定期接種(思春期以降の定期接種) 2025.5.11更新
1.二種混合ワクチン
2.ヒトパピローマウイルス:HPVワクチン
3.肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)
4.新型コロナワクチン
5.帯状疱疹ワクチン(シングリックス)
1.二種混合ワクチン:DTワクチン
●予防接種の内容
破傷風、ジフテリアの二つの病気を予防する、不活化ワクチンです。
●予防する病気
破傷風はふつうに土の中にいる細菌で、傷口から入り込み、その破傷風菌の出す毒素で神経が侵され、開口障害、嚥下困難、背中の筋肉がけいれんし、最終的には身体がのけぞる後弓反張などを起こし、死亡率が80%を超えている、恐ろしい病気です。
現在でも、我が国では毎年10人ぐらいが死亡しています。意識は障害されないため、患者さんは大変苦しい思いをしながら、日々を送ることになります。
ジフテリアはジフテリア菌という細菌が、のどに偽膜というべっとりとした白い膜を作り、喉頭に炎症が及ぶと、犬が吠えるような咳を反復します。クループというのは、もともとこのジフテリアの咳をいいました(真性クループ)。ジフテリア菌も毒素をまき散らし、心臓の筋肉や呼吸筋が麻痺し、突然死を起こします。ソ連崩壊後、1990年代に混乱したウクライナなど東ヨーロッパの国々で、ジフテリアは大流行し、猛威を振るいました。
この破傷風毒素とジフテリア毒素を無毒化(トキソイド)して、これらを混ぜたワクチンが、二種混合ワクチン(DTワクチン)です。
●接種の方法
定期接種のⅡ期として、11歳から13歳未満の児に、1回0.1mlを上腕に皮下注射します。
現在五種混合ワクチンのⅠ期3回とⅠ期追加の接種が終わった2歳以降は、百日咳が含まれたワクチンを接種する機会がありません。Ⅱ期は、破傷風とジフテリアのみの二種混合DTワクチンを接種することになっています。
四種、五種などの無細胞成分百日咳混合ワクチンの効果は、4~12年と言われています。その結果、年長児から成人になるにしたがい、百日咳の免疫が低下した人が増えてきて、近年小学生や親世代で百日咳が流行しています。そして、軽症ですが、感染力のある集団の中で百日咳は現在の流行状況となったのです。
そのため、現在11~12歳で接種している二種混合ワクチン(DT)を、百日咳ワクチンを含む三種混合ワクチン(DPT)に切り替え、百日咳に対する免疫を強化することが強く推奨されています。
東京都でも八王子市では、すでに定期接種のDTワクチンの替わりに、任意接種としてDPTワクチンを選ぶ市民に接種費用の助成を出しています。(八王子市のワクチン案内)昔のワクチン先進区であった品川区をみるようで、うらやましい限りです。
当クリニックの百日咳流行に対する、全年齢のDPT接種についての詳細な説明はこちらをお読みください。
2.ヒトパピローマウイルス:HPVワクチン
●予防接種の内容
子宮頸がんを引き起こす、主要な発がんウイルスである、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防する不活化ワクチンです。
現在3種類のワクチンが使用されています。
●予防する病気
子宮頸がんはわが国では年間10000人の女性が発病し、3000人の方が亡くなっている、女性のがんでは乳がんに次いで、2番目に多い病気です。
子宮頸がんの原因は、発がん性のあるヒトパピローマウイルス(HPV)16、18、31、33、45、52、58型などの感染であり、特に16型と18型が半数以上を占めています。
尖圭(せんけい)コンジローマは性交で感染し、外性器、肛門周囲に1~3mmぐらいの球形~カリフラワー状のいぼ(乳頭腫)が次々とできる性感染症で、原因ウイルスは主にHPV6、11型です。
3つのHPVワクチンのうち、サ-バリックスは、子宮頸がんの主要な発がんウイルスである、HPV16型、18型の感染を防ぐ2価のワクチンです。
2番目のガーダシルは、子宮頸がんの主要な発がんウイルスであるHPV16型、18型に加えて、外性器にいぼができる「尖圭(せんけい)コンジローマ」の原因ウイルスであるHPV6型、11型の感染を予防する、4価の不活化ワクチンです。
2023年から定期接種となったシルガード9は、HPV16型、18型に、31型、33型、45型、52型、58型を加えて、さらに低リスク型のHPV6型、11型の9つのHPVの感染を予防する、9価の不活化ワクチンです。
●接種の方法
3種類のワクチンは接種方法が多少違います。
サーバリックスは10歳以上の女性が対象です。1回目の接種の後、1ヶ月後に第2回めの接種、さらに5ヵ月後に追加接種を上腕三角筋に筋肉注射します。
ガーダシルは 9歳以上の女性が対象です。1回目の注射の後、2ヶ月後に第2回めの注射、さらに4ヵ月後に第3回目の注射をします。 (最初から数えると、0、2ヵ月後、6ヵ月後になり、サーバリックスとは2回目の注射の時期が異なります。)
シルガード9は接種方法は、ガーダシルと同じです。
予防接種法では、12歳-16歳(小学校6年生から高校1年生相当)の女子が定期接種の対象になります。ただし、シルガード9は9歳から15歳未満の女性に限り、0、6ヶ月の2回接種も認められました。
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サーバリックス | ガーダシル | シルガード9 |
HPVワクチンは、2013年4月より定期接種になりましたが、2013年6月14日、慢性疼痛などの多様な症状がHPVワクチン接種に関連するか検討するという名目で、積極的勧奨が停止されてしまいました。
2022年4月、ようやく、科学的根拠に基づいた積極的勧奨による定期接種が再開されました。
HPVワクチンは女性の健康と未来を守る大切なワクチンです。
当クリニックはHPVワクチンを中学1年のお子さまに強くお勧めしています。当クリニックの見解は、こちらをぜひお読みください。
HPVワクチンキャッチアップ接種期間が延長されました。(2025.4.1)
対象者 1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女子で、2025年3月31日までにHPVワクチンを1回以上接種している女性。
2025年度に高校2年の女子は、キャッチアップ接種の対象となります。
期間:2026年3月まで、定期接種としてHPVワクチンを無料で受けられます。(3回接種のうち、未接種分)
接種可能なワクチン:ガーダシル(4価)、サーバリックス(2価)、シルガード9(9価)。
3.成人用肺炎球菌ワクチン(PPV=ニューモバックス)
●予防接種の内容
現在、日本で使用されている肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)は、米国内でよく分離される23種の肺炎球菌の細菌のカラの部分を精製した不活化ワクチンで、PPVと呼ばれます。
2014年10月から高齢者に定期接種となりました。(高齢者の定期接種で、子ども用ではありません)
●予防する病気
このワクチン(ニューモバックス)は肺炎球菌の感染の危険性が高く,感染した場合に重病になる可能性のある特殊な病気(鎌状赤血球症,無脾症)の患者さんに接種します。
しかし、アメリカ製なので、日本でよくみられる肺炎球菌の70%しかカバーできていません。また、肺炎球菌による頻回の中耳炎には効果が認められません。
さらに、このワクチンを接種しても、乳幼児の場合は肺炎球菌に対する抗体がうまく作られないため免疫が成立せず、(乳幼児には)効果がありません。
●接種の方法
1回0.5mlを上腕に皮下注射します。(筋肉注射でもよいとされています)
現在日本で使用できる、23価の肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス、PPV)は、子どもには効果がなく、中耳炎にも無効で、お子さまに接種する価値のないワクチンです。
例外として、2歳以上で脾臓摘出が行われた患者に対しては、肺炎球菌感染症の発症予防のため、接種が行われています。
これに対し、子どもによくみられる侵襲性肺炎球菌感染症の予防には、その細菌のカラ(殻)にキャリア蛋白を結合させた、20価の肺炎球菌ワクチン(プレベナー20)、15価の肺炎球菌ワクチン(バクニュバンス)が、子どもの定期接種には使用されます。(小児用肺炎球菌ワクチンについては、こちらとこちら)
5.帯状疱疹ワクチン(シングリックス)
●予防接種の内容
水痘(水ぼうそう)の再発である帯状疱疹の発病を防ぐワクチンです。現在、帯状疱疹を予防するワクチンは2種あり、一つは水痘生ワクチン(小児用のワクチンを、帯状疱疹ワクチンとして高齢者にも使用する)、もう一つはシングリックスです。
シングリックスは、水痘・帯状疱疹ウイルスの表面に豊富に存在するVZV糖タンパクE(gE)という成分のみを含む不活化ワクチンです。ASO1Bというアジュバンドで免疫効果を高めており、発症予防効果は90%といわれています。
しかし、50歳以上が接種対象となっており、小児科専門の当クリニックでは、シングリックスの接種は行っておりません。
当クリニックは子どもは小児科専門医を受診することを強く推奨しておりますが、同様に高齢者用ワクチンは内科専門医が接種すべきと考えているからです。
●予防する病気
帯状疱疹は、過去に水痘(水ぼうそう)にかかった時、ヒトの体内に侵入し、神経に持続感染し潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが、再び活動を始め、皮膚にかなり痛みを伴う水疱を作る病気です。
からだの免疫が落ちてくる50歳代から発病し始め、80歳ごろまでには3人に1人は帯状疱疹になるといわれるほどの身近な病気です。しかも、皮膚の水疱病変が治った後も、10~20%の人は神経痛が続きし、後遺症に悩むというやっかいな病気です。まれですが、目や脳に合併症が生ずることもあります。
●接種の方法
0.5mlを通常2ヶ月の間隔で2回、上腕三頭筋に筋肉注射します。
令和7年4月1日より、B類の定期接種となりました。定期接種としては、65歳から5歳きざみで、シングリックスは2回接種を行います。
50歳以上が接種対象となっており、小児科専門クリニックの当クリニックでは、シングリックスの接種は行っておりません。小児のワクチンを小児科で行うように、高齢者のワクチンは内科で接種するべきと当クリニックは考えます。
品川区は2023年4月から、50歳以上の区民にシングリックスか水痘ワクチン(帯状疱疹予防)の接種費用の助成を始めることになりました。(くわしくはこちら)
2023年6月に、帯状疱疹に罹るリスクが高いと考えられる、18歳以上の人まで、接種の対象が拡大されました。(対象拡大は、免疫不全の人、または医師が接種を必要とすると認めた人になります)
2024年12月に開催された第65回厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会)において、シングリックスは予防接種法B類疾病として、2025年4月1日より、定期接種として接種されることが了承されました。(高齢者のみ)