Ⅱ.新型コロナウイルスSARS-CoV-2の診断

 「ケンサ!ケンサ!」と検査の意義も限界も種類もわからないまま、馬鹿の一つ覚えのように、ワイドショウと一緒になって大騒ぎしている人達がいます。

 しかも、11月になって第3波が到来し、医療機関も保健所も症状のある感染者(COVID-19患者)の対応で大変な時期に、それでなくても医療スタッフが足りなくて悲鳴を上げているときに、無症状で医療の必要ない、元気な人に医療スタッフと医療資源を使って「安心のために」どんどん検査を行え!などと信じられない、馬鹿げた妄言を吐き続けているのです。

 今、医療現場は新型コロナウイルス感染症第3波に立ち向かい、感染爆発、医療崩壊が起こらないよう、必死で医療の最前線を支えているのです。知ったかぶりをして現場の苦労など知ろうともせず、医療を混乱させるだけの馬鹿げた戯言を吐きまくるクズどもを、本当に何とかしてほしい!


 COVID-19の検査を行なうことは、治療管理を行うための単なる手段に過ぎません。ただの臨床検査を、何かそれ自体がとても素晴らしい、神聖で重要な儀式だと褒め称えることは、全く無意味で愚かな振る舞いです。

 日本の医療陣は、前方の新型コロナウイルス感染症第3波の脅威とともに、後方で足を引っ張り続けるケンサケンサの馬鹿どもの猛毒とも戦わなければならないのです。

 新型コロナウイルス感染症の病原体検査はこの半年で格段に進歩しました。このたび、2020年11月10日に発表された、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針-第2版」に準拠しながら、2020年11月段階の新型コロナウイルス感染症の臨床検査の現況について、ご説明していきたいと思います。

 各種検査の検出感度(陽性になる確率)や非特異的反応(本当は陽性ではないのに、陽性に出てしまう反応)などを把握し、それぞれの検査法が持つ特徴を理解した上で、適切な判定を行う事が、臨床検査では非常に重要なことは、しろうとでも分かることです。

 それなのに誰に吹き込まれたか、ウイルスがいれば99.9%検査は陽性になるなどと、小学生でも考えられない馬鹿げた戯言を撒き散らしながら、「科学と知性」などとドヤ顔でほざく道化師もこの世の片隅には棲息しているようです。少しは世のため人のため、何らかの社会に貢献できる行動をご自身でも行ってみたらいかがでしょうか。



①PCR検査


 
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の最も正確な検査は、PCR検査です。

1)PCR検査

 PCRはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で、その細胞に特徴的な遺伝子の部分を探し出して、その部分を特殊な器械を使って処理を行い増幅させて、目に見えるように拡大して検出する検査方法です。

 なつかしい高校生物に、わかりやすいPCR法の解説を見つけましたので、ご紹介いたします。→ 【高校生物】 遺伝17 PCR法
 
 この講師の方の説明にもあったように、PCR法はまず約30億もあるヒトのゲノム(遺伝子)の長大なDNA分子の中から、DNAの一部分のみを選びます。

 SARS-CoV-2のようなRNAウイルスに関しては、第一段階として、RNAを鋳型としてDNAを合成する働きを持つ酵素(逆転写酵素)を使って、RNAをDNAに変換します。(これを、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse-transcriptase PCR)と呼びます。)

 さらに、このDNA(検査材料。ビデオ参照)とDNAプライマ-(DNA断端。ビデオ参照)、DNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素。ビデオ参照)、DNA合成の素材となるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)(ヌクレオチド。DNAの材料です。ビデオ参照)、酵素が働く至適な環境をつくるためのバッファー溶液を混ぜて、94℃に加熱→約60℃に冷却→約70℃まで再度の加熱処理を行います。

 このサイクルを繰り返して、遺伝子を増幅していくのです(図に示したように、1個のDNA端末が30回複製すると、230個=約10億個になります)。

 
PCR法の原理-微生物病研究所からのコロナウイルス情報:ウイルス検出法 PCR法の図解:新 私たちの暮らしと医療機器 

 PCR法で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)しか持っていない遺伝子部分が陽性になれば、SARS-CoV-2が存在しているという証拠になります。ただし、PCR法はこの遺伝子部分の検出率があまり高くないため、本当は陽性なのに陰性になってしまう(検出できない)偽陰性が多く出るのが欠点です。

 PCR法は、選ばれたDNAとDNAプライマーの塩基配列の種類やサイクル中の各設定温度・時間などが不適切な場合には、無関係なDNA配列が増幅したり、DNA配列の増幅が見られないことなど、良い結果が得られないこともあります。また、合成過程の途中で変異が起こることもあります。

 PCRの感度(陽性率:感染している人を、感染していると判断できる能力))は残念ながら、良くみても70%ぐらいです。すなわち、10人の患者がいると3人は本当は感染しているのに、検査上陰性の結果が出てしまうことになります。

 当たり前のことですが、臨床検査というものは、機械的に検査結果をみるだけでなく、患者さんの臨床経過や症状を重ね合わせて、医師が診断を行います。検査結果は絶対ではありません。今、安心のためにPCR検査を、などと全く愚かな主張を垂れ流している人がいますが、PCR検査は個人の安心のために行うものではありません。

 第3波流行拡大の中で症状に苦しみ、本当に治療を行うために、PCR検査を必要としている人達がいるのです。この人達を押しのけて、心配だからと言って、健康な人が割り込んで検査をすればどうなるか、まともな頭脳の持ち主なら分かりそうなものですが、素晴らしい「科学と知性」の持ち主には到底理解不能なようで、残念です。


 PCR法は最も信頼できる検査のため、鼻咽頭(鼻からスワブを挿入して、喉の検体を採る)、鼻腔(鼻の中の検体を採る)、唾液で検査が可能です。

 有症状者(症状のある患者さん)、無症状者で検査を行います。(ただし、無症状者の鼻水検査、有症状者の10日目以降の唾液検査はできないことになっています。)

唾液PCR検査キットです。中央が50ml滅菌遠沈管です。あらかじめ口の中に唾液をため、この管の中に垂らしていきます。底の部分にたまれば、2mlとなります。
採取後、ピンクの蓋をしっかりと閉め、アルコール消毒を行い、手前の緩衝剤の袋に入れます。 さらに左側のチャック付きポリ袋に入れて、強く密閉し、段ボールケースに
梱包します。各処置の間、毎回アルコールで手指消毒を行い、 各作業は手袋マスク、サージカルマスクを装着して作業を行います。

           参考:神奈川衛生研究所:PCRって何?
               厚労省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第2版)

 

2)LAMP法

  LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)はPCR法のように熱の力ではなく、4種類のプライマーと合成酵素を使うことによって、DNA(検査材料のDNA)の両端にループ構造を作らせ、目的とする塩基配列の部分だけを大量に増幅させる方法です。

 増幅したいターゲットDNAの両側に元の塩基配列と対になるプライマーを置くと、そこから合成が始まります。
 
 その端がループ状になるようにプライマーは設計されているため、合成されたDNAは両端がループ状になり、そこを起点として再び合成が始まります。

 その繰り返しが短時間で行われ、膨大な量の合成ができるのです。
(右図。新 私たちの暮らしと医療機器

 したがって、SARS-CoV-2遺伝子の検出までの工程を1ステップ、一定温度で実施可能な遺伝子検査法です。
 簡便な機器のみで実施でき、増幅のスピードも速く、標的以外のものが増えにくい点も優れています。

 リアルタイムPCR法に比べて感度は落ちるものの、反応時間が35~50分と短い利点があります。現在百日咳、マイコプラズマ、結核など、いくつかの感染症で実際に臨床の場で使われています。(→LAMP法の原理

 現在、SARS-CoV-2の検査で、LAMP法はPCR法と同じように、鼻咽頭(鼻からスワブを挿入して、喉の検体を採る)、鼻腔(鼻の中の検体を採る)、唾液で検査が可能です。

 有症状者(症状のある患者さん)、無症状者で検査を行います。(ただし、無症状者の鼻水検査、有症状者の10日目以降の唾液検査はできないことになっています。特に、唾液検体では偽陽性になる例があるようで、注意が必要です。)

       参考:新 私たちの暮らしと医療機器
             厚労省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第2版)

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②抗原検査


 ヒトの体に侵入してくる病原体(ウイルス)の遺伝子(RNA)は、そのままでは目に見えないため、数百万倍から数十億倍に特殊な装置を使って増幅し、目に見えるようにしてその結果を診断するのがPCR検査の原理でした(前章)。

 それに対し、病原体のタンパク質(核酸=遺伝子よりはるかに大きい)を、免疫反応を利用して目に見えるように着色して診断するのが、抗原検査です。
(右図はjiji.com 抗原検査キットを承認より引用)

 PCR検査は少数でも核酸(遺伝子)を補足できれば、増幅して診断することが可能ですが、抗原検査は抗原(蛋白)をそのままの量で判定するため、抗原量が少なければ陰性と判定されることもあります。したがって、PCR検査よりは、感度(感染している人を、感染していると判断できる能力)が下がります。

 ただし、定性検査は特別な測定機器などを用いる必要が無いため、10分から30分で測定結果を得ることが出来ます。

 抗原検査には、定性検査と定量検査の2種類があります。



1)抗原定性検査

 抗原定性検査は、インフルエンザや溶連菌など、今まで臨床の現場でよく行われてきた迅速検査です。

 ①30分程度で結果が得られること、②特別な試薬や機器を必要とせずに、他の感染症迅速検査キットと同じように操作できること、③検体を搬送する必要が無いこと、などが抗原定性検査のメリットとして上げられます。

 しかし、感度が低く、偽陽性や偽陰性がみられることが大きな問題点です。
 すなわち、偽陽性の場合は、感染していないにもかかわらず、コロナ感染者と同じ環境におかれる可能性があること、逆に、偽陰性の場合は自らの感染力に無自覚に感染を広げる可能性があることなど、結果判定後の取り扱いには細心の注意が要求されているのです。

 そのため、抗原定性検査は、発病から2日目から9日目の症状の有る人(患者)に、鼻咽頭または鼻腔から採った検体で行う検査と対象が絞られています。

 したがって臨床の場では、抗原検査はPCR検査と組み合わせて、それぞれの特性を生かして使用されています。具体的には、
 ①重症者に速やかに検査を行い、医療に繋げる。
 ②判定に急を要する救急搬送の患者に使用する。
 ③症状のある医療従事者や入院患者の判定を速やかに行う。
などのケースでは、まず抗原検査が行われます。しかし、抗原検査はやや信頼度が低いため、患者の症状によってはPCR検査で再確認することになっています。

 現在、我が国の臨床で使用されている抗原定性検査キットは、2種類あります。



エスプライン SARS-CoV-2(富士レビオ)
(写真は富士レビオのHPから)
 2020年5月13日に、我が国初の新型コロナウイルス抗原検査キットとして承認されました。

 鼻咽頭(鼻からスワブを挿入して、喉を擦る)、鼻腔(鼻の穴を擦る)から検体を採り、検査します。唾液は検査に用いることはできません。

 症状のある、新型コロナウイルス感染症疑いの患者さんが対象となります。発病2~9日の患者さんの確定診断に用います。
 10日目以降の検査で陰性の場合は、PCR検査で確認が必要です。
 また、無症状者に検査することはできません。

 エスプラインSARS-CoV-2の検体で、インフルエンザの検査も行うことができます。(ただし、インフルエンザ検査用のエスプライン・インフルエンザA&B-Nキットの使用した検体で、新型コロナウイルスの検査を行う事はできません。)

 インフルエンザの検査も行えるため、広く使用されていますが、偽陽性の報告が多いことが気になります。ヒトコロナウイルス(HCV)にも反応しているのではないかという見解もあります。当クリニックではこのキットは採用しておりません。

クイックナビ-COV19 Ag(大塚)(改訂案内はこちら(写真は大塚製薬のHPから)
 2020年8月11日に、我が国の新型コロナウイルス抗原検査キットとして、2番目に承認されました。

 鼻咽頭(鼻からスワブを挿入して、喉を擦る)、鼻腔(鼻の穴を擦る)から検体を採ります。唾液は検査に用いることはできません。

 エスプラインキットと同様に、症状のある、新型コロナウイルス感染症疑いの患者さんが対象となります。発病2~9日の患者さんの確定診断に用います。無症状者に検査することはできません。

 10日目以降の検査で陰性の場合は、PCR検査で確認が必要です。

 また、クイックナビ-COVID19 Agの検体で、インフルエンザ抗原迅速診断キット「クイックナビ-Flu2」やRSウイルス抗原迅速診断キット「クイックナビ-RSV2」を同時に検査することもできます。

 インフルエンザ検査、RSウイルス検査も同時に行えるため、当クリニックではCOVID-19検査に使用しています。(写真は左がインフルエンザ、右が新型コロナウイルス感染症の迅速診断キットです。)



            参考:厚労省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第2版)



2)抗原定量検査


 一方、抗原定量検査はウイルス抗原(タンパク質)の量を測定することから、定性検査に比べてより正確で、LAMP法などの遺伝子検査と同じぐらいの信頼性があると評価されています。

 2020年6月19日に、富士レビオ株式会社から新たな新型コロナウイルス抗原検出用キットである,
ルミパルスSARS-CoV-2Ag」が発売されました。

 化学発光酵素免疫測定法による定量検査を用い、専用の測定機器 Lumiplus G600Ⅱ、G1200(右図)を使用して測定します。

 抗原定量検査は、特異度(感染していない人を、感染していないと判断できる能力)も高く、感度(感染している人を、感染していると判断できる能力)もLAMP法などの簡易な遺伝子検査方法と同じレベルと評価されています。

 LAMP法と同様に、鼻咽頭(鼻からスワブを挿入して、喉の検体を採る)、鼻腔(鼻の中の検体を採る)、唾液で検査が可能です。有症状者(症状のある患者さん)、無症状者で検査を行います。


 専用の測定機器が高価なため、当クリニックでは検査を行ってはおりません。

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③抗体検査


 病気になると身体の中に病原体と戦う免疫物質(液性抗体=免疫グロブリン)ができるので、それを検出するのが抗体検査です。抗体検査には、イムノクロマト法や酵素抗体法(ELISA)などの測定法があります。

 病原ウイルスが体に侵入すると、まず免疫グロブリンM(IgM)が作られます。これは、感染初期1週間、まず感染を広げないように戦う初動部隊です。その後、正規軍である免疫グロブリンG(IgG)が出動してきます。そして、このIgG が病原ウイルスを体の外に追い出します。

 さらに、再び病原体が侵入してこないように、IgGはつねに血液中を巡回して、警戒します。免疫がついたかどうかは、このIgGを調べるのです。IgMは感染後数日から高くなり、1週間がピークとなり、減少していきます。IgGは感染後、2~3週から高くなり、髙値を持続します。

IgGは1ユニット。IgMは、5ユニットが集合した形をしています。
(http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/koutai.pdf)
まずIgMが血液中に増加します。2~3週になると、IgGが増えてきます。
IgMは2週ぐらいで消失していきます。
柳田絵美衣

 
 免疫グロブリンを調べることは、感染後すぐには抗体は上昇しないため、感染早期の診断を行うことはできません。あくまで、感染後1週間ぐらいして、抗体ができたかどうかを調べる検査であり、早期診断には不向きで、病気の早期診断はできません。しかもSARS-CoV-2の抗体がどの位持続するか、現在検討が行われている段階です。

 抗体検査は現在の新型コロナウイルス感染症にかかっているかどうかは全く評価できない検査です。新型コロナウイルス感染症の診断は出来ませんと言いながら、「安心のために」などと称して、検査を行っている医療機関もあるようですが、当クリニックは抗体検査は行いません。なぜならば、現況で全く意味の無い検査だからです。



④まとめ

 最後に、もう一度各種検査の特徴をまとめてみます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針
 当クリニックで行っている検査は、核酸検出検査(鼻咽頭、鼻腔、唾液)、抗原定性(鼻咽頭、鼻腔)です。診断のために必要な検査を、各種検査から選択して実施しています。

新型コロナウイルス感染症にかかる各種検査
検査の対象者  核酸検出検査 抗原検査(定性) 抗原検査(定量)
鼻咽頭 鼻腔 唾液 鼻咽頭 鼻腔 唾液 鼻咽頭 鼻腔 唾液
有症状者
(消退含)
 発症から
9日目以内
1 1 ×2
 発症から
10日目以降
4 3 3 ×2 4
無症状者
 
4 4 4 ×2 4
備考
当クリニックの方針
鼻咽頭、鼻腔、唾液など、ある程度信頼性が必要な時に施行。結果に2日。
3歳未満は基本的に鼻咽頭。
症状から強く疑われる場合、早期診断が必要な場合、病児希望の場合、施行することも。15分で結果出るため。 当クリニックでは、実施していない。

 1.発症2~9日目以内の有症状者の確定診断に用いる。
 2.有症状者への使用は検討中。
 3.使用可能だが、陰性の場合は鼻咽頭PCRを行う。
 4.推奨されず。

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