg(実際使われる量の500倍)のリン酸オセルタミビル(タミフル)を与えたところ、7日目のねずみは死亡し、14日目のねずみは異常を認めなかった。リン酸オセルタミビルの脳内濃度は、7日目の幼弱ねずみは14日目の成熟ねずみの約1,500倍も高く、幼若ねずみの脳が未熟である可能性が示された。

したがって、「弊社といたしましては、タミフル投与に際しまして、本剤使用上の注意および適応の範囲内で使用されますよう、また、1歳以上の患者のみに使用されますよう重ねてお願いいたします。」と書かれてありました。


この製薬会社の要請に対し、タミフルはそれまで乳児にも使われていたため、日本小児科学会はタミフルドライシロップの1歳未満児への投与について、副作用を調べました。

その分析結果は「タミフルドライシロップ3%の乳児への投与の安全性に関する検討(中間報告)」(日本小児科学会雑誌 108巻11号 1438頁:2004年)として公表されています(短報)。その報告によれば、タミフルドライシロップが投与された乳児737例(A型、又は、B型インフルエンザウイルス感染症患者)のうち、タミフルとの因果関係が疑われる副作用としては、下痢(13例)、嘔吐(5例)、軟便(3例)、低体温(2例)がみられましたが、重篤な副作用の報告はなかったということでした。


また、この製薬会社の要請に関する厚労省の態度は、十分患者へのインフォームドコンセントをつくせば問題ないというものでしたが、現在乳児へはタミフルはあまり処方されなくなりました。

第二は、薬害反対グループの主導する、タミフルの「異常行動」騒動です。2005年の第36回小児感染症学会における薬害反対運動家の口演から始まり、現在マスコミを引き込んでさらに大々的に騒ぎが拡大しています。

タミフルの異常行動に関しては、米国食品医薬品局(FDA)が精神症状や死亡とタミフル服用の関連について、関連を示す証拠が不十分という見解を公表しました。

また、2006年の厚生労働科学研究「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」(主任研究者:横田俊平横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学教授)班によれば、全国12都県の小児科医に対して行った調査で、医師 2,846件、患者・家族2,545件の回答では、タミフルと異常言動との関連は、タミフル使用しなかった群では発現頻度は 10.6%、タミフルを使用した群の発現頻度は 11.9%で、有意差を認めなかった(詳細はこちら)ということです。


現在吹き荒れているタミフルバッシング(タミフルは頭がおかしくなる薬)と厚労省たたき(厚労省は死者も出たのに何やってるんだ)の嵐の中で、それではどう対応すればよいのでしょうか。

まず、タミフルの「異常行動」に関する限り、今回の厚労省の抑制の効いた対応は適切だと考えます(下記)。


インフルエンザ治療に携わる医療関係者の皆様へ(インフルエンザ治療開始後の注意事項についてのお願い) (厚生労働省)

○今月に入り、抗インフルエンザウイルス薬リン酸オセルタミビル(販売名:タミフル)を服用したとみられる中学生が自宅で療養中、自宅マンションから転落死するという痛ましい事例が2例報道されております。これら2例については、現在、情報収集を行っており、タミフルの使用との関係を含め専門家による十分な検討を行うこととしております。

○タミフルの使用と精神・神経症状の発現の関係については、別紙〔参考〕の2及び3に記載したように、これまで専門家による検討や調査を行ってきたところです。それらを踏まえると、タミフルの使用と精神・神経症状に起因するとみられる死亡との関係については否定的とされていることなどから、現段階でタミフルの安全性に重大な懸念があるとは考えておりませんが、今シーズンは更に詳細な検討を行うための調査を実施しております。

○以上のような状況の下において、現在のところタミフルと死亡との関係については否定的とされておりますが、インフルエンザウイルスに感染した場合、別紙〔参考〕の4のとおりタミフルの販売開始以前においても異常言動の発現が認められており、また、まれに脳炎・脳症を来すことがあるとの報告もなされていることから、以下の点について御配慮いただきたくお願いいたします。

万が一の事故を防止するための予防的な対応として、特に小児・未成年者については、インフルエンザと診断され治療が開始された後は、タミフルの処方の有無を問わず、異常行動発現のおそれがあることから、自宅において療養を行う場合、
 
(1) 異常行動の発現のおそれについて説明すること
 
(2) 少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮すること
が適切であると考えられます。


このため、インフルエンザ治療に携わる医療関係者においては、患者・家族に対し、その旨説明を行っていただきたい。

まず第一に、臨床を行っている第一線の小児科医なら周知のように、インフルエンザ患者は熱譫妄といって異常行動をとることがまれではありません。最近の小児科学会雑誌でも報告がみられます(下記引用)。

「インフルエンザの経過中に異常言動・行動を呈した症例の検討」原 啓太1)ら(市立枚方市民病院小児科1)

2005年12月から2006年2月、インフルエンザに伴う異常言動・行動を主訴に受診した連続症例について追跡調査した.

調査期間中の小児インフルエンザ患者は1,219例で、異常言動・行動を訴えた症例は21例(1.7%)、うち追跡調査できた18例を対象とした.年齢は2~13歳(平均6.9歳)で,6例に熱性けいれんの既往歴を認めた.全例がインフルエンザA型であった。

異常言動・行動出現前に10例がリン酸オセルタミビルを服用しており,5例では何ら服薬がなかった.2例を除き,異常言動・行動は発熱後24時間以内に出現していた.
異常言動・行動の内容は,意識混濁に伴う,幻視,怯え,行動性の運動症状が多く,特徴はせん妄に一致していた.異常言動・行動の持続は12例で30分以内であり,全て38℃以上の発熱に伴い一過性であった.

受診後は全例でリン酸オセルタミビルによる治療を行い,異常言動・行動消退後は速やかに意識回復した.有熱期間は1~4日(平均2.2日)で,全例が解熱後は後遺症なく軽快した。

今回の18症例で認めた異常言動・行動は熱せん妄と考えられた.一過性のせん妄は,小児のインフルエンザ神経合併症として,まれではないと思われた.
    ( 日本小児科学会雑誌2007:111:38-44

さらにインフルエンザによる異常行動は、インフルエンザ脳炎・脳症が原因のものも少なくありません。
 
(厚生省発表の要約)
インフルエンザの臨床経過中に発生した脳炎・脳症について

1997年~1998年のインフルエンザ様疾患127万人のうち、インフルエンザの臨床経過中に発生した脳炎・脳症の実態調査を行った。

調査対象はインフルエンザの臨床経過中に脳炎・脳症を発症した者を対象とした。インフルエンザは、(1)臨床診断のみによるもの、(2)臨床診断に加え、家族等にインフルエンザウイルスが分離されているなど検査等で確定診断がついている例と疫学的に関係があると思われる場合、(3)確定診断がついている場合を対象とし、脳炎・脳症としては発熱と何らかの意識障害があるものを対象とした。なお、インフルエンザの臨床診断とは、39.0度以上の発熱、呼吸器症状、頭痛を伴って急激に発症するものとした。
(1)全体の報告数
 全国から269例の報告があったが、60歳以下の合計217例を対象とした。 
(2)年齢階級及び性別

 217例の内訳は、男性108名、女性109名と性別に有意な差は認められなかった(表1)。 
図1 
また、年齢階級は、5歳までに全体の82.5%が含まれており、中央値が3歳と若年層に偏った分布となった(図1)。 
図2
(4)転帰別報告数

 217例のうち、完全に回復したものが86例、後遺症の残ったものが56例、現在経過観察中が17例、死亡したものが58例であった。
 転帰別には、性別に有意な差は認められなかった。年齢階級別にも特段の傾向は認められなかった。 

図4 
(6)脳炎・脳症に関連した症状

連絡票中の脳炎・脳症の状況及び経過に関する自由記載欄に記入があった208例についてみると、何らかの意識障害、痙攣が最も多く、次いで麻痺、嘔吐、異常行動、さらに多臓器不全(MOF)が4例、播種性血管内凝固症候群(DIC)が3例に記載されていた(図2)。 

図6(厚生省発表引用終わり)

この1997年から1998年のインフルエンザシーズンだけでインフルエンザ脳炎、脳症で58名の死者が出ているのです。

異常行動も報告されています。11~15歳の年齢に限っても脳炎、脳症8名、うち2名が死亡しています。もちろん、1998年はまだタミフルが発売される以前の調査です。

以上、簡単に見てきましたが、インフルエンザ患者が(タミフルを飲まなくても)異常行動をとることは医療関係者の間ではよく知られた事実だったのです。


第二に、インフルエンザの治療薬でタミフルだけが突出して精神症状(異常行動)を起こすのでしょうか。実は塩酸アマンタジン(シンメトレル)はタミフルと比較にならないほど、高頻度に精神神経症状を起こすのです。そのため、シンメトレルは朝、昼と2回、夜を避けて服用することが勧められているほどなのです(夜服用すると高率にうわごとをいったり、騒いだりする)。

したがってタミフルだけが特別に異常行動を起こしやすいわけではないのです。現在、タミフルに代わってリレンザが多く処方されるようになりましたが(マスコミの馬鹿騒ぎでタミフルが処方しにくくなったため)、リレンザでも異常行動が出たという情報もあります。したがって、抗インフルエンザ薬を服用するときは、シンメトレルであれ、タミフルであれ、リレンザであれ、異常行動には一応注意したほうがよいというのが正しい服用中の注意だと思われます。

また、タミフルと異常行動の関連も、併用薬との組み合わせに何か問題はあるのか、そのときのインフルエンザの症状はどうだったのかなど、さまざまな観点から総合的に検討が進められるべきでしょう。現在の厚労省の検討の結果が待たれます。

これらの事実を踏まえれば、厚労省が今回出した「インフルエンザ治療に携わる医療関係者の皆様へ」(インフルエンザ治療開始後の注意事項についてのお願い)は適切で妥当な対応と考えられます。

③当クリニックの対策

インフルエンザと迅速診断で診断され、典型的なインフルエンザの症状を呈する1歳以上のお子さまには、タミフルを投与します。このようなお子さまにはタミフルは著効を示し、速やかに快復し元気になるからです。また、5歳以上のお子さまは希望によって、リレンザを処方することもあります。

症状が軽い場合(発熱が38.5℃以下の場合。ワクチン接種したお子さまに多い。)や、高熱を呈しても本人が元気で全身状態が良好なら、タミフルは投与せず経過を見ます。

タミフルの服用期間は発熱が続き、全身状態が不良の間だけとしています(当クリニックは2004年以降、一貫してタミフルは有熱期間のみの服用を推奨してきました)。

ただし、いずれにしても、厚労省の注意のように、インフルエンザの急性期は抗インフルエンザ薬の服用の有無にかかわらず、全身状態の綿密な観察は必要であり、お子さまの状態にはよく注意するよう、お母さまにはお話しています。

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Ⅱ.第2次タミフル騒動-新たな展開

①横田教授(厚労省研究班主任研究者)への手段を選ばぬ卑劣な個人攻撃が始まる(3.13)

2007年3月13日に、読売新聞、朝日新聞などはいっせいに、厚生労働科学研究「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」の主任研究者、横田俊平横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学教授の講座に、タミフル発売元の中外製薬から研究費が寄付されていたと大々的に報道しました。

FNN) タミフル研究の厚労省研究班班長にタミフル輸入元の製薬会社から1,000万円の寄付金 

インフルエンザ治療薬「タミフル」の副作用などについて研究している厚生労働省の研究班班長の大学教授が、タミフルの輸入元の製薬会社から1,000万円の寄付金を受け取 っていたことがわかり、13日夜、この大学教授が会見した。 横浜市立大学の横田俊平教授は、「薬剤のですね、たとえば副作用の問題であるとか、何か問題が起きたときに、奨学寄付金をもらっているから、それに対して手心を加えような んていう、そんなけちな根性は持っていません」と述べた。
 
厚生労働省の研究班で班長を務める横浜市立大学の横田俊平教授は、タミフルの輸入元の「中外製薬」から5年間であわせて1,000万円の寄付金を受け取っていたことを認め たが、「調査は科学的に行われていて、寄付金が因果関係についての研究に影響を与えることはない」としている。
 

「タミフル」を服用した10代の若者が、ビルから飛び降りるなどの異常行動で死亡する例が相次いでいるが、厚生労働省は、これまで服用と異常行動の因果関係については否定的な立場をとっている。 


このFNNの記事も、あたかも横田教授が中外製薬から後ろ暗い金をもらって、タミフルの調査に手心を加えているかのような印象を読者に与えるよう、意図的に構成された悪質な中傷記事です。

①まず、1000万円の寄付金とありますが、これは5年間の総計であり、1年あたりでは平均200万に過ぎません。(これは研究費としては決して多額な寄付金ではありません)
②この寄付金は正規の手続きで大学に支払われています。別に後ろ暗い裏金ではありません。
③しかもこの記事構成は、横田教授に
「薬剤のですね、たとえば副作用の問題であるとか、何か問題が起きたときに、奨学寄付金をもらっているから、それに対して手心を加えようなんていう、そんなけちな根性は持っていません」などと語らせ、いかにも俗物的な発言をする人物のように描かれています。

横田教授は横浜市大小児科教授であり、行動的で有能な、現在の最も優れた小児科教授の一人です。社会的にはほとんど小児科医として影響力を持たず、小児科医を今の悲惨な境遇に追い込んだ、多くの無能な小児科教授達とは異なる存在です。それゆえ、横田教授は多くの一般小児科医の尊敬を集めてきました。

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誰がどのような目的でこのような情報をマスコミに流したのでしょうか。

それは、薬害エイズで成功した、「ミドリ十字と安部教授」と同じような構図の、製薬会社と癒着したひもつき教授というレッテルを貼ることで、
①横田教授の社会的な信用を奪い、
②厚生労働省の「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」の結果の客観性に打撃を与え、
③ひいては現在進行している、新しい調査研究に無言の圧力を加えようとする、

目的達成のためには手段を選ばない、悪質でどす黒い、非人間的なプロの手法を窺わせます。

それにまんまと踊らされるマスコミもマスコミです(むしろ進んで加担している?)。

上は2007年3月18日の読売新聞27面です。

もしも横田教授が正規の研究費を中外製薬から寄付されているから、中外製薬寄りの行動を取る心配があるというのなら、読売新聞はサラ金業界から正規の広告収入をもらっているので、サラ金寄りの記事を書いているということなのでしょうか。

もしも読売新聞がサラ金業界から広告費という金をもらっていても、サラ金業界に肩入れしてしない中立的な記事を書いていると主張するなら、なぜ横田教授の正当な研究費をいかにも問題があるように報道するのでしょうか。


少なくてもタミフルを使用中止に追い込もうとするグループの中に、このような卑劣な行動、謀略を平気で行うような人物が存在し、暗躍していることは認識しておくべきだと思います。

②脅え、迷走する厚労省-根拠もなく、マスコミに脅え、10歳台投与を原則禁止に(3.20)

2007年3月21日真夜中の0時、厚生労働省は突然記者会見を行い、10歳台のインフルエンザ患者にタミフルを原則使用しないよう、中外製薬に添付文書の警告欄に、「10歳以上の未成年の患者に、原則として使用を差し控えること」と書き加え、医療関係者に緊急安全性情報を出すよう指示したと発表しました。

ただし、タミフルとの因果関係は否定的で、10歳台では体が大きいため、保護者が静止できなくなる場合があるので、タミフルの使用を制限するというのです。


この発表は全く奇妙なもので、理解できません。
①まず第一に、タミフルと異常行動の因果関係が否定的というのに、何故タミフルを投与してはいけないのか(当然これは誰でも持つ疑問なわけで、記者会見場でも女性記者が質問していましたが、厚生労働省の役人の答えは「否定的であって、否定ではない。」という、わけのわからないものでした。)。

②第二に休日深夜にあわてて記者会見をするような緊急性はなく、しかも10歳台に使用制限する根拠が、2人さらに転落事故を起こしたという、前回の注意(投与後2日間は注意して一人にしない)で十分対応できる内容でしかありません。

③9歳なら投与できて、10歳は投与できない、という理由が体が大きい(暴れても静止できない可能性がある)からという、いかに厚生労働省にはまともな医療関係者(医系技官)がいないか自己暴露するような、非医学的で幼稚な理由付け。それでは19歳はだめで、20歳は良いという理由にはならないのでは。

④間近に迫った新型インフルエンザの流行が始まったとき、10歳台の子どもにタミフル投与をどうするのか、というきわめて切実で重要な問題には結局言及されませんでした。

⑤タミフルを飲んだ後、異常行動をとって転落したインフルエンザ患者が何名増えたかという発表は行われましたが、この間タミフルを飲まないで異常行動を取って転落したインフルエンザ患者の事故がどのくらいあったのか、発表されていません(すでに未確認情報では、何例かタミフルを飲まないで転落事故がおきたことが明らかにされています。


何故こんな杜撰な、まともに記者の質問にも答えられないような俄仕立ての記者会見が行われたのでしょうか。

それは、
今回の厚生労働省の10歳台へのタミフル投与制限が、全く正当な医学的な根拠を欠いた、マスコミを味方に付けた薬害反対グループへの屈服だからです。

厚生労働省の官僚の行動原理は

厚生労働省は自らの正しさを決めるのに、自らの判断より、メディア、とくに新聞に存在証明あるいは正当性の確認を求める姿勢が強い。私が受講した東大の医療政策人材養成講座の講演で、ある厚生労働省の官僚は、毎日何にもっとも注意を払っているかと尋ねられたとき、新聞記事を気にしていると答えた。(「医療崩壊「立ち去り型サボタージュ」とは何か」(小松秀樹.朝日新聞社)P.199)

厚生労働省の官僚の中に、医師が多く含まれているはずなのに、医療はどういうものかについて、根本的なところで理解が浅いようにみえることである。…医系技官は医療の現実を医療者の目で見ていない。…特定のお気に入り評論家から聞くことはあっても、少なくとも、医療現場から直接意見を汲み取るシステムを持っていない。(同P.200)

厚生労働省はメディアをひどく気にする。マスコミ通念に従うために、医療にリスクが伴うことを明確にしたがらない。リスク管理には膨大な費用と労力が必要であることを知らないふりをして、現場に無理な責任を押し付けている。リスクを理解できても、メディアに弱いため安心・安全信仰に引きずられる。厚生労働省はメディアをとるか、医療従事者をとるかになると、今まで述べた行動原理により、どうしてもメディアをとることになる。医療に加えられているほとんど構造的ともいえる攻撃をそのまま放置している。全体として、医療制度を保全しようとする気概があるようにみえない。(同P.201)

この事件(薬害エイズ事件のこと)の後、厚生労働省は組織として当然の態度を示した。責任を問われかねないような判断を外部に委ねる姿勢を強めたのである。また、行政上のルールを厳しくしたのである。私は、現在の厚生労働省の萎縮行政にエイズ事件が大きく影響していると思っている。(同P.215)

郡司氏はメディアから徹底的に叩かれたが、まじめで有能だったがゆえに、現在も厚生労働省の後輩から尊敬されているということである。厚生労働省の医系技官は口を揃えて、当時の郡司氏の努力を評価した。世界の情報を迅速に集めて分析し、権能の許す範囲で最大限の対応をした。多くの医系技官が、自分は郡司氏ほどの対応をする能力がないと語った。彼らには、あれだけきちんと対応しても、あれほどひどい目にあったという共通認識が形成されている。何かの薬剤を認可したのち、被害がでると犯罪者にされかねないとの共通認識が形成されている。メディアが攻撃をはじめると、誰もこれを押しとどめることができないと認識している。人身御供を差し出さねばならなくなる。官僚が自らの責任を回避するためには、ルールを際限なく厳しくするしかないのである。現在、あらゆる基準、規則が非現実的レベルまで厳しくなっている。(同P.215~216)

厚生労働省の官僚にとって、第2次タミフル騒動があの悪夢のような薬害エイズ問題のように進行することだけは何としても避けたいのでしょう。そのため、マスコミに迎合し、薬害反対グループの恫喝に屈服し、医学的な検証を全く欠いたまま、このようなわけのわからない愚かな「対策」を泥縄式に決めてしまったものと推測されます。しかも審議会に諮るとか、専門医師の公聴を行うとかをいっさい行わず…。

それに加えて、厚生労働省の役人の作文を棒読みするしか能のない(自分で発言すると、何を失言するかわからない)、歴代の軽量大臣の中でも歴史に残る呆言大臣をさしおいて、自分の腹回りのメタボ対策で目立っている副大臣が、自身の参議院選挙をにらんで何らかの「政治的介入」を行った可能性もあるかもしれません。

このような経緯で10歳台のインフルエンザ患者にタミフルの使用が制限されることになりました。日本の医療行政は厳密な医学的な検証に基づいた政策ではなく、恫喝と謀略と保身とご都合主義で決められていくようです。

③終章-マスコミ狂躁曲のあとに来るもの-新型インフルエンザ対策の崩壊とインフルエンザ治療の暗黒時代への退行(3.24)

2007年3月21日、それまで守ってきた行政官庁としての責任ある対応の一線をついに放棄し、プロ市民とマスコミの集中攻撃に白旗を掲げた厚生労働省は、医薬食品局安全対策課の担当者と自民党・事務次官の間の不協和音を無様に奏でながら、際限のない土下座を続けています。
①異常行動とタミフルの因果関係の否定の撤回。
②異常行動とタミフルの因果関係の再調査。
③人身攻撃を受けた教授を研究班から追放。

現在のマスコミ狂躁曲の後に来るものは、
①今まで積み上げられてきた新型インフルエンザ対策の崩壊。(タミフル備蓄が中心だったはずです。新型インフルエンザが流行したら、治療薬もなく、無策で死ねということなのでしょうか。
②ワクチンもタミフルもない、インフルエンザ治療は家で寝るだけという暗黒時代への逆行。(その結果は、必ずインフルエンザ患者の入院、肺炎、脳炎等による死亡者の激増として跳ね返るでしょう)
 
現在私達の目の前で進行しているのは、厳密な科学的な検証もなしに、感情に任せた復讐と恫喝と喧騒の中で人為的に「薬害」が作り出されていく、ドキュメント劇です。

数年後にインフルエンザそのものによって、多くの死者が出たとき、それは誰の責任だったのか、今現在進行している騒動の中で、各登場人物の発言、行動をしっかり歴史に記録しておくことは必要だと思われます。

また、今回のこのタミフル騒動を外国はひややかに傍観しているようです。


最後に、今マスコミでたれ流されている、トンデモ発言に反論します。

「タミフルの70%を日本で消費している。日本はタミフルを使いすぎだ。」

マスコミ連中の発言でも、最も恥知らずで無責任なのは、この発言です。誰のおかげで、日本がこれだけタミフルの消費大国になってしまったのでしょうか。2003年、「一時も早くインフルエンザの検査をして、タミフルを飲まなければ、インフルエンザ脳症になるぞ!」「タミフルがない!インフルエンザの特効薬がなくなった!脳症になる!厚生労働省は何やっているんだ!」と日本の親達を脅かし、煽りまくって、インフルエンザ迅速診断→陽性→タミフル投与と流れを作り出したのは当のマスコミ自身ではありませんか。

インフルエンザ検査陽性でも全身状態がよい子どもにタミフルを処方しないと、「何故タミフルを出さない」と激高した親と小競り合いになった経験をほとんどの医師は持っているはずです。インフルエンザなら必ずタミフルを服用する、という流れはマスコミが主導して作り上げてきたのです。その結果の70%です。もう少し、マスコミ関係者は「あるある」捏造問題だけでなく、自分達がしてきたことを検証してみたほうがよいのではないでしょうか(わずか3~4年前の記録です。少なくても自局のワイドショーのVTRは残っていると思いますが)。


さらに付け加えれば、タミフルの消費のかなりの部分を我が国が占めていることが事実なら(事実ですが)、これは別に恥ずかしいことでも悪いことでもなく、誇るべきことだと考えます。

なぜならば、タミフルは高価な薬のため、外国では金持ちしかタミフル投与の恩恵を受けることができないのです。国民皆保険で医療費自己負担が少ない我が国だからこそ、全ての患者が分け隔てなく、タミフルの恩恵にあずかることができるのです。それとも、日本でも医療においても格差が進み、自民党の代議士や厚生労働省のキャリアや朝日新聞の論説委員やNHKの総合プロデューサーの子どもだけが、特権的にタミフル処方を受けられる制度をマスコミ関係者は夢見ているのでしょうか。


「インフルエンザはかぜの一種。数日寝ていれば治る病気だ」

薬害反対運動のリーダーはこう言い放ちました。

しかし、本当にそうでしょうか。次のグラフを参照してください。毎年これだけ、インフルエンザで死亡した方がいるのです。また、10年前、抗インフルエンザウイルス剤が登場するはるか昔は、死亡にいたらなくとも高熱が続き、肺炎などで入院する子どもは小児科病棟にあふれていました。

インフルエンザという病気そのものの恐ろしさを軽視し、医療の進歩を否定すれば(なぜか、日本のマスコミではこの手の無責任なアジテータがもてはやされますが)、必ずそのつけが回ってきます。そして、そのつけは常に、弱い立場の一般の子どもと親にふりかかってくるのです。

来シーズンからインフルエンザ患者の死亡者数、入院患者数が増加していくでしょう(もちろん、タミフルが使えず、リレンザも絶対数が少ないため、入手できないと考えられるからです)。そのとき、4年前とは全く正反対のことを現在発言している人たちは、何とコメントするのでしょうか。


aosen

追記:2018年5月16日、厚労省有識者会議はようやく、10台へのタミフル原則禁止という馬鹿げた愚策を中止することを決めました。実に2007年から11年間続いた、世界に類を見ない異常な抗ウイルス剤への「使用禁止」が撤回され、ようやく医師が自分の判断に基づいて自由に処方できる、当たり前の環境に正常化されることになりました。

この11年間は、何だったのでしょうか。狂騒マスコミ左翼の炎上報道に脅え、薬剤反対グループの脅迫行動に脅え、まったく医学的に意味のない愚策がだらだら続けられてきた、暗黒の11年間でした。ちょうど、ゾフルーザが発売されたことも、関係しているかもしれません。

11年前、嵐のようなタミフルバッシングの只中で、執筆されたこの論文も20万回以上、ページビューされてきましたが、ようやくその役割を終えることができそうです。(2018年5月16日 追記)


インフルエンザをめぐる最新の状況については、本編を参照してください。

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