Ⅰ.予防接種の種類 (序論)        2024.8.1更新 


予防接種の種類

ワクチン(予防接種)とは、ヒトの身体の中に病原体そのものや、病原体のからだの一部、病原体の出す毒素などを、ヒトに有害な影響を及ぼさないように処理した上で接種して、病原体に打ち勝つ抵抗力を獲得するものです。

ワクチンの投与方法には、注射(筋肉注射、皮下注射、皮内注射)、内服(経口)、点鼻があります。

まず始めに、ワクチンを分類します。

 大分類  小分類  主なワクチン(青字はコロナワクチン)
Ⅰ生ワクチン ①生ワクチン MRワクチン、水痘ワクチン、おたふくワクチン、BCG、ロタワクチン
Ⅱ不活化ワクチン ①不活化ワクチン(狭義) インフルエンザHAワクチン、肺炎球菌ワクチン、日本脳炎ワクチン
②トキソイド 破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド
  ③組換え蛋白・ペプチドワクチン B型肝炎ワクチン
④VLPワクチン HPVワクチン
Ⅲ核酸ワクチン
(遺伝子ワクチン)
①mRNAワクチン スパイクバックス(モデルナ社製コロナワクチン)、コミナティ(ファイザー社製コロナワクチン)


Ⅰ生ワクチン

毒性をきわめて弱くした病原体を、生きたまま体に接種して、病気に軽く感染させ、しっかりした免疫をつけようというものです


麻疹・風疹(MR)混合ワクチン、水痘ワクチン、おたふくワクチン、BCG、ロタウイルスワクチン、インフルエンザ生ワクチンがこれに含まれます。


Ⅱ不活化ワクチン

①(狭義の)不活化ワクチンは、細菌、ウイルスをこなごなにして、その一部の成分を体に注入するものです。

肺炎球菌ワクチン、五種混合ワクチン(うち、百日咳、不活化ポリオワクチンが不活化ワクチン)、日本脳炎ワクチン、インフルエンザHAワクチン、髄膜炎菌ワクチン、ヒブワクチンなどがこれに属します。

さらに、このグループの中には、組換え蛋白・ペプチドワクチン(不活化ワクチンに含まれるさまざまな成分の一部を、遺伝子組み換え技術を用いて、大腸菌や酵母菌の中に遺伝子を転写し、免疫獲得に必要な抗原蛋白やペプチドだけを大量に作らせたワクチンで、アミノ酸が多いと蛋白、少ないとペプチドと呼びます。)があり、B型肝炎ワクチンがこれに属します。

②トキソイドは、細菌が産生する毒素を無害化して、人に接種するものです。
ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイドがこれに含まれます。

③VLP(Virus Like Particle=ウイルス様粒子)ワクチンは、ウイルスを包む殻のタンパク質の部分を人工的に合成して、人に接種するものです。これはにせもののウイルスの殻だけのワクチンで、肝心の中味=遺伝子は入っていません。

したがって、病原体が増殖することはなく、病気になることはありません。

子宮頸がんなどを予防するHPVワクチンが、このVLPワクチンになります。
(上図は、廣谷徹:ワクチンの種類より転載)


mRNAワクチン(核酸ワクチン)

核酸ワクチンは、ウイルスの遺伝子情報をヒトの体に注入するもので、さらに遺伝子の種類によって、DNAワクチンとRNAワクチンに分けられます。現在、実用化しているワクチンは、新型コロナウイルスに対する、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンです。

DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)は核酸と呼ばれ、ヒトの体を作るタンパク質の設計図(遺伝子と呼ばれます)です。
塩基であるAアデニン、Gグアニン、Cシトシン、Tチミン、Uウラシルをペアにして組み合わせて、対応するタンパク質を合成する情報コードです。(わかりやすい説明はこちらをご覧ください)

*細胞の中でDNAの持つ遺伝情報からタンパク質がどのように作られているのかは、こちらのアニメーションをご覧ください。
 
①mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、DNAを介することなく、直接ウイルス蛋白の設計情報を持ったmRNA(メッセンジャーRNA)をヒト体内に注入します。注入されたmRNAは、ヒトの細胞質でヒトの細胞成分を勝手に使って、設計図通りのウイルス蛋白を合成させます。

作り出されたウイルス蛋白は、ウイルス自身の成分であり、ヒトの体の一部では無いため、ヒトの免疫組織は異物(敵)として認識し、抗体を作って攻撃し、体の中から排除します。

しかし、注入されるmRNAは非常に脆く壊れやすく、ヒトのRNA分解酵素で簡単に分解されてしまうため、細かい脂肪の殻でmRNAを包み込み、脂質ナノ粒子(LNP:lipid Lipid-polymer nanoparticle)という安定したカプセルにして、壊れないように細工して注射します。
脂質ナノ粒子(LNP)でカプセル化したことにより、ヒトの細胞内に安定的にmRNAが取り込まれやすくなります。

このワクチンで使用された、脂質ナノ粒子(LNP:Lipid-polymer nanoparticle)とは、直径が10nm(10ナノメータ)から100nm(100ナノメータ)の大きさの脂質(脂肪)を主成分とする粒子で、いろいろな成分が入っていて、細胞にくっつきやすい性質になっています。

内部にDNA、RNAや薬物などを包み込んで運搬する、運搬係(ベクターと呼びます)として働きます。いわば、新型コロナウイルスの遺伝子情報を脂肪で包みこんで、ヒトの細胞に入りやすくする脂肪の殻のような存在、といえます。


この記憶は保存され、新たに同じウイルスが侵入してきたときには、速やかに異物として認識、攻撃し、排除します。これがmRNAワクチンの原理です。

さらにmRNAを取り込んだ細胞では、ウイルス遺伝子の命令で作られたウイルス蛋白の一部が細胞表面から顔を出して、まるでウイルス感染細胞のような、ヒトの細胞とは異なったおどろおどろしい顔つきになるため、免疫細胞=T細胞(リンパ球)に正体を見破られ、T細胞に攻撃されて破壊されます(細胞性免疫反応といいます)

mRNAワクチンは液性抗体だけでなく、この細胞性免疫も獲得するため、効果がより強くなると考えられています。

核酸ワクチンは、生きた病原体を弱らせたり(生ワクチン)、粉々にしてその死骸の一部を体に注入するワクチン(不活化ワクチン)ではありません。生きた病原体とは全く独立した核酸遺伝子断片を、実験室内で化学的に作成し、さらに脂肪微粒子(LNP)で包み込んでヒトの体に注入するという、今までのワクチンとは全く新しい、異なる工程で作り出されるワクチンです。

このワクチン製造には、病原体の存在は必要なく、必要なのは核酸遺伝子(の一部)のため、短期間に大量生産が可能です。しかも病原ウイルスは存在しないため、病原体による汚染の心配も全くありません。

また、RNAウイルスが変異しても、一部切り取ったRNA断片が変わっていなければ効果に問題はないし、変異した部分に該当するなら、別の核酸遺伝子の一部を増幅すれば良い、ということになります。「工業生産」されたワクチンで、生物学というよりは化学の香りのするワクチンですね。

2023年度のノーベル医学生理学賞に、mRNAワクチンの開発に大きな貢献をした米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ教授と同大のドリュー・ワイスマン教授が選ばれま

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第2章 ワクチンの有効性と副反応について

ワクチンの有効性

ワクチンの有効性は、次の3つの項目で評価されます。
①immunogenicity:
免疫原性(血液検査の有効率)=ワクチンを接種されたヒトの血液中に出現した抗体のレベル(抗体価)が、感染や発病を阻止できるレベルに達したヒトの割合を調べます。

②efficacy:
臨床試験の有効率=接種したヒトの群と、ワクチンを接種していないヒトの群(対照コントロール群)を比較して、発病したヒトの割合を調べます。

③effectiveness:
実際の有効率=多くのヒトがワクチンが接種した後、実際にどのくらいヒトが発病し、感染症が実際に減少したかを調べます。
有効率はおもに発病するかどうかで評価することが多いですが、重症化率や致命率を指標にすることもあります。

この章は総論のため、個別のワクチンのデータは、各ワクチンの項をご覧下さい。)

efficacy:臨床試験の 有効率90%とは、1000人ワクチンを接種したら、900人がコロナにかからなかった、という意味ではありません。1000人にワクチンを接種し、1000人に偽ワクチン(他のワクチンや生理的食塩水など)を接種した時に、ワクチン接種群で10人発病(0.01)し、偽ワクチン接種群で100人発病(0.1)したとすると、 このワクチンの有効率は1-0.1/1という計算で、90% と評価されるという意味になります。

すなわち、偽ワクチンを接種した人と比較して、ワクチン接種したものの発病率(リスク)が相対的に90%減少した。あるいは、偽ワクチンを接種した人のうち90%は、ワクチンを接種していれば発病しなかった。ということです。


ワクチンの副反応

ワクチン接種は、健康な人に生きた病原体や死んだ病原体の一部を植えつけるものですから、必ず体に何らかの反応が起こります。このうち、生体に不利益な現象を
有害事象adverase eventと呼びます。

これは、ワクチン接種後に起こる全ての現象を含みます。極端な例として、ワクチン接種後、帰宅途中でころんで足を捻挫しても、ワクチン接種後の有害事象となるのです。

この有害事象のうち、明らかにワクチン接種によって引き起こされたと認められる現象を
副反応adverse reactionと呼びます。ワクチン接種後に起こる、注射部位の腫れやアナフィラキシーなどは代表的な副反応です。

1)一般的な副反応には、注射部位が腫れる、痛む。全身の違和感、頭痛。体の発疹などがあげられます。
2)アナフィラキシー、ショックなどは接種後の重い副反応となります。



定期接種・任意接種

我が国で行われている予防接種は、定期接種と任意接種に分けられます。 

ある年齢になったら、「保護者が積極的に接種に努めなければならない」
とされているのが定期接種。義務ではなくとも病気の危険性から、国や自治体が強く接種を勧めているワクチンで、決められた期間内なら公費の補助(多くの地域では無料)で接種を受けることができます。

定期接種のワクチンは、「予防接種法」という法律に基づいて行われるワクチンで、人から人に感染し、社会に流行したり蔓延したりすることで、大きな被害が発生する危険のある感染症が対象とされています。

定期接種は実施主体が市区町村(品川区)であるため、接種費用は自治体(品川区)が負担することになっています。

平成25年(2013年)4月から、定期接種の対象の病気はさらに、A類とB類に分けられました。

A類疾患
は今までと同じ、「伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために、公衆衛生の見地から予防接種の実施、その他必要な措置を講ずることにより、国民の健康の保持に寄与する」、国が接種を勧める重い感染症が対象となります。
保護者は接種に努めなければならないとされ、国も積極的にその接種を勧奨するワクチンです。

万一健康被害が起こったときには「予防接種法」の適用により、死亡時には最高4530万円の補償が受けられます。
厚労省「予防接種健康被害救済制度」)

A類疾患には、ジフテリア、百日咳、破傷風、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹(はしか)、風疹、 日本脳炎 、結核、インフルエンザ菌b型(ヒブ)感染症、小児の肺炎球菌感染症、 ロタウイルス感染症、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症、痘瘡(天然痘)が含まれます。

ただし、天然痘は法律より1段軽い政令によるものとされ、現在、定期接種(種痘)は現在実施されておりません(種痘より、天然痘は姿を消したから、とされています)。

A類疾患に用いられるワクチンは、BCG(結核)、五種混合ワクチン(百日咳、破傷風、ジフテリア、不活化ポリオ、ヒブ)、二種混合ワクチン(破傷風、ジフテリア)、不活化ポリオワクチン、MR混合ワクチン(麻疹、風疹)、麻疹単抗原ワクチン、風疹単抗原ワクチン、水痘ワクチン、日本脳炎ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン(B型肝炎:母子感染予防事業以外)、ロタウイルスワクチン、HPVワクチン(女子)です。

B類疾患の定期接種は努力義務はなく、国も積極的な勧奨は行っていません。また、B類疾患に対する接種費用の一部は助成され、一部は自己負担となっています。さらに、健康被害の給付額は医療費はA類と同額ですが、障害年金などは異なっています。(厚労省「予防接種健康被害救済制度」

B類疾患の定期接種としては、平成25年(2013年)4月に高齢者インフルエンザがB類疾病に指定され、主に高齢者個人を守るための新しい定期接種が始まりました。平成26年(2014年)10月には高齢者肺炎球菌ワクチンもB類の定期接種に加わりました。新型コロナワクチン(ファイザー社製、モデルナ社製のワクチン)も、令和6年(2024年)4月からは特例接種からB類定期接種(対象年齢規定)に変更となりました。


これ以外に新型インフルエンザが大流行するような場合は、臨時の接種が別に設けられることになりました。

これに対し、任意接種
は希望者だけが受ける予防接種です。法に基づかない接種で、自費扱いとなりますが、任意接種の対象とされた病気もやはり合併症や後遺症の危険性を伴うので接種が強く勧められます。

任意接種は薬害補償制度の対象になり、健康被害の起きた場合は「
独立行政法人医薬品医療機器総合機構法」により、最高711万円の補償が受けられます。(ただし、東京23区は「全国市長会予防接種事故賠償補償保険」に加入しており、補償額は増額されています。)

任意接種のワクチンには、おたふくかぜ、インフルエンザ(老人以外)、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト)、三種混合ワクチン(DPT。トリビック)、A型肝炎、HPVワクチン(12~16歳以外のガーダシル、サーバリックス、シルガード9。年齢に関係なく、男性のHPVワクチン)、髄膜炎菌ワクチン(メンクアッドフィ)、帯状疱疹(水痘生ワクチン追加承認。シングリックス)、高齢者用肺炎球菌ワクチン(プレベナー13とプレベナー20、バクニュバンス)、RSワクチン(アレックスビー、アブリズボ)、狂犬病ワクチン、黄熱ワクチンなどが含まれます。

任意接種は、定期接種対象外の病気に対するワクチン接種、定期接種対象の病気ですが、定められた年齢から外れて接種が行われる場合、定められたワクチン以外で接種が行われる場合が含まれます。


任意接種に含まれるワクチンも、重要度からいえば定期接種のワクチンと全く変わりはないため、特に重要な任意接種のワクチンは定期接種として、十分な補償のもとに無料で接種できるよう、現在も小児科医を中心にさまざまな運動が進められています。

特に、現在先進国でおたふくかぜワクチンが定期接種になっていないのは日本だけであり、おたふくかぜワクチンの定期接種化に向けては、各階層から活発な活動が続けられています。

品川区は、当クリニックの要望を踏まえ、おたふくかぜワクチンの23区では珍しい2回分接種費用助成を行っており、各方面から高く評価されています。(鈴木博区議のおたふくかぜワクチンの2回接種助成の要望


生ワクチン・不活化ワクチン・mRNAワクチン

生ワクチンは、毒性をきわめて弱くした病原体を生きたまま、体に接種して病気に軽く感染させて、しっかりした免疫をつけようというものです。体内で病原体が殖えるので、接種後4週間はほかの生ワクチンは接種できません(お互い影響される可能性があるからです)。

不活化ワクチンとは、間隔を空ける必要はなく、いつでも接種可能です。

不活化ワクチンは、死んだ病原体の成分(狭義の不活化ワクチン)やその毒素を無毒化(トキソイド)して接種するものです。免疫反応を起こすのに十分な回数だけ、接種を繰り返す必要があります。

ほかのワクチンはいつでも接種可能です。(接種間隔の制限は、同じワクチン以外ならありません)

mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、ウイルスの遺伝子情報であるRNA(核酸)を脂肪の微粒子で包み、接種するものです。このRNAが、ヒトの体内でヒトの組織を使って、ウイルスの一部(トゲの部分)を作り出し、これに対する免疫が誘導されます。

免疫反応を起こすのに必要な回数だけ、接種が必要です。新型コロナワクチンで初めて実用化された、新しい種類のワクチンです。

ほかのワクチンはいつでも接種可能です。(接種間隔の制限は、同じワクチン以外ならありません)

*2024年3月までは、コロナワクチンは他のワクチンと接種間隔を2週間空けることになっていましたが、2024年4月からは撤廃され、同時接種も可能になりました。


集団接種・個別接種


集団接種とは、予防接種の対象者が地方自治体ごとに決められた日時、会場に集まって受ける予防接種のこと。最近では、新型コロナワクチンで、集団接種が行われました。

一方、かかりつけの小児科クリニックなどで、個人で受ける予防接種が
個別接種です。個別接種は赤ちゃんのことをよく知っている、かかりつけの先生によって、赤ちゃんの体調の良いときに接種を受けられるメリットがあります。

当クリニックの予防接種の詳細は、ワクチン外来のご案内を参照下さい。

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副反応のこと、もっと知りたい!

Q.どうして副反応が出るの?

そもそも、予防接種とは、毒性をほとんどなくした病原体や、死んだ病原体の一部を体に入れ、軽く病気に感染させて免疫を得ようとするもの。

ですから、体に多少負担になることは確かで、赤ちゃんによってはワクチンに敏感に反応して病気の軽い症状が出てしまったり、ワクチンの成分に何らかの反応を起こすことがあります。これを
副反応と呼びます。

病原体に感染してもいないのに、わざわざ病原体を接種して、「副作用」のリスクを負いたくない…と思われるのは当然ですが、
本当に病気にかかったときの負担は、予防接種のそれとは、重さも深刻さも比べものになりません。

このような悲惨なお子さまを、数多く見てきました。予防接種のある病気は、いずれも自然感染すると重症になって後遺症を残したり、死亡する恐れのあるものばかりです。そのため予防接種が開発された背景を忘れてはなりません。

ワクチンは毒性をほとんどなくした病原体や、死んだ病原体の一部を体に注入して、軽く病気に感染させるのですから、
いかに努力を尽くしても副反応をゼロにすることはできません。

最も優秀なワクチンとは、効果が最大で、副反応が最小のワクチンと考えます。抗体の上がりが良くても副反応が強くでる、あるいは副反応はほとんどないが抗体もあまり上昇しない、というワクチンはいずれも不完全なワクチンといわざるを得ないでしょう。

ワクチンの開発の歴史は、いかに効果が高く、副反応を限りなくゼロに近づけたワクチンを生み出すかという、感染症の専門家とワクチンメーカーの技術者の汗と努力の歴史なのです。

ワクチンの接種を受けるという行為は、何百万回に1回の割で起こる可能性のある、重い副反応のリスクを皆で共有しながら、自分の子どももほかの子どもも等しく、ともに恐ろしい感染症から守るという点に意義があるのです。

不幸にして0ではない深刻な副反応を生じてしまったお子さまと保護者の方には、被接種者全ての保護者と国からの心からの同情と感謝、そして国からの手厚い支援と補償が必要でしょう。

しかし、ワクチン接種で起こる副反応が、実際発病したときの症状の激烈さとは比較にならないレベルであることを理解しましょう。


今なお、ワクチン接種を拒絶する保護者が、母子手帳をわざと持参せず、外来を受診することがあります。

その背景には、入れ替わり立ち替わり、「ワクチン反対教の教祖さま」が現れ、ありがたいお札や聖なる飴玉やおまじないを高額で販売し、意味不明な高邁なお説教を垂れ、ワクチンを打たなくても自分の子どもは病気にならないと何故か無邪気に信じこんでいる、おめでたい信者の人達から多額のお布施を吸い上げているようです。

しかしこのような反ワク・ビジネス教の信者の子ども達も、実はワクチンをきちんと接種し、病気に対する免疫をつけてきた大多数の良識ある、そして物静かな保護者のお子さまの集団に守られているのです。

自分の子どもだけはリスクを拒否して、その集団的利益は平気で享受するという、エゴ丸出しの身勝手な行動をワクチン反対教は褒め称えています。しかし、それが本当に子どもの望む行為なのでしょうか。


子どもの当然の権利と考えられる、ワクチン接種による個人防衛の機会を、最愛のわが子から奪っているこのような愚かな行為は、児童虐待にあたると今世界中で取り上げられています。(アメリカでも麻疹流行のさなかに、反ワクチンの親に負けずに、自分の意志でワクチンを受けた高校生がアメリカ議会公聴会に出席し、感動を呼んでいます。)

2019年、WHOもVaccine hesitancy(ワクチン忌避)を「世界の健康に対する10の脅威」の一課題して取り上げ、ワクチン接種を推進するプロジェクトを強力に進めています。笑止なことに、今反ワク運動家は「WHOはインチキだ、陰謀組織だ」と騒いでいます。ところが、自分達の「正当性」を主張するために、WHOの「権威」を最も利用してきたのも彼らなのです。それならば、二度と「WHOはこう言ってる!」などと口走らないで欲しいものです。


Q.考えられる副反応のいろいろは?

不活化ワクチンの場合、副反応が出るとしたら接種後12日のうちです。一方、生ワクチンは接種して12週間後というように、そのワクチンの性質によって出現時期が異なります。

また、こうした副反応は、その症状の大半は軽いものばかりです。自然感染のように重症化せず、数日で自然に回復し、ほとんどは受診の必要もなく治ります。


予防接種との関係が比較的はっきりしている副反応に、ゼラチンアレルギーによるアナフィラキシーショックがありましたが、現在ワクチンはすべてゼラチンフリーとなり、この問題は解決しました。

一方、不活化ワクチンに含まれるチメロサールが自閉症と関連するという非科学的な迷信が、いまだに一部に根強く信仰の対象とされており、アメリカでは麻疹の流行の原因になるなど、大きな害毒となっています(詳細次項)。


Q.水銀入りのワクチンって危険?

防腐剤の有機水銀チメロサ-ルについては、別稿で詳細に解説いたします。→こちら

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”万が一”の補償―救済制度

予防接種を受け、その後に万が一重い副反応が出たり後遺症が残った場合は、国から医療手当や障害年金、介護する人に対しても介護料などが支給されることが定められています。
厚労省「予防接種健康被害救済制度」


これは定期予防接種の救済制度です。実際、制度が適用されている例は、予防接種との因果関係が明らかではない紛れ込み事故がほとんどなのですが、”疑わしきは救済”を基本方針に国が援助の手を差し伸べています。

なお、任意接種も薬害補償制度の対象になり、健康被害の起きた場合は、「独立行政法人医薬品医療機器総合機構法」により、補償が受けられます。また、東京23区は「全国市長会予防接種事故賠償補償保険」に加入しており、補償額は増額されています。

適用があるのは、たとえば入院したり、ひじを越えるほど腕がはれるなど健康被害の認定を受けたときです。多少の腫れや発熱などは一般的に起こりうる副反応と考えられ、受診費用は通常の保険診療となります。

                           副反応早見表

予防接種

ときどき見られる副反応

注意すべき副反応

受診の目安

BCG

接種後2~4週間で針のあとが赤くなり、化膿することも。2ヵ月ほどでかさぶたに

わきの下のリンパ節がはれることも。割合は100人に1人以下。23ヵ月で自然に治る。
きわめて稀に、全身播種性BCG感染症、骨炎・骨髄炎、皮膚結核様病変。

化膿したところがいつまでも治らなかったり、うみがひどいとき。わきの下が大きくはれて痛がったときなど。


四種混合

接種したあとが赤く腫れたり、しこりができることも

接種してから24時間以内に、発熱や刺激に過敏になる(易刺激性)ことも。
きわめて稀に、ショック、アナフィラキシー、脳炎、けいれん。

痛がるほど注射のあとが腫れたり、肘から下まで腫れたとき。また、接種して2日以内に38度以上の熱が出たとき。

MR混合

接種後7~10日目ごろ、発熱や軽い発疹など、ごく軽いはしかの症状が見られることも。
高校生以上だと、軽い発熱や発疹、リンパ節のはれが見られることも。

熱性けいれんや、脳炎など、本物のはしかにかかったような合併症がごくまれに起こることも

2~3日たっても熱が下がらなかったり、ひどいせき、嘔吐、けいれん、粗い呼吸が見られたとき。意識がはっきりせず、うとうとと寝てばかりいるとき。
極めて稀に血小板減少性紫斑病。

 
不活化ポリオ ほとんどないが、まれに発熱や、接種部位が赤くなったり、腫れたりすることも。 きわめて稀に、寝がちになったり、刺激に敏感(易刺激性)になることも。
痛がるほど注射のあとが腫れたり、肘から下まで腫れたとき。また、接種して2日以内に38度以上の熱が出たとき。

日本脳炎

ほとんどないが、まれに発熱やじんましん、接種部位が腫れることも。

特にない。

 

水ぼうそう

ほとんどないが、まれに発熱や水ぼうそうのような発疹が見られることも

特にない

 

おたふくかぜ

2~3週間後に耳下腺が腫れたり、発熱することも。

数千人に1人の割合で、無菌性髄膜炎を起こすことも。ただし、一般に後遺症は残らない。

嘔吐や頭痛、けいれんが見られたとき。

インフルエンザ

ほとんどないが、まれに発熱、悪寒、頭痛、だるさ、接種部位がはれることも

きわめて稀に、ギランバレー症候群(立てなくなる)、急性散在性脳脊髄炎、脳炎など。

 

B型肝炎

ほとんどないが、まれにだるさ、頭痛、接種部位が腫れることも

ヘプタバックスのワクチンバイアルには天然ゴム(ラテックス)が含まれているため、ラテックスアレルギーの人は注意。

 

ヒブ 
 
ほとんどないが、まれにだるさ、頭痛、接種部位が腫れ、疼痛がおこることも。

 特にない。  

肺炎球菌 
 
接種部位が腫れ、疼痛、発赤がみられる。

4~5人に1人は発熱。なかにも高熱になることも。 高熱が続くとき。
 
ロタウイルス

ほとんどないが、まれに下痢、鼓腸、発熱、頭痛、だるさ。

腸重積(血便、ぐったり、腹痛、嘔吐)に注意 急に嘔吐、激しい腹痛、血便、ぐったりしたとき。

HPV
 

接種部位の痛み、腫れ、発赤。
発熱、頭痛がみられることも。

きわめて稀に、アナフィラキシー、血小板減少性紫斑病、急性散在性能脊髄炎、ギランバレー症候群など。 失神、めまい、関節痛、悪心、など。


予防接種のソボクな疑問

Q.予防接種って、何歳ぐらいまでに済ませるものなの?

定期接種は公費で受けられる時期がきたら、できるだけ早く受けましょう。接種が遅れるほど感染のリスクが高まり、一番病気を予防したい、重症化しやすい時期に間に合わなくなることがあるからです。

たとえば結核、百日咳、細菌性髄膜炎などは、小さな赤ちゃんほどかかると生命も危険になります。そのために、BCG、五種混合、小児用肺炎球菌ワクチンは極力早めに済ませたいものです。

そして、1歳を過ぎたらすぐにMR、水ぼうそう、おたふくかぜを接種。3歳になったら日本脳炎を受けましょう。もしも公費で受けられる時期を逃したとしても、任意で接種ができますので、必ず接種を行い、免疫を付けておきましょう。

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Q.予防接種が受けられないのはどんなとき?

接種ができないケースは、

①当日、37.5℃以上の熱があるとき 
②重い急性の病気にかかっているとき 
③今まで、そのワクチンでアナフィラキシーショック(血圧低下、じんま疹、呼吸困難など)を起こしたことがあるとき
④医師が不適当と判断したとき
⑤はしかや風疹など、重い感染症にかかってから、1ヵ月たっていないとき

以上5つの場合です。


Q.かぜや突発性発疹などの病後は、どのくらいの間をあけて受けるの?

かぜの症状が落ち着いていれば、接種を行います。突発性発疹は病後1週間あければ接種を行っています。また、はしかなど重い感染症にかかった後は、免疫力が落ちているので1ヵ月以上あけることになっています。

いずれにしろ、接種を行うかどうかは、一度ご相談ください。


Q.熱性けいれんを起こした後はすぐ受けられない?

1994年より、かかりつけの医師と相談して、接種の時期を決めることができるようになりました。当クリニックでは、接種前に個別にくわしくご相談しますので、熱性けいれんを起こしたこともあるお子さまの保護者の方は、一度お子さまを連れてご相談にいらしてください。

Q.アレルギーの子は、どんなことに気をつけるの?

アレルギー体質があるだけなら、予防接種は全く問題ありません。重症のアレルギーを持つ赤ちゃんは、ワクチンに含まれる微量の成分に対して、アレルギー反応が引き起こされる可能性も皆無ではないため、接種前に一度お子さまを連れてご相談にいらしてください。

アレルギーと予防接種について、注意をしなければならないのは、卵アレルギーとインフルエンザワクチンのみです。


Q.予防接種を受けていない子が、受けたばかりの子といっしょにいても大丈夫?

不活化ワクチンに関してはまったく問題ありません。生ワクチンも、多少ワクチンウイルスは排泄されますが、他のお子さまを発病させることはありません。

Q.予防接種って、毎月のように受けてもいいの?何ヵ月かおきのほうがいい?

ワクチンは毒性をほとんどなくした病原体やその菌体の一部を用い、しかもごく微量しか接種していません。ですから、予防接種を毎月受けても、赤ちゃんの体に負担がかかる心配は全くありません。

人間の体には、日々病原体が侵入しており、免疫反応が起きていない日はないことを忘れてはなりません。

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お断り
 この章は、当クリニック鈴木博院長が監修・指導した育児雑誌「ベビーエイジ」(婦人生活社)1999年9月号、特別第1付録「完全クリア-秋からの予防接種」の文章を土台に、随時大幅に加筆増補しています。