アトピー性皮膚炎について-後編

2024年11月15日更新




Ⅲ.アトピー性皮膚炎の治療

①治療の考え方

アトピー性皮膚炎は、適切な治療により症状がコントロールされると、「寛解(かんかい)」といわれる状態となります。

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下と免疫異常を基盤に、さまざまな因子が関係して発症してくる病気のため、残念ながら完全治癒治難しく、生活環境や生活習慣、精神状態などによって、再び症状がぶり返すことがあります。

そのため、アトピー性皮膚炎の治療は、
「症状がないかあっても軽く、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、維持すること」
「軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないこと」

を目標に行われます。

アトピー性皮膚炎の治療は、「薬物療法」、「スキンケア」、「悪化因子の検索と対策」が三本柱となります。

炎症(皮膚が赤く腫れて、かゆくなること)に対しては、ステロイド外用薬や非ステロイド系のプロトピック軟膏、コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏を個々に、あるいは組み合わせて用いて、さたに保湿剤によるスキンケアをしっかりと行います。

しかし、治療により皮膚が一見きれいになったように見えても、実は皮膚の深い層に炎症が残っている場合もあり、そのような例では治療を途中で止めると、すぐに再燃し元も木阿弥に戻ってしまいます。

そのため、現在では炎症を確実に鎮める、「プロアクティブ療法」と呼ばれる治療方法が推奨されています。(「プロアクティブ療法」については後述します)



②治療の三本柱


アトピー性皮膚炎の治療は前項で述べたように、「薬物療法」、「(皮膚の生理学的異常に対する)外用療法やスキンケア」、 「原因・悪化因子の検索と対策」の三本柱で進めます。

① アトピー性皮膚炎の、皮膚の炎症と痒みを抑える、薬物療法
② アトピー性皮膚炎の、皮膚の炎症を予防する、スキンケア
③ アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子をさがして、可能なら除去


以下、それぞれの治療について、具体的に述べていきます。



1.炎症やかゆみを抑える薬物療法(外用薬=軟膏)


ステロイド外用薬は、その有効性と安全性が医学的に山ほど検証されており、現在多くのアトピー性皮膚炎のお子さまが痒みの無い、快適な日常生活を過ごすことに、大きく貢献しています。

アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症は速やかに、そして確実に鎮火させることが重要です。
そのため、ステロイド外用薬を中心に、プロトピック軟膏、新たに登場したコレクチム軟膏、 モイゼルト軟膏を組み合わせて、治療を進めます。



ステロイド外用薬(軟膏)

●効果
ステロイド外用薬は、炎症を抑え、皮膚の状態を改善します。アトピー性皮膚炎の標準的治療の中心となる薬です。

ステロイド軟膏は、炎症を抑える強さによって、
①1群 ストロンゲスト(極めて強い)
②2群 ベリーストロング(かなり強い)
③3群 ストロング(少し強い)
④4群 ミディアム(少し弱い)
⑤5群 ウィーク(弱い)
と、5つのランクに分類されます。

実際の外用薬を、示します。(下図)

  強さ 一般名 製品名
Ⅰ群 ストロンゲスト(きわめて強い)   
プロピオン酸クロベタゾール  デルモベート 
    酢酸ジフロラゾン  ジフラール、ダイアコート 
Ⅱ群  ベリーストロング(かなり強い)  
フランカルボン酸モメタゾン フルメタ 
    酪酸プロピオン酸ベタメタゾン アンテベート 
    フルオシノニド  トプシム、シマロン 
    ジプロピオン酸ベタメタゾン  リンデロンDP 
    ジフルプレドナート  マイザー 
    アムシノニド  ビスダーム
    吉草酸ジフルコルトロン  ネリゾナ、テクスメテン 
    酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン  パンデル 
Ⅲ群 ストロング(少し強い)
    プロピオン酸デプロドン エクラー
プロピオン酸デキサメタゾン
メサデルム
    吉草酸デキサメタゾン ボアラ、ザルックス
    吉草酸ベタメタゾン リンデロンV、ベトネベート
    プロピオン酸ベクロメタゾン プロパデルム
    フルオシノロンアセトニド フルコート
Ⅳ群  マイルド(穏やか)
    吉草酸酢酸プレドニゾロン リドメックス
    トリアムシノロンアセトニド レダコート、ケナコルトA
    プロピオン酸アルクロメタゾン アルメタ
    酪酸クロベタゾン キンダベート
酪酸ヒドロコルチゾン ロコイド
    デキサメタゾン グリメサゾン、オイラゾン
Ⅴ群 ウィーク(弱い)
    プレドニゾロン プレドニゾロン
酢酸ヒドロコルチゾン コルテス

当クリニックでは、下記のようなステロイド軟膏の写真で示し、患者さんとステロイド軟膏のランクを確認しながら、治療を進めています。
(写真は、マルホ:ステロイド外用薬の使い方パネル)

当クリニックが良く処方するのは、パンデル軟膏(Ⅱ群)、リンデロンVG軟膏(Ⅲ群)、リドメックス軟膏、 キンダベート軟膏、ロコイド軟膏(Ⅳ群)です。

ステロイド軟膏の処方の目安は、下表の通りです。

   皮膚の状態  外用薬の種類
 重症 高度の腫れ、浮腫、ジュクジュクした赤み、ないしはゴワゴワの皮膚、プツプツの多発、 ひどいフケ状やかさぶたの付着、小さな水ぶくれ、びらん、多数のひっかき傷、痒みのしこりがみられる状態  Ⅱ群のステロイド剤(必要ならⅠ群)
 中等症  中等度の赤み、カサカサむける、小さいプツプツ、ひっかき傷  Ⅲ群~Ⅳ群のステロイド剤
 軽症  乾燥、および軽度の赤み、カサカサむける皮膚   Ⅳ群のステロイド剤
 軽症  赤かったり、痒みなど無く、乾燥のみの皮膚  保湿剤


ステロイド外用薬の剤形としては、軟膏、クリーム、ローション、テープがあります。

髪の毛のある頭髪部はローションが塗りやすく、外用薬のべとべとが嫌いな人にはクリームを処方しています。
ローションは、顔や体に塗ってもかまいません。

テープ剤は、ひび割れや皮膚表面が固くなった部位に使われることがあります。(当クリニックでは、あまり処方はしておりません)

●副作用

①全身への副作用
 

内服薬(リンデロンシロップ、デカドロンエレキセル、プレドニン散など)や注射薬(サクシゾン、ソルコーテフなど)はステロイド剤の全身投与になるため、 副作用が出現するリスクが高まります。

具体的な副作用としては、成長抑制、免疫抑制、満月様顔貌、白内障などが挙げられます。

一方、外用薬(軟膏)は皮膚から吸収されるステロイドの量は微量のため、副作用が起こる可能性はほとんどありません。
長期投与で、毛嚢炎、にきびや皮膚が薄くなるなどの副作用がみられること程度です。(詳しくは、②で詳述します)


②皮膚におこる副作用

外用薬のため、不適切な強さのステロイド外用薬を長期間にわたって塗り続けた場合にのみ、塗られた皮膚に副作用が起る可能性があります。

また、当クリニックはステロイド軟膏を適正に処方するため、(副作用を怖れて、弱いⅣ群ステロイド剤をだらだら処方するようなことはいたしません)副作用には常に細心に注意を払っています。

また、当クリニックはプロアクティブ療法を積極的に推進しています。そのため、もしもステロイド剤を使用中に、ご心配なことがありましたら、お気軽にいつでも何でもご相談下さい。


ⅰ)ホルモンとして直接皮膚に影響する副作用
   毛細血管が拡張して皮膚が赤くなる
   皮膚が萎縮して薄くなる、皮膚に割れ目ができる(皮膚線条)
   にきび(顔・胸に使用している場合)ができる
   背中の毛は多くなる(多毛)
   毛穴が赤く腫れる(毛包炎)


ⅱ)ステロイドが局所の抵抗力を抑えるために起こる感染症による副作用
   カンジダ皮膚炎や皮膚の化膿疹が悪化する
   ヘルペスウイルス感染症が悪化する(カポジの水痘様発疹)
   みずいぼが増える

●使用方法(塗り方)

ステロイド軟膏は、塗り方がきわめて重要です。適切に塗らなければ、十分な効果が得られません。
逆に、不十分な塗り方では、いつまでたっても効果が得られないため、いたずらに長期間塗ることによって、副作用が出現しやすくなる怖れがあります。

しかしその一方、一部のアレルギー専門病院で行われているような、あまりにも細かく場所場所を区切って、異なるランクのステロイド軟膏を塗布ような厳格な指導は、お子さまに対しても、保護者にとっても、肉体的精神的にも多大なストレスを押しつける指導であり、当クリニックは行いません。

当クリニックでは、赤ちゃんに初回ステロイド剤を処方するときや、なかなか改善しないアトピー性皮膚炎のお子さまに対しては、改めて看護師、医師からステロイド外用薬の塗り方の具体的な説明と、頻回の来院による軟膏の塗り方の繰り返しの実習を行っています。スキンケアはストレス無く、誰の負担にもならず、続けられることが大切だと当クリニックは考えています。

<ステロイド軟膏の正しい塗り方>

➊塗る人の手をまず、きれいに洗う。
➋入浴後、水分を拭き取ったら、すぐに塗る。(時間が経つと肌が乾燥してしまいます。5分以内が推奨されています)
➌たっぷり、皮膚にのせるように塗る。数カ所に乗せて、手のひらでうすく広げるように塗る。
➍頭皮に塗る場合は、地肌に到達するようにローションを垂らし、指で抑えるように延ばす。(ローションの場合)


人差し指の先端から第1関節部まで、外用薬チューブから押し出された量(約0.5g)が、成人の手のひら2枚分にあたります。この量を、
1Finger-tip-unit(FTU)といいます。

軟膏を塗るときは、このFTUを目安とします。(当クリニックでは、「ゆび単位」と呼んでいます)


ローションの場合は、1円玉の大きさが1FTU(0.5g)となります。


   顔全体FTU  片腕FTU  片足FTU  胸腹部FTU  背中FTU  全体FTU
3ー6ヶ月児  1  1  1.5  1
 1.5  8.5
 1-2歳  1.5  1.5  2  2  3  13.5
 3-5歳  1.5  2  3  3  3.5  18
 6-10歳児  2  2.5  4.5  3.5  5  24.5



たとえば、赤ちゃんの顔(1FTU=0.5g)に軟膏を塗るとすると、1回0.5g塗ることになります。1日に2回塗れば(=1g=2FTU)、5gのチューブ1本なら、5日でなくなることになります。 (0.5g×2×5=5g)

赤ちゃんの全身に軟膏を塗るとすると、8.5FTUとなりますから、1日必要量はFTU8.5×2で17FTU=8.5gです。したがって、5gのチューブ1本では足りないことになります。

ステロイド剤は塗布する赤い炎症部分のみを大人の手の大きさ(手掌2枚分が1FTUとなります)から換算し、塗る量を算出します。

保湿剤などは、大きな容器に入っているため、人差し指を使うゆび単位ではなく、計量スプーンを用います。保湿剤の塗り方については後述いたします。

軟膏の実際の塗り方は、こちらでもくわしくご説明します。(→軟膏の塗り方



プロアクティブ療法について

アトピー性皮膚炎は、良くなったり悪くなったり、皮膚の増悪を繰り返す慢性疾患です。

湿疹がひどいときにステロイド軟膏を塗り、よくなればステロイド軟膏をやめる方式を、「
リアクティブ療法」といいます。
今まではステロイド軟膏の副作用を心配して、この方式が普通に行われてきました。

しかし、リアクティブ療法だとステロイド軟膏を止めると、またすぐ皮膚が赤くなり、湿疹がぶり返すことが多いです。

その理由は、見た目は皮膚がきれいになっても、実は皮膚の内部には炎症が残っていて、中途半端に治療をやめると、炎症がぶり返してしまうからだとわかってきました。 したがって、結局ステロイド軟膏を長期使用することになります。

そのために、現在は十分なステロイド外用薬の治療で症状を抑えた後も、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を、定期的(週1~3回)に塗って、症状の再発を抑える 「
プロアクティブ療法」が、推奨されるようになりました。

プロアクティブ療法によって、皮膚に炎症がない状態を維持することができます。また、ステロイド外用薬の使用量も、結局は少なくなるために、ステロイドの副作用もはるかに軽くすむことになります。

現在当クリニックはプロアクティブ療法を、ステロイド軟膏を中心に、コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏なども使用しながら、患者さんごとに適切な軟膏プランを立てて、実施しています。





タクロリムス軟膏(プロトピック水和物軟膏;カルシニューリン阻害薬)



タクロリムスは筑波山の土の中から発見された細菌(放線菌)が作り出す物質で、白血球のTリンパ球に働き、免疫を抑制する効果があります。

臓器移植の際の免疫抑制剤などとして使用されてきましたが、皮膚からよく吸収されるため、1999年に成人用の0.1%軟膏が、2003年は小児用の0.03%軟膏が、アトピー性皮膚炎の治療薬として認可されました。

アトピー性皮膚炎に対して、ステロイド軟膏と同じ感覚で使用できる抗炎症外用薬です。ステロイド軟膏のランクでいうと、Ⅲ群~Ⅳ群の強さに相当すると評価されています(ロコイド軟膏より強く、リンデロンV軟膏と同じくらい)。

●効果

タクロリムスは、Tリンパ球(免疫をつかさどる司令官の白血球)の細胞内で、カルシニューリンという酵素の働きを抑えます。

カルシニューリンは、もともと神経細胞内で発見され、カルシウム存在下で活性化することからこの名が付きました。その後、神経細胞以外の細胞内でも、情報(シグナル)の伝達に関与しており、特に免疫担当細胞(Tリンパ球)の情報伝達に大きな役割を果たしていることが明らかになりました。

カルシニューリンは細胞の中で、カルシウムの存在下で、NFAT(nuclear factor for activated T cell)という蛋白質から、リン酸を取り外す、「脱リン酸化」という働きをします。リン酸がとれたNFATは、細胞核内に移動し、細胞核内で免役司令官=T細胞を活性化させ、さまざまな種類のサイトカインの産生を促進します。

ところが、タクロリムスは細胞内に入ると、FKBP-12(FK506-binding-protein-12)という蛋白質と結合し、上記のカルシニューリンの作用を阻害します。(FK506は、タクロリムスの別称です)

繰り返しますが、サイトカインとは、免疫司令官=Tリンパ球が部下の免疫細胞に対する指令の蛋白質です。他の細胞の増殖を促したり、活性化させたり、その働きを抑制したりするなど、さまざまな指令(情報)を伝達します。

タクロリムス-FKBP12結合体が、カルシニューリンの作用を阻害する結果、脱リン酸化できないNF-ATは核内に移動できません。その結果、Tリンパ球の活性化が起こらず、Tリンパ球からサイトカインの合成・分泌が抑えられ、過剰な免疫反応が抑制されます。

また、タクロリムスはステロイドではないため、ステロイドの持つ細胞増殖抑制作用やホルモン作用を有しません。そのため、ステロイド軟膏を長く使った例で報告される、皮膚萎縮や毛細血管の拡張、多毛などの症状は起こりません。

●副作用

最大の副作用は、皮膚の刺激症状です。

赤みが強かったり、傷がある場所にプロトピック軟膏を塗ると、火照り感、灼熱感、ひりひり感が起こります。この症状は、軟膏を塗り始めて1~2週間たち、皮膚の状態が良くなると、消失するようです。ただし、入浴したり、日光に当たるとぶり返すこともあります。

また、カルシニューリンには免疫を抑える作用があるため、にきび(尋常性ざ創)や口唇ヘルペス、カポジ水痘様発疹などのヘルペス感染症を起こりやすくなります。

紫外線も免疫抑制効果があるため、プロトピック軟膏塗布後に長期紫外線を浴びることは控えるよう、注意されています。

発売当初、一部で声高に騒がれていた皮膚がん・リンパ腫の発生は、現在では問題が無いことが明らかにされています。

●使用方法(塗り方)

2歳以上の小児が適用です。小児では、0.03%小児用軟膏を1日1~2回、1回最大5g(チューブ1本)までを病変部に塗布します。プロトピック軟膏は、年齢別、体重別で塗る量が決められています。(下表)

2回塗るときは、大体12時間あけて塗布することが推奨されています。

 年齢  体重  1回に塗る量の上限
2歳~5歳   20kg未満  1g(=2FTU)
 6歳~12歳  20kg~50kg  2g~4g(=4~8FTU)
 13歳以上  50kg以上  5g(=10FTU)


プロトピック軟膏は、前述したように、塗るとかゆみやヒリヒリするなどの刺激感が生じますが、 皮膚の状態が改善するとこの症状は収まるようです。

ジュクジュクしている皮膚面や、口・鼻の粘膜部分や外陰部には、使用できません。また、目に入らないよう気をつけますす。

動物実験で紫外線と皮膚がんの関連が認められたため、プロトピック軟膏を塗った所には強い日光に長時間当たらないよう、注意する必要があります。(紫外線もタクロリムスも、免疫を低下させます)


●当クリニックの使用方針

プロトピック軟膏は、ステロイド剤の副作用が出やすい、顔や首(頸部)の塗布が推奨されています。また、プロアクティブ療法のさい、ステロイド剤の休薬時に、代用としても使用できます。

ステロイド軟膏と違って、段々効果が落ちていくタキフィラキシー現象も起こらないため、維持療法には使用しやすい軟膏です。

しかし、1日塗布量が決められていること、使い始めの皮膚のひりひり感、ほてりなどの症状が強いこと、ほぼ12時間はあけて塗らなければならないこと、日焼けを避けなければならないことなど、プロトピック軟膏にはいろいろな使用上の制約があります。

最近ではモイゼルト軟膏など、ほとんど副作用を気にしなくて良い、新しい非ステロイド外用薬が登場したため、現在ではプロトピック軟膏はほとんど処方しておりません。



コレクチム軟膏(デルゴシチニブ軟膏)



2020年6月にアトピー性皮膚炎治療薬の新しい外用薬として、デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)が発売されました。 さらに小児用軟膏が、2021年6月に発売となっています。

コレクチム軟膏は、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬とよばれる新しい外用薬で、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬とは異なるメカニズムで、アトピー性皮膚炎の患者の痒みを抑えます。

ヤヌスキナーゼ(JAK、ジャックと呼ばれます)とは、チロシンキナーゼという酵素の一つで、細胞の表面にあるいろいろな伝達を受けるレセプター(受容体)にくっついています。

伝達物質であるサイトカインが細胞のレセプター(受容体)に結合すると、JAKはリン酸化されて活性化します。

そして細胞内にあるSTAT(Signal transducer and Activator of Transcription)と呼ばれる転写因子を、リン酸化し活性化させます。

この活性化したSTATは、二量体という二つ結合した状態で核内に移動します。そして、サイトカインからの命令(シグナル)を核に伝達し、その命令を元にさまざまな物質が作られ、分泌されていきます。

このヤヌスキナーゼ(JAK)は、全部で4種類あり(JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2)、それぞれ異なるシグナルをSTATを通じて核に伝達します。

このJAKを通じて届けられた命令(シグナル)をもとに、細胞核はさまざまな物質を分泌します。炎症性サイトカインが大量に放出されると、皮膚に炎症がひどくなり、痒みが強くなり、アトピー性皮膚炎が悪化していきます。

コレクチム(デルゴシチニブ)は、この4つのJAKファミリーのリン酸化(活性化)を全て阻害し、STATを活性化させないため、シグナル伝達を全てブロックしてします。そのため、炎症性サイトカインの分泌が抑えられます。

その結果、皮膚の炎症を抑えられ、痒みも抑制されます。

JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤は、外用薬以外にも内服薬もあります。JAK阻害薬全般についての詳しい説明は、別稿をお読みください。

●効果

コレクチム軟膏の炎症を抑える働きは、ステロイド剤のランクでいうと、Ⅲ群~Ⅳ群レベルのようです。(タクロリムスと同程度)
しかも効果が出るのに多少時間がかかり、塗ってもすぐに皮膚の赤みがひくことはないようです。一方、痒みは速やかに抑えます。

また、皮膚の水分量を保持する働き(保湿効果)も認められています。

●副作用

特に目立った副作用はありませんが、毛のう炎、皮膚の赤み、にきび、刺激感の報告があります。また、ヘルペス感染症であるカポジ水痘様発疹、単純ヘルペスの発生に注意します。

●使用方法(塗り方)

生後6ヵ月以上が使用の対象になります。0.25%、0.5%の2種類の製剤があり、小児では主に0.25%製剤を使用します。

1日2回、病変部位に塗ります。1回の使用量(塗布量)はチューブ5g1本(=10FTU)以内で、身体の表面積の30%までとされています(手のひら1枚分の面積を、おおよそ体表面積の1%相当と評価します)。

使用の目安は、FTUの表に皮疹部位を当てはめて、塗布量を決めます。ティッシュが皮膚に着く、または皮膚がテカる程度に塗りましょう。しかし、強く塗り込む必要はありません。

小児はまず、0.25%製剤で開始します。1週間ぐらいから効果が認められ、1ヶ月ぐらいで痒みが治まってくるといわれています。効き目はマイルドのようです。子どもの症状によっては、0.5%製剤の使用も可能です。


目や口、鼻の中など粘膜面には使用できません。皮膚のただれ、感染を起こしている皮膚(とびひなど)には使用できません。
薬を塗った所に、赤や白の吹き出物やにきび、水疱などが出現したら、診察が必要です。


●当クリニックの使用方針

ステロイド剤の副作用はなく、効き目は穏やかで、使いやすい軟膏です。ただし、年齢制限と投与量の制限があります。

顔や頸部のステロイド剤の副作用の出やすいところ、またプロアクティブ療法のステロイド剤の休薬時、軽症のアトピー性皮膚炎で痒みが強いお子さまに、幅広く処方しています。



モイゼルト軟膏(ジファミラスト軟膏)



ジファミラスト軟膏(モイゼルト軟膏)は、2022年6月1日に発売された、新しいホスホジエステラーゼ4阻害薬という外用薬です。

ホスホジエステラーゼ4(PDE4)という酵素は、細胞内のサイクリックAMP(cAMP)という物質を分解する働きがあります。

ホスホジエステラーゼ4(PDE4)が働き過ぎると、免疫細胞からサイクリックAMP(cAMP)が減少します。その結果、免疫細胞は興奮し、炎症を引き起こすサイトカインなどが大量に放出されます。その結果、組織の炎症が悪化してしまいます。
(つまり、cAMPは細胞を静かにしておく、宥め役なのですね)

モイゼルトはこのPDE4の作用を阻害し、細胞内のcAMPの濃度を高めて、細胞を落ち着かせ、炎症を鎮めます。


       (図は大塚製薬モイゼルト軟膏説明パンフより)

●効果

モイゼルト軟膏の炎症を抑える働きは、動物実験の検討ではⅢ群ステロイドより弱く、プロトピック軟膏よりは強いと報告されています。

●副作用

特に目立った副作用は無く、色素沈着や痒み、毛のう炎、にきびの報告があるくらいです。

●使用方法(塗り方)

生後3ヵ月以上が使用の対象になります。0.3%、1%の2種類があります。1日2回、病変部位に塗ります。
モイゼルト軟膏は、プロトピック軟膏、コレクチム軟膏と異なり、使用量に制限はありません。

  2023年12月から、生後3ヶ月から使用できることになりました。

使用の目安は、FTUの表に皮疹部位を当てはめて、塗布量を決めます。

小児はまず、0.3%製剤で開始します。1週間ぐらいから効果が認められ、1ヶ月ぐらいで痒みが治まってくるようです。
子どもでも効果によっては、1%製剤に増量可能です。

●当クリニックの使用方針

ステロイド剤の副作用はなく、効き目は穏やかですが、特に投与量の制限もなく、使いやすい軟膏です。

顔や頸部のステロイド剤の副作用の出やすいところ、またプロアクティブ療法のステロイド剤の休薬時、軽症のアトピー性皮膚炎に幅広く投与しています。



2.炎症やかゆみを抑える薬物療法(内服薬)

近年、中等症から重症のアトピー性皮膚炎にきわめて有効な治療薬として、JAK阻害薬や生物学的製剤(抗体治療薬)といわれる薬が登場してきました。

これらの薬は重症のアトピー性皮膚炎の患者さんに著効を示し、アトピー性皮膚炎の耐えがたい痒みやごわごわ、赤ら顔のアトピーの皮膚症状が劇的に改善するという効果が報告されています。

主に成人の重症アトピー性皮膚炎患者に使用されてきましたが、JAK阻害内服薬は12歳から、抗体治療薬も生後6ヵ月から使用できる薬も登場し、当クリニックでも小中学生の中等症~重症アトピー性皮膚炎の患者さんに、投与を開始しています。

まず、新しく登場した、内服薬(飲み薬)をご説明いたします。3剤ともJAK阻害薬です。

JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤の作用、詳細は、別項で詳しく説明いたします。



サイバインコ(アブロシチニブ)

2021年12月に、アトピー性皮膚炎の内服薬として、発売されました。アトピー性皮膚炎のみが対象となる、JAK阻害剤です。

●効果

JAK1の働きを抑えます。
その効果は素晴らしく、1週間で頑固なかゆみはほぼ治まり、皮膚病変も12週で略知といえるほど、改善した状態になると報告されています。

●副作用

毛のう炎、皮膚の赤み、にきび、帯状疱疹、単純ヘルペスに注意します。服用開始後、腹痛、悪心の症状が現われることがあります。

●投与方法

12歳以上が対象です。したがって、中学生から投与できます。

1日1回、100mgを服用します。症状に応じて、200mgまで増量可能です。最近では、当初から200mgの服用を勧める報告もあります。

●投与できない人

結核、B型肝炎、貧血、白血球減少、血小板減少、重い肝障害、重い腎機能障害、妊娠している人は投与できないか、要注意とされています。

JAK阻害薬については、さまざまなヤヌスキナーゼの働きに影響するため、病気の重さ、今までの治療の経過、患者の背景などを十分に検討し、投与を患者さんと相談することが勧められています。

そのために本剤投与前、投与中も、血液検査、胸部X線検査を行い、緻密な経過観察が必要とされています。


●当クリニックの方針

12歳から投与できるので、投与基準を満たした中等症以上のアトピー性皮膚炎の中学生、高校生に投与します。

JAK阻害薬について



リンヴォック(ウパダシチニブ)

アトピー性皮膚炎以外にも、関節リウマチ、乾癬、強直性脊椎炎、潰瘍性大腸炎、クローン病など免疫異常の病気に投与される、JAK阻害剤です。

●効果

JAK1の働きを抑えます。
Ⅰか月でかゆみ、皮膚病変は急激に改善します。

●副作用

重い感染症(肺炎、帯状疱疹、結核)、消化管穿孔、好中球減少、リンパ球減少、貧血、肝障害、静脈血栓塞栓症。
その他、かぜ、副鼻腔炎、嘔気、発熱。


●投与方法

12歳以上、体重が30kg以上の小児に、リンヴォック錠15mgを1日1回投与します。

●投与できない人

結核、B型肝炎、貧血、白血球減少、血小板減少、重い肝障害、妊娠している人は投与できないか、要注意とされています。

JAK阻害薬については、さまざまなヤヌスキナーゼの働きに影響するため、病気の重さ、今までの治療の経過、患者の背景などを十分に検討し、投与を患者さんと相談することが勧められています。

そのために本剤投与前、投与中も、血液検査、胸部X線検査を行い、緻密な経過観察が必要とされています。


●当クリニックの方針

サイバインコと使用対象が重なるため、当クリニックではサイバインコを優先して投与しています。

JAK阻害薬について



オルミエント(バルシチニブ)

2017年9月に発売になり、アトピー性皮膚炎は2020年12月に加えられました。アトピー性皮膚炎のほか、円形脱毛症、関節リウマチ、新型コロナウイルス感染による肺炎にも使用される、JAK阻害剤です。
2024年3月から、2歳から投与できるようになりました。

●効果

JAK1/JAK2の働きを抑えます。
アトピー性皮膚炎のかゆみ、皮膚炎症を軽快させます。

●副作用

重い感染症(肺炎、帯状疱疹、結核)、消化管穿孔、好中球減少、リンパ球減少、貧血、肝障害、静脈血栓塞栓症。

●投与方法

4mg、2mg、1mgの錠剤があります。

2歳以上の患者に体重に応じて、1日1回 経口投与します。
 体重30kg以上   通常4mgとし、患者の状態に応じて 2mgに減量します。
 体重30kg未満   通常2mgとし、患者の状態に応じて 1mgに減量します。

●投与できない人

結核、妊婦、好中球減少、貧血、リンパ球減少、重度の腎機能障害を持つ人は投与できません。
そのために投与前に、血液検査、胸部X線検査を行い、投与できるか判定します。

●当クリニックの方針

当クリニックはJAK内服薬はサイバインコを投与してきましたが、オルミエントが2歳から使用可能になったため、小学生の重症アトピー性皮膚炎の患者には投与を検討いたします。

ただし、バルシチニブにはJAK1のほかにJAK2にも抑制作用があること、JAK内服薬は高齢者に準じた結核、肝炎などの感染症に対する投薬前検査が必要なため(胸部X線、Tスポット、B型C型肝炎、その他多項目の検査が必要です。しかも、投与後も経過を見なければなりません)、適応は慎重に検討しています。

JAK阻害薬について




3.炎症やかゆみを抑える薬物療法(注射薬)

生物学的製剤とは、化学的に合成したのではなく、遺伝子組み換え技術を用いて、細胞培養などでつくられた薬剤をいいます。

分子量が50万から70万の巨大なたんぱく質で、細胞膜表面の受容体(リセプター)の突起などに作用し、ターゲットとした細胞の働きを抑えます。

大きな分子量のため、直接細胞の内には入り込めないため、飲み薬として作る事ができず、注射薬として用いられています。

ヒト化抗体とは、免疫グロブリン製剤で、その一部をヒトグロブリンに置き換えたもので、以下の薬を当クリニックでは治療のために使用しています。

それぞれの薬剤について、以下の章で説明いたします。



デュピクセント(デュピルマブ;ヒト型抗ヒトIL-4/13モノクローナル抗体)

デュピクセント(デュピルマブ)は、高い治療効果と長期の安全性が確かめられている、すぐれた抗体治療薬(生物学的製剤)です。

アトピー性皮膚炎については、2018年1月に製造承認を得て使用が始まり、2019年3月には重症の気管支喘息に、2020年3月には鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎にも使用できることになりました。

アトピー性皮膚炎に対しては、2018年当初は15歳以上が対象でしたが、2023年9月より、生後6ヶ月以上の小児にも年齢と用法が定められ、対象が拡大されました。

他の生物学的製剤やJAK阻害剤が中学生以上が対象となるのに対し、デュピクセントは生後6ヵ月から使用できるため、小学生の重症アトピー性皮膚炎の治療に使用でき、その素晴らしい効果が当クリニックでも確かめられています。

今後アトピー性皮膚炎でお悩みの重症の小児の患者さんに、広く使用されていくことと思われます。



●作用

デュピルマブは、サイトカインであるIL-4(インターロイキン4)、IL-13(インターロイキン13)の働きを抑える免疫グロブリン抗体です。

IL-4(インターロイキン4)受容体には、Ⅰ型受容体、Ⅱ型受容体の2種類があり、Ⅰ型はIL-4Rα(IL4受容体αサブユニット)とγc、Ⅱ型にはIL-4Rα(IL4受容体αサブユニット)とIL-13Rαが複合しています。

デュピルマブは両者のIL-4Rαの部分だけに結合します。その結果、Ⅰ型受容体ではIL-4を、Ⅱ型受容体ではIL-4、IL-13の受容体への結合を阻止することで、IL-4、IL-13からの細胞核への情報伝達を遮断してします。

その結果、Tリンパ球からのIL-4、IL-13の分泌が抑制され、皮膚の炎症、かゆみ、皮膚のバリア機能低下が軽快します。(下図)

         (図はサノフィ:デュピクセントパンフレットより転載)

●効果

免疫細胞の司令官=Th2リンパ球からの分泌されるIL-4、IL-13を抑制し、皮膚の赤く腫れる炎症を抑えます。また、皮膚の耐えがたいかゆみ、皮膚のバリア機能低下を改善させます。

●副作用

注射によって、注射部位の発赤、腫脹、痛みやアレルギー性結膜炎が比較的合併しやすいと報告されています。

アトピー性皮膚炎の症状は続きます。痒みが治まっても、ステロイド軟膏、保湿剤のケアは確実に続ける必要があります。
また、胃腸炎、皮膚感染症の報告もあります。

●投与方法

中等症~重症アトピー性皮膚炎に使用します。

アトピー性皮膚炎の標準的な外用療法(ステロイド軟膏、プロトピック軟膏、コレクチム軟膏)を6カ月続けて改善しなかった、アトピー性皮膚炎の患者さんが対象になります

皮膚病変の評価を行い、投与の対象になるか確認します。ディピクセントが使用できるのは、以下の条件を満たした患者さんとなります。
➊皮膚病変の強さ(IGA=Investigator's Global Assessment)が3(中等度)以上、
➋EASIスコアが16以上、または頭頸部が2.4、
➌体表面積に占めるアトピー性皮膚炎病変の割合が10%以上

上記の条件を満足し、患者さんからの希望があった場合、ディピクセントの投与を始めます。

体重によってディピクセントの投与量と投与間隔が決まります。2週間または4週間おきに、左右の上腕に交代に200mgか300mgのシリンジを皮下注射していきます。



●当クリニックの方針

当クリニックは中等度以上のアトピー性皮膚炎患者で、ディピクセント投与の希望者に投与を行っています。その効果は驚異的で、アトピー性皮膚炎の痒み、皮膚炎が1ヵ月でほぼ軽快します。また、当クリニックの症例では副作用はほとんど認めませんでした。

重症のアトピー性皮膚炎に苦しむ患者さんには、信じられない効果が期待できます。ご希望の方は、一度ご相談にいらして下さい。




ミチーガ(ネモリズマブ;ヒト化抗ヒトIL-31受容体モノクローナル抗体)



アトピー性皮膚炎の患者さんの最大の悩みは、がまんできない痒みです。当クリニックにも小学生のころから通院されている、軽くないアトピー性皮膚炎の患者さんにお聞きすると、みな痒みが最も辛い症状だとお話しされます。

アレロック(オロパタジン)やザイザル(レボセチチジン)、ザジテン(ケトチフェン)などの抗ヒスタミン薬の痒みを抑える効果は、残念ながら限られたものでした。

しかしミチーガ(ネモリズマブ)が登場して、状況が変わりました。アトピー性皮膚炎の痒みがほぼ消失するようで、中等症以上のアトピー性皮膚炎の患者さんにとって福音のような薬です。

ミチーガは、2022年3月に60mgシリンジが認可された、生物学的製剤(抗体注射薬)です。2024年6月には、30mgバイアルも発売され、6歳以上の小児にも適応が広がりました。

2章で述べたJAK阻害薬が、低分子で、細胞の受容体に結合しているヤヌスキナーゼ(JAK)の働きを阻害するのに対し、ミチーガは高分子であり、 神経細胞の末端のIL-31(インターロイキン31)の受容体に先に結合して、IL-31の働きを妨害します。(下図)

ミチーガはIL-31の持つ、神経細胞から痒みを脳に伝えたり、神経を皮膚までのばし、知覚過敏を引き起こしたりする働きを押さえ込みます。その結果、アトピー性皮膚炎の患者さんの痒み症状を劇的に改善します。

また、IL-31の受容体(結合場所)は、末梢神経以外にも好酸球、好塩基球や肥満細胞などという免疫細胞などにも幅広く存在することから、ミチーガはかゆみを抑えるだけでなく、皮膚の炎症を軽くしたり、バリア機能の改善にも効果があると考えられています。


マルホミチーガ皮下注用60mgシリンジ適正使用ガイド:7

●効果

アトピー性皮膚炎に伴う痒みを抑えます。数日で効果が出てくる患者さんが多いようです。

●副作用

ミチーガは痒みには著効を示しますが、アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症を抑える働きはありません。

したがって、痒みは治まりますが、アトピー性皮膚炎の皮膚症状は改善せず、皮膚の赤みの拡大、じんましん、湿疹などは続きます。 そのため、痒みが治まっても、ステロイド軟膏、保湿剤のケアは強力に続ける必要があります。

胃腸炎、皮膚感染症の副作用の報告もあります。

また、痒みを伴わない赤い斑点状の皮膚変化(浮腫性紅斑)が現われることがあります。これは、軟膏塗布で軽快することが多いとされています。(モデルナアームを思い出しますね)

ただし、炎症に効果が無いといわれますが、実際は痒みが治まって皮膚を掻かなくなる結果、itch-scratch cycleが抑えられ、アトピー性皮膚炎の症状も軽くなる患者さんも多いようです。

●投与方法

アトピー性皮膚炎に対する軟膏治療、抗アレルギー薬服用を一定期間行っても、痒みの改善しない、6歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さんが対象となります。

投与の条件は、
➊ステロイド外用薬(Ⅲ群ストロング以上)またはプロトピック軟膏を、4週間以上塗布している。
➋抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を、2週間以上服用している。

上記治療を行っても、以下の皮膚病変が認められる場合は、ミチーガ投与の対象になります。
かゆみスコアが3以上、搔痒NRSが5以上(13歳以上)
かゆみスコアが3以上(6歳~12歳)が、受診3日前から、続いていること。
➋受診当日のアトピー性皮膚炎の皮膚病変がEASI10以上を示すこと。
皮膚病変の評価については、こちらをご覧下さい)

ミチーガ投与が決まれば、
➊6歳から12歳の小児は、30mgバイアルを左右交互の上腕に、4週間間隔で皮下注射。
➋13歳以上の児および成人は、60mシリンジを左右交互の上腕に、4週間間隔で皮下注射。

●当クリニックの方針

症状の確認、今までの治療歴を確認して、ミチーガ投与の対象を検討します。

ディピクセントとミチーガの使い分けですが、皮膚炎症状がひどい患者さんはディピクセントを優先し、皮膚症状がそれほどひどくないが痒みが強い患者さんにはミチーガの投与を検討します。

ミチーガは600mgバイアルは13歳以上が対象でしたが、2024年6月11日に6歳以上13歳未満が適応の、300mgバイアルが発売になりました。



4.炎症を予防するスキンケア
(→スキンケアについての、実践的な詳しい説明はこちら


皮膚を清潔に保ち、水分と油分(皮脂)を補給することは、 皮膚を良い状態に保ち、アトピー性皮膚炎の症状の悪化を抑えることができます。そのために、しっかりスキンケアを行いましょう。

スキンケアの意義は、

①皮膚の清潔を保持…感染(黄色ブドウ球菌など)から赤ちゃんの肌を守り、汗、皮脂、汚れなどを取り除くため
 →①
洗う

②バリア機能の保持…皮膚を乾燥から守り、痒くて掻き壊すことを予防するため
 →②
塗る



①洗うこと


皮膚の清潔を保つには、毎日の入浴・シャワーが大切です。石鹸を使って、洗うことが必要です。

ⅰ)石鹸

石鹸は、剤形(固形、液体、ポンプ式)はどれでもよいと思います。
石鹸・シャンプーを使用する時は、洗浄力の強いシャンプー、リンスは使用しないようにします。
石鹸に含まれる添加物は、皮膚の刺激物になり、アレルギーの原因にもなるので、添加物の無い石鹸を選びましょう。
高い温度の湯は避けましょう。

ⅱ)洗い方

洗う順番を決めて、洗っていきます。
肘の内側、外側は曲げ伸ばしして、しわは伸ばして良く洗います。

ⅲ)すすぎ方

石鹸・シャンプーは残らないよう、十分すすぎます。石鹸のかすが皮膚に残ると、刺激物となります。
シャワーヘッドを持っている手や耳の後ろはすすぎ残しが起こりやすいので、シャワーヘッドを持ち替えてよくすすぎましょう。
最後のすすぎの時に、髪もよくすすぎましょう。脇の下や股の間もお湯をかけてよく流します。



②塗ること


皮膚の保湿を保つため、保湿剤を効果的に使用しましょう。


洗ったら、5分以内に保湿剤を塗ります。
ごしごし擦り込むのは止めましょう。

保湿剤は、肌の乾燥を防ぐために塗ります。こまめに塗ることが、大切です。
入浴やシャワーの後は、保湿剤を使用する習慣をつけましょう。
お子さまがいやがらない保湿剤を使いましょう。



保湿剤(
皮膚の乾燥を防いで、皮膚バリア機能を補う薬)一覧
皮膚の保湿を主としたもの(皮膚に潤いを与える)

 一般名  製品名
ヘパリン類似物質含有製剤        ヒルロイドクリーム
 ヒルドイドソフト軟膏
 ヒルドイドローション
 ヒルドイドフォーム
 ヘパリン類似物質クリーム
 ヘパリン類似物質油性クリーム
 ヘパリン類似物質外用泡状スプレー
 ヘパリン類似物質外用スプレー
 尿素含有製剤      ケラチナミンコーワクリーム
 パスタロンソフト軟膏
 パスタロンクリーム
 パスタロンローション
 ウレパールクリーム
 ウレパールローション


皮膚の保護を主としたもの(皮膚にふたをして、水分が体の外に逃げるのを防ぐ)

 一般名  製品名
 ワセリン  局方白色ワセリン
 プロペト(精製ワセリン)
 亜鉛華軟膏    サトウザルベ
 亜鉛華軟膏
 ボチシート(リント布に亜鉛華軟膏塗布)
 その他  アズノール軟膏


保湿剤は、大きな容器に入っているため、先に説明した人差し指を使うFinger-tip-unit法ではなく、計量スプーンを用いて、塗布します。

大きな容器に軟膏(プロペトや亜鉛華軟膏など)が入っているときは、専用スプーンを用いて、塗る軟膏量を計ります。
小さじ5ccは軟膏4gに相当します。(これは、5g軟膏チューブなら、4/5本となり、8FTUに相当します。)

 大きな容器の軟膏は、専用
 スプーンで計量して、塗布します。

 実際の塗り方は、医師、看護師
 がご一緒に練習します。

 5cc計量スプーンの入手法もこの時に
 ご案内いたします。


計量スプーンを利用した場合の、実際の軟膏の使用量の目安は、以下の通りとなります。

  顔全体  片腕  片足  胸腹部  背中 全体 g
3ー6ヶ月児  0.5  0.5  0.75  0.5
0.75  4.25
 1-2歳  0.75  0.75  1  1  1.5  6.75
 3-5歳  0.75  1  1.5  1.5  1.75  9
 6-10歳児  1  1.25  2.25  1.75  2.5  12.25

乳児は、小さじ 5cc(4g)1杯  (8FTU相当)  
幼児は、小さじ 5cc(4g)1.5杯  (6g=12FTU相当)
学童は、小さじ5cc(4g) 2杯 (10g=20FTU相当)
中学生は、小さじ5cc (4g)3~4杯   (12~15g=24~30FTU相当)
       または、大さじ 15cc(12g)1杯でも可 

上肢片側2g×2、下肢片側2.5g強×2、からだ半分3g×2(全身で12~15g)

軟膏は必要量を十分塗ることが大切です。計量すると、塗る量が少なくなってしまいます。

軟膏の実際の塗り方は、こちらにくわしくご説明します。(→軟膏の塗り方



③原因・悪化因子の検討と除去


患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者においてそれらを十分確認してから除去対策を行います。

気候、発汗、精神的なストレス、体調過労、日光、食物(卵、ミルクなど)、 環境因子(ダニ、ハウスダストなど)、接触抗原(布、親の衣服など)が悪化因子としてあげられます。

とりわけ、乳幼児では肌は抵抗力が弱いため、細菌感染やウイルス感染がアトピー性皮膚炎を悪化させます



●生活環境の改善


乳児期は食べ物がアトピー性皮膚炎の悪化因子になります。

乳幼児期を過ぎると、ダニ、ハウスダスト、カビなどの環境的な要素がアトピー性皮膚炎の悪化因子になります。この環境的な要素は、生活の中の工夫や努力によってかなり減らすことができます。

とりわけ、ダニはアトピー性皮膚炎に深く関係する悪化因子のため、十分な対策が必要です。


1.皮膚の清潔

毎日の入浴したりシャワーを使いましょう。このとき、石鹸やシャンプーは洗浄力の強いものは避け、皮膚を強くこすらないようにします。また、石鹸やシャンプーは皮膚に残らないよう、十分にすすいでください。

水温は肌にかゆみを生じるような、熱い温度はさけます。
そして、入浴後には、必ず適切な保湿剤を塗布するようにします。保湿剤は、肌のうるおいを保ち、皮膚の乾燥防止に有用です。使用感のよい、お子さまが喜ぶ保湿剤を使いましょう(炎症を予防するスキンケア参照)。


2.生活上の注意

爪を短く切り、なるべくかかせないことが大切です。(手袋や包帯などによる保護が有用なことがあります。お子さまの状態に応じて適切な処置を行うことが大切だと思います)。

新しい肌着は使用前に水洗いしてから使用します。

患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者においてそれらを十分確認してから除去対策を行います。

気候、発汗、精神的なストレス、体調過労、日光、食物(卵、ミルクなど)、 環境因子(ダニ、ハウスダストなど)、接触抗原(布、親の衣服など)が悪化因子としてあげられます。

とりわけ、 乳幼児では肌は抵抗力が弱いため、細菌感染やウイルス感染がアトピー性皮膚炎を悪化させます。




小児アトピー性皮膚炎の治療には、小児科と皮膚科の密な連携が必要です。

そのため、当クリニックではアトピー性皮膚炎の治療の当たっては、鈴木正元埼玉医科大学皮膚科助教授(現諏訪皮膚科クリニック 院長。右写真)と綿密に症例検討を重ねながら、診療に当たっています。
(2023.8.1)



謝辞:
本論文で引用した図、表、シェーマは以下の資料から転載させていただきました。著者の方々には厚く御礼申し上げます。
アトピー性皮膚炎のおはなし マルホ
Pediatric Community 子どもの皮膚疾患のために Vol.2 マルホ
アトピー性皮膚炎の治療目標と主な治療薬 マルホ
アトピー性皮膚炎治療に用いる主な治療薬 マルホ
アトピー性皮膚炎の重症度評価の補助に TARC シオノギ製薬
アトピー性皮膚炎とは 鳥居薬品
スキンケアボード ー健康な皮膚を保つためにー マルホ


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