ヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papilloma Virus)ワクチンとは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防する不活化ワクチンです。
まず、ヒトパピローマウイルス(HPV)について、ご説明します。HPVはヒトのイボなどの原因となる、ありふれたウイルスです。
HPVには、200以上の種類(遺伝子型)がありますが、怖ろしい子宮頸がんを起こすのは、遺伝子型16、18、31、33、45、52、58型など、15種類のHPVです。
これらは「発がん性を持つ高リスク型HPV」と呼ばれますが、HPVワクチンの定期接種であるシルガード9(9価HPVワクチン)には、7種の高リスク型の16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型のHPVが含まれています。
高リスク型HPVは子宮頸がん以外にも肛門がん、陰茎がん、中咽頭がん(扁桃腺のがん)などの病因となります。これらのがんは男性にも発病するため、アメリカなどでは、HPVワクチンは男性も定期接種となっています。
特に近年、オーラルセックスによるHPV感染が原因で発症する中咽頭がん(扁桃がん)が増加しており、アメリカではすでに子宮頸がんを上回っている状況です。
そのため、男子へのHPVワクチンは女性を守るためというより、男性自身の生命を守るためという位置付けに変わってきています。
また、6型、11型は、尖圭(せんけい)コンジローマという、性病の原因となります。尖圭コンジローマは性交で感染し、性器に1~3mmぐらいのいぼ(乳頭腫)が次々とできる病気で、「性器いぼ」とも呼ばれます。
しかし、6型、11型は尖圭コンジローマの原因にはなりますが、悪性の子宮頚がんを起こすことはなく、「低リスク型HPV」と呼ばれています。
現在、我が国で接種できるHPVワクチンはシルガード9です。シルガード9は、2023年4月1日から定期接種になり、2026年4月1日からはシルガード9のみが定期接種となりました。(HPVワクチンには、2価のサーバリックス、4価のガーダシルというワクチンもありました。)
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シルガード9(9価HPVワクチン)

●予防接種の特徴
ガーダシルの低リスク型のHPV6型、11型、高リスク型の16型、18型に、さらに高リスク型の31型、33型、45型、52型、58型を加えた、計9種のHPVの感染を予防する、9価の不活化ワクチンです。
シルガード9は、ガーダシルと同じアジュバンドとして、アルミニウム塩(アルミニウムヒドロキシホスフェイト)が使用されています。
●予防する病気
シルガード9は7種類の高リスク型HPV(16、18、31、33、45、52、58型)を含むため、子宮頸がんの90%以上の発病を予防できると評価されています。さらに、尖圭コンジローマを99%予防します。
●接種の方法
9歳以上の女性が対象です。13歳~16歳女性(小学校6年~高校1年)は、2023年4月1日(土)から定期接種として接種できることになりました。
0ヶ月、2ヶ月、6ヶ月の3回接種が原則です。ただし、13歳~16歳女性(小学校6年~高校1年)には、WHOの推奨する、2回接種(0ヶ月、6ヶ月)も認められました。
左右交互に上腕三角筋に筋肉注射します。
すでに2価サーバリックス、4価ガーダシルでHPVワクチンの接種を始めた人も、2023年4月1日以降はその後の接種を、シルガード9で受けることもできることになりました。(交互接種が認められました。)
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Ⅱ.HPVワクチンの効果
HPVが子宮頸がん(浸潤がん)を予防するという報告が世界中から行われています。
1)フィンランドでは、ワクチン接種者と非接種者のがんの発病率を調べました。その結果、HPVワクチンを接種しなかったグループでは子宮頸がん、外陰部がん、口腔咽頭がんが発病したのに対し、HPVを接種したグループでは認めなかったと報告しました。
2)スエーデンでは、167万2983人の女性が子宮頸がんを発症したか、追跡調査を行いました。 その結果、HPVワクチンを接種した19人と、接種していなかった538人が、子宮頸がんと診断されていました。
HPVワクチン接種によって、子宮頸がん発生率が63%減少していました。さらに、子宮頸がん発生率は、17歳になる前に接種した人々が最も低値だったと報告されました。
3)イギリスでも、HPVワクチンを接種した集団の方が子宮頸がんを87%減少した、と報告されました。
このように、HPVワクチンの接種が始まって10年以上が経過し、ワクチン接種した女性集団と接種しなかった女性集団における子宮頸がん発生率の比較ができるようになり、HPVワクチンの優れたがん発病阻止効果が続々と報告され始めています。
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Ⅲ.HPVワクチンの副反応
HPVワクチンの真の副反応と否定された副反応をご説明します。
①注射による副反応
接種部位の痛みは9割、一時的に接種した部位の発赤や腫れなどは8割に起こります。しかし、これはHPVワクチンの注射成分によるというよりも、筋肉注射による反応と考えられます。
最近行われているコロナワクチンも筋注のため、HPVワクチンと全く同じように接種部位の痛みや腫れ、全身違和感、全身の痛みなどが報告されています。
また、若い女性は注射への恐怖や痛みに敏感な人が、ふらふらしたり失神する、血管迷走神経反射をまれに起すことが報告されています。(当クリニックの患者さんにも、ワクチン接種の後、必ず倒れる人がいます)
②副反応の疑いがあるとされ、現在は否定された「多様な症状」
HPVワクチンが2013年4月に定期接種になり、広汎な接種が始まると、接種した後に広い範囲に広がっていく痛みや、手足の動かしにくさ、不随意運動などの「多様な症状」が多数発生しているという、マスコミのセンセーショナルな報道が行われ、厚生労働省はこの症状がワクチンと関係あるか、因果関係を調べるためとして、接種の積極的勧奨を停止しました。
平成29年11月の厚生労働省専門部会の会議では、からだの痛みや運動障害などのHPVワクチン接種後に報告された「多様な症状」とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は認められませんでした。そして、「多様な症状」はワクチンのせいではなく、注射に対する機能性身体症状と考えられたのです。
また、平成28年12月の厚生労働省第23回副反応検討部会において、HPVワクチンの接種歴のない女性でも、HPVワクチン接種歴のある人と同様の「多様な症状」を起こす例が、多数存在することが報告されました。
さらに3万人の女性を対象に調査が行われた名古屋市の研究(名古屋スタディ)では、ワクチン接種後に報告された「多様な症状」とワクチン接種との間に、有意な関連が認められませんでした。
我が国で問題となった「多様な症状」について、国際機関でもさまざまな検討、報告が行われました。
2015年、2017年のWHOのワクチン安全性諮問委員会(GACVS)は、HPVワクチンとCRPS(複合性局所疼痛症候群)やPOTS(体位性頻脈症候群)などの自律神経障害による痛みなどの間には因果関係はみられないと声明しました。
2015年の欧州医薬品庁(EMA)も、HPVワクチンと自律神経障害による痛みなどの間には因果関係はみられなかったと公表しました。
アメリカ予防接種諮問委員会(ACIP)もHPVワクチンを接種することに問題はないと声明しました。
英国医薬品医療製品規制庁(HHRA)は「ワクチンの成分によるというよりは、針を刺すという行為そのものから生じた可能性がある」という見解を発表しました。
2020年にデンマークからは1375737人の女性を調査して、HPVワクチンと自律神経障害を伴う症候群(CFS、CRPS、POTS)の間に有意な因果関係は認めなかった、という発表がありました。
このように我が国でHPVワクチンの接種が止まっている間も、世界中からHPVワクチンと「多様な症状」は因果関係は無いという報告が続々と行われてきました。反対に、現在に至るまで、HPVワクチンと「多様な症状」の関連性を医学的に証明したという学会で認められた学術的な論文は、日本でも国際的にも一つもありません。
この世界中の臨床報告の積み重ねが、HPVワクチンの接種が再開される医学的根拠となっています。
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Ⅵ.HPVワクチンの接種の方法
①シルガード9は定期接種として、公費で接種を受けることができます。
2022年3月11日、厚労省は積極的勧奨の差し控えを撤回したことから、品川区保健所より小学校6年生から高校1年生相当(12歳~15歳)の女子のいる家庭に予診票が送られています。
予診票が送られてきたら、鈴の木こどもクリニック受付に電話でお問い合わせください。予約をお取りいたします。接種当日は予診票と母子健康手帳をお持ちになって来院ください。
②任意接種のHPVワクチン
定期接種の年齢以外は、原則任意接種ということになります。任意接種は接種費用が発生します。
また、男子がガーダシル、シルガード9の接種が可能ですが、任意接種となるため、接種費用がかかります。
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