Ⅴ. 皮膚の病気
                                     2024.7.1更新
1.伝染性軟属腫


2.アトピー性皮膚炎(別稿)


3.伝染性膿痂疹(とびひ)

4.尋常性ざ瘡(ニキビ)(別稿)



Ⅴ. 皮膚の病気

1.伝染性軟属腫(水いぼ)

伝染性軟属腫(伝染性軟疣なんゆう腫)は水いぼと呼ばれ、身体や手足に小さな丸い疣(いぼ)ができる、皮膚のウイルス感染症です。乳幼児期(3歳がピーク)に保育園やプール教室でもらってしまうことが多い、ありふれた病気です。

伝染性軟属腫の病原体

病原体は、ポックスウイルスという、仲間の大型の伝染性軟属腫ウイルスです。接触感染で、皮膚から感染して広がります。

伝染性軟属腫の症状

潜伏期間は2~7週です。

症状は、2~5mm位の小さな光沢のある、丸いつるつるのイボが出現します。真ん中にへそのようなくぼみがあります。主に身体の体幹や手足の擦れやすい部分、腋下、胸部、上腕の内側などに、数個から数十個が集まって見られます。

かゆくないことがほとんどですが、気にして掻いて潰してしまうこともあります。時に炎症を起して化膿し、周りが赤く盛り上がることもあります。このときは痛がゆくなります。

年齢は、皮膚の抵抗力(バリア機能)の弱い乳幼児によく見られますが、アトピー性皮膚炎などの皮膚の抵抗力の落ちている学童や大人などに見られることもあります。

診断は、肉眼的に見て行います。慣れれば、診断は容易です。

軟属腫を左右から潰すと、中からウイルスを含んだ白いおかゆのような汁が出てきます。この中にウイルスが潜んでいます。


伝染性軟属腫の治療

水いぼはウイルス感染症のため、免疫ができると、半年から3年ぐらいの経過で自然に消えていきます。したがって、特に治療もせずにそのまま経過を見ることも一つの方法です。
(小児科では、この対応を勧める先生が多いです。)

しかし、接触感染で移るため、他人に移すこと、出現場所によっては手で触って100個以上に広がるケースもあること、見栄えが悪く気にする子どももいること、などから積極的な治療を行う選択肢もあります。(皮膚科では、この対応を勧める先生が多いです。)

特に、肌荒れがひどい人は水いぼもひどくなるようです。
 
治療としては、専用の水いぼ用のピンセットで摘まみ取る治療もよく行われます。

摘まみ取るときに出血し、痛みも伴いますが、とりあえず感染力は無くなり、取り切れれば治療は終了します。ただ、再発しやすいことや痛みを伴うため、子どもにとっては辛い治療になります。

最近、痛みを和らげるため、局所麻酔薬のテープ(ペンレステープ)が保険適応になり、水いぼに貼って前処置することも行われるようになりました。

1時間ぐらいで痛覚は無くなるはずですが、やはり子どもは怖がって大泣きするケースが多いです。また、まれに局所麻酔薬(リドカイン)はショックを起すことがあるので、貼付した後は子どもの様子をよく観察することが必要となります。

当クリニックでは、上記の理由でペンレステープの使用はお勧めしておりません。
 
または、皮膚科では液体窒素で焼いたり、冷凍凝固する治療も行われます。

飲み薬では、ヨクイニンという漢方薬も処方されることがあります。

ヨクイニン(薏苡仁)はイネ科のハト麦の種皮を除いた種子から精製した薬で、皮膚のウイルス感染に対する免疫を高める効果があると言われ、イボの治療に用いられてきました。顆粒、または錠剤で子どもの水いぼにも処方されます。

よく効くというほどではありませんが、効果がある時もあります。ただ、効果が見えにくく、長期間服用しなければならないため、途中で中断してしまう例も多いです。

当クリニックでは、ヨクイニンの処方は患者さんからリクエストが無い限り、行っておりません。

*日本皮膚科学会の尋常性疣贅診療ガイドライン2019では、推奨度:B「行うことを推奨する」となっています。

最近、水いぼの治療に、銀配合クリームが用いられるようになりました。有効率は80%という報告もあり、1日2回水いぼに塗るだけで2~3ヶ月で水いぼが消滅します。ただ、保険適応になっていないため、費用がかかります。

 
(3Aims HPより)

当クリニックでも2022年から、投与を開始しています。水いぼでお悩みの患者さんは、鈴木院長までご相談ください。


登校・登園基準

特に登校・登園基準はありませんが、集団生活、水遊び、お風呂で皮膚が直接接触することにより、周囲の子どもが感染します。
 
プールの水を通して感染することはありません。したがって、プールに入ることはかまいませんが、タオル、浮き袋、ビート板などを介して、感染する可能性があり、これらの共有は避けます。

また、接触を防ぐため、水いぼを包帯などで覆う配慮は必要です。

水いぼは肌の抵抗力が落ちている所にできるので、日頃から保湿剤などによるスキンケアによって、肌の状態をよくしておくことが大切です。

参考: 日本小児皮膚科学会:水いぼ



3.伝染性膿痂疹(とびひ)

正式名称は「伝染性膿痂疹」といいます。

皮膚に痒みをともなう水ぶくれができ、それをかき壊すことにより“飛び火”してどんどん広がる事から、このように呼ばれています。夏に多く、乳幼児によく見られます。

「とびひ」は、虫さされやあせも、かき傷、すり傷や湿疹などに黄色ブドウ球菌やA群溶血性連鎖球菌(溶連菌)といった細菌が入り込んでおこります。



伝染性膿痂疹の病原体

「とびひ」の病原体は、黄色ブドウ球菌とA群溶血性連鎖球菌(溶連菌)といった細菌です。

これらの細菌は健康な皮膚には感染しませんが、傷や湿疹などで皮膚の抵抗力が弱くなっていると感染して「とびひ」になります。接触感染によって、皮膚から感染して広がります。

伝染性膿痂疹の潜伏期

2~10日。より長い場合もあります。

伝染性膿痂疹の症状

最初は赤く腫れ、水疱になり、やがて破れてじくじくしてきます。乾燥すると、かさぶたになります。

黄色ブドウ球菌によるとびひは、水疱を作ってじくじくしやすく、幼小児に多く見られます。溶連菌によるとびひは、ぶよぶよしたかさぶたを作り、年齢を問わず発病します。

伝染性膿痂疹治療

抗生物質や痒み止めの塗り薬や飲み薬が必要です。

内服薬では、黄色ブドウ球菌は抗菌剤に対する耐性化が進んで、有効な抗菌剤が絞られます。溶連菌によるとびひはペニシリン系抗菌剤が標準的な治療薬になります。これは、溶連菌性咽頭炎と同じです。

➊伝染性膿痂疹の外用薬(塗り薬)
①アクアチム(ナジフロキサシン)
ニューキノロンと呼ばれる抗菌剤(抗生物質)の外用薬です。軟膏、クリーム、ローションがあります。症状に応じて、使い分けをします。

効果
黄色ブドウ球菌、アクネ菌、溶連菌などを殺菌します。

副作用
皮膚そう痒感、皮膚刺激感、発赤、皮膚乾燥、皮膚ほてり感などがみられることがあります。

塗り方

とびひの治療に使用する場合は、1日2回、石鹸にて泡立てて洗った後、とびひの部分に塗布します。

注意
ニューキノロン系外用薬使用で光線過敏症を起こす人がいるため、日光に当たりすぎないよう注意します。
妊婦、幼児には注意して使用します。



②ゼビアックス(オゼノキサシン)
アクアチムと同じ、ニューキノロンと呼ばれる抗菌剤(抗生物質)の外用薬です。クリーム、ローションがあります。

効果
黄色ブドウ球菌、アクネ菌、溶連菌などを殺菌します。
とびひに使用する場合は、1週間から10日後に徐々に効果があらわれてきます。1週間使用してもとびひに効果がみられない時は、塗布を中止したほうがよいでしょう。

副作用
皮膚そう痒感、皮膚刺激感、発赤、皮膚乾燥、皮膚ほてり感などがみられることがあります。


塗り方
1日1回、とびひの部分に塗布します。

ゼビアックス塗布前には入浴、洗浄など、皮膚を清潔にしておきます。白さが残る程度にとびひ部分にたっぷり塗ります。(右写真)


注意
ニューキノロン系外用薬使用で光線過敏症を起こす人がいるため、日光に当たりすぎないよう注意します。
妊婦には使用を避けます、12歳以下にも使用をなるべく控えます。



③フシジンレオ軟膏(フシジン酸ナトリウム)
フシジン酸は、細菌の成長に必要な蛋白質の合成を阻害することで抗菌作用を示す、ステロイドの構造を持つ抗生物質です。ブドウ球菌に対する効果が強く、とびひの治療によく用いられます。ただし、ステロイドの作用はありません。

効果
黄色ブドウ球菌に有効です。

副作用
特に目立った副作用はありません。

塗り方

1日数回とびひの部分に塗布します。



➋伝染性膿痂疹の内服薬
水疱やびらんの面積が広かったり、多発しているときは抗菌剤を内服します。

〔水疱性膿痂疹〕黄色ブドウ球菌が病原菌と考えられる水疱性のとびひでは、セフェム系抗菌剤、ペネム系抗菌剤を服用します。
通常4~5日服用してみて、良くなってきた場合は、さらに完全にじくじくが収まるまで抗菌剤を継続します。
4日服用してもあまりとびひが良くならない場合は、抗菌薬に耐性の進んだMRSAの可能性は強く、抗菌剤を変更します。

〔痂皮性膿痂疹〕ぶよぶよのかさぶたになるとびひは、溶連菌の可能性が強く、ペニシリン系薬を10日間服用します。しかし、黄色ブドウ球菌との混合感染が疑われる場合は、ペニシリン製剤では効果が無い場合があり、メイアクトなどのセフェム系薬やファロムなどペネム系薬等を投与します。

かゆみが強い場合は、ザジテン、アレロックなどの抗ヒスタミン薬を併用することもあります。


とびひの場所には石鹸でこすらずに、丁寧にやさしく洗い、水疱やじくじくした面に抗菌薬の軟膏(アクアチム軟膏、ゼビアックス軟膏、フシジンレオ軟膏など)を塗り、特にじくじくしている箇所はガーゼ等で覆います。

ガーゼがはがれたりずれたりしてしまう場合は、包帯やネットを使って固定した方がよいでしょう。このようなケースでは、炎症を抑え、皮膚を保護する作用を持つ亜鉛華軟膏をリント布に含ませた、ボチシートで覆います。

治りかけのカサブタを掻き壊してしまい、とびひがまた再燃してなかなか治らない、ということもよく経験します。多少良くなったからといって治療を中断せずに、最後までしっかり治るまで治療することが大切です。

生活上の注意点

・プールや温泉は、完全に治りきるまで控えます。
・とびひの部分がジクジクしている間は、シャワー浴とし、湯ぶねには浸からないようにしてください。
・とびひの部分はこすらずに手でやさしく洗い、シャワーで十分にながしてから、外用薬を塗ります。
・衣類は吸湿性の良いものを選び、膿(ウミ)などで汚れたら着替えましょう。
・爪はこまめに切り、清潔にします。
・鼻の中にはとびひの原因となる黄色ブドウ球菌がたくさんいます。鼻いじりはやめましょう

登校・登園基準

特に登校・登園停止の必要はありませんが、保育園や幼稚園、学校などの集団生活をさせる場合には、「とびひ」部分をガーゼで覆い、子ども同士が直接触れないようにします。

とびひの範囲が広く、なかなか治らない場合は、思い切って休ませて、自宅で十分なケアしたほうがよいこともあります。夏の間中、とびひの治療が必要だったお子さまもいました。

参考:皮膚科学会 とびひ


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