2026年5月の麻疹流行とMRワクチン接種について
2026.5.1
1.麻疹(はしか)概説
麻疹(はしか)は、その感染力の強さ、死亡率の高さから古くから怖れられてきた伝染病でした。麻疹は「命定め」といわれ、1862年江戸の大流行では、239.862名の死者が寺から報告された程でした。
「犬公方」で有名な徳川綱吉も、64歳で成人麻疹で死去しています。
WHO(世界保健機関)は我が国を含む西太平洋地域において、2012年を麻疹排除の年に設定しました。そのため、我が国も麻疹排除計画を立てて、積極的なワクチン接種を行ってきた結果、2015年3月、WHOによって「麻疹排除国」と認定されました。
しかし、その後も外国からの麻疹の侵入は続き(輸入麻疹)、しばしば小流行を起こしています。
とりわけ、2019年新型コロナウイルス感染症の大流行以降、世界的に麻疹ワクチン(MMRワクチン、MRワクチン)の接種率が低下しました。その結果、麻疹は世界的に大流行しており(厚労省 麻しんについてより)、2025年国内でも輸入麻しんの発生が相次いで報告されました。
さらにアメリカでは、トランプ大統領が「ワクチンは自閉症を起こす」という全くのデマ情報を愚かにも信じこんでいる、ロバート・ケネディ・ジュニアというケネディ家のバカ息子を、保健福祉長官に任命しました。
ケネディは、アメリカの公衆衛生の司令塔だった予防接種諮問委員会(ACIP)の全メンバーを解任し、あやしげな反ワクチン活動家と強引に入れ替えを行いました。その結果、世界の公衆衛生をリードする、最も先進的なアメリカのワクチン行政は破壊されてしまいました。(
ワクチン諮問委員を全員解任、懐疑派のケネディ米保健福祉長官)
この愚かな人物の馬鹿げた采配も相まって、アメリカでは現在麻疹が爆発的に広がっています(米国で、はしか流行が深刻化。サウスカロライナ州の感染が制御不能に)。テキサス州では、とうとうワクチン未接種の小児が、数名死亡してしまいました。
国立健康危機管理研究機構の、アメリカにおける麻疹流行の解説はこちらをお読みください。(2025年の米国における麻疹の感染拡大について)
現在の世界の麻疹の流行状況です。厚労省HPより転載

残念ながら、我が国でも海外からの持ち込みやMRワクチン接種率の低下(2024年度はMR1期で流行阻止の95%を大きく下回る92.7%)などの要因により、麻疹の報告が激増しています。東京都でも、2026年4月26日現在、211名の患者が報告されました。

* 国立健康危機管理研究機構:麻しんの発生に関するリスクアセスメント(2026年第一版)
●麻疹の症状
まず、麻疹の症状から説明いたします。
潜伏期間は、通常8~12日で、感染経路は咳から移る飛沫感染、飛沫核を吸い込んで移る空気感染、接触で移る
接触感染と多彩です。感染力はきわめて強く、基本再生産数(R0)は12~18と、インフルエンザの10倍といわれ、発病前の1~2日から発疹出現4~5日までが感染期間とされています。
症状は3期に分けられます。
まず、38℃ぐらいのそれほど高くない発熱と、くしゃみ、鼻水、乾いた咳、目の充血などの症状が3~5日続きます(カタル期)。
この期の終わりに、口の内側に赤いふくらみの頂点に白いポツポツがみられる、麻疹特有の口内疹(コプリック斑)が出現します。この後、一時解熱しますが、すぐに40℃近い高熱がぶり返し、顔から小さな赤いぽつぽつが出始め、急激に全身に広がります。
(右写真参照。当クリニック自験例です。HP掲載は患者さんのご許可を得ています。当クリニックと全く関係ない医師が、勝手に当クリニック症例写真を自分のHPに無断掲載することは、その医師の道徳性の欠如を示すものであり、固く禁じます。)
発疹は癒合(ゆいごう)し、まだら状の赤い波模様になります。
2度目の発熱は3~5日続き、高熱のためお子さまは大変苦しみます。咳もひどくなり、肺炎、クループ(急性喉頭炎)、中耳炎を合併することもあります(発疹期)。
その後、解熱しますが、赤い発疹は茶色になり、しばらく褐色の色素沈着を残します(回復期)。
我が国土着の麻疹ウイルスであるD5は、2010年5月に消滅しました。しかし、外国産の麻疹ウイルスであるB3、D8、H1などが海外から持ち込まれ、国内で散発しており、麻疹は今や外国の病気=輸入感染症となりました。(2026年の麻疹ウイルスの遺伝子型は、ほとんどがD8です)
麻疹ワクチンの受けそびれが多数残存している20~30代の成人が、流行の温床となっており、この集団を減らすための取組みが数回行われましたが、未だに20~30代のワクチン未接種者が流行を広げている状況です。
●麻疹の診断
麻疹は2008年から全数報告の感染症となり、全ての患者を保健所に報告することになりました。
典型的な麻疹の症状の患者は診断は容易ですが、ウイルス学的な検査診断が要求されることもあり、血清IgM抗体(直近の感染で上昇します)を測定します。また、コロナでも行われたPCR法は麻疹ウィルスの遺伝子を検出する検査方法で、スワブで採った検体を保健所に提出して、検査を行っています。
●麻疹の治療
治療は、特別のものはありません。
適度の明るさ、温度、湿度の部屋に静かに休ませ、まめに水分を与えて様子をみます。
細菌感染が合併したと考えられる例(肺炎や急性中耳炎)には抗菌剤(抗生剤)が投与され、咳がひどい場合は咳止めや痰切り、結膜炎には点眼剤、水分が取れない時は輸液を行って回復を待ちます。
●麻疹の合併症
合併症は、まず麻疹肺炎があります。これは麻疹そのものによる場合と、細菌が増殖しておこす細菌性肺炎があります。麻疹は細胞性免疫が著しく低下するため、細菌に侵されやすくなっています。細菌性肺炎になれば、抗生剤で強力に治療します。
麻疹肺炎は重症になることがあり、人工呼吸器が必要になることもまれではありません。急性呼吸窮迫症候群(ARDS;Acute Respiratory Distress Syndrome)という重症の呼吸不全で死亡する例もあります。
クループ(急性喉頭炎)になり、ケンケンと犬の吠えるような咳で大変苦しむお子さまもいます。急性中耳炎もよくみられる合併症です。
結膜炎で目が真っ赤になり、目やにが溢れます。昔はビタミンA欠乏とあいまって、失明する患者も少なくありませんでした(現在でも、発展途上国の麻疹患者の中には失明する人が少なくありません)。
極めて重い合併症である麻疹脳炎は、麻疹の患者1000人に1人の割りで発症し、15%が死亡、20~40%に後遺症が残るといわれています。
また、麻疹に罹患した後6~10年に、10万人に1人の割合でSSPE(亜急性硬化性全脳炎)という脳炎が発病することがあります(遅発性合併症)。感染した麻疹ウイルスが病気は治った後も脳内に潜んで、徐々に脳を侵していくことで発病します。特にワクチン未接種の乳児が麻疹に感染した場合は、発病のリスクが高いといわれています。
この病気は発病すると性格の変化が現れ、けいれんを起こし、徐々に知能低下が進行し、最後には死亡する恐ろしい病気です。治療法はありません。(SSPE青空の会のHPはこちら)
●麻疹の予防
麻疹は予防接種で防げます。ワクチンを接種し、恐ろしい麻疹を予防することが大切です。1歳になったら、すぐにMRワクチンを接種しましょう(詳しくは、予防接種MR混合ワクチンをご覧下さい)。
現在、1~2歳でMRワクチン1期、5~6歳(就学前1年)でMRワクチン2期が、定期接種として行われています。1回接種で93~95%、2回接種で97~99%、麻疹の発病を抑える効果が期待できます。
2020年の実績では、MRワクチン接種率は1期で98.5%、2期で94.7%で、2020年の麻疹患者数は10名でした。(ちなみに、2008年の患者総数は、11013人でした)
ところが、コロナ禍でMRワクチン接種率は低下し、外国から持ち込まれる輸入麻疹によって、麻疹の小流行が繰り返されています。コロナ収束後もMRワクチン接種率は回復せず、2024年の実績では、接種率は1期92.7%、2期91.0%まで低下し、流行を防ぐ目安の95%接種率を大きく下回っています。
2026年も同様の状況が続いていると考えられ、麻疹流行はますます拡大していくことが危惧されています。MRワクチンについては、さらに次章で詳しく解説いたします。
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2.MRワクチン接種について
麻疹の流行を抑えるには、そして麻疹に罹患しないためには、MRワクチンの接種が絶対必須です。(MRワクチンについて)
1歳になったらすぐ、MRワクチン1期を接種しましょう。また、保育園の年長(小学校に入学する1年前)になったら、すぐ4~5月にMRワクチン2期の接種を受けましょう。これで前述の通り、ほぼ麻疹の発病は防げます。
しかし、いろいろな理由で年齢相当のMRワクチンの接種が遅れているお子さまの保護者は、できるだけ早くMRワクチンの足りない分の接種をお子さまに受けさせてください。これは、大切なお子さまを守るためと、これ以上麻疹を我が国で流行させないためと、ワクチンの接種を受けられない乳児、免疫不全のお子さまを麻疹の脅威から守るために必要な行為だからです。
そのために国や地方自治体は、さまざまな施策を行っています。
1)MRワクチン定期接種延長
この制度は、定期接種のMRワクチン1期、2期対象児が、2024年度にMRワクチン不足のために接種できなかったための救済処置です。厚労省の決めた国の制度で、接種は定期接種の扱いとなります。
延長期間:2025年4月1日~2027年3月31日(2年間)。打ちそびれの児は、この間に接種してください、ということです。通常通りのワクチンスケジュールで接種している児には、もちろん必要ありません。当クリニックはこの時期、MRワクチン希望者には全員接種を行っているので、当クリニックのかかりつけの患者さんには必要ない施策です。
対象者 :1期(1-2歳児): 令和4年(2022年)4月2日~ 令和5年(2023年)4月1日生まれで打ちそびれた児。
:2期(就学前1年間):平成30年(2018年)4月2日~ 平成31年(2019年)4月1日生まれの打ちそびれた児。
2)MRワクチン任意接種費用助成
定期接種の期間に打ちそびれた児は、2回分までMRワクチンの不足分を公費負担で無料で接種できます。これは、任意接種ですが、品川区が接種費用を保護者の代わりに負担する制度です。
通常通り、ワクチンスケジュールできちんと接種している児には、もちろん必要ありません。
対象者 :2歳から18歳まで。2期の接種期間が終わっても、MRワクチンの2回接種が済んでいない人。足りない分の接種費用を品川区が負担する制度です。現在、麻疹が東京都でも拡大しています。1~5歳で1回、6歳~18歳で2回接種が済んでいるか、母子手帳を確認しておくとよいでしょう。
以上、12歳までの受けそびれの親子には接種費用を負担することなく、2回までは不足分のMRワクチンを児に受けさせることができます。
3)MRワクチン風疹対策
MRワクチン接種による風疹対策は、風疹抗体価の低い女性、そのパートナーが対象となりますが、MRワクチン接種は麻疹の抗体上昇も期待できます。
対象者 :19歳以上で妊娠を希望する女性、妊娠を希望する女性の夫、同居者。
まず、当クリニックで風疹抗体価の検査を行い、風疹抗体価がHI16倍以下、またはEIA法で8.0未満の低値だった場合、MRワクチンを任意接種として、区が接種費用を負担して、無料で受けることができます。
この制度は先天性風疹症候群対策が目的ですが、MRワクチンを接種すれば麻疹の抗体の上昇も期待できます。乳児をもつご家庭は、積極的に活用したい制度です。
4)乳児へのMRワクチン接種
現在の麻疹流行に対するマスメディアの過熱報道に伴い、1歳前の乳児へのMRワクチン接種の相談が増えてきています。
まず、MRワクチンは、生後6カ月までは接種はできません。(母親の麻疹IgG抗体は、胎盤を経由して赤ちゃんに移行しています)
生後6カ月~11カ月の乳児へのMRワクチン接種について、日本小児科学会の見解は以下の通りです。
生後6~11か月児への接種は、近隣で麻疹患者の発生が認められる状況などにおいて緊急避難的な場合に考慮される手段であり、有効性や安全性に関するさらなるエビデンスの集積が必要である。(日本小児科学会:MRワクチンの接種推奨対象者について)
小児科学会の見解も踏まえて、当クリニックの乳児期のMRワクチン接種についての対応は以下の通りです。
①赤ちゃんの通園している保育園や、兄弟の通園、通学している保育園、幼稚園、小学校で麻疹が発生した、
②ご両親の職場で麻疹が発生した、
③明らかに麻疹患者と空間的に接触したことが疑われる、(ワクチン接種歴や抗体価に関わらず、麻しん患者の感染可能な期間に、 患者と同一の時間又は患者滞在後2時間以内に、同じ空間(空調が共通の空間も含む。)を共有した、患者と直接接触した、患者から2m以内で咳、くしゃみ、会話等によって患者の飛沫を浴びた可能性がある場合、保健所から積極的疫学調査が入ります)
などのケースでは、当クリニックで予防接種を行っている赤ちゃんに限り、MRワクチンの緊急接種を検討いたします。
麻疹患者と接触して、72時間以内にMRワクチンの緊急接種を行えば、麻疹の発病を防げる可能性が大きいからです。
ただし、当クリニックで予防接種を行っているかかりつけの赤ちゃんでも、麻疹が流行っていて心配だから、という理由だけでは、6-9カ月の赤ちゃんにはMRワクチンの接種は行いません。乳児期におけるMRワクチンの有効性、安全性についてはまだ結論が出ておらず、慎重に対処しなければならないと考えられるからです。
さらに、当クリニックで予防接種を行っていない、他の医療機関で接種を受けているお子さまは、ご両親が信頼して予防接種を受けている、そのかかりつけの先生とよくご相談をされるとよいと思います。ワクチンは打てば終りという行為ではなく、その後の経過もご両親と共に綿密に見ていくことが大切であり、信頼関係の構築されていない当クリニックでは、接種を行う事はできません。
また、東京都感染症情報センターの麻疹情報をみても、20代~40代で発病している麻疹患者の大多数は、麻疹(MR)ワクチン未接種か、接種歴不明です(下グラフ参照)。
したがって、乳児のご両親は自身達が感染源にならないために、ご自分達のワクチン接種歴を母子手帳で確認するか、麻疹抗体価の検査(自費)を受けることも考慮した方が良いかもしれません。前章で述べた、風疹対策を利用することも一方法だと思います。
また、抗体価を調べずに、直接任意接種として自費でMRワクチンを接種することも、検討に値すると当クリニックは考えます。もしも麻疹抗体があったとしても、さらに麻疹に対する免疫を増強させる効果が期待できるため、接種は決して無駄にはならないからです。

2026年4月9日、新宿の小学校で麻疹が集団発生し、学級閉鎖になりました(報道はこちら)。当初の発表の18名から、積極的疫学調査の結果、麻疹患者は47名まで増加しました(東京都の発表)。
麻疹含有ワクチンの接種歴は、0回~1回が7人、2回接種済みは28人、調査中が12人だったと発表されています。
2回ワクチンを接種していても、麻疹の検査陽性者が多数見つかったようですが、実際にはMRワクチンを2回接種している生徒は症状はないかあってもごく軽く、検査をしなければ麻疹と診断できないレベルだった人が大多数だったようです。
MRワクチンを2回接種しておくことは大切です。2回のワクチン接種歴があれば、万が一麻疹患者と接触しても発病しないか、しても極軽症で済むこと、周囲に撒き散らすほどウイルスを排出しないことが、明らかにされているからです。2026年3月19日時点で、国立健康危機管理研究機構・国立感染症研究所の報告によれば、2回MRワクチン接種者からの二次感染例は同一家族の1例しか確認されていないそうです。
麻疹の流行が続く今こそ、お子さまを守るMRワクチンを確実に接種しましょう。