フルミストについて 2023.9.24最終更新
フルミストの特長
フルミストは、鼻から投与される液状ワクチンです。
このワクチン液に含まれるインフルエンザウィルスは、25℃の低温でよく増殖するウィルス(低温馴化cold-adaptedといいます)を培養を重ねて、ほとんど病原性のなくなった(弱毒化attenuatedといいます)ウィルスです。
ヒトの鼻に噴霧すると、36~37℃ぐらいのヒトの体内はこのウィルスにとっては高温すぎるため、ほんのゆっくりしかペースでしか増殖できません(温度感受性化temperature-sensitiveといいます)。
しかも、ほとんど病原性を失っているため、有害な症状を起こすことなく、きわめて軽い「局所感染」で人は免疫を獲得することができます。
生ワクチンのため、インフルエンザの感染防止に高い効果が期待できると考えられてきました。
予防する病気
通常のインフルエンザ、すなわちA型インフルエンザ(新型、香港型)、B型インフルエンザに効果があります。
接種の方法
2~49歳が対象です。1回接種が原則です。
ただし、2~8歳でインフルエンザワクチンを1回も受けたことがない人は、免疫を確実にするために、1ヵ月間隔で2回接種が勧められています。
接種方法は専用の器具を用いて、左右の鼻の中に0.1mlずつ、総計0.2ml噴霧します(右写真は実際の接種場面です)。
不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)と、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)の作用の違い
不活化インフルエンザワクチンとフルミストの違いを対比させながら、ご説明いたします。
①不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)
不活化インフルエンザワクチン(インフルエンザHAワクチン)は、インフルエンザウイルスのとげ(H鎖)を含む不活化ワクチンです。
接種することにより、体内の血液中にインフルエンザウイルスへの迎撃用ミサイル(=血液中IgG抗体)が作られます。
増殖したインフルエンザウイルスが全身に広がる時に、血液中でこのミサイル=IgG抗体がウイルスを破壊=不活化することで発病を抑えたり、症状を軽くしたりします(重症化阻止)。
しかし、空気とともに体の中に進入してくる、インフルエンザウイルスは、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖するため、 不活化ワクチンはインフルエンザウイルスの感染そのものを抑えこむことはできません。
それは、不活化ワクチンで作りだされるミサイル=IgG抗体は血液中に留まり、鼻、気道の粘膜面には存在しないためです。
また、A型インフルエンザウイルスはとげ(H鎖)の組成を細かく変えて(ドリフト=連続変異)、ヒトの防御システムから逃れようとします。
H3N2(香港型)でも、シドニー型とパナマ型では微妙に形が異なり、不活化ワクチンの効果に大きな違いが出てきます。この細かい変異に対応できたかどうかで、その年の不活化ワクチンの効果が決まってくるのです。
さらに現在の不活化ワクチンは、B型インフルエンザに対する抗体の産生はあまり良くないといわれています。
②経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)
これに対し、経鼻インフルエンザ生ワクチン(フルミスト)は、実際鼻粘膜で弱毒化ワクチンウイルスが繁殖するため、鼻、気道でもIgG抗体とは別の迎撃用ミサイル=分泌型IgA抗体を作りだすことができます。
そして、鼻や肺への通路(気道粘膜)に直接もぐりこみ増殖しようとするインフルエンザウィルスに対して、この分泌型IgA抗体は直接攻撃を加えます。
したがって、インフルエンザウィルスの侵入を撃退し、発病を押さえこむことができるのです(感染阻止)。
また、ワクチンウィルスが増殖することにより、細胞性免疫を担当する細胞(CD8+T細胞)も活性化するため、不活化ワクチンと異なり、インフルエンザウィルスが微妙に型を変えても、ワクチンの効果が期待できるといわれてきました。
③フルミストと不活化インフルエンザワクチンの効果のちがい(アメリカ合衆国における、インフルエンザの不活化ワクチンと生ワクチンとの主要な相違点)
種類 | 不活化スプリットワクチン | 弱毒生ワクチン |
投与方法 | 筋肉内注射(アメリカ) 皮下注射(日本) |
鼻の中に噴霧 |
ワクチンのウィルスの状態 | 死んだウィルス | 病原性の弱い、生きたウィルス |
接種対象年齢 | 生後6ヵ月以上 | 2~49歳 |
インフルエンザ関連の合併症を起こす可能性 の高い人への接種ができるか |
できる | できない |
喘息のこどもや、過去12カ月間に喘鳴が見 られた2~4歳のこどもへの接種ができるか |
できる | できない |
妊婦への接種ができるか | できる | できない |
強度の免疫不全状態の人の家族・濃厚接触 者への接種ができるか |
できる | できない |
接種後の鼻咽頭部からのインフルエンザ ウィルスの検出 |
検出されない | 接種後7日ぐらいまで、検出される |
横浜市感染症情報センター「インフルエンザ生ワクチンについて」を一部改変
当初は、A型インフルエンザに対する、5歳未満児の発病予防効果はワクチン株一致で89.2%、株不一致でも79.2%と驚異的なものでした。
また、6ヵ月~7歳では、発病予防効果は83%と非常に良好な結果が報告されました。
ところが2015年以降、発病予防効果は不活化ワクチンより劣るという報告も出ていましたが、2018年は同等と言われています。
鼻水、鼻つまりなど鼻炎の症状が約半数(40~50%)にみられるようです。発熱と咽頭痛が10%ぐらいに見られるようですが、数日で改善します。
また、2歳未満への投与では入院と喘鳴の増加が認められたため、2歳児未満の子どもへの投与は認められておりません。
参考文献資料:
フルミスト-Wikipedia
医薬品卸業連合会:卸DI実例集.卸薬業38:55-59,2014
横浜市衛生研究所ホームページ 横浜市感染症情報センター インフルエンザ生ワクチンについて
Flumist Product Information -Medimmune