尋常性ざ瘡(ニキビ)

はじめに

ニキビ(尋常性ざ瘡)は青春のシンボルなどではなく、立派な慢性皮膚疾患です。

ニキビは自分の容貌へのコンプレックスや、いじめや不登校の原因にもなりかねないため、当クリニックは埼玉医大皮膚科助教授だった鈴木正皮膚科専門医(現諏訪皮膚科クリニック院長)とも密に連携を取りながら、中学生や高校生のニキビの治療に積極的に取り組んでいます。

*ただし、お母さまなど10歳代以降の成人の尋常性ざ瘡の治療は、皮膚科専門医への受診をお勧めしています。当クリニックはあくまで、小児科医療機関として高校生までの10代のニキビの治療を対象としています。



まず、ニキビ(尋常性ざ瘡)とは

ニキビにはいくつかの種類があります。

毛穴がつまり、中に脂肪(皮脂)がたまって少し膨らんで見える白ニキビ(面皰=メンポウ、コメドともいいます)、
入口の毛穴が黒く見える黒ニキビ(これも面皰コメドの一種です)、
膨らんだ皮脂の中でアクネ菌が繁殖し、炎症を起こし、 赤く腫れてきた赤ニキビ(紅色丘疹)、
その先端に膿が溜まって、黄色くみえるようになった黄ニキビ(膿疱)
と進行していきます(赤ニキビ、黄ニキビを併せて、炎症性皮疹といいます)
 
Dermatology Today 2020.Vol.041より転載

さらに、ニキビを放置していると、ニキビの部分がへこんだり、盛り上がったりして、ニキビ痕(痤瘡瘢痕)が残ってしまいます。
このニキビ痕はもう完全には元に戻らず、お子さまは長いこと悩むことになります。(野球選手にこのような方がいましたね)



ニキビの重症度

ニキビの重症度は、赤ニキビや黄ニキビ(炎症性皮疹)の数で判定します。

軽症 顔半分に、炎症性皮疹が5個以下
中等症 顔半分に、炎症性皮疹が6個以上20個以下
重症 顔半分に、炎症性皮疹が21個以上50個以下
最重症 顔半分に、炎症性皮疹が51個以上



ニキビの治療

ニキビができてきたら、十分に睡眠と、バランスの良い食事を取り、なるべくストレスをためないように心がけましょう。

ニキビの治療は、
 1.毛穴への対処(白ニキビの治療)…詰まりかけた毛穴の周りを、きれいにする治療
 2.炎症・化膿への対処(赤ニキビの治療)…原因であるアクネ菌を、殺菌する治療
となります。

また、治療を行う薬は、外用薬(塗り薬)を主体とし、必要なら内服薬も加えます。



Ⅰ.外用薬
ディフェリンゲル(アダパレン)

作用

ビタミンA(レチノイド)同様の作用を持つ外用薬。皮膚の角化をやわらげ、 毛穴のつまりを取り除くため、白ニキビと赤ニキビ初期に効果を示します。また、ニキビが改善した後の良い状態を保つためにも使用されます。

塗り方
1日1回、就寝前に洗顔後、顔だけに使用します。
まず、洗顔料を手に取り、よく泡立てて、泡で顔全体にやさしく洗います。洗顔料が残らないよう、十分洗い流します。

ディフェリンゲルを、ニキビとその周囲に適量塗布します。目の周囲、唇、鼻の入口は塗らないようにします。傷口、湿疹のある所も塗布は避けます。(保湿剤を使用する場合は、洗顔→保湿剤→ディフェリンゲルの順に使います)
副作用を避けるため、最初は、1/8FTUを額に塗ってみます。刺激症状が無ければ、量を増やし、塗る場所も広げて行きます。最終的に顔全体に1FTUを使用するようにします。
イラストは、Dermatology Today 2020.Vol.041より転載

塗り終わったら手をよく洗います。

効果
1日1回12週間使用で、白ニキビを6割減らします。
また、1年間の塗布した場合では、ニキビの減少率は8割弱でした。


副作用
塗りはじめから2週間までに、塗った場所がヒリヒリしたり、乾燥したり、赤くなったりする刺激症状がよく起こるようです。
しかし、2週間ぐらいで徐々に軽快することが多いようです。
あまり刺激感が強い場合は使用を中止します。

注意
妊娠中、妊娠の可能性のある女性は使用できません。12歳以上が使用対象です。
顔だけに使用します。
日光を大量に浴びることは避けます。



ベピオローション(過酸化ベンゾイル)

作用

過酸化ベンゾイル(BPO)は欧米ではニキビ治療薬として古くから使用されてきましたが、我が国では2015年のベピオゲルが始めて認可されました。さらに、2023年には、ベピオローションが発売され、ベピオゲルの顔の腫れ、ひりひり感などの副作用が軽減し、使いやすくなりました。

BPOは皮膚に塗られた後、分解され、フリーラジカルを放出します。このフリーラジカルが、アクネ菌や表皮ブドウ球菌など細菌に有害に働き、増殖を抑えます。 抗菌剤ではないため、耐性菌は現在まで報告されていません。

また、フリーラジカルは塞がった毛穴入り口周囲のタンパク質を変性させ、細胞同士の結合を弛めるため、角層の剥離を促します。

このように、アクネ菌の増殖を抑えたり、皮膚表面の古い角質を取り除く効果(ピーリング効果)によって、毛穴のつまりを改善します。
その結果、白ニキビ、赤ニキビを軽快させます。

ベピオローションには、保湿成分スクワランが配合されているので、保湿効果もあります。

2週間~3ヵ月ほど塗り続けることで、効果を実感することができます。しかし、塗布をやめてしまうと、ニキビがくり返し再発することがあります。そのため、ニキビが落ち着いた後も塗布を継続することで、肌をよい状態に保つことができます。

塗り方
1日1回就寝前、洗顔後に使用します。アダパレンと異なり、顔以外の背中のニキビなどにも使用できます。

まず、洗顔料を手に取り、よく泡立てて、泡で顔全体にやさしく洗います。洗顔料が残らないよう、十分洗い流します。

ベピオローションを、ニキビとその周囲に適量塗布します。目の周囲、唇、鼻の入口は塗らないようにします。傷口、湿疹のある所は避けます。

ベピオの副作用を防ぐため、最初、1/8FTUを額に塗ってみます。 刺激症状が無ければ、量を増やし、塗る場所も広げて行きます。最終的に顔全体に1FTUを使用するようにします。

塗り終わったら、必ず手を洗います。

効果
12週間の使用で、ニキビを6割以上減らします。特に、赤ニキビは7割減らします。

副作用
ベピオゲルは使いはじめに、アダパレンと同様、赤み、ヒリヒリ感、皮むけ、乾燥などの刺激症状があらわれることがあります。2~4週間ぐらいで軽快する例が多いようですが、時に強い赤み、ひどい腫れなどの激しい皮膚症状で中止せざるを得ない重症例もあります。

副作用を減らすために保湿剤を使用する場合は、洗顔→保湿剤→ディフェリンゲルの順に使います。

ベピオローションには保湿剤も配合されており、ベピオゲルの皮膚刺激症状の副作用は改善されています。

注意
妊娠中も使用できます。12歳未満も使用経験はありませんが、使用できます。
顔以外、背中などのざ瘡にも使用できます。
日光を大量に浴びることは避けます。
ベピオには漂白作用があるので、髪、衣料などに付着しないように注意してください。



エピデュオゲル(過酸化ベンゾイル+アダパレン配合剤)

作用
過酸化ベンゾイルのアクネ菌への殺菌効果、皮膚表面の古い角質を取り除くピーリング効果と、アダパレンの持つ皮膚の角化を改善する効果の両方が期待できます。

効果はニキビ外用薬で最も有効ですが、副作用も強いため、当クリニックではひどい赤ニキビ(中等症から最重症のニキビ)に限って、短期間処方しています。

塗り方
1日1回、就寝前に洗顔後に使用します。 塗り方は、ベピオ、ディフェリンゲルと同じです。

効果
1週間使用でニキビを25%、12週間で75%、1年で85%減らします。
また、ニキビ痕(瘢痕)を予防するため、良い状態の維持にも使用できます。

副作用
エピデュオゲルはベピオ、ディフェリンゲル以上に、塗りはじめに塗った場所にひりひりしたり、乾燥したり、赤くなることがあります。2週間ぐらいで軽快する例が多いようですが、激しい皮膚症状で中止せざるを得ない重症例もあります。

強い薬なので、赤ニキビが改善すれば、ベピオローションに戻します。

注意
妊娠中、妊娠の可能性のある女性は使用できません。(アダパレンが含まれているため)
原則、12歳以上に使用します。
顔だけに使用します。
日光を大量に浴びることは避け、日焼け対策を行います。
脱色作用があるため、髪や眉毛につかないようにしてください。



デュアック配合ゲル(過酸化ベンゾイル+クリンダマイシン配合ゲル)

作用
過酸化ベンゾイルの殺菌効果、ピーリング効果と、クリンダマイシンの抗菌作用により、アクネ菌を強力に抑制し、赤ニキビに著効を示します。

しかし、副作用も多く、また耐性菌予防のため、当クリニックではひどい赤ニキビに限って、短期間処方しています。

効果
赤にきびを2週間使用で約6割、12週で約9割減らします。

塗り方

1日1回、就寝前に洗顔後に使用します。 塗り方は、ベピオ、ディフェリンゲルと同じです。

副作用
デュアックは塗りはじめに塗った場所にひりひりしたり、乾燥したり、赤くなることがあります。デュアックは、即効性のある薬ではないため、あせらず指示通りに毎日塗布してください。

赤ニキビが改善すれば、ベピオローションに戻します。

注意
原則、12歳以上に使用します。
顔だけでなく、体のざ瘡にも使用できます。
日光を大量に浴びることは避けます。



アクアチム(ナジフロキサシン)

ニューキノロンと呼ばれる抗菌剤(抗生物質)の外用薬です。軟膏、クリーム、ローションがあります。症状に応じて、使い分けをします。
とびひに良く使われますが、赤ニキビにも有効です。

効果
ブドウ球菌、アクネ菌などを殺菌します。赤ニキビに使用します。

塗り方
ニキビ治療に使用する場合は、1日2回、洗顔後赤ニキビの部分のみに塗布します。

注意
ニューキノロン系外用薬使用で光線過敏症を起こす人がいるため、日光に当たりすぎないよう注意します。
妊婦、幼児には注意して使用します。



⑤ゼビアックス(オゼノキサシン)

ニューキノロンと呼ばれる抗菌剤(抗生物質)の外用薬です。クリーム、ローションがあります。

効果
ニキビに使用する場合は、1週間から10日後に徐々に効果があらわれてきます。4週間使用してもニキビに効果がみられない時は、塗布を中止したほうがよいでしょう。
表皮ブドウ球菌、アクネ菌などを殺菌するため、赤ニキビに使用します。
角質を取り除き、毛穴をきれいにする外用薬を併用します。(ただし、ゼビアックスはBPO製剤(エピデュオゲル、ベピオローション、デュアック配合ゲル)と重ねて塗るとと黄色に変色することがあります。併用する場合は、皮膚や衣服などへの着色に注意し、ゼビアックスを朝、BPO製剤を夜、のように分けて塗布してください。)

塗り方
1日1回、洗顔後赤ニキビの部分のみに塗布します。

注意
ニューキノロン系外用薬使用で光線過敏症を起こす人がいるため、日光に当たりすぎないよう注意します。
妊婦には使用を避けます、12歳以下にも使用をなるべく控えます。



Ⅱ.内服薬

ミノマイシン(ミノサイクリン)

作用
ミノマイシンは、テトラサイクリン系の抗菌剤です。

テトラサイクリン系抗菌剤は、蛋白合成阻害剤と呼ばれ、ヒト細胞にも細菌細胞にも存在する、リボゾーム(細胞の蛋白合成を行う、小さな粒のような場所)に働き、細菌の増殖を抑えます。

リボゾームは種によってわずかに異なるため、この抗生剤は細菌のリボゾームに主に作用し、ヒト細胞のリボゾームにはあまり影響しません。

また、このテトラサイクリン系抗菌剤は、ヒト免疫細胞である、好中球やマクロファージの内部にも移行し、ヒトの細胞内に寄生する病原体にも効果を示します。

テトラサイクリン系は小児科で一時盛んに使われましたが、耐性菌が増えたこと、歯牙黄染、関節障害などの副作用があるため、年少児では使用されません。ニキビの治療に中高校生には、必要な場合は投与しています。


効果
表皮ブドウ球菌、アクネ菌などを殺菌します。赤ニキビに使用します。角質を取り除き、毛穴をきれいにする外用薬を併用します。

内服方法
1日2回、内服します。投与は3ヵ月以内とされていますが、当クリニックでは1週間に限って処方しています。

副作用
年少児では歯牙の黄染、関節障害が問題になります。小児科領域では耐性菌が多いです。めまい、悪心、嘔吐が時に見られます。



②ファロム(ファロペネム)

作用
ファロムは、ペネム系の抗菌剤です。

ペネム系抗菌剤は、ペニシリン系薬剤に似た構造を持つ、1990年代後半に登場した新しい薬剤で、細菌に細胞壁(アクネ菌は植物なので、細胞壁という殻を持っています)を作らせず、アクネ菌を殺してしまいます。

効果
表皮ブドウ球菌、アクネ菌などを殺菌します。赤ニキビに使用します。角質を取り除き、毛穴をきれいにする外用薬を併用します。伝染性膿痂疹(とびひ)でも治療薬として使用されています。

内服方法
1日3回、内服します。ニキビ投与は3ヵ月以内とされていますが、当クリニックでは1週間に限って処方しています。

副作用
小児科ではとびひによく処方されますが、発疹以外はあまり副作用は認めません。

成人領域では、尋常性ざ瘡の治療に、ビブラマイシン(テトラサイクリン系)やルリッド(マクロライド系)といった抗菌剤も投与されているようですが、当クリニックでは使用していません。



③漢方製剤

皮膚科学会のガイドラインでは、「面皰(白ニキビ)に、他の治療が無効、あるいは他の治療が実施できない状況では、荊芥連翹湯を選択肢の一つとして推奨する。 黄連解毒湯、十味敗毒湯、桂枝茯苓丸については、行ってもよいが推奨はしない。」と記載されています。
あくまで、補助療法の位置づけになります。
当クリニックでは、症状によっては、荊芥連翹湯を赤ニキビ、白ニキビに処方しています。

荊芥連翹湯…炎症が起こりやすく、症状が慢性化しやすい体質の人に処方されます。赤ニキビ、白ニキビ双方に有効と言われています。
十味敗毒湯…皮膚の赤みや痒みを発散し、腫れや化膿を抑えます。赤ニキビ初期に用います。

参考
尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023:日本皮膚科学会



ニキビを防ぐには

思春期になると、皮脂の分泌が盛んになり、毛穴がつまりやすくなり、まず白ニキビになります。毛穴がつまって皮脂がたまると、アクネ菌が繁殖しやすくなり、炎症を起こし、赤ニキビとなります。

ニキビを防ぐには、1日2回洗顔をしっかり行うこと(脱脂力の強い製品は避けます)、できるだけストレスをためないことが大切です。 チョコレートなど特定の食べ物がニキビに良くないというウワサは、科学的根拠はありません。

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