Ⅲ.新型コロナウイルス感染症の集中治療と治療薬

 次に新型コロナウイルス感染症COVID-19の治療薬について、見ていきたいと思います。いくら、検査を行っても、治療が出来なければ新型コロナウイルス感染症は制圧できません。一般的治療、治療薬について、見ていきましょう。


一般的治療

人工呼吸

 SARS-CoV-2は呼吸器に感染し、肺炎を起こし、しばしば致命的になります。重症肺炎に進展し、呼吸不全が進行すれば、①ネーザルハイフローHFNC、②非侵襲的陽圧人工換気NPPV、③侵襲的陽圧人工換気IPPVなどの呼吸管理が行われます。通常の呼吸で十分な酸素が供給できなくなれば、人工呼吸器の力を借りて、酸素を補給し、炭酸ガスを排出します。エアゾルの発生に注意して、呼吸管理を続けます。

①鼻から高圧酸素を流入させます。 ②気管挿管などはせず、マスクで人工呼吸を行います。



エクモ ECMO (Extracorporeal membrane oxygenation)

 
エクモとは、「体外式膜型人工肺」のことで、血液を体の外に一度抜き出し、人工肺で酸素を加えて、炭酸ガスを逃がし、再びその血液を体の中の血管に戻す装置のことを言います。

 右図のように、一度血管の中に太いチューブを通して、ポンプの力で大量の血液を体の外に抜き出し、膜型人工肺Oxygenatorで酸素を溶け込ませ、炭酸ガスを取り除き、動脈血のように酸素が十分含まれた血液にして、再び太いチューブから体の中に戻します。

 ちょうど血液透析と似ていて、透析では腎臓の代わりに人工腎臓(透析装置)が老廃物を血液中から洗い出しますが、人工肺は肺の代わりに酸素を血液に加えます。

 この間に、肺と心臓を休ませ、肺が回復するまでの時間稼ぎをするのがエクモの役目です。したがって、肺が回復しないとエクモから離脱することは出来なくなります。エクモは究極の治療では無く、あくまで生体が回復するまでの緊急避難的な、しかし最強の治療です。エクモを行えば、誰でも助かるわけではありません。

 また、血液を良い状態に維持しつつ(血が止まらなくなったりします)、体の状態を安定させながら、エクモを続けることは極めて高度な全身管理が要求され、エクモに習熟した最高レベルのスタッフが必要とされます。そのため、どこでも無制限にエクモを実施できるわけではありません。


(図はTamim Hamdi et al:Review of Extracorporeal Membrane Oxygenation and Dialysis-Based Liver Support Devices for the Use of Nephrologistsより転載)


その他の管理

 適切な輸液管理(点滴)と昇圧剤(ドパミン、ドブタミンなど)による循環管理が重要です。

始めに戻る


 
治療薬

 新型コロナウイルス感染症の対する治療薬について、現在目まぐるしく情勢が動いています。


 
死亡率の改善や入院期間の短縮に効果がなかっ
日本集中治療医学会は10月14日、「日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)特別編」「COVID-19 薬物療法に関するRapid/Living recommendations第二版」を発表し、新型コロナウイルス感染症に対する治療薬として、
 ①
デキサメサゾン(ステロイド)は酸素投与/入院加療を必要とする中等症患者、ならびに人工呼吸器管理/集中治療を必要とする重症患者に投与することを強く推奨
 ②
レムデシビルは酸素投与/入院加療を必要とする中等症患者、ならびに人工呼吸器管理/集中治療を必要とする重症患者に投与することを弱く推奨
 ③
ファビピラビルは酸素投与を必要としない患者に投与することを弱く推奨
 ④
トシリズマブは酸素投与/入院加療を必要とする中等症患者に投与することを弱く推奨
 ⑤
ハイドロキシクロロキンは全てのCOVID-19患者に投与しないことを強く推奨(=推奨しない)、
と言うガイドラインを示しました。(原文はこちら

 10月15日、WHOは、新型コロナウイルス感染症の治療薬のうち、デキサメタゾンは有効だが、レムデシビル、ヒドロクロロキン、ロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ)、インターフェロンは死亡率の改善や入院期間の短縮にほとんど効果がなかった、と発表しました。(報道はこちら 

 10月16日
、アビガン(ファビピラビル)はようやく臨床試験の成績がそろい、製造元の富士フイルム富山化学は国に製造販売の承認申請を行ったと発表しました。(フジフィルムの発表はこちら

 10月22日、富士フィルム富山化学はアビガ
(ファビピラビル)を中国で展開するため、中国の製薬会社「安徽康瓴薬業」と提携すると発表しました。(報道はこちら

 10月22日、米食品医薬品局(FDA)は新型コロナウイルス感染症で入院が必要な患者の治療薬として、レムデシビルを正式に承認したと発表しました。(報道はこちら)(この時点まで、レムデシビルは、アメリカでは正式なコロナ治療薬ではなかったのです。)

 10月20日、WHOは10月15日の発表からさらに進んで、レムデシビルについて、症状の軽重にかかわらず、新型コロナ患者には使用しないよう勧告しました。致死率などの改善効果は実証されていない一方で、副作用や医療現場の負担を挙げました。(報道はこちら

 新型コロナウイルスのワクチン開発も迷走していますが、コロナ治療薬に関する情報も錯綜しています。

 この章では、11月20日現在のCOVID-19治療薬に関する情報を整理し、医学的ファクトに基づいた新型コロナウイルス感染症治療薬の現状を見ていきたいと思います。



 まず、各治療薬の役割を理解するために、忽那賢志医師の「感染症専門医」(ヤフーブログ)から、わかりやすい図を引用させていただき、説明いたします(図はこちらから引用)。

 新型コロナウイルス感染症は、まずSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)が飛沫感染、接触感染、一部空気感染によって、ヒトの呼吸器に侵入して、始まります。

 ヒトの呼吸器に侵入したSARS-CoV-2は、呼吸器の細胞の中に潜り込み、増殖していきます。(右下図)

 そのときに感染した人は、咳、鼻水、熱などのかぜ症状をおこします。しかし、80%の感染者は、この軽いかぜ症状でおさまり、治ってしまいます。

 したがって、この8割の人は、コロナ治療薬の投薬を受ける必要ありません。(右上図)

 しかし、残りの20%のヒトは、段々肺がおかされ、肺炎に進展していきます。この時期に胸部MRIを撮影すると、左右の肺の下部に影を認めます。

 このウイルスが増殖し、肺などからだの各組織を侵し始めたときこそ、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬が有効と考えられます。

 しかし、5~10%の感染者はさらに症状が進みます。肺炎は悪化し、呼吸が苦しくなります。身体を守るために発動された免疫機構は、極度に活性化し、免疫の暴風サイトカインストームとなり、からだの正常細胞までが免疫反応の被害を受け、障害されるようになります。

  また、血管は傷つき、小さな血の塊=血栓が作られます。この血栓によって小さな血管は閉塞され、脳や腎臓など大切な臓器の働きが傷害されます。そして、最後には多くの臓器が機能しなくなり、患者は死亡するのです。

 このステージでは抗ウイルス薬はもはや効果はなく、身体を障害から守る炎症を抑える薬や抗凝固薬(ヘパリン)、免疫の暴走を抑える炎症性サイトカイン治療薬などの投与が必要になります。

 ステロイド薬のデキサメサゾン(デカドロン)は抗炎症薬、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤のレムデシビル(ベクルリー)、ファビピラビル(アビガン)は抗ウイルス薬、トシリズマブ(アクテムラ)は抗IL-6R抗体に属する薬です。



デキサメタゾン(デカドロン)

 まず、現在新型コロナウイルス治療薬で、
唯一死亡率を改善させることが認められている、デキサメサゾン(デカドロン)から見ていきます。

日医工HPより aspen HPより

 この薬自体はありふれた薬で、値段も100円ぐらいで非常に安価です(ちなみにレムデシビルは1人あたり25万円です)。また、大量に一般臨床に出回っている薬なので、欠品になる心配もありません。

 注射薬と飲み薬(錠剤、シロップ=エレキセル)があります。小児科領域でも、クループ症候群、気管支喘息などの治療で、よく処方されています。(デカドロンの添付文書医薬品インタビューフォームデカドロン

 このありふれたデキサメサゾンが、イギリスの臨床研究RECOVERY試験=後述)で重症の新型コロナウイルス感染症患者に有効であることが確認され、現在COVID-19の治療薬として使用されるようになりました。(まるでメーテルリンクの青い鳥のような話しですね。)

①効果と作用機序

 デキサメサゾン(デカドロン)は合成副腎皮質ホルモン(ステロイド)製剤です。

 体内で作られる副腎皮質ホルモンの一つ、コルチゾール(ヒドロコルチゾン)は人体内で多く生成されており、主な作用は炎症を抑える作用、免疫を抑制する作用、細胞の増殖を抑える作用などが上げられます。

 デキサメサゾンはこのコルチゾールを元に作られた薬剤で、内分泌の病気、関節リウマチなどの自己免疫疾患、気管支喘息などのアレルギーの病気、白血病などの血液がんの病気など、いろいろな病気や病態に広く使われてきました。このデカドロンの炎症を抑えるは働きが、新型コロナウイルス感染症の重症患者の免疫の暴走=サイトカインストームに有効だと考えられています。

 すなわち、デキサメサゾンがCOVID-19の経過中、宿主免疫反応の時期に投与される薬剤です。

②副作用
 
 しかし、ステロイド薬は多くの有効な働きを持つ反面、多様な副作用も示します。(驚くべき事に、未だに薬害カルトの呪縛から覚めきらず、ステロイドは身体に悪いと信じ込んでいる人と、たまに出会うことがあります!20年前のテレビの洗脳の害毒は恐るべき物があります。)

 主なステロイド剤の副作用や注意点は以下の通りです。 
高血糖   肝臓や筋肉のグリコーゲンの合成が促進されたり、体内での糖の利用の低下などにより、高血糖となることがあります。
消化器障害   胃粘膜の保護作用が低下し、消化性潰瘍を起すことがあります。
眼症状  蛋白異化作用により、白内障が進行する場合や眼圧上昇によって緑内障の悪化する可能性があります。
骨粗しょう症  腸からのカルシウム吸収が低下し、骨粗しょう症や骨折などが起こりやすくなります。
感染症  免疫が抑えられ、感染を起しやすくなります。

 ステロイド剤を使用する場合は、副作用には注意ながら、治療を続けていくことになります。しかし、新型コロナウイルス感染症の重症例に対しては、副作用より圧倒的に使用するメリットの大きい薬だと評価されています。

③COVID-19に対する臨床効果

 2020年6月16日、英国オックスフォード大学が主導して行われた、RECOVERY試験の結果、デキサメサゾンは重症COVID-19患者の死亡率を減少させることが報告されました(原著はこちら)。

 このRECOVERY試験の内容は、英国175医療機関が参加し、デキサメサゾン6mgを1日1回10日間、服薬または静脈内注射行った2,104人と、 ふつうの標準的治療を行った4,321人の死亡率を比較した研究です。

 結果は、治療開始から28日間の死亡率は、人工呼吸管理を装着した患者においては、デキサメサゾン治療群で29.0%、標準的治療群で40.7%とデキサメサゾン群が2/3であり、酸素吸入のみの患者では、デキサメサゾン治療群で21.5%だったのに対し、標準治療群では25.%とデキサメサゾン治療群が4/5と有意に減少していました。しかし、酸素投与も必要としない軽症では17.0%と13.2%と差は認めませんでした。(日本語の解説はこちら

 この結果を受けて、厚労省は7月17日発行の「新型コロナウイルス感染症診療の手引き第2.2版」に、デキサメサゾンを標準的治療法として掲載しました。こうして、デキサメサゾンはコロナ患者に使う場合、治療費は公費で補助される薬剤となりました。ただし、軽症のコロナウイルス患者には有用性は示せませんでした。

 集中治療医学会のガイドラインでも、中等症~重症のCOVID-19患者に強く推奨する、唯一の薬剤になっています(上記参照)。

始めに戻る



レムデシビル(ベクルリー)

 レムデシビル(ベクルリー)とファビピラビル(アビガン)は、ともにRNAポリメラーゼ阻害薬と呼ばれる抗ウイルス薬です。両者は似たような作用を持つ薬で、レムデシビルは点滴注射薬、ファビピラビルは錠剤(飲み薬)と投与方法が異なります。
 
 ウイルスは植物に分類される細菌とは異なり、 自分で増殖することが出来ず、他の動物の細胞を利用して自己を増やしていきます。いわば、ウイルスとは「生きている遺伝子」というべき存在です。

 ヒト細胞表面のACE2(エース2)受容体に接合して細胞内に侵入した、新型コロナウイルスの遺伝子=RNAは、ヒト細胞内で殻から脱出し、ヒトの細胞成分を使って勝手に自分自身を複製していきます。(まるで寄生虫のようですね。)

 レムデシビル、ファビピラビルはこの作業を行う、RNAウィルス(インフルエンザウィルス、新型コロナウイルスなど)のRNAポリメラ-ゼの働きを抑えることで、ウィルスの複製、増殖を抑えます。(下の図は忽那医師の「感染症専門医」から引用させていただきました。)

効果と作用機序

 レムデシビル(ベクルリー)はもともとエボラ出血熱の治療薬として、開発された薬でした。

 NIAID(アメリカ国立アレルギー・感染症研究所)や、開発会社ギリアド・サイエンス社の行った臨床第3相試験(新薬の最後に行う大がかりな臨床検査)で、COVID-19患者の回復までの期間を短縮するという結果が得られたため、2020年5月1日にアメリカFDA(食品医薬品局)は、この薬を新型コロナウイルス感染症に対する治療薬として、緊急使用を承認(EUA)しました。

 これを受けて、我が国でも国内での臨床試験などは行わず、アメリカが認めたからという理由で、2020年5月7日に厚労省は特例承認したのです。

 アメリカで緊急承認され、1週間もたたないうちに慌ただしく日本でも特例承認されたレムデシビルですが、肝心の新型コロナウイルス感染症に対する効果については、有効という報告と無効という報告があります。

 まず、無効という報告ですが、中国で237例の重症COVID-19患者に対し、レムデシビルを投与した結果、有意な臨床的を改善認めなかったという報告が行われました。(原文はこちら

 また、2020年11月20日に、世界保健機関(WHO)は、レムデシビルを新型コロナ患者には症状の重さにかかわらず、使用しないよう勧告しました(報道はこちら)。すでに10月段階で、WHOは自らが主導する国際的な治験研究において、レムデシビルなどが入院患者への効果が「ほとんどないか、全くなかった」という暫定結果を発表していました。(報道はこちら

 ただ、今回WHOによるレムデシビル不使用の勧告は、致死率などを低下させる効果が認められず、逆に副作用の可能性や医療現場の負担があるためだそうです。
メリットがないことが証明されたわけではなく、副作用の可能性やコスト、静脈注射が必要であるというような医療リソースへの負担を考慮したためという、純粋な医学的根拠というよりは、米中対立のなかで、キナ臭い政治臭プンプンのアメリカへの意趣返しのような「勧告」にもみえてしまいます。

 一方、NIH(アメリカ国立衛生研究所)が多国間医師主導治験として、1063人に投与した結果は、レムデシビル投与群が11日、偽薬(プラセボ)投与群が15日と、回復までの期間がプラセボ群より5日少ない結果で、有効だったと報告しました。

 10月11日、米食品医薬品局(FDA)はレムデシビルを正式にCOVID-19医療薬として認可しました。(報道はこちら

 我が国では、国立国際医療研究センターが張り切って、レムデシビルの国内の元締めを引き受けているようです。(国立国際医療センターの情報誌の記事はこちら

 レムデシビルはウイルス増殖期と宿主免疫反応期の重なる時期に投与されます。(抗ウイルス剤のため、ウイルス増殖期しか効果はない。)有効のようですが、効き目は弱い薬と評価されています。
 集中治療医学会のガイドラインでも、中等症~重症のCOVID-19患者に弱く推奨、とされています(上記参照)。

副作用

 肝機能障害、下痢、皮膚の発疹、 腎機能障害などが見られ、重篤な副作用として全身の多臓器不全、ショック、急性腎障害などが報告されています。肝障害、腎障害は重症化することがあり、要注意のようです。


③COVID-19に対する臨床効果

 ベクルリー(レムデシビル)は5月7日から特例承認薬として、我が国で使用できるようになりました。
  1.酸素飽和度94%以下(酸素飽和度は体の中の酸素の濃度をみます。 酸素飽和度が95%を切ると、低酸素状態と評価されます。)
  2.酸素吸入を要する(1.と同じです)
  3.体外式膜型人工肺(エクモ)導入
  4.侵襲的人工呼吸器管理を要する(人工呼吸参照)

 のいずれかに当てはまる、重症患者を対象に投与されています。しかし、このステージは基本的に抗ウイルス剤よりは、抗炎症剤やサイトカイン阻害剤の出番であり、ベクルリーの効果は始めから限定的と思われます。

④問題点

 世界各国への配布、米国本国の使用量の確保などのため、日本への配分は少量のようです。そのため、厚生労働省が流通を独占管理し、 新型コロナウイルス感染症の重症患者を診ている医療機関に配分するなど、厚労省のペーパー医者役人の特権的所有物となっています。

 同系統の経口薬のアビガンが広汎に投与される事態になると、ベクルリーの価値が下がるため、厚労省の役人は省益を守るため、お太鼓族記者を使って、アビガン認可をいろいろ妨害をしているという見方があります。

       *Gem Med:新型コロナ治療薬「レムデシビル」、 供給量に限りがあるため厚労省から医療機関に配分

始めに戻る



ファビピラビル(アビガン)

 ファビピラビル(アビガン)はもともと新型インフルエンザウイルス感染症のパンデミック対策の治療薬として、富山大学の白木公康教授のグループと富山化学(現富士フイルム)によって開発された、抗インフルエンザウイルス薬です。

 開発当時、アビガンは新型インフルエンザパンデミックの時、人類を救う切り札として大きな期待がかけられました。

 ところが、マウスの動物実験で催奇形性が認められたため、新型インフルエンザパンデミックの時、他の薬が効かない場合にのみ使用という条件で、 非常用パンデミックインフルエンザ対策用として備蓄されることになりました。


 しかしこの薬は、RNAポリメラ-ゼを阻害する作用があるので、インフルエンザウィルス以外にも、ノロウイルス、 エボラウイルスなどのRNAウイルスにも有効で、フランスに輸出され、アフリカ、ギニアのエボラ出血熱患者に使用されました。

 そして、今回、やはりRNAウイルスである新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対する治療薬として、再び脚光を浴びたのでした。

   *塚崎朝子:「アビガン」 で新型コロナは迎撃できるか…素朴な疑問に答える 期待のインフル治療薬・誕生秘話
 

効果と作用機序

 ファビピラビル(アビガン)は経口薬です。使用量は、初日が1800㎎ずつ(200㎎錠剤を9錠)を1日2回服用、2~5日目は1回800㎎(200㎎錠剤を4錠)を1日2回、 最大14日間服用します。(右写真はreutersより)

*新型インフルエンザ感染症では、アビガン投与量は初回1600mg-維持量600mgでしたが、 新型コロナウイルス感染症では重症熱性血小板減少症候群(SFTSの治療量に準じて、初回1800mg-維持800mgに増量されました。(日本感染症学会の「COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方第1版」)

 インフルエンザウイルスなど、ウイルスのグループは細菌(一応、植物に分類されています)とは異なり、 自分で増殖することが出来ず、他の動物の細胞を利用して、自己を増やします。

 この増殖過程のうち、ヒト細胞内に侵入したインフルエンザウィルスのRNAはヒトの細胞に侵入すると、ヒト細胞内の核に入り込み、 ヒトの細胞成分を利用して自分の複製を作らせます。

 ファビピラビルはこの作業を行う、インフルエンザウィルスのRNAポリメラ-ゼの働きを抑えることで、インフルエンザウィルスの複製、増殖を防ぎます。
 
役に立つ薬の情報~専門薬学:アビガン(ファビピラビル)の作用機序:抗インフルエンザ薬


 藤田医科大学の多施設無作為化オ-プンラベル試験では、PCR陰性化、解熱までの時間がアビガン投与群がプラセボ群と比較して早かったものの、症例数が少なく、統計学的有意差は認められませんでした。

 アビガン投与後6日目まで累積ウイルス消失率は、通常投与群(アビガン投与群)で66.7%、遅延投与群(アビガン非投与群)で56.1%でした。
 37.5℃未満への解熱までの平均時間は通常投与群(アビガン投与群)で66.7%、遅延投与群(アビガン非投与群)で56.1%でした。(藤田医科大学の最終報告はこちら

 10月16日、富士フイルム富山化学はアビガン錠(ファビピラビル)の製造販売承認事項の一部変更承認申請を行いました。

 アビガンを投与した156例を解析した結果、 プラセボ投与群(標準治療+プラセボ投与)14.7日に対し、アビガン投与群(標準治療+アビガン投与)は11.9日と、肺炎を合併したCOVID-19患者へのアビガン投与で2.8日症状を短縮することが、統計学的有意差(p値=0.0136)をもって確認されたのです。
(右図。白木公康新型コロナウイルス感染症COVID-19に対するアビガン承認に向けてより転載)

 アビガンはレムデシビルより一段階前、ウイルス増殖期の肺炎初期に投与し、合併症の進行を抑えることが期待されているのです。

 集中治療医学会のガイドラインでも、中等症のCOVID-19患者に弱く推奨する、薬剤となっています(上記参照)。

②副作用

 アビガンは動物実験で胎児が死亡したり、催奇形性の報告があったため、新型インフルエンザ対策の備蓄用薬剤として認可はされたものの、 一般診療で抗インフルエンザ薬として使用することはできませんでした。

 このファビピラビルの致死、催奇形性は、RNA依存性RNA合成酵素阻害薬としてテロメラーゼの働きを阻害するため起こると考えられています。
 テロメラーゼとは、ヒトの細胞内で遺伝子の長さを調節したり、遺伝子の発現に関係したりする、受精卵や幹細胞、がん細胞などに存在する酵素です。

 ファビピラビルはこのテロメラーゼの働きを阻害するため、胎児が死亡したり、遺伝子の働きが障害され、先天異常が発生したりするようです。しかし、これはアビガンに特別な副作用ではなく、他のRNA依存性RNA合成酵素阻害薬でもみられます。例えば、C型慢性肝炎の治療薬であるリバビリンにも同様の致死、催奇形性が認められています。(リバビリンの医薬品情報

 そのため、もしもアビガンがCOVID-19に投与が可能になれば、生殖年齢の女性の場合は投与前に妊娠していないことを確認した上で、 服用期間中及び投与終了後7日間は避妊をしなければならない、とされています。男性もまた、精液中へ移行することから、 投与期間中及び投与終了後7日間までは避妊(必ずコンドームを着用)すること、妊婦とは性交渉を持たないことが必要です。
 
 その他の副作用としては、尿酸値が上昇するため、痛風の症状を悪化させる可能性があります。しかし、藤田医科大学の報告では、血中尿酸値の上昇が84.1%に見られましたが、内服終了後ほぼ全員平常値まで回復し、痛風を発症した患者もいなかったということです。

 また、大きな錠剤を最初の日は朝、夕それぞれ9錠ずつ服用しなければならず、高齢者には少し負担になるという場合もあるようです。 (この時はお湯で溶いて、胃チューブで胃に注入してもよいそうです。
COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方第1版」)

 アビガンは、妊娠可能な女性以外の服用は、特に問題はありません。
すでにアビガンは中国、インド、ロシア、日本などで多数の臨床使用例が蓄積されていますが、 目立った副作用の報告は認められていません。

③COVID-19に対する臨床効果


 アビガンは我が国のコロナ患者に202035月の第2波の流行時に広く、 治験という名目で投与されました。2020515日の時点のまとめで、407施設から2158例が登録され使用され、患者の症状改善に大きく貢献してきたのです。
 当時の日本感染症学会HPにも多数の症例報告が発表されています。

 安倍首相を始め、政府、医療関係者もアビガン早期認可に積極的で、アビガン認可も間近という情勢でした。

 ところが、この流れが一変したのは、2020518日に発表された、日本医師会COVID-19有識者会議による 「新型コロナウィルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」の発表でした。 この医師会有識者会議にはそうそうたる医療界の重鎮が名を連ねており、その声明は大きな影響力を持っていました。

 この発表された緊急提言は、2020年5月7日に特例承認されたレムデシビルを治療の中心になる薬剤と持ち上げる一方、 アビガン(「ある既存薬」と表現)を臨床試験も不十分で、急いで認可する必要のない薬剤、早く認可すると禍根を残すとまで言い切り、徹底的に断罪したのです。この結果、アビガンの早期承認は消滅しました。かげでこそこそ工作した、厚労省のペーパー医者役人の完勝でした。
(この「日本医師会COVID-19有識者会議」による 「新型コロナウィルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」に対する当クリニックの見解はこちら

 なぜ、厚労省のペーパー医者役人はアビガンを憎み、その認可に徹底的に抵抗しているのでしょうか。毎日新聞、時事通信、朝日新聞などのお太鼓癒着族記者どもに醜い悪意に満ちた誹謗記事を書かせてまで。

 アビガンのライバル、レムデシビルは厚労省のペーパー医者役人の今や私有物になっています。彼らの番頭=国立国際医療研究センターはレムデシビルの国際共同医師主導治験に参加しています。 國土典宏国立国際医療研究センター理事長は、有識者会議のメンバーです(医師会COVID-19有識者会議メンバー)。

 さらに、安倍首相(当時)がアビガン認可に積極的だったため、アベガー左翼も安倍が憎けりゃ、アビガン憎い、とばかりに、厚労省のペーパー医者役人と組んで、アビガン認可反対に回ったのでした。(下劣な一例はこちら

 そのため、アビガンはもともとCOVID-19に有効な治療薬(少なくてもレムデシビルと同程度には)であり、藤田医科大学の治験は症例数が少なく、統計学的に有意差が出なかっただけにもかかわらず、彼らは大喜びでアビガンは効果がないと吹聴して回ったのでした。

 そして、富士フイルム富山化学がデータをそろえて1016日に申請を行ったにもかかわらず、 またまた族記者に誹謗記事を書かせて、引き延ばしを図っているのです。その一例を示します。

  アビガン 政府審査 3週間で終了計画 申請前から「11月承認」  
 厚労省のペーパー医者役人が毎日新聞アベガー族記者に情報を流し、アビガン承認を送らせるために、醜い下劣な記事を書かせています。この与太記事を書いた、アベガー毎日族記者は恥ずかしくないのでしょうか。自らを恥じて、先輩のありがたい著作を熟読することを勧めたいと思います。

   →小島正美『メディア・バイアスの正体を明かす』(エネルギーフォーラム新書)
 
 承認計画「あり得ない」 コロナ治療薬アビガン―田村厚労相
 厚労省のペーパー医者役人の目論見通り、こんな発言が飛び出しました。コロナ第3波に苦しむ患者を置き去りにして、アビガンの認可はさらに遅れて、12月にずれ込む勢いです。

 ザイム官僚は苦しむ人々の怨嗟の声を横目に消費税10%を断固死守し国民を飢えさせ、厚労省のペーパー医者役人はアベガー左翼族記者と手を組び、彼らの利権を脅かすアビガンを絶対に認可しないために必死の抵抗を続けています。彼ら官僚にとっては、何を置いても省益-利権が最重要で、そのために国が滅びても良いようです(先の大戦の惨禍のように)。


 この間、さまざまな新型コロナに関する講演会に出席しましたが、アビガンは中等症の肺炎の患者に、デキサメタゾン、レムデシビル、アクテムラ(抗IL6R抗体)は重症患者に使用したい。認可さえされれば、アビガンを使用したいという医療関係者の声も多いです。(認可されてもいやなら、使わなければ良いだけですから)

 
新型コロナウイルス感染症第3波に対し、早くアビガンを認可して、中等症以上のCOVID-19に投与できる体勢を構築すべきです。アビガン開発者の白木公康教授も、重症化阻止を目的とした早期投与を推奨しているのです。

④問題点

 省益と利権しか考えない厚労省のペーパー医者役人がアビガン承認に徹底的に抵抗していることが最大の問題点です。彼らがアビガンの承認に頑として抵抗しているのは、アビガンの競合薬であるレムデシビルの利権にどっぷり使っていること。レムデシビルの利権を守るために、アビガンは邪魔な存在。できれば抹殺したいとあからさまに策動しています。

 さらに富士フィルムは厚労省官僚の「親しい」企業ではない、とか、アビガン開発者の白木公康博士は厚労省官僚のお気に入りでもなく、学会のボス的お偉いさんでないことも影響しているのではないか、という見方もあるようです。

始めに戻る

ナファモスタット(フサン)

①効果と作用機序

 ナファモスタット(「注射用フサン」)は、蛋白分解酵素を阻害する作用や急性膵炎を抑える作用などを持ち、急性膵炎や出血傾向のある患者さんの治療に用いられてきました。

 コロナウイルスは、ウイルスの表面のスパイク蛋白質を、ヒト細胞膜のACE2(アンジオテンシン転換酵素2)受容体に結合させます。

 次に、スパイク蛋白質をタンパク分解酵素TMPRSS2(テムプレス2)の働きによって分解させ、さらに活性化し、ウイルスとヒト細胞膜を融合させ、ヒト細胞内に侵入します。(右図)

 ナファモスタット(フサン)はセリンプロテアーゼ阻害作用によって、この蛋白分解酵素TMPRSS2(テムプレス2)の働きを抑えます。

 そのため、コロナウイルスはヒト細胞内への侵入できません。そのため、コロナウイルスの感染を防ぐことができると考えられています。

   参考:井上純一郎・山本瑞生(東京大学医科学研究所) 新「型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定より。図も引用。

②副作用

 ショック、アナフィラキシー様症状、高カリウム血症、血小板減少、白血球減少、肝機能障害、黄疸などの報告があります。

③COVID-19に対する臨床効果

 東大医学部附属病院は「アビガン」と「フサン」の併用療法を行い、重症COVID-19患者11例中10例で臨床症状の軽快がみられたと報告しました。(くわしくはこちら


   参考:医療用医薬品 : フサン 写真は日医工HPから

始めに戻る

トシリズマブ(IL-6阻害薬:アクテムラ)

①効果と作用機序  
 トシリズマブは、中外製薬が作り出した抗IL-6受容体阻害剤という注射薬で、製品名を「アクテムラ」といい、点滴注射、皮下注射で使用します。
  (右写真は、アクテムラ点滴静注用400mg。中外製薬HPより)

 新型コロナウイルス感染症は通常は1週間ぐらいで軽快しますが、20%ぐらいの人が肺炎になり、2~3%のヒトが重症化します。この重い肺炎は、急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratori Distress Syndrome ;ARDS)と呼ばれ、免疫の暴走が原因で起こることがわかっています。

 この免疫の暴走に深く係わっているのが、炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)です。トシリズマブ(アクテムラ)はIL-6より先に肺組織に働き、IL-6が肺のリセプターに結合し、炎症を起こすことを妨害します。その結果、免疫の暴走によっておこる、重症肺炎の悪化をやわらげる働きが期待されます。

     *アクテムラの概要について

②副作用

 アクテムラは現在、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、スチル病、高安動脈炎などのいわゆる膠原病に使われています。

 副作用はアナフィラキシー、IL-6の働きを抑えるため、感染症にかかりやすくなったり、重くなる可能性があります。また、白血球や血小板という血液成分が少なくなる可能性があります。

③COVID-19に対する臨床効果

 トシリズマブ(製品名「アクテムラ」)の新型コロナウイルス感染症に対する臨床試験を中外製薬が5月に始めるそうです。また、中外製薬の親会社のロッシュも海外で臨床試験を始めています。

 また、同じ抗IL-6受容体阻害薬のサリルマブ(製品名「ケブザラ」)も欧米で臨床試験が実施されており、日本でも近く試験が始まる見通しです。両剤はいずれも、日本で主に関節リウマチの治療薬として使われています。

      *旭化成ファーマ:ケブザラについて

 中国では、さらに別のの抗IL-6受容体阻害薬を用いた、臨床試験が行われているようです。

 トシリズマブは、IL-6の働きを抑制することによって、あくまでCOVID-19のサイトカインストームを鎮める薬です。新型コロナウイルス感染症そのものの治療薬ではありません。したがって、単独投与ではなく、アビガンなどの抗ウイルス薬と併用することが、基本となります。

始めに戻る

2020.11.22更新

新型コロナウイルス感染症総説に戻る
新型コロナウイルス感染症ワクチンについてに進む
コロナ情報コーナーに戻る