鈴の木版-新型コロナウイルス感染症総説 11.21版


目次

0. はじめに
Ⅰ.新型コロナウイルスSARS-CoV-2の病原体と症状
Ⅱ.新型コロナウイルスSARS-CoV-2の診断




0. はじめに

 武漢で発生した「新型コロナウイルス感染症」は、2020年11月に入り、第3波として感染者が急増しています。

 本稿では、鈴の木こどもクリニックのかかりつけの患者さんに、医学的根拠に基づく、正しいコロナ総説11月版を発信いたします。急激に増加している感染状況を正しく認識し、鈴の木こどもクリニックと共に、新型コロナウイルス感染症の脅威からご家族とお子さまを守りましょう!



Ⅰ.新型コロナウイルス感染症SARS-CoV-2の病原体と症状

 まず、2020年11月21日時点の、新型コロナウイルス感染症の臨床像についてまとめてみます。

①病原体

 病原体は、新型コロナウイルス=SARS-CoV-2(サーズコロナウイルスツー)というウイルスです。 新型コロナウイルス感染症の病気の名前は、COVID-19といいます。この病気の名前は、今や悪の代名詞となった、WHO=世界保健機関が命名しました。 当初は、武漢肺炎とも呼ばれていました。

 コロナウイルスは、その出自はニドウイルス目コロナウイルス科に属する、大きさが100nmぐらいのRNAウイルスです。ちなみにインフルエンザウィルスも100nmなので、ほぼ同じ位の大きさのウイルスです。

 コロナウイルスはウイルス表面にエンベロープという脂肪から成る二重膜を持ち、そこから突起(スパイク蛋白、Sタンパク質)が林立し、あたかもウイルスの形が王冠のように見えることから、王冠を意味するcoronaと名付けられました。 
(右写真はコロナウイルスとは 2020.1.10 国立感染症研究所から引用。右下はCDC-HPより引用)

 *SARS-CoV-2はこのエンベロープを持っているため、アルコールや有機溶媒によって、簡単に不活化(感染性を無くすること)することができるのです。

 コロナウイルスは自然界では、動物によって棲み分けをしています。宿主(ホスト=host。いつも感染している相方)にはほとんど悪さをせず、軽いかぜ症状や下痢を引き起こすだけで、おとなしく共存しています。

 これはある意味、当然のことであって、宿主が死亡するということはウイルスも存在できなくなり、死んでしまいます。宿主が元気な状態が、ウイルスも生存し、増殖するためには必要な条件なのです。

 実は人間にもしっかり4種類のコロナウイルスが常在し、かぜの10~15%(流行時には35%)はヒトコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV)が起こしています。ヒトコロナウイルスHCoVは、229E、OC43、NL63、HKU1の4種類です。そして、6歳までにはほとんどの人は、これらのコロナウイルスに一度は感染します。これらのヒトコロナウイルスHCoVは、人に感染しても軽いかぜの症状しか起こさず、人と長い間共存してきたのです。

 最近、2種類の別のコロナウイルスが人に感染し、流行しました。この2種類とは、重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome:SARS)コロナウイルス(SARS-CoVと略します)と、中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome:MERS)コロナウイルス(MERS-CoVと略します)です。

 この2種のコロナウイルス(CoV)はもともと、SARSコロナウイルスはキクガシラコウモリ(当初は、ハクビシンが疑われていました)、MERSコロナウイルスはヒトコブラクダが宿主hostでしたが、何らかの理由でヒトに感染する力を持ち、ヒトを発病させるようになったと考えられています。しかし、慣れないせいか?、その力加減がわからず、ヒトを重症化させたり、殺してしまったようです。そのため、SARSコロナウイルスは自分も消滅してしまいました。

 SARSコロナウイルスは、中国広東省で大流行し、2002年11月から2003年7月にかけて、8098人が感染し、774人の死者を出しましたが、その後消滅しました。流行時、SARSコロナウイルスは高齢者や慢性疾患を持つ人を重症化させたり、死亡させたりしましたが、子どもにはほとんど感染しませんでした。

 また、MERSコロナウイルスは、アラビア半島で流行し、2494人が感染し、858人が死亡しました。しかし、実はサウジアラビア国民の0.15%はMERSコロナウイルスに抗体を持っているのではないかと推定されており、実際は感染しているヒトは5万人を越すともいわれています。また、SARSと同様に、高齢者や慢性疾患を持つ人が重症化・死亡しましたが、子どもはほとんど感染しなかったようです。
 
 人に感染する7種類のコロナウイルス(軽症4種、重症3種)を、忽那先生の表を参考にまとめてみました。
(忽那賢志:総説 新型コロナウイルス感染症より一部改変)

名  HCoV-229E、OC43、
NL63、HKU1
SARS-CoV MERS-CoV SARS-CoV-2 
 病名 かぜ SARS (重症急性呼吸器症候群) MERS(中東呼吸器症候群)  COVID-19(新型コロナウイルス感染症)
 発生年 毎年 2002~2003年 2012年~現在  2019年~現在
 発生地域 世界中 中国広東省 アラビア半島とその周辺  中国湖北省武漢
 宿主動物 ヒト キクガシラコウモリ ヒトコブラクダ  コウモリ?
 死亡者数/感染者数 不明/70億人 778人/8098人(終息) 858人/2494人(50000人?)  138万人/5865万人(2020.11.23現在)
 好発年齢 多くは6歳以下 中央値 40歳(0-100歳)
子どもにはほとんど感染しない
中央値 52歳(1-109歳)
子どもにはほとんど感染しない
 60歳以上
子どもにはほとんど感染しない
 主な症状 上気道炎、(胃腸炎 高熱、肺炎、胃腸炎 高熱、肺炎、胃腸炎、腎炎  高熱、肺炎、味覚嗅覚障害、胃腸炎
 重症化因子 重症化しない 糖尿病等の慢性疾患、高齢者 糖尿病等の慢性疾患、高齢者  高齢者、糖尿病等の慢性疾患、肥満
 感染経路 飛沫、接触 飛沫、接触、糞口 飛沫、接触  飛沫、接触、一部空気
 ヒト-ヒト感染 1人→多数 1人→2~5人。
多数に移すス-パースプレッダーも。
1人→1人以下。
多数に移すス-パースプレッダーも。
 1人→2.6人以下。
多数に移すス-パースプレッダーも。
 潜伏期 2-4日 2-10 2-14  1-14日(多くは5日ぐらいまで)
 感染症法 指定無し 二類感染症 二類感染症  指定感染症


 

 新型コロナウイルスSARS-CoV-2は、上記系統樹からみると、ニドウイルス目、コロナウイルス科オルソコロナウイルス亜科、ベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属という仲間で、SARS-CoVと近い関係にあり、そのためにSARS-CoV-2と名付けられました。
(忽那賢志:総説 新型コロナウイルス感染症より)

 SARS-CoV-2は、SARS-CoVと同じく、ヒト細胞表面にある、アンギオテンシン転換酵素2(ACE2:エースツー)をレセプター(受容体、接続する場所。ちょうど磁石のN極とS極のような感じです。)として、ヒト細胞に侵入します。


 SARS-CoV-2は、まず最初に、ウイルス表面にある突起状のスパイク蛋白(右イラストのSタンパク質)を、ヒト細胞のACE2・リセプターにぴったりと結合させます。すると、ヒト細胞膜にある、「TMPRSS2(テムプレスツー)」や「FURIN(フーリン)」などの蛋白分解酵素が、ウイルスのスパイク蛋白を溶かしてしまい、ウイルスはヒト細胞と融合します。

 その結果、ウイルスは細胞内に取り込まれ、ウイルスの遺伝情報(RNA)をヒト細胞内に放出します。
 放出されたウイルスRNAは、ヒトの細胞の成分を勝手に利用して、自分の分身のウイルスを大量に複製、製造していきます。このときに、RNAポリメラーぜという酵素がタンパクを作るために働きます。

 参考:井上純一郎・山本瑞生(東京大学医科学研究所) より。図転載。

     SARS-CoV-2がACE2に結合するアニメーションの紹介

 こうして、ヒト細胞内に充満したウイルスはヒト細胞を破裂させ、細胞外に自由に飛び出していきます。

 体の中で、ACE2がたくさん存在するのは、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)、心臓、下気道(肺、気管支)、小腸、腎臓、精巣、血管などです。これらの部位がSARS-CoV-2が増殖しやすい箇所と考えられ、実際SARS-CoV-2は人体内に侵入すると、まず上気道、下気道で増殖します。

ACE2受容体が存在する部位(Baig et al.ACS Chem Neurosciより)

 コロナウイルスは、6時間で世代交代を繰り返しており、RNAウイルスの常として不安定で、小さな変異を繰り返しています。しかし、インフルエンザウイルスのように、大きな変異はあまり起さないようです。その理由は、コロナウイルスは校正機能を持つ酵素を持っているために、RNA遺伝子に変異が起きても自力で間違いを除去し、正しい遺伝子を複製することができるためです。したがって、ワクチンができてもインフルエンザのように、毎年ウイルスの変異を考えてワクチン株を選択しなければならない、という心配はなさそうです。

はじめに戻る


②潜伏期間、感染経路

1)潜伏期間
 感染してから発症するまでの潜伏期間は1~14日間で、感染してから5日ぐらいで発病することが多いようです。

 台湾からの報告だと、発病2日前ぐらいの無症状の時期から、発熱、咳などの症状が出て5日後ぐらいまでが感染力があると報告されています。特にまだ潜伏期である発病前に最も感染力が強く、これがSARSやMERSと大きく異なる点だと指摘されています。



2)感染経路
 感染の経路は、咳、痰の飛沫による飛沫感染と、痰、鼻水などに触って移る接触感染が主と考えられています。また、密閉された環境では咳鼻などの症状がなくても、会話だけでもウイルスが飛散することも証明されています(空気感染のリスクがあります)。

  *NEJM: Visualizing Speech Generated Oral Fluid Droplets with Laser Light Scattering

 気管挿管、鼻吸引などの医療的処置を行うときには、微粒子が飛び散り、エアゾル(微粒子)感染といって特殊な空気感染を起こすため、空気感染に準じた感染予防が必要とされています。(感染予防の対策をしないで、吸入などを医療行為を行うことは現在できないことになっています。)

 飛沫感染、特殊な空気感染について、もう少し詳しく見てみます。

 インフルエンザウイルスは感染して6時間後には、1億個/㎖まで増殖しますが、SARS-CoV-2は同じ6時間後で、10万~100万個/㎖の増殖程度に留まります。従って、呼吸器から放出されるウイルスの量は、SARS-CoV-2はインフルエンザウイルスの1/100程度と相対的に少数ということになります。

 また、飛沫感染は2m離れれば起こりません。この根拠は、さまざまな大きさの微粒子(エアロゾル)は2mまで到達する前に水分を失い、中にいるウイルスは乾燥して感染力を失うからです。しかし、湿気の多い密室では、空気中を漂うエアロゾルは乾燥せず水分を保持し続け、30分近くもエアロゾルの中のウイルスは、感染力を保つといわれています。

 また、ウイルスを含んだエアゾルの大きさも感染に影響すると言われています。5~10㎛のエアロゾル(飛沫)は30mの落下に17~62分かかり、その間に吸い込まれて鼻や喉に沈着します。一方、2~3㎛のエアロゾル(飛沫核)は落下せず空気中を漂い、吸い込まれると肺の中まで到達してしまいます(特殊な空気感染と考えられます)。

 湿気の多い密室では、吐いた息に含まれる1㎛のエアゾルも感染力を持ちます。すなわち、湿気の多い密室では普通に向かい合っているだけで、会話をしなくても、咳やくしゃみを浴びなくても、感染してしまいます。

 このように、部屋の加湿は喉や呼吸器にはやさしいですが、エアロゾルの中のウイルスの乾燥を妨げ、感染力を保たせる一面もあるので、加湿のし過ぎも逆効果のようです。

 逆に接触感染では、感染が成立するためには、より多くのウイルスの量が必要と言われています。接触感染はウイルスで汚染された手指を介して、感染が広がります。そのため、手洗いは効果的と考えられます。



3)感染力
 感染力は1人から2.6人と、ほぼインフルエンザウイルス並みと報告されています。ただし、バスや屋形船など、「換気の悪い、閉鎖空間」では前述したようにウイルス粒子は乾燥しないため、感染力を失わず、感染が拡大するようです。このような環境では、咳などが見られなくても普通の会話、呼吸でも感染が成立します。

 インフルエンザウイルスに比べ、SARS-CoV-2は細胞内で複製されるウイルス量は100分の1のため、インフルエンザウイルスほど感染力は強くない、と考えられています。また、ウイルス量が少ないため、抗原定性検査で陽性に出にくい可能性があるようです。

 接触感染に関しては、物の上に付着したウイルスの感染力は3時間ぐらいと考えられています。しかし、鼻水や痰など粘性のある生体物質で包まれている場合には、表面が乾燥してもウイルスは感染力を失わず、何日も感染力を保つようです。

 我が国の検討では、感染を広げたのは感染者の2割のみで、8割の人は他の人に感染させませんでした。ダイアモンド・プリンセス号では、実に1人の香港人の老人から約700人が感染したことになります。したがって、たった一人の無自覚な感染者がいると、大きなクラスターが発生する危険があります。

 季節型インフルエンザは感染後18時間で発病し、約2日間でウイルス量はピークに達し、排出は1週間続きます。なかには2週間ぐらいウイルスを排泄し続ける人もいるようです。

 一方、鼻かぜを起こすヒトコロナウイルス(SARS-CoV-2ではない、普通のコロナウイルス)では、感染後3日で発病し、実験動物では1ヶ月近くもウイルスが検出される例もあるようです。

 SARS-CoV-2も上気道(喉、鼻)、下気道(肺、気管支)でウイルスが増殖し、ここから採取した患者の検体からPCR検査を行うと、発病後3~4週経ってもウイルス遺伝子が検出されることがあるようです。また、血液、尿、便からSARS-CoV-2の遺伝子の一部が検出されることもありますが、感染力のあるウイルスではないようです。

 主な症状が消えた後のPCR検査陽性は、感染力と相関しない、すなわちヒトには移さないといわれています。後述する台湾CDC(衛生福利部疾病管制署)の論文だと、発病5日を過ぎるとPCR検査がたとえ陽性であっても、感染力は無くなると報告されています。

     *白木公康、木場隼人:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察

 2020年5月1日に、JAMA(アメリカ医師会雑誌)に台湾CDC(衛生福利部疾病管制署)のCOVID-19についての論文が掲載されました。 台湾は世界で最も新型コロナウイルス感染症の制圧に成功している国です。

 この論文の骨子は、①接触者の追跡は、発病4日前まで行わなければならない。②COVID-19は、発病する前からから発病後5日までは感染する。 ③コロナの2次感染の期間は、4~5日。という内容です。(西伊豆カンファレンス、仲田医師のまとめ

 また、台湾では、COVID-19の流行が始まる時、公衆衛生医師を中心に強力な権限を持つ中央司令室を設置し、 ②国民健康保険と入国検疫データベースをわずか1日でリンクさせ、病院の外来で旅行の有無がわかるようにし、③感染させる可能性のあるハイリスクの人には、自宅で14日間、自主隔離。そして、違反者には罰金107万円を課したそうです。(西伊豆カンファレンス、仲田医師のまとめ

 その結果は、台湾は2020年11月26日現在、感染者623人、死亡者7人と、世界で最もCOVID-19を制圧した国と高く評価されています。(テドロスのWHOは、ことごとく台湾を無視してきました。)

   *Hao-Yuan Cheng, et al: Contact Tracing Assessment of COVID-19 Transmission Dynamics in Taiwan and Risk at Different Exposure Periods Before and After Symptom Onset  
   *C. Jason Wang ,et al: Response to COVID-19 in Taiwan Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing

  *仲田和正:台湾のCOVID-19感染ダイナミクス JAMA Internal Medicine, May1, 2020

 *台北駐日文化経済代表処:台湾の新型コロナ対策、アメリカの医療雑誌で紹介される

最初に戻る


③症状 

 まず発熱や呼吸器症状(咳、喉の痛み、鼻水など)や頭痛、全身の倦怠感などが起ります。嘔吐、下痢は少ないようです(全患者の10%未満の報告が多い。ただし、子どもは比較的見られやすいという報告もあります)。

 また、この時期に味覚障害、嗅覚障害を訴える患者さんも多いようです。イタリアでは、約30%の患者が味がわからない、臭いがしないと訴え、特に女性や若い人に多かったと報告されています。
 ただし、味覚障害・嗅覚障害は他のウイルス感染症でも起こること、COVID-19の症状だったとしても2週間ぐらいで軽快することが多いため過度の心配は必要ないと、耳鼻科学会では声明を出しています

  
*嗅覚・味覚障害と新型コロナウイルス感染症についてー耳鼻咽喉科からのお知らせとお願いー

 病初期はかぜと区別はつきません。そもそもかぜの15%は、普通のヒトコロナウイルスが原因なのです。そして、普通のかぜならば、2~3日で快方に向かいますが、新型コロナウイルス感染症では1週間ぐらいかぜ症状がとれず、味覚嗅覚障害や異様なだるさが続くことが特徴とされています。
 
 1週間ぐらいで80%の人は、症状は治まり治ります。しかし、20%の人は1週間過ぎたあたりから逆に咳がひどくなり、胸が苦しくなり肺炎になります。

まずかぜ症状で始まり、インフルエンザ、かぜなら3~4日で軽快するが、コロナは症状が約7日持続。 我が国のCOVID-19死亡率。10歳前は0%。80歳以上は12%。

 さらにその一部の5%が重い肺炎に進展し、集中治療が必要になり、生命が危険になります。特に、重症化のリスクのある人、高齢者、基礎疾患を持つ人(高血圧など心血管疾患、糖尿病、がん、各種免疫不全、喘息やCOPDなど慢性呼吸器疾患、人工透析など)、肥満、喫煙者は要注意と言われています。
 妊婦に関しては重症化しやすいかどうかは不明ですが、胎児への影響も考慮すると十分な注意は必要と考えられています。


 この発病7日目ごろかた急激に症状の悪化する、重症化のメカニズムについては、サイトカインストームと血栓症の存在が、深刻化のカギとなるようです。

①サイトカインストーム

 まず、サイトカインストームから見ていきます。最初に、次の動画をご覧ください。(特に2:40~のあたり)

     コロナウイルスとは何か & あなたは何をすべきか

 サイトカインとは、タンパク質からできている、主に白血球などヒトの免疫細胞から分泌される、「情報物質」のことです。タンパク質からできてい伝書鳩のようなもので、さまざまな種類があり、細胞間で頻繁に行き来しています。

 このサイトカインはいろいろな種類の免疫細胞(白血球やマクロファージなど)から発出されており、一つのサイトカインは多彩な機能を持っています。また、同じような働きのサイトカインも複数存在します。

 このサイトカインの主な働きは、白血球(好中球やTリンパ球、Bリンパ球などが含まれます)などの免疫細胞に働きかけ、これらの細胞の働き(免疫機能)を強化・活性化したり、ある場所(炎症部位)に呼び集めたりします。集まってきた免疫細胞は、同じようにサイトカインを分泌して、他の免疫細胞にも働きかけを行います。そして、お互いネットワークを作り、あるときは協調し、あるときは相手の働きを抑えたりして、相互に作用しあうことで、がんや病原体など、からだにとっての「異物」と戦っているのです。

 サイトカインには多くの種類があります。代表的なものは、インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)、ケモカイン(CCLなど)、コロニー刺激因子(顆粒球コロニー刺激因子:G-CSF、エリスロポエチンなど)、腫瘍壊死因子(TNF)、増殖因子(EGF、FGF、TGF-βなど)などがあげられます。

 中でもTNF-α(腫瘍壊死因子)、IL-1(インターロイキン1)、IL-6(インターロイキン6)は体の中で炎症を起こすため、炎症性サイトカインと呼ばれます。一方、IL-10(インターロイキン10)やTGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)などは逆に炎症を鎮めるため、抗炎症性サイトカインと呼ばれます。

 このうち、炎症性サイトカインは、マクロファージとTh1細胞(ヘルパーT細胞というリンパ球の一つのグループ)から、抗炎症性サイトカインはTh2細胞(ヘルパーT細胞というリンパ球の別のグループ)から、それぞれ産生されます。炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの2つのサイトカインは、アクセルとブレーキの働きを担っていて、炎症反応を全体として調節しているのです。

 このサイトカインの働きが活発になると、からだの症状として、発熱や倦怠感、頭痛、凝固異常(血が止まらなくなる)などが起こります。しかし、これらの症状は不快ですが身体を守るための防衛反応であり、身体に異常が起きているのを知らせるシグナルという意義も持っているのです。

 しかし、免疫反応が激烈になると、IL-6などの炎症性サイトカインが際限なく大量に放出された状態となってしまいます。この状態を、サイトカイン・ストーム(サイトカインの嵐、免疫暴走)と呼びます。

 サイトカインストームが起こると、綿密な指令に基づいて、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスの上で、感染した細胞だけに向けられていた免疫細胞の攻撃が、手当たり次第に健康な細胞にも向けられるようになります。その結果、健康な正常組織まで大規模に傷害され、全身状態の急激な悪化や血栓形成(血管の中に小さな血の塊ができて、血管を塞ぎ、組織が障害される)が起こります。

 心筋梗塞、肺塞栓、脳梗塞、下肢動脈塞栓(血栓で足の微小な血管が詰まってしまい、激痛や潰瘍ができる)などが起こると、最終的には死に向かうこともあります。

   
参考:*コロナ患者、本当にこわい「免疫システムの暴走」

 新型コロナウイルス感染症のサイトカイン・ストームを防ぐために、炎症性サイトカインIL-6の働きを抑えるトシリズマブのようなIL-6阻害薬の投与が、現在検討されています。

②新型コロナウイルスによる血栓形成

 SARS-CoV-2が肺から血液内に侵入すると、ウイルスは血管にある内皮細胞のACE2のリセプターに接着し、細胞を壊します。傷つき炎症を起こした血管の周囲に、小さな血の塊り(血栓)ができます。この血栓が、小さな血管を塞いで、詰まらせてしまいます。血栓が心臓や肺の血管に詰まると、心筋梗塞や肺梗塞になり、重症化します。ウイルス性の肺炎があれば、さらに悪化し、死亡するリスクが高まります。

 また、欧米では川崎病類似の症状を示す、小児多臓器系炎症性症候群(MIS-C)が報告されています(ファクトシートはこちら)。我が国では今のところ、そのような症例は見られないようです(日本川崎病学会の声明はこちら)。

      
 *図は忽那賢志「総説 新型コロナウイルス感染症」から転載

   参考:峰宗太郎;どんなウイルスで、どのように感染するのか? 新型コロナウイルスのそもそも論

        Michael J. Carter, et al:Peripheral immunophenotypes in children with multisystem inflammatory syndrome associated with SARS-CoV-2 infection.nature medicine.26.1701-1707.2020.(日本語訳はこちら

       日本川崎病学会、日本川崎病研究センター:川崎病とCOVID-19に関する報道について

最初に戻る


新型コロナウイルスSARS-CoV-2の診断へ進む
コロナ情報コーナーに戻る