(2019/2020の)インフルエンザワクチンについて                     2019.9.21最終改訂

予防接種の内容

 わが国で使用されるインフルエンザワチンは、インフルエンザウイルスのとげ(H鎖)の部分をこなごなにして、精製した不活化ワクチン(HAワクチンと呼ばれます)です。

 インフルエンザワクチンには、4種類の(季節型)インフルエンザウイルス(A新型=H1N1pdm、A香港型=H3N2、B型山形系、B型ビクトリア系)のとげ(H鎖)の部分が含まれています。

 生後6ヵ月から任意接種で受けられます。(ただし60歳~64歳の一部、および65歳以上の老人は、法に基づく定期接種(B類疾病)として接種されます。

 2019-2020年のインフルエンザHAワクチン製造株の内容は、以下の通りです。

A型株
     A/ブリスベン/02/2018(IVR-190) (H1N1)pdm09
     A/カンザス/14/2017(X-327) (H3N2)

B型株
     B/プーケット/3073/2013 (山形系統)
     B/メリーランド/15/2016(NYMC BX-69A)(ビクトリア系統)

予防する病気

 
A新型(pdm)、A香港型、B型インフルエンザの重症化を防ぎます。鳥インフルエンザ(H5N1)には効果はありません。

接種の方法

 ワクチンの注射液を、年齢に応じて2段階で上腕に皮下注射します。2回接種する場合は、左右交互に打つことが勧められています(副反応=腕の腫れを減らすため)。
 インフルエンザワクチンの接種量は、2011/2012年のシーズンから変更・増量されました。→
6か月~2歳は0.25ml、3歳以上は0.5ml。

 インフルエンザワクチンの内容は、2015/2016年のシーズンから、3種類から4種類に変更・増加になりました。(B型が2種類になりました)
 6カ月~12歳のお子さまは、2回接種が必要です。13歳以上は1回接種となります(65歳以上は、1回接種です)。

接種の時期

 インフルエンザワクチンは接種後2週目から抗体が上昇し始め、1ヵ月でピークに達し、その効果は5ヵ月持続します。2回接種の場合は、2回目を4週後に追加接種した場合が最も抗体の上がりが良いので、2回目の接種は4週間後に受けるのがよいでしょう(接種間隔は2~4週とされていますが)。

 ここ通年、インフルエンザは3~4月ごろまでだらだらと流行を引きずります。そのため、当クリニックは今季は2回接種の場合は10月中旬~11月初旬に1回目、11月下旬~12月初旬に2回目を、1回接種の場合は11月~12月上旬に接種をお勧めいたしました。

 他院がかかりつけのお子さまは、かかりつけの医院で接種を受けてください。当クリニックは一貫して、お子さまの体調をよくご存じの、かかりつけ医でのワクチン接種を強く推奨しています。

 インフルエンザワクチン接種は、大切なお子さまをインフルエンザの脅威から守るための行為です。野菜のバーゲンセールとはちがいます。接種料金の多寡やママ友「情報」に惑わされることなく、信頼されるかかりつけの先生のところで接種を受けることを、当クリニックはお勧めいたします。

 当クリニックもまた、いつも受診してくださる大切なかかりつけの患者さんのために、現在ワクチン接種の準備を進めています。

接種の年齢

 生後0~6ヵ月まではワクチンを接種しても抗体の上がりが悪く、また母親の抗体の影響でインフルエンザにかかっても軽くすむ子が多いといわれており、ワクチン接種の対象から外れています(ワクチンは接種できません)。

 生後6~12ヵ月のお子さまについては、プライミングの問題(インフルエンザワクチンの効果参照)もあり、効果は限定的と思われます。

 乳児のインフルエンザワクチン接種を考える場合は、まず父親、母親をはじめ、周囲の大人や年長児が積極的にワクチンを受けることが大切です。周囲の人間がワクチンを受けて、赤ちゃんへのインフルエンザ感染の防波堤になることが、赤ちゃん自身にインフルエンザワクチンを接種することより効果的だと思います。

 当クリニックは、乳児のご両親のインフルエンザワクチン接種を強く勧奨いたします。その上で、赤ちゃんへのインフルエンザワクチン接種を検討されるとよいでしょう。

 1歳以上のお子さまについては、当クリニックではワクチン接種をお勧めしています。

乳幼児(6歳未満)に対するインフルエンザワクチン接種について-日本小児科学会見解-」  (2004年11月16日)

平成12-14年度厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症事業)「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者 神谷 齊・加地正郎)」の報告では、
 1) 1歳未満児については対象数が少なく、有効性を示す確証は認められなかった。
 2) 1歳以上6歳未満児については、発熱を指標とした有効率は20-30%となり、接種の意義は認められた。
 →(小児科学会の見解)わが国では、1歳以上6歳未満の乳児については、インフルエンザによる合併症のリスクを鑑み、有効率20-30%であることを説明し たうえで任意接種としてワクチン接種を推奨することが現段階で適切な方向である。

→ただし、この見解発表の後、2011年からワクチン接種量は上記のように、増量されました。

インフルエンザワクチンの効果

 インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスのとげ(H鎖)を含む不活化ワクチンです。接種することにより、体内の血液中にインフルエンザウイルスへの迎撃用ミサイル=IgG抗体が作られます。

 しかし、空気とともに体の中に進入してくるインフルエンザウイルスは、鼻や肺への通路(気管支)に直接もぐりこみ、増殖するため(インフルエンザの増殖参照)、現在のワクチンはインフルエンザウイルスの感染そのものを抑えこむ力は弱いと考えられています(ワクチンで誘導されるミサイル=IgG抗体はこれらの粘膜面には存在していないため)。

 インフルエンザワクチンは、増殖したインフルエンザウイルスが全身に広がる時に、ミサイルのようにウイルスを破壊=不活化することで発病を抑えたり、症状を軽くしたりします。しかし、もしも一度もインフルエンザウイルスの進入を受けていないヒトの場合は、インフルエンザに対する備えが不十分で、ワクチンの誘導するミサイルもうまく作動しません(初めてのインフルエンザへの備えをプライミングといいます)。

 そのため、インフルエンザウイルスの跳梁を許し、結果として発病してしまいます(これが、一度もインフルエンザにかかったことのない乳児での、ワクチンの効果が弱い理由の一つと考えられています)。

 一方、過去にインフルエンザにかかったことのある人は、インフルエンザウイルスを免疫担当細胞が記憶しています。このため、ワクチンが接種されると十分に防御レベルが高まります。これをワクチンのブースター効果と呼び、このときはワクチンの効果が高まります。

 
 
また、現在のインフルエンザワクチンは、A型インフルエンザには十分な抗体の上昇が得られますが、B型インフルエンザに対する抗体の産生はあまり良くないようです。

 また、A型インフルエンザウイルスはとげ(H鎖)の組成を細かく変えて(ドリフト=連続変異)、ヒトの防御システムから逃れようとします。H3N2(香港型)でもシドニー型とパナマ型ではインフルエンザワクチンの効果に大きな違いが出てきます。この細かい変異に対応できたかどうかで、その年のワクチンの効果が決まってきます。

 赤ちゃんで問題になる、インフルエンザ脳症に関しては、小児科学会の見解は以下の通りです。(インフルエンザ脳症のガイドライン 改訂版(厚生省インフルエンザ脳症研究班。平成21年9月公表)はこちら。)

 
「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療および予防方法の確立に関する研究」(主任研究者:森島恒雄)の成績(中間報告)は、脳症患者とインフルエンザ罹患者の間でワクチン接種率に有意な差はなかったとしており、この段階ではインフルエンザ脳症の阻止という点でのインフルエンザワクチンの有効性は低いと考えられます。

 しかし、インフルエンザ脳症はインフルエンザ罹患者に発症する疾患であるところから、インフルエンザ罹患の可能性を減じ、その結果として脳症発症の可能性のリスクを減じる可能性はあり、ワクチン接種の意義はあるものと考えられる、と結ばれています。

 
しかし、脳症のほとんどがA型であること(ワクチンの効果が期待できる)、インフルエンザ発病から脳症をおこすまで1.4日ほどしかないこと(抗インフルエンザウイルス薬による治療が間に合わない)などを考えると、インフルエンザワクチンの接種により、インフルエンザにかかる患者数を減らせば、脳症も少なくなるはずです。
 インフルエンザにかからなければ、インフルエンザ脳症は起こりません。シーズン前に、お子さまにワクチン接種を済ませることを、当クリニックではお勧めいたします。

インフルエンザワクチンとチメロサール

 インフルエンザワクチンは、1バイアルを2人~4人に分けて使用します。その操作を行う時に、汚染が起こる可能性があり、防腐剤の添加が必要です。そのために、安全性の高いチメロサールが用いられてきました。

 ところが、水銀の使用は自閉症になる、などという医学的に全く根拠のないデマ情報が、主としワクチンを憎んで反対運動を行っているプロ「市民運動家」から流され、それに洗脳された一部の「文化人」、マスコミ左翼の活動家からチメロサールは目の敵にされてきました。(チメロサールについては、こちらに詳細に解説したので、お読みになってください。)

 また、これに呼応するように、「患者が心配するから…」などともっともらしい理屈をつけて、ことさらに「水銀無しのワクチンを使っています」と大宣伝する、商売上手の医療機関も現れました。


 しかし、2016年は熊本大地震の被害により、化血研がインフルエンザワクチンを製造することができなくなったため、チメロサールフリーのシリンジタイプのインフルエンザワクチンは製造されませんでした。そのため、2016年のシーズンは、当クリニックが一貫して使用している、チメロサールが極微量添加されているワクチンしか、供給されないことになったのです。

 この状況に「当院は水銀を使っていません。」などと大宣伝していた医療機関がどう対応されたのかは存じあげませんが、当クリニックの立場は常に一貫おり、今まで使用していたワクチンを、今までと同じ説明の上で、接種を行います。例年通り、ご予約をお願いいたします。


2019-2020年のシーズンのワクチンについて

 2017-18年は、インフルエンザワクチン供給に大きな問題が起こったのは周知のとおりです。

 当初製造を始めたワクチン株が培養してみると孵化鶏卵のなかでの増殖が悪いため、急遽泥縄式に、別のワクチン株で大急ぎにワクチン製造を開始しました。しかし、結局十分なワクチン本数を供給できなかったのです。

 
この事態に対し、厚労省は

インフルエンザワクチンを過剰にストックする医療機関を厳重に監視し、もしも
沢山ワクチンを返品した医療機関があったら公表する

薬卸問屋は、インフルエンザワクチンを1回に納入せず、
少しずつ、医療機関に納品する。


という、全て他人に責任を転嫁した相も変わらず馬鹿げた指導で事態をますます混乱させました。(季節型インフルエンザワクチンの供給について

 今までのワクチン供給の歴史を振り返ると、ヒブワクチンで、新型インフル騒動で、MRワクチンで、日脳ワクチンで、ワクチンが足りなくなったとき、この厚労省役人の机上の計算がうまくいったためしはありませんでした。

 懸念されていたように、2017-18年は、インフルエンザワクチンの供給量が例年よりも大幅に少なく、しかも、厚労省の「指導」により、毎週ワクチンが少数ずつしか供給されないため、例年のように接種枠を設定して、予約を受け付け、接種を予定通り行うことができませんでした。大切なかかりつけの患者さんに多大なご迷惑をお掛けしたことを、改めて深くお詫びいたします。

 2019-2020年の今シーズンは、今のところワクチン供給量は問題ないと発表されています。ワクチン供給の状態を注視しながら、今シーズンのインフルエンザ予約システムを運営していきたいと考えておりますので、当クリニックHPを適時ご確認されることをお願い申し上げます。

インフルエンザワクチンの作り方

インフルエンザHAワクチンの作り方の紹介です。

現在はA/ソ連型→A/新型になっています。また、B型も2種類含まれています。 インフルエンザHAワクチンができるまで(アステラス製薬株式会社)より

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