手足口病はヘルパンギーナと並ぶ代表的な夏かぜで、口の中のアフタ(潰瘍)と手足に水を持った赤いぽつぽつができる病気です。手足と口の病気という意味で「手足口病」と名付けられました。
コクサッキ―A16(CA-16)、コクサッキ―A10(CA-10)、エンテロウイルス71など幾つかのウイルスが病原体として知られています。特にエンテロウイルス71は1997年、マレーシア、大阪、台湾で手足口病の患者に髄膜炎をおこし、死亡例が相次いで問題になったウイルスです。
●手足口病の症状
潜伏期間は、通常2~5日です。感染経路は病初期の飛沫感染や水疱からの直接感染とその後の経口感染(便→手)です。
熱は、38℃以下の軽い熱が1~2日出ることが多いです。
口のなか一面に、赤い点と中央部にアフタがみられ、ひどくなるとは食事をとる事をいやがったり、よだれをだらだらたらしたりします。手足にも、赤いポツポツと硬い感じの水疱がみられますが、水ぼうそうと異なり、かゆくなく破れることもありません。お尻や太ももに密集して出現することもあります。
ふつうは2~4日で、口の痛みは軽快します。
高熱が3日以上続く、頭痛がひどく嘔吐を繰り返す、元気がなく、ぐったりして食事も受け付けない、などの症状が続く場合は、髄膜炎の可能性も否定できないため、必ず病院で診察を受けてください。
年齢は4歳以下の子どもが多くかかります。原因となるウイルスがいつくかあるため、1回かかっても、又感染することもあります。また、大人にも感染します。冬にもみられることもあります。
●手足口病の治療
特別な治療はありません。口内炎がひどい場合は、アセトアミノフェンを痛み止めとして使用してもよいでしょう。食事はのどごしの良い食べ物(ゼリーや豆腐など)を与え、少量頻回に水分を取らせます。食事の後は白湯などを含ませ、口の中の清潔を保ちます。どうしても水分が取れず脱水に陥れば、輸液を行ないます。
皮膚の発疹はかゆみが無いため、ふつうそのまま様子をみます。かゆがるなら、非ステロイド系消炎軟膏をつけてもかまいません。
●登校・登園基準
発熱している間、口内炎がひどく食事が取れない間は、感染力も強いため、自宅で安静に過ごします。熱が下がり、口の痛みがなくなったら、登校・登園してもかまいません。
しかし症状回復後も2~4週間は便中にウイルスが排泄されるため、おむつの扱いには注意が必要です。
2011年の手足口病
2011年6-8月に流行した手足口病は、従来の手足口病とはかなり異なる症状を示す、特異なものでした(上写真)。
すなわち、①口内疹は少ない。ただし、口の周りにも水疱ができる。②従来好発部位だった手背、手掌、足背、足の裏には水疱が少なく、臀部、大腿、体幹に巨大な水疱を含む、大小不同の水疱が密在する。③水疱をかゆがったり、痛がったりする。④水疱出現の前に高熱が1~2日先行する。などの特徴がみられました。
原因ウイルスはコクサッキ―A6(CA-6)が検出される例が多かったようです。(2011.7.31)
ヘルパンギーナは代表的な夏かぜで、1~4歳のお子さまが口の中が痛くて、食事が取れなくなる病気です。病原体はコクサッキ―Aグループ(アメリカのコクサッキ―地方で始めて発見されたので、こう呼ばれる)で、他のエンテロウイルスでおこることもあります(原因ウイルスは複数ある)。
●ヘルパンギーナの症状
潜伏期間は、通常2~4日です。感染経路は病初期の飛沫感染とその後の経口感染(便→手)が考えられます。
症状は、突然39℃以上に発熱し、口の中を痛がります。のどの奥の口蓋垂(のどちんこ)のわきに小さな赤い点々とアフタが認められます。ものを呑み込むと痛いため、ミルクを飲まなかったり、よだれをたらす子もいます。3日ほどでのどのアフタは回復し、食事をしても痛がらなくなります。
原因となるウイルスが複数あるため、1回かかっても、又かかることもあります。
●へルパンギーナの治療
口の中のアフタがひどく、水分も嫌がるようなら、アセトアミノフェンを痛み止めとして使用してもよいでしょう(ただし、痛いときだけ飲ませます。1日2回まで)。抗生剤は無効です。食事はのどごしの良い食べ物(ゼリーや豆腐など)を与え、少量頻回に水分を取らせます。少し大きいお子さまだと氷をしゃぶらせても良いでしょう。また、食事の後は白湯などをふくませ、口の中の清潔を保ちます。どうしても水分が取れず脱水に陥れば、輸液を行います。
●登校・登園基準
熱があり、食事が取れない間は保育園、幼稚園はお休みします。熱が下がり、食事もふつうに取れるようになれば、登園はかまいません。また、便へのウイルスの排泄は1~4週続くので、オムツの扱いには注意しましょう(良く手洗いを行いましょう)。
咽頭結膜熱は、発熱、のどの腫れ、結膜炎を主とするアデノウイルス感染症で、以前はプールで流行することも多かったため、プール熱とも呼ばれています(今は飛沫感染が主な感染経路です)。幼稚園児、小学生の間で、主に流行します。
●咽頭結膜熱の症状
感染経路は、通常は飛沫感染(せき)が主ですが、プールでは結膜からの感染や経口感染(口から入る)も考えられています。
潜伏期間は、5~7日です。
39~40℃の高熱で始まり、頭痛、食欲不振、のどの痛み、くびのリンパ節の痛みと腫れが目立ちます。結膜炎にともなう、真っ赤な眼や眼痛、羞明(まぶしさ)、眼脂(めやに)が見られます。主な症状は、4~7日間続きます。
写真の掲載についてはお母さまのご承諾をいただいております。(無断転載厳禁)
咽頭結膜熱をおこすのは、アデノウイルス3型が多く、1型、4型、7型、14型も原因となります。特にアデノ7型は重症肺炎になるため、要注意といわれています。現在では迅速診断キットを用いれば、10分で診断は可能です。
眼症状(結膜炎にともなう眼の充血、眼痛、めやになど)がひどい場合は、眼科での治療が必要です。あとは小児科で経過をみます。抗生剤はアデノウイルスには無効です。
予防は、感染者との密接な接触を避けること(特に兄弟間)、うがいや手洗いを励行することが大切です。また、プールに入る時は、水泳前後に十分シャワーを浴びましょう。
ときにはプールを一時的に閉鎖しなければならない時もあります。
●登校・登園基準
解熱し、のどの痛み、結膜炎が治った後、2日間は登園、登校できません(学校保健安全法、保育所における感染症対策ガイドライン)。安静にして、体力の回復を待ちましょう。
数年前まで、毎年夏になると「プール熱大流行」報道が夏の風物詩のように繰り返されていました。プール熱報道についての、2006年の当クリニックの見解はこちら(→プール熱は大流行しているか)
アデノウイルスは、42(51ともいう)種に分類され、その症状も扁桃炎、肺炎や、腸炎、膀胱炎、咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎(流行り目)など多彩です。アデノウイルス扁桃炎は、滲出性扁桃炎(扁桃に白い膿が付く)で、アデノ1、2、3、5型が多く、おもに年少児~幼児にみられます。
●アデノウイルス感染症の症状
急に39℃から40℃の高熱がでて、5日ぐらい続き、急に解熱します。3日目ごろ、扁桃に白い膿が多くみられます。のどの痛みは軽度で、咳もあまりひどくはなりません。
●アデノウイルス感染症の診断
抗生剤が全く効かず、のどが真っ赤で高熱が続く場合、アデノウイルス感染を疑います。現在ではアデノウイルス迅速検査で、10分で診断できます。ただし、目も真っ赤ならば、咽頭結膜熱(プール熱)という、別のアデノウイルス感染症を考えます(咽頭結膜熱‐プール熱)。
●アデノウイルス感染症の治療
高熱が続くので、なるべく水分と栄養を十分に与え、安静にして様子をみます。高熱のため、ぐったりして脱水をおこしていれば、外来で点滴します。扁桃に細菌の混合感染の可能性や中耳炎を合併していれば、抗生剤を投与します(アデノウイルスそのものには、抗生剤は効きません)。
うがいと手洗いを励行します。赤ちゃんはかかりにくい(お母さまから抗体をもらっているので)ようですが、1~3歳の子は重症になる(肺炎)ことがあるため、感染した兄弟には、なるべく近づけないほうが良いでしょう。
アデノウイルスの中には重症になる型(7型)もあるので、熱が下がるまでは、元気、食欲、呼吸などのお子さまの全身状態は、よく注意して下さい。
●登校・登園基準
プール熱でなければ、登園証明書は必要ありません。熱が下がり、1日たてば登園は可能です。
ヒトパレコウイルス(HPeV)は、以前は夏かぜを起こすエンテロウイルスのグループに属し、エコーウイルス22型、23型と呼ばれていましたが、遺伝子解析技術の発達により、エンテロウイルスとは別のウイルスだと確かめられたため、エンテロウイルス属から1999年に独立し、「エコーウイルスに似たウイルス」(=パレコウイルス:Par-echoVirus、PeV)と命名されました。
1型から6型まで、6種類の血清型/遺伝子型が今までに報告されています。多くの人は乳児期に感染し(症状の見られない、不顕性感染のことが多いようです)、ほとんどの成人は免疫を持っているといわれています。
●ヒトパレコウイルス感染症の症状
ヒトパレコウイルス感染症は1型と3型が起こすことが多く、1型感染は秋~冬、3型感染は夏~秋に多くみられると報告されています。1型ヒトパレコウイルスは、胃腸炎(下痢、嘔吐)の症状が多く、次いでかぜ症状(咳、鼻)もよくみられます。まれに心筋炎、無菌性髄膜炎を起こします。逆に3型ヒトパレコウイルスは、発熱、かぜ症状が多く、時に胃腸炎もみられるようです。
年長児のヒトパレコウイルス感染症は軽症で経過することが多いようですが、3ヵ月未満の新生児~乳児のヒトパレコウイルス感染症は脳炎や敗血症のような重症感染症を起こすことがまれではなく、注意が必要です。
2014年の6月以降、発熱・敗血症疑いで入院した乳児から相次いでヒトパレコウイルスが検出されており、現在我が国で乳児の間でヒトパレコウイルス感染症が流行していることが問題になっています。2006、2008、2011年にも、ヒトパレコウイルスの流行が報告されており、現在小さな赤ちゃんが高熱や敗血症のような重い感染症にかかった場合、ヒトパレコウイルス感染症の可能性も考えなければなりません。
●ヒトパレコウイルス感染症の治療、予防
特別な治療はなく、症状に応じた治療を行います。また、予防するワクチンはありません。
参考:伊藤雅ら:ヒトパレコウイルス(Human Parechovirus:HPeV)感染症:モダンメディア53;329-336.2007.
<速報>生後3か月未満の乳児におけるヒトパレコウイルス感染症の発生:IASR35.221.2014年9月号
エンテロウイルス(属)は、ポリオ(小児まひ)ウイルス、コクサッキ-ウイルスA群、B群、エコーウイルスなどが含まれるグループです。手足口病、ヘルパンギ-ナなど夏かぜウイルスは大体このグループに属しています。パレコウイルスはこのグループから独立しました(前項)。
エンテロウイルスD68は、このエンテロウイルス属のD群と呼ばれるグループのウイルスの一つです。あまり、注目されないウイルスでしたが、2014年アメリカで大流行し、多数の重症肺炎の入院がありました。近年、わが国でも流行が報告され、肺炎や喘息と診断されています。
また、このウイルスはエンテロウイルスとライノウイルス(鼻かぜの原因ウイルス)の両方の性質を持つ、ユニークなウイルスです。
●エンテロウイルスD68の症状
感染経路はウイルスに汚染された鼻水や痰などが付着した手や物からの接触感染や、飛沫感染(せき、たん)です。
9月がピークで、夏から秋にかけて流行します。年少児が感染しやすく、我が国の患者のうち、77%が0~5歳だったと報告されています。
発熱、咳、鼻といった軽いかぜ症状から、ぜいぜいして、呼吸が苦しくなる呼吸困難を示す重症肺炎まで症状は様々です。きわめてまれに手足がまひする症状を起こすことがあります。
●エンテロウイルスD68の治療、予防
特別な治療はなく、症状に応じた治療を行います。また、予防するワクチンはありません。
参考:エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症に関するQ&A:国立感染症研究所感染症疫学センター
横浜市衛生研究所:エンテロウイルスについて
デング熱は、南~東南アジア、中央アフリカ、中南米などを中心に、年間1億人が発病し、25万人が重症化し(デング出血熱)、2万5千人が死亡している、ヤブ蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)が媒介する感染症です。
実はわが国でも第二次大戦中、東南アジアからの移動してきた軍人を中心に西日本で流行がひろがり、20万人以上が発病したことがありました。
その後、海外で感染した人以外の国内での感染発病例はありませんでしたが、2014年8月代々木公園で蚊に刺されて発病した人が見つかり、その後国内で感染した患者が次々と見つかり、流行が急速に拡大しています。
●デング熱の病原体、媒介昆虫
病原体はフラビウイルス科のデングウイルスで、4つの血清型に分けられます(1型~4型)。デングウイルスは日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルスなどと近縁ウイルスです。
感染経路は、デングウイルスを持っている人を刺したネッタイシマカ、ヒトスジシマカの体内でウイルスが増殖し、感染していない人に吸血する時に、蚊の唾液からデングウイルスが感染します。
潜伏期間は、通常4~7日(最大3~14日)です。ただし、ヒトスジシマカの体内でのデングウイルスの増殖のスピードは、遅いといわれています。
ネッタイシマカは日本には土着していません。ヒトスジシマカは俗にヤブ蚊といわれるふつうに飛んでいる蚊で、日中に活動しています。また、5月中旬から10月下旬が蚊の成虫の活動シーズンで、10月下旬を過ぎればヒトスジシマカの成虫はいなくなり、デング熱の今回の流行は終息に向かうとみられています。
●デング熱の症状
蚊に刺されてデングウイルスに感染しても、50~80%の人は症状が出ません(無症候性感染といいます)。
発病した場合、通常は1週間の経過で回復しますが、重症化した場合(5%未満)は、適切な治療をしないと10~20%が死に至ります。ただし、適切な治療を行えば、死亡率は1%未満といわれています(重症化については後述)。
発病した時の症状は、急激な発熱で始まります。高熱とともに、激しい頭痛、関節の痛み、まぶしい光で増強する目の奥の痛み、激しいだるさが出現し、数日続きます。この痛みは激烈で、英語でbreakbone feverとも言われています。のどの痛み、咳、下痢、腹痛などは通常病初期にはみられません。高熱と激しい痛みが主な症状のようです。
ただし、微熱とからだのだるさぐらいで終わる、軽症の人も多く存在するといわれています。
発熱は2~7日で解熱しますが、このころ、身体に発疹が出ます。赤いポツポツが広がる点状出血斑や、白く所々が抜けた一面の赤み(紅斑)など、いろいろな発疹が出現します。
この熱が下がった2日間ぐらいが実はデング熱の経過中、最も重要な時期で、この時期を乗り切れれば病状は急速に回復に向かい、逆に出血傾向がひどくなり、脱水に陥れば、重症化(デング出血熱)へ進行していきます。
この時期に、白血球と血小板が著しく減少します。したがって、デング熱を疑えば、血液検査は必須です。
重症化のサインとしては、
1 腹痛・腹部圧痛、2 持続的な嘔吐、3 腹水・胸水、4 粘膜出血、5 無気力・不穏、6 肝腫大(2cm以上)、7 ヘマトクリット値の20%以上の増加(血液濃縮のサイン)
の1つでも認めた場合、重症化を考えます。(重症化については後述)
●デング熱の診断
以下の項目のうち、Aが必ずみられ、Bが2つ以上該当すれば、デング熱が疑われます。
(A)必ずみられる所見
1 .突然の発熱(38℃以上) 2 急激な血小板減少
(B)随伴所見(2つ以上満足)
1 発疹(発病数日後、解熱傾向とともに出現することが多い) 2 悪心・嘔吐 3 骨関節痛・筋肉痛 4 頭痛 5 白血球減少 6 点状出血(ターニケットテスト陽性=血圧計の駆血帯を巻き、5分駆血すると、出血斑が多数出現する)
一般的には発病2~4日目ごろに、血液を調べると、白血球や血小板が激減することが診断的価値があるといわれています。
確定診断では、3~5日目にデングウイルス特異的IgM抗体や血液中のウイルス非構造タンパク抗原(NS1抗原)を検出する検査がありますが、一般の医療機関では行うことができません。
●デング熱の治療
治療は、特別のものはありません。水分が取れない時は点滴を行って、血液量を確保しながら回復を待ちます。
●デング熱の重症化(デング出血熱、デングショック症候群)
デング熱の発熱が解熱するころ、血管内の水分が血管外に漏れだして、血小板も激減して、血液量の減少(血管外に水分が漏れてしまうため)と出血傾向が出現し、全身状態が急激に悪化し、10~20%が未治療だと死亡する、恐ろしいデング出血熱の病態に進行する例があり、要注意です。
重症化のサインとしては、1 腹痛・腹部圧痛、2 持続的な嘔吐、3 腹水・胸水、4 粘膜出血、5 無気力・不穏、6 肝腫大(2cm以上)、7 ヘマトクリット値の20%以上の増加(血液濃縮のサイン)の1つでも認めた場合、重症化を疑います。
デング出血熱になると、患者は不安、興奮状態になり、腹水や胸水がたまり、肝臓が腫れ、細かい出血斑がたくさん出現します。鼻血や下血し、進行すると血圧が低下し、ショックを起こします(デングショック症候群)。
デング出血熱と診断したら、入院し、血液量を確保するために輸液を行います。適切な輸液管理が行われれば、死亡率は1%以下にとどまるといわれています。
デングウイルスは1~4型があり、一度感染した人が別の型のデングウイルスに新たに感染し、発病すると、重症化しやすいといわれています。
●デング熱の予防
予防のワクチンがないため、蚊に刺されないよう、注意するしかありません。
前述したように、ヒトスジシマカは昼間活発に活動し、吸血行為を行うため、昼間蚊に刺されないように配慮が必要です。虫除け剤(忌避剤)の使用(→虫除け剤の安全な使用法)や、長袖長ズボンの着用を考えましょう。
人から人への直接的な感染はありません。ただし、デング熱の患者さんは蚊に刺されないよう、配慮が必要です。(他の人に移してしまうから)
参考: 厚生労働省:デング熱に関するQ&A
国立感染症研究所ウイルス第一部:デングウイルス感染情報
厚生労働省健康局結核感染症課:デング熱診療ガイドライン(第1版)
国立感染症研究所:デング熱国内感染事例発生時の対応・対策の手引き 地方公共団体向け(第1報)
なお、本文中に使用した地図は国立感染症情報センター感染症の話デング熱から、蚊の写真は武田薬品「蚊が媒介する世界の主な感染症」リーフレットから転載させていただきました。厚く御礼申し上げます。
チクングニア熱は、原因ウイルスこそ、デングウイルスの属するフラビウイルス科ではありませんが、デング熱によく似た症状、分布図を持つ、蚊媒介感染症です。
●チクングニア熱の病原体、媒介昆虫
病原体はトガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスで、血清型は一つです。
感染経路は、チクングニアウイルスを持っている人を刺したネッタイシマカ、ヒトスジシマカの体内でウイルスが増殖し、感染していない人に吸血する時に、蚊の唾液からチクングニアウイルスが感染します。
潜伏期間は、通常2~12日(多くは3~7日)です。
●チクングニア熱の症状
チクングニア熱の症状は、デングウイルスとほぼ同じです。
●チクングニア熱の治療
治療は、特別のものはありません。水分が取れない時は点滴を行って、血液量を確保しながら回復を待ちます。
●チクングニア熱の予防
予防のワクチンがないため、蚊に刺されないよう、注意するしかありません。
デング熱で述べたように、ヒトスジシマカは昼間活発に活動し、吸血行為を行うため、昼間蚊に刺されないように配慮が必要です。虫除け剤(忌避剤)の使用(→虫除け剤の安全な使用法)や、長袖長ズボンの着用を考えましょう。
2014年から始まったエボラ出血熱の大流行は2014年12月になっても終息する気配はなく、すでに12月12日現在患者は18152人、死亡者は6548人に。アメリカ、ドイツ、スペインなど先進国にも飛び火し、流行地から帰国した医療従事者が発病し、入院する事態になっています。
もともとエボラウイルスは、中央アフリカ地帯のオオコウモリを宿主としているウイルスでした。このエボラウイルスを体内に持ったオオコウモリを食べたり、接触した野生動物(チンパンジー、アンテローブなど)の死体に触ったり、生肉を食べたり、接触することによって、人に移る介して発病する、アフリカの風土病でした。
エボラウイルスは5つの種があり、2014年現在、西アフリカで大流行しているのは、もっと毒性の強いザイールウイルスで、死亡率は50~90%といわれています。
●エボラ出血熱の感染経路
エボラウイルスは症状が出た患者や、その血液、唾液、汗、精液、涙、母乳、さらに吐物や便、尿、それらに汚染された注射針などに直接触れて、感染するといわれます。 空気感染は起こらないようです。
ただし、患者が咳をすれば、その飛散物から感染する可能性はあります。また、新型インフルエンザとちがって、発熱など症状のみられない、無症状の患者から感染することはないといわれています。
●エボラ出血熱の症状
エボラウイルス病の潜伏期間は2日から3週間です。突然の発熱、頭痛、激しいだるさ、筋肉の痛み、喉の痛みなど、インフルエンザと同じような症状で発病します。次いで、嘔吐、下痢、発疹、肝障害が現われ、さらに症状が進むと出血傾向がみられるようになり、 最後は死亡する恐ろしい病気です。
ただし、出血傾向はエボラウイルス病の10%以下といわれ、最近はエボラ出血熱からエボラウイルス病(EVD)と呼ばれるようになってきています。
●エボラ出血熱の治療
予防のワクチンはありません。また、有効な治療薬もありません。
●エボラ出血熱の予防
現在、我が国では、アフリカの流行国(西アフリカ地方のギニア、リベリア、シェラレオネ)からの帰国者はサーモグラフで体温を測定し、無熱者には入国後も一日に2回体温測定して、保健所などに報告するよう、指導されています。ただし、潜伏期の患者を発見することはできません(発病まで最大3週間かかることもあるから)。
●エボラ出血熱の対策の問題点
流行地が西アフリカに限定されていること、無症状の患者は感染力がないこと、患者の体や体液に直接触れることが感染の条件となるため、品川区の街の中や公共の場で、元気なエボラ出血熱の人が歩いて
感染を広める、というケースは考えにくいと思います。
品川区でエボラ出血熱の患者が見つかるとすると、潜伏期間が最長21日のため、無症状だった西アフリカからの帰国者が、帰国後国内で発熱し、医療機関で診断されるというケースが考えられます。
最悪のシナリオは、発熱者がアフリカ流行地に滞在していたということを明らかにせず、保健所に連絡することもしないで、自己判断で近くの診療所を受診してしまう、というケースです。しかも、医療機関が西アフリカからの帰国者だということを知らず、採血などの検査処置等を行えば、万が一受診者が本当のエボラ出血熱患者だったならば、かなりの確率で診療所のスタッフは感染してしまいます。そして、その医療機関から感染が周囲に広がる、最悪なシナリオも考えられるのです。
厚労省も医師会もこのような事態を避けるために、ポスターを作成して広報しています。
参考:エボラ出血熱とは 国立感染症研究所
エボラ出血熱について 厚生労働省
なお、本文中に使用した写真1点はCDCのHPから転載させていただきました。厚く御礼申し上げます。
ジカウイルス感染症
厚生労働省と川崎市は2016年2月25日、ブラジルに滞在した男子高校生がジカ熱と診断されたと発表しました。
世界保健機関(WHO)が2016年2月1日にジカ熱の蔓延を、「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」を宣言して以降、国内で感染者が確認された初めての例でした。
●ジカウイルス感染症の歴史
ジカウイルスは、1947年にウガンダのZika forest(ジカの森)のアカゲザルから初めて分離され、1968年にナイジェリアで行われた研究で、ヒトから初めて検出されました。
2000年代に入ってから、急速に世界中に広がり、2007年にはミクロネシアのヤップ島では島民の実に7割に当たる300人が感染を起こし、2013年にはタヒチ島などフランス領ポリネシアで約1万人の集団発生が報告されています。
その後、中南米に波及し、2014年にはチリのイースター島に上陸しています。2015年5月以降には、ブラジルおよびコロンビアを含む南アメリカ大陸で現在に至るまで、大流行となっているのです。
2016年8~9月にはブラジルのリオデジャネイロで、 オリンピックとパラリンピックが開催され、多くの日本人も渡航することが予測されます。当然、若い日本人男女も多数ブラジルに渡航するものと予想されます。
その結果、今回の川崎の高校生のように、現地でジカウイルスに汚染された媒介蚊に刺されて帰国して発病した人から、国内で流行する可能性が危惧されているのです。
●ジカウイルス感染症の病原体、媒介昆虫
病原体はジカウイルスです。ジカウイルスは、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルスなどと同じ、フラビウイルスの仲間です。
感染経路は、ジカウイルスに感染し、体内にジカウイルスを持っている人を、刺した媒介蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)の体内で、まずジカウイルスは増殖します。このジカウイルスを持った蚊が、感染していない人に吸血する時に、蚊の唾液から感染します。(蚊に刺されて移ります。ヒトからヒトへの感染も、性行為による感染が報告されています)
潜伏期間は、通常2~12日(最大3~14日)です。
ネッタイシマカは日本には土着していません。ヒトスジシマカは俗にヤブ蚊といわれるふつうに飛んでいる蚊で、日中に活動しています。また、日本では、5月中旬から10月下旬が蚊の成虫の活動シーズンとなります。
●ジカウイルス感染症の症状
蚊に刺されてジカウイルスに感染しても、80%の人は発病せず、無症状のままです(無症候性感染、不顕性感染)。
発病した場合には、①中等度の発熱(38.5℃以上の高熱にはならない)、②斑状の発疹やぽつぽつした丘疹などの皮膚症状、③関節痛や関節の腫れ、④結膜の充血が、患者の半数以上に見られます。それ以外には、頭痛、筋肉痛、目の後ろの痛みなどが比較的よく見られる症状で、下痢、嘔吐などを伴うこともあるようです。
すなわち、ジカウイルス感染症はデング熱、チクングニア熱とちがって、通常はかぜの軽い症状程度で経過する人が大部分で、恐れることはありません。
しかし、通常は1週間程度の経過で回復しますが、ジカウイルス感染症流行時と同じ時期に、四肢にマヒを起こすギラン・バレー症候群の患者が増えたという報告があり、現在ジカウイルス感染症とギランバレー症候群の関連について、検討が進められています。(ジカウイルス感染症から、高率にギランバレー症候群が発症するのか)
ただし、妊婦がジカウイルスに感染すると、児に小頭症を主な症状とする「先天性ジカウイルス感染症」を引き起こす可能性があり、これがジカウイルス感染症の最大の問題となっています。先天性ジカウイルス感染症に関しては、後段で詳しく解説します。
●ジカウイルス感染症の診断
遺伝子検査法による血液、尿からのウイルスRNAの検出が診断となります。一般診療所では行えないので、保健所に依頼することになります。
●ジカウイルス感染症の治療
通常は軽症のため、特別な治療は必要ありません。
●先天性ジカウイルス感染症
ブラジルで、おなかの胎児が小頭症と確認された妊婦の羊水から、ジカウイルス遺伝子が検出されました。 また、出産後まもなく死亡した小頭症の赤ちゃんの、 血液と組織からジカウイルス遺伝子が見つかりました。
ブラジルでは、2015年10月から2016年1月30日までの間に、4,783人の、小頭症が疑われた胎児、新生児が報告されました。さらに最近、小頭症の赤ちゃんの網膜の異常も報告されています。ブラジル保健省は2015年11月、ジカウイルス感染と小頭症の流行に関連があると発表しました。
また、フランス領ポリネシアにおいても、ジカウイルス感染症が流行したとき、胎児・乳児の脳の異常の増加がみられたと、ヨーロッパ疾患管理センター(ECDC)が報告しています。そのため、2016年2月には、世界保健機関WHOが「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」(PHEIC)を宣言しました。
●ジカウイルス感染症の予防
予防のワクチンがないため、蚊に刺されないよう、注意するしかありません。
前述したように、ヒトスジシマカは昼間活発に活動し、吸血行為を行うため、昼間蚊に刺されないように配慮が必要です。虫除け剤(忌避剤)の使用(→虫除け剤の安全な使用法)や、長袖長ズボンの着用を考えましょう。
人から人への直接的な感染はありません。ただし、性行為や輸血で感染したという感染したという報告はあります。
ジカウイルス感染症の患者さんは蚊に刺されないよう、配慮が必要です。(他の人に移してしまうから)
ブラジルなど、ジカ熱流行地域に渡航するときは、蚊に刺されないよう、肌の露出が少ない服を着用(長袖・長ズボン・帽子)すること。 蚊が嫌う成分であるペルメトリン含有した服も有効なこと。DEETなどの昆虫忌諱剤を適切に使用することなどは配慮しなければなりません。
.2016年2月現在、米国疾患管理センターCDCやヨーロッパ疾患管理センターECDCは、より詳細な調査結果が得られるまで、現在流行している国や地域へ妊婦が渡航することを控えるように警告しています。 妊娠予定の女性に対しても、主治医と相談の上で、厳密な防蚊対策が推奨されています。
また、WHOも、2016年2月、妊婦は主治医と相談し、ジカウイルス感染症の流行地へ渡航することを延期すべきであると発表しました。同時に流行地への全ての渡航者に防蚊対策をしっかり行うことを呼びかけました。
国立感染症研究所も、「可能な限り妊婦の流行地への渡航は控えた方が良いと考える」という見解を発表しています。
性行為感染の予防については、特に、流行地から帰国した男性で妊娠中のパートナーがいる場合は、パートナーの妊娠期間中は、症状の有無に関わらず、 性行為を行う場合はコンドームを使用することが推奨されています。
参考: ジカウイルス感染症のリスクアセスメント
厚生労働省ジカウイルス感染症に関するQ&Aについて
ジカウイルス感染症(ジカ熱)に対する今後の国内対応について
なお、蚊の写真は武田薬品「蚊が媒介する世界の主な感染症」リーフレットから転載させていただきました。厚く御礼申し上げます。