2023年の(季節性)インフルエンザ

2023.11.12更新

インフルエンザ感染症は新型コロナウイルス感染症COVID-19が流行する前までは、年間1000万人前後の人が発病し、1万人近い方が亡くなる(超過死亡数)、冬場の代表的な感染症でした。

しかし、2019年から始まった新型コロナウイルスの大流行のなかで、三密回避、マスク着用、手洗い励行の厳格な感染予防処置、世界的な人流の停止などが行われるようになると、インフルエンザは全く流行しなくなったのです。

オミクロン変異株登場以降、新型コロナ感染症対策は厳格なゼロコロナ対策からウイズコロナ政策に転換され、2023年5月8日からは感染法上の扱いが5類相当となりました。今まで行われてきた感染予防処置がほぼ撤廃されてしまうと、再びインフルエンザが復活してきました。

2023年夏はオーストラリアなど南半球でインフルエンザが流行し(東京都の解説)、我が国でも2023年11月現在、A型インフルエンザが猛威を振るっています(下グラフ)。
  
再び流行を繰り返すようになった、季節型インフルエンザについて、ここでまとめておきましょう。

 (図は国立感染症研究所 インフルエンザ過去10年間との比較グラフ(2023.11.10更新)より)



インフルエンザウイルスの構造

まず、インフルエンザウイルスの構造から、みていきましょう。

インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルスというグループの、大きさが100nm(1mmの1/10000)の中型ウィルスです。

中心にRNA(リボ核酸)という遺伝子を持ち(右図の真中の8本のまだら紐のようなもの)、外側には、NA(ノイラミニダーゼ)とHA(ヘムアグルチニン)という2種類のとげ(スパイク蛋白と呼ばれます)が林立しています。

その他に、M2という蛋白質(右図の白い棒)も存在します。



インフルエンザウイルスの種類


インフルエンザウイルスは内部(ピンクの所)の蛋白質の種類で、A型、B型、C型、(D型)に分けられます。


A型インフルエンザウイルスは、ヒト、水鳥、ブタ、ウマなどに感染し、B型インフルエンザとC型インフルエンザウイルスは、ヒトにしか感染しません。

また、病原性が強いのはA型とB型のインフルエンザウイルスで、C型のインフルエンザウイルスはあまり病原性はありません(C型インフルエンザは、時に小流行を起こします)。


A型インフルエンザウイルスは、もともとミズトリ(鴨などの水禽類)の腸管内で増殖するウイルスでしたが、ヒトなどにも感染する能力を獲得して、宿主を増やしてきました。

A型インフルエンザウイルスを表わすときは、このHAとNAのとげの番号を組み合わせて表現します。たとえば、3番目の緑のとげ(HA)と2番目の赤のとげ(NA)を持っているA型インフルエンザウィルスはAH3N2と表現します。

A型インフルエンザウイルスのHAのとげは、トリでは15種類*すべて見られますが、ヒトでは3種類(H1,H2,H3)のみです。一方NAのとげも、トリの9種類に対し、ヒトでは2種類(N1,N2)みられるのみです。


   *16種という見解もあります。

すなわち、鳥インフルエンザの一部(H1,H2,H3とN1,N2を持ったウイルスの一部)が、ヒトでも寄生、繁殖できるように進化したと考えられています。

一方、B型インフルエンザウイルスは、HAもNAも1種類しかありません。



インフルエンザの増殖


次にインフルエンザの感染、増殖サイクルを見てみましょう。


まず、インフルエンザウイルスがヒトの鼻、のど、気管支に侵入すると、緑のとげ(HA=ヘムアグルチニン)を伸ばして、細胞のレセプターに吸いつきます。

ここでいうレセプターとは、ウイルスのとげが、くっつきやすい部位のことで、インフルエンザウイルスの緑のとげ(HA)はシアル酸に親和性が高いため、ヒト細胞表面のシアル酸が飛び出している場所が、リセプターとなります。

ヒト細胞のシアル酸部位(レセプター)にくっついた(吸着といいます)ウィルスは、細胞の食作用(エンドサイト―シス)によって、細胞内に取り込まれます(侵入)。

ヒト細胞内に取り込まれたウイルスは、今度はウイルスを包んでいたヒト細胞の膜とウイルスの殻の部分を融合させ(膜融合といいます)、ウイルスの殻が壊れます(脱殻といいます)。

ウイルス内部にあった自分を複製する遺伝情報の図面である、ウイルスRNA(RNP)は、この時、ヒト細胞質内に移動します。

ウイルスRNAはヒト細胞質内(水色の部分)から、細胞の核内に入りこみます。インフルエンザウイルスの持つ遺伝子情報RNAは非常にシンプルなため、ウイルスの持つ自前のRNA遺伝情報だけではウイルス(自分自身)を複製することができません。

そのため、インフルエンザウイルスは、ヒト細胞のRNA(遺伝子)から、その一部(キャップ構造とpoly A構造の部分)を切り取り、自分のRNAにくっつけて、やっと自分自身の遺伝情報の設計図を完全なものとします。

この時、この反応に必要なのが、キャップ・エンドヌクレアーゼという酵素です。

この完成したmRNAの設計図をもとにして、大量のウイルス蛋白質(核蛋白質、ポリメラーゼ)が生産されます。そしてこの作られたポリメラーゼが、さらに大量のウイルス蛋白質(HA、NA、M2蛋白質)を作り出していきます。


一方、ウイルスの遺伝情報の塊であるRNAは、これとは別経路で細胞質内で複製されます。

この別々に作られたウイルス蛋白質とウイルスRNAは、それぞれ細胞の表面に移動し、合体し、盛り上がって突起となります(出芽といいます)。

このとき、ウイルスは緑のとげ(HA)で細胞とくっついているので、これを切断してウイルスを自由にするのが、赤いとげ(NA=ノイラニミダーゼ)の役割です。

自由になった新しいウイルスは、1個の細胞から1億個に増え、血流に乗り、さらに次々と細胞に感染を広げていくのです。



インフルエンザの変異

ヒトのインフルエンザで、現在流行しているA型インフルエンザウイルスは、AH1pdm亜型(2009年に新型インフルエンザと呼ばれていたH1N1)、AH3亜型(H3N2香港型)の2種類です。また、B型インフルエンザウイルスも、ビクトリア系統、山形系統の2種類の計4種類です。

過去にはアジアかぜAH2N2、ソ連型AH1N1が流行したことがありました。(この2種類は現在、消滅しました。)

インフルエンザウイルスは、大きな変化と小さな変化を繰り返して、ヒトの免疫の防御システムをたくみに掻い潜って、過去流行を繰り返してきました。

連続変異

インフルエンザウイルスのHAとNAは不安定で、そのアミノ酸構造が時々変わってしまうミスが発生します(突然変異)。この結果、とげの形が少し変わってしまいます。

これを連続変異と呼び、車でいうとマイナーチェンジにあたります。


不連続変異

トリのインフルエンザウイルスと、ヒトのインフルエンザウイルスが、ブタの体内で交じり合い、新しいインフルエンザウイルスが生まれることを不連続変異といいます。

シベリアから中国に渡ったカモのウイルスはブタに取り込まれます。一方、ブタはヒトのインフルエンザウイルスにも感染します。

ブタの体内で共存することになった、カモとヒトのインフルエンザウイルスがHAとNAを取り替えて、新しいインフルエンザウイルスが誕生する(遺伝子の再集合といいます。)ことを、不連続変異といいます。

当然、ヒトはこのウイルスに対する備え(免疫)はありませんから、あっという間に感染が広がっていくことになります。



インフルエンザの症状

潜伏期間は1~4日で、感染経路は咳による飛沫感染です。

感染力はきわれて強く、一地域に爆発的に広がり、3~5週で終息する経過を繰り返します。まず、12~1月にA型インフルエンザが流行り、2~3月にB型インフルエンザが流行するというのが、コロナ前の通常の流行のパターンでした。


症状は急激な発熱(39℃以上)によって発病しますが、頭痛、筋肉痛、関節痛(からだのふしぶしを痛がる)、全身倦怠感(ぐったりして起きていられない)などの全身症状が、まず強く現れます。ほほが赤く、目は充血してうるんできます。

高熱のわりには、始めはせき、鼻水などは目立ちませんが、2~3日後からせきがひどくなり、ピークを向かえます。

腹痛、嘔吐、下痢などの症状も、しばしばみられます。


発熱3~4日めで一度解熱しますが、1~2日後に再び発熱することもあり、インフルエンザのニ峰性発熱と呼ばれます。この2度目の発熱は1~2日で解熱し、咳を除けば症状は快方に向かいます。

咳はしつこく続く場合は、肺炎の合併も疑わなければなりません。

2度目の発熱が2日以上続く場合は、中耳炎、肺炎など細菌感染の合併も疑われるため、必ず受診が必要です。まれに、足の強い筋肉痛のため、歩けなくなることもあります。


合併症は、子どもでは、気管支炎、肺炎、中耳炎、熱性けいれん、ライ症候群、インフルエンザ脳症(後述)などがみられます。

なお、B型インフルエンザはA型インフルエンザに比べて症状が軽いと書かれている文献もありますが、2002/3年のB型インフルエンザの流行時の当クリニックの経験では、A型インフルエンザと比べて、特に症状が軽いという印象はありませんでした。


インフルエンザ脳症

1994年に学童のインフルエンザワクチン集団接種が中止されたころから、老人のインフルエンザ肺炎による死亡と乳幼児のインフルエンザ感染に伴なう脳症が増加し始めました。

このうち、乳幼児に見られるインフルエンザ脳症については、1998年、1999年に500例に及ぶ多数の患者が報告され、高い致命率(30%が死亡)と後遺症率(25%に後遺症が残る)が社会的に注目されるようになり、1999年12月に日本小児感染症学会が「インフルエンザ関連脳症についての見解」を公表しました。2005年11月にインフルエンザ脳症ガイドラインが作成され、2009年、2018年度に改訂版が公表されました。


インフルエンザ脳症は、5歳以下の乳幼児(特に1~2歳がピークで、0歳台は少ない)がA型インフルエンザウイルス(AH3亜型)に感染して発病します(下図)。

インフルエンザ脳症は、最も怖ろしい子どものインフルエンザ合併症なので、少し詳しく解説します。

その症状は、まず高熱が出て数時間でけいれんを起こします。しかし、この時点ではインフルエンザの高熱に伴なう熱性けいれんと区別がつきません。

ただし、熱性けいれんなら、数分間から数十分でおさまり、回復してくるのが普通ですが、インフルエンザ脳症の場合は寝てばかりいて起きてこない、呼びかけても応答がない、目がうつろでボーとしている、見えないものが見えたり、聞こえたりする(「意味不明の言動」)、嘔吐する、さらにけいれんが再発するような症状が続き、おかしいことに気付かれます。


搬送された救急病院で、意識障害の存在、けいれん重積(けいれんがとまらない)などがみられた場合、CTやMRIという脳の形を写し出す検査が行われます。その結果、脳が腫れていたり(脳浮腫)、脳の一部が壊れている(壊死)ことが確認されれば、インフルエンザ脳症として、強力な治療が開始されます。

インフルエンザの発病からこのような脳症の症状を呈するまでの時間は、平均1.4日(約30~36時間)しかかからず、症状の進行は電撃的です。

インフルエンザ脳症は治療のガイドラインに基づいて治療が行われるようになり、1990年代には無治療では約30%であった致命率が2018年には7~8%まで改善しました。

しかし、2019年の段階で、年間発症100~300例、後遺症を残す子どもは約15%前後で、相変わらず怖ろしい病気であることには変わりはありません。

 
参考文献 森島恒雄:インフルエンザ脳症の新しい治療応について

インフルエンザ脳症の多くが、AH3亜型(A香港型)インフルエンザウイルス感染に伴って発病します。インフルエンザウイルス感染が引き金になって発病することは確かなのですが、インフルエンザウイルスそのものが脳炎を起こすわけではありません(そのため、インフルエンザ脳炎・脳症とも、インフルエンザ関連脳症とも呼ばれます)。

一般に、ウイルス感染症では、リンパ球、顆粒球、マクロファーなどの免疫を担当する細胞が協力して病原ウイルスと戦い、炎症という戦場でウイルスに打ち勝ち、病気を治します。

この時、それぞれの細胞は炎症性サイトカインという物質を分泌し、指令を出したり、連絡をとり、組織的に戦います。しかし、インフルエンザ脳症のお子さまの髄液(脳を包む液体)には、この炎症性サイトカインが異常に多いことがわかりました。


インフルエンザ脳症を起こしたお子さまは、インフルエンザウイルス感染に対して、何らかの原因で全身の炎症反応が異常に強くおこり、その結果、脳の血管の細胞が大量の炎症性サイトカインに曝され、壊されてしまうと考えられています(サイトカインストームという)。その結果、脳血液中の水分が大量に血管外に滲み出し、脳が腫れてしまいます。

このメカニズムは、インフルエンザ脳症のお子さまでは、脳以外にも肝臓など全身で報告されています。


さらに一部の解熱剤(ボルタレン=ジクロフェナクナトリウムなど)が症状の悪化に関係する疑いが強くなり、ボルタレンの使用については15歳未満の小児は、原則禁忌(原則的には使用してはならない)と決定されました。

ただし、現在、我が国の小児科で主に使用されている(諸外国でも用いられている)アセトアミノフェンは、脳症の発症に関連しないと考えられています。(アセトアミノフェンは、新型コロナウイルス感染症にも用いられていますね。)


現在、インフルエンザ脳症は、
①上に記載したような「炎症性サイトカイン」が大量に作られ、 血管やさまざまな臓器に深刻なダメージが及ぶ、サイトカイン・ストームの病態。
②重いけいれんによる神経細胞の障害が起こる、「けいれん重積」の病態。
③生まれつきの代謝異常症がインフルエンザで増悪し、脳症を起こす病態。
④ライ症候群など、「脂質代謝異常」を主徴とする代謝異常から起こる病態。
⑤軽い脳炎・脳症(MERS)の病態
などの集合体、と理解されています。

しかしインフルエンザウイルスが脳内から見つからないため、ウイルスが脳の中で増殖、悪さをする「ウイルス性脳炎」とは本質的に異なっていると考えられています。そのため、「抗ウイルス薬」に加えて, 「抗炎症薬」「抗サイトカイン薬」なども治療に用いられます。

ボルタレンなどの強い解熱剤を使用しなくなっても、それだけでインフルエンザ脳症がなくなるわけではありません。

ただし、脳症になるお子さまは毎年100~300名、死亡者は9~33名と、感染者総数600~1000万に比べると極少数です。きわめてまれな病態と考えられ、過度のご心配はされなくてもよいと思います。


また、インフルエンザ脳症の発生はAH3亜型の流行と相関しています(AH3亜型が流行した年(98/99、99/00、01/02)にインフルエンザ脳症が多く発病しています=下図)。

したがって、インフルエンザワクチンを接種することによって、AH3亜型の流行が抑えられれば、集団レベルではインフルエンザ脳症の発病数も抑えられる可能性が期待できるのです。


個々(人)のレベルでは、残念ながらワクチンを接種してもインフルエンザ脳症を発病し、死亡したお子さまもおりましたが、インフルエンザワクチン接種は現在インフルエンザ脳症を予防するもっとも有効なアプローチと考えられます。

したがって、当クリニックはコロナとのダブル感染だけで無く、インフルエンザ脳症を減らす対策としても、インフルエンザワクチン予防接種を強くお勧めします(→インフルエンザワクチン、2023年のインフルエンザワクチン)。


なお、インフルエンザ脳症は、2013/14シーズンに96例、2014/15シーズンは106例、2015/16シーズンは223例、2016/17シーズンは125例、2017/18シーズンは171例、2018/19シーズンは220例、2019/20シーズンは134例が報告されています。

 出典:急性脳炎(脳症を含む)サーベイランスにおけるインフルエンザ脳症報告例のまとめ 図1



インフルエンザの診断

インフルエンザはかつて、①突然の発症、②38℃を超える発熱、③上気道症状、④全身倦怠感等の全身症状、の4点を満たすものとされてきました。

1999年にインフルエンザ迅速診断キットが登場してから、インフルエンザの診断は正確に、しかも容易に行われるようになりました。当クリニックは、ディレクティジェンFlu Aが発売された当初から、積極的に迅速検査を導入し、実施してきました。

現在ではさまざまな迅速診断キットが登場し、A型とB型のインフルエンザを区別して診断できるようになっています。



(上図はクイックナビ-Flu(大塚製薬)。上段が陰性、中段がA陽性=赤線、下段がB陽性=青線を示しています)

さらに、2022年にはインフルエンザと新型コロナウイルスと同時に検査できるキットも登場しました。
(下図。C=コントロール、A=インフルエンザA。上段はインフルエンザ検査キット。中段、下段はインフルエンザ、コロナの検査キットです。)





インフルエンザの治療


現在、我が国で使用できるインフルエンザの治療薬について、解説します。



抗ウイルス薬

  オセルタミビル(タミフル)

①製剤の形

粉(ドライシロップ)とカプセル製剤があります。


作用機序

タミフルはノイラミニダーゼ阻害剤といって、インフルエンザウイルスのNA(ノイラミニダーゼ)の働きを抑える薬です。

NA(ノイラミニダーゼ)はインフルエンザに感染した細胞内で複製された無数のインフルエンザウイルスが、出芽し、感染細胞から飛び出すことを助けます。

このノイラミニダーゼの働きを抑えるノイラミニダーゼ阻害剤が投与されると、インフルエンザウイルスは感染細胞から分離できなくなり、細胞にくっついたまま死んでしまいます。

③効果

通常、成人および37.5kg 以上の小児は1回1カプセル(オセルタミビルとして75mg)を1日2 回、5日間服用します。
37.5kg以下の小児は、粉薬(ドライシロップ)を服用します。

タミフルはA型インフルエンザ、B型インフルエンザに有効で、1~2日で熱は下がり、インフルエンザの症状は軽くなります。インフルエンザの症状を1日程度短縮するといわれています。

また、近年の研究では早期投与によって、重症化予防効果も示されています。

参考文献: Efficacy and Safety of Oseltamivir in Children - PubMed

また、ノイラミニダーゼ阻害薬は、インフルエンザ発症後48時間以内の使用が原則とされています。(それ以上、時間が経つとインフルエンザウイルスが、感染ヒト細胞から飛び出していってしまうから。)

④副作用と問題点


タミフルは副作用として、服用患者の5%に腹痛、下痢がみられますが、症状は軽く服用をやめれば消失します。
 
薬の効かない耐性ウィルスは、タミフルでも1/100の割合で出現しますが、感染力が弱いため、あまり問題にしなくてよいと考えられています。

また、タミフルは不味い薬で服用を嫌がる子がみられます。


2007年、タミフルをのむと「異常行動」が起こると薬害反対グループが突然騒ぎだし、「市民」運動家、ワイドショウなど狂騒マスコミを巻き込んで「社会問題」となりました(第2次タミフル騒動→当クリニックの解説はこちら)。

常にマスコミの目を気にし、自分たちに責任が及ばないことを最大の行動基準としてきた厚労省の役人は、すぐに彼らに屈服し、「タミフルの10台への原則投与禁止」という、馬鹿げた愚策に走りました。(第2次タミフル騒動→当クリニックの解説はこちら

いくら薬害エイズのトラウマがあるとは言え、下劣な騒音絶叫型の頓珍報道に拝跪・屈従する厚労省医系技官達の姿からは、日本国民の健康を自分たちが守るという、専門家としてのプライドは全く感じられません。

(ちなみに、MMRワクチンが自閉症を引き起こすという反ワクチン運動が勃発したとき、イギリスの保健当局は微動だにしませんでした。)

タミフルの「異常行動」に関しては、岡部信彦元国立感染症研究所感染症情報センター長の研究班によって、インフルエンザ感染症そのものによって引き起きていることが示され、2018年5月16日、厚労省はようやく、10台へのタミフル原則禁止という馬鹿げた愚策の中止を決めました。

実に2007年から11年間続いた、世界に類を見ない異常な抗ウイルス剤への「使用禁止」が撤回され、ようやく医師が自分の判断に基づいて自由に処方できる、当たり前の環境に正常化されることになりました。

この11年間は、何だったのでしょうか。狂騒マスコミの炎上報道攻撃に脅え、薬剤反対グループの脅迫実力行動にひれ伏し、まったく医学的に意味のない愚策がだらだら続けられてきた、暗黒の11年間でした。

これは決して過去の問題ではないのです。2021年11月にようやく積極的勧奨が再開された、HPVワクチン接種の「副作用」騒動はまさに全く同じドラマの再現でした。

こちらも呪術が解けるのに、8年もかかりました。その間、何人の若い女性が子宮頸がんでワクチンで護られる命を、落としていったのでしょうか。

そして今繰り広げられている、コロナワクチンに対する下劣なデマ攻撃も、全く同じ構図です。弄ばれ、不幸のどん底に突き落とされる親子を一人でも救えるよう、当クリニックも正しい情報の発信に全力で取り組んでいく決意です。


⑤当クリニックの対策

小児科学会は、生後2週間以降の新生児から乳児、幼児、学童に、タミフル処方を推奨しています。したがって、当クリニックも乳児期以降の子どもに、第一選択としてタミフルを処方しています。



 ザナミビル水和物(リレンザ)

①製剤の形

吸入粉末剤で口から吸入します。

リレンザは銀色のカップ(ブリスターという。右図の左の四個の玉)の内部に粉末が入っていて、この2ブリスターを1日2回、5日間、専用のディスクへラー(右図、右側の吸入器)を用いて吸入します。

②効果と作用機序


ザナミビル水和物(リレンザ)もノイラミニダーゼ阻害剤で、A型インフルエンザ、B型インフルエンザに有効です。

吸入薬なので、直接インフルエンザウィルスの感染部位であるのど、気管支に到達してインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。


リレンザはA型インフルエンザ、B型インフルエンザ両方に有効で、1~2日で熱は下がり、インフルエンザの症状は軽くなります。インフルエンザの症状を1日程度短縮するといわれています。

③副作用と問題点

リレンザは吸入薬で、喘息の治療薬のフルタイドロタディスクと類似した、吸入用具を用います。吸入薬なので、小さなお子さまには使用できません。2006年2月から、5歳以上の小児にも処方できることになりました。

しかし、小学校の低学年(6~7歳)では強く吸い込むことはなかなか難しいようです。ただ、吸入してむせる子はいないようです。

リレンザの製剤の中に乳蛋白を含む乳糖が使用されているため、牛乳アレルギーの患者に使用するさいは、注意が必要とされています。

また、刺激により気管支喘息の発作を誘発する可能性があるため、喘息のお子さまや咳き込みのひどい患者は使用しないほうがよいとされています。しかし、実際は気管支喘息の患者さんでも、特に問題なく使用できています。むしろ、フルタイドで慣れているせいか、うまく吸入できる患者さんが多い印象です。


④当クリニックの対策

小児科学会は5歳以上で吸入ができる子に推奨していますが、吸入回数が10回と多いことと、ブリスターの装着が面倒なため、現在は予防投与以外では、ほとんど処方しておりません。



 ペラミビル水和物(ラピアクタ)

①製剤の形

注射製剤。点滴静脈注射で用います。

注射薬のため、インフルエンザと診断されたら、15分間の点滴で薬が投与されます。長時間作用型のため、点滴を1回行うことにより、投与されます。(重症例では反復投与も可能です。)

②効果と作用機序

ペラミビル水和物(バイオクリスト社、日本では塩野義製薬がライセンス)はタミフル、リレンザに次ぐ、第3のノイラミニダーゼ阻害薬の注射薬です。

注射薬のため、薬が内服できなかったり、吸入することができない高齢者やせき、嘔吐がひどい人でも使用できるメリットがあります。

A型およびB型インフルエンザウイルス、H5N1型鳥インフルエンザウイルスにも有効です。


③副作用と問題点

小児科一般外来では不要な薬です。主な副作用は、消化器症状(腹痛、下痢など)と高価なことです。1回投与で長時間作用するので、それに伴う副作用の観察が必要です。また、注射薬なので、使用に制限があります。

④当クリニックの対策

当クリニックでは、使用しておりません。



ラニナミビル(イナビル)

①製剤の形

吸入粉末剤で口から吸入します。

ラニナミビルの前駆体である、ラニナミビルオクタン酸エステルの入った乾燥粉末剤(イナビル吸入粉末剤20mg)を吸入します。

イナビルには、吸入懸濁用セットとして、粉末のイナビルを生理的食塩水に溶いて、ネブライザーで吸入する、別の製剤もあります。(当クリニックでは使用していません。)

②効果


ラニナミビルはリレンザと同じノイラミニダーゼ阻害剤で、A型インフルエンザ、B型インフルエンザに有効です。

③作用機序

吸入によって、ラニナミビルオクタン酸エステルが、直接インフルエンザウィルス感染部位の咽頭、喉頭、気管支に達し、その部位の生体の酵素の働きで、治療薬ラニナミビルに変わります。

このラニナミビルが長時間気道にとどまり、増殖しようとするインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼの働きを抑え、インフルエンザウィルスの増殖を防ぎます。

ラニナミビルは長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害剤であり、ザナミビルの数倍強い抗ウィルス活性を持つといわれています。1回吸入する(イナビル20の容器をずらして左右1回づつ吸う)だけで効果を示します。

ただし、ザナミビル(リレンザ)と異なり、10歳以上の小児と成人はラニナミビルオクタン酸エステルとして40 mgを吸入(イナビルを2個吸入)するのに対し、10歳未満の小児はラニナミビルオクタン酸エステルとして20 mg(イナビル1個)を吸入するというように、年齢で投与量(イナビル使用本数)に差があります。


④副作用と問題点

腎から排泄されるため、腎障害時には減量を考慮する必要があります。長時間作用するので、それに伴う副作用の観察が必要です。

吸入薬なので、リレンザと同じように幼児に使用できない欠点があります。また、乾燥粉末なので、自力で吸い込むことが必要で、息を吹き込むと細かい粉末が舞い上がり、むせたりするので、吸入前に十分な説明が必要です。

特に小さいお子さまはリレンザと異なり、吸入手技が1回だけなので、失敗しないよう細心の注意が必要です。

また、イナビルの製剤の中に乳蛋白を含む乳糖が使用されているため、牛乳アレルギーの患者に使用するさいは、注意が必要です。(アナフィラキシーの報告があります。)

⑤当クリニックの対策

小児科学会は10歳以上で推奨、5歳以上で吸入ができる場合は使用可としています。

1回の吸入で済むなど使いやすいため、当クリニックでは年長児~成人に処方しています。



バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ

①製剤の形

粉(顆粒)と錠剤があります。

②効果

ゾフルーザは塩野義製薬が開発し、2018年2月23日に承認された新しい抗インフルエンザウイルス剤です。このゾフルーザは、タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤などとは作用機序が全く異なります。

ゾフルーザの抗ウイルス作用や効果については、インフルエンザに罹患した12歳以上の健康な小児および成人の研究が2018 年に行われ、タミフルと同様の有効性と安全性が報告されています。

小児および成人を対象とした抗ウイルス薬の比較研究では、インフルエンザ罹病期間についてはザナミビル投与群が最も短かったが、インフルエンザに関連した合併症(肺炎、気管支炎、中耳炎、そ の他)の発生率はゾフルーザ最も低いと報告されました。

更にゾフルーザがタミフルやリレンザより入院の頻度が低いことが確認されています。

③作用機序

ヒト細胞内に侵入したインフルエンザウイルスは、まず脱殻し、自らのmRNAをヒトの細胞内に押し出します。

インフルエンザウイルスのmRNAは、キャップ(Cap)エンドヌクレアーゼというヒトの酵素の助けを借りて、自分の単純なRNAを、自分の複製が作れるような複雑な仕組みのRNAに伸長させていきます。(インフルエンザの増殖

このキャップエンドヌクレアーゼの活性を抑え、インフルエンザウイルスの複製、増殖に必要なタンパク質の合成を抑えるのが、ゾフルーザの作用です。

キャップエンドヌクレアーゼを阻害する作用があるため、A、B、C型全てのインフルエンザウイルスの効果があり、高病原性鳥インフルエンザにも強い活性を示します。

タミフルなどノイラミニダーゼ阻害剤がきかない耐性ウイルスでも、ゾフルーザは効果が期待できます(交差耐性は認めないため)。また、ウイルスの合成を抑えるため、発症後48時間以降でも効果が期待できるとされています。

④投与方法

成人及び12歳以上の小児には、20mg錠2錠(バロキサビル マルボキシルとして40mg)を1回服用します。ただし、体重80kg以上の人は倍量、20mg錠剤を4錠(バロキサビル マルボキシルとして80mg)服用します。

小児については、体重で量を調節します。40kg以上の小児は 20mg錠2錠 を服用、20~40kgの小児は20mg錠を1錠、10~20kgの小児は10mg錠を1錠、それぞれ1回服用します。

⑤副作用と問題点


大きな副作用がないとされていたため、2018-19年のシーズンでは国内で広く処方されました。当クリニックも1回服用の経口薬ということで、よく処方しました。

ところが、2019年にゾフルーザを投与すると、抗ウイルス剤が効きにくい、PAI38X変異株と呼ばれる耐性ウイルスが高率に出現することがわかり、しかもゾフルーザによって誘導された耐性ウイルスは、通常のインフルエンザウイルスと同じ程度の病原性と増殖性を持つことが明らかにされました。

実は、2016/2017シーズンに行われた治験における検討でも、治療後3-9 日に9.7%の患者検体で変異ウイルスが検出され、 85.3%はウイルス量が一時的に増え、かつ症状の悪化も10%前後に認められたと報告されていたのです。

その後のマウスでの感染実験においては、野生株と同等であることも報告され、またゾフルーザを服薬していない小児の患者からも変異ウイルスが検出され、変異ウイルスの家庭内感染例も報告されました。

そのため、2019年10月、日本感染症学会は、特に耐性ウイルスの出現率が高い12歳未満の小児に対しては、ゾフルーザの「慎重投与を検討すべき」との声明を発表しました。

2022-2023年のシーズンにおいても、12歳未満の小児に対する検討が少なく、薬剤耐性ウイルスも認められることから、12歳未満に対するゾフルーザの積極的な投与は推奨しない、と日本小児科学会は声明を出しています。(2022/23シーズンのインフルエンザ治療・予防指針

⑥当クリニックの対策

上記経過もあり、また小児科学会の勧告の出ているため、当クリニックではゾフルーザは小児には原則投与しておりません。



その他の薬

インフルエンザの症状をやわらげるため、鎮咳去痰剤(咳、痰に)や整腸剤(腹痛、下痢に)などが処方されることがあります。抗生剤はインフルエンザウイルスには無効のため、必要ありません。



解熱剤

インフルエンザでは解熱剤の使用には注意が必要です。小児では、アセトアミノフェン(カロナ―ル、アンヒバ、ピリナジン)のみが安全に使用できる解熱剤と考えられています(解熱剤の使い方をお読み下さい)。

ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)、アスピリンは、インフルエンザには使用できません。




登校・登園基準

厚労省は2009年8月に、「保育所における感染症対策ガイドライン」を発表し(2018年3月改定)、保育園では「発症後最低5日間、かつ解熱後3日を経過するまで」(→詳細はこちら。P.4~5)を登園基準に定めました。

また、文部科学省も2012年4月1日より、学校保健安全法の一部を改正し、小中学校では「発症後最低5日間、かつ解熱後2日を経過するまで」、幼児(幼稚園)では「発症後最低5日間、かつ解熱後3日を経過するまで」と変更し、厚労省に基準を合わせました。(→通知はこちら

インフルエンザは、学校保健安全法施行規則の第二種の感染症に分類されています。

登校・登園停止のわかりやすい図表はこちら

 


当クリニックではインフルエンザの登校、登園に関して、この基準に従い、必要な場合には許可書を発行しています。



本篇中、Medical Tribune別冊「座談会インフルエンザ診療の実際」の図3点を使用させていただきました。

参考文献国立感染症研究所IDWR2023年3号<注目すべき感染症>インフルエンザ


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